土山
峠を下っていくことしばらく。
道はようやく少し開けた場所に出た。
街道沿いに昔風の街並みが残る、土山である。
「ねえ、そろそろお昼にしない?」
「そうよね。とっくに正午は過ぎてるわ」
時は近未来。
どんな山奥でも、街中と同じものが食べられる。
が、せっかくなら、その土地の名物が食べたいものだ。
「この辺りだと、何が食べられるのかしらね?」
「こういう山里だと、山菜そばとか、うどんかしらね?」
「私、豪勢なものが食べたい気分よ」
「さすがにそれはどうかしら?」
どこか食べられるところはないかと、探しながら街道筋をたどっていくと、やがて土山の本陣が見えてきた。
何やら、人だかりが出来ている。
「あれ、茶店かしら?」
「並んでるわね。きっと何かおいしい名物でもあるのよ」
近くまで行くと、人気の理由がわかった。
「か、蟹!?」
「こんな山奥で、蟹!?」
ミケタマもびっくり。
なんと、こんなところで蟹料理を出していた。
「どうして蟹なのかしら?」
「サワガニくらいしか、いなさそう」
実は、この辺りには、蟹の伝説があるのである。
その昔、鈴鹿山に、大きな蟹の化け物が出て、旅人に悪さをしていた。
噂を聞きつけた高僧に退治されたということだが、どうして山と大蟹が結びついたのだろう。
それはともかく、そういう伝説にちなんで、弥次喜多グループはここで蟹が食べられるようにしているのである。
もちろん、これは近未来だからできることであって、現代ではそんなことはない。
少し並んで、ようやく蟹にありつく。
「くっ……、山と蟹味噌……。しみる……」
「山を見ながら、炭火で焼いた蟹を頬張る……。幸せが混乱しているわ」
こんなところで蟹が出てきたら、そうなるかもしれない。




