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東海道五十三次美人OLスキー旅ミケタマ珍道中  作者: いもたると


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坂下

「小万さん、幸せになれたのかしらね」

「どうでしょうね。若くしてお亡くなりになったそうだけど」

 関の茶店を出て、次の宿・坂下さかのしたへ向かう途中の、ミケタマである。


 さっき見た、小万の寂しげな表情が、忘れられない。

「私、女の人には、みんな幸せになってほしいわ」と、ミケコ。

「そうよね。同感だわ」と、タマコ。


 関を出て、市街地ともしばらくお別れ。

 道はいよいよ険しい山道へと入っていく。

 箱根と並ぶ、東海道の難所、鈴鹿峠を越えるのだ。


 山道に入ってすぐのところに、ころび石という岩石があった。

「これが、転び石ですって。もっと真ん丸かと思ったら、意外と四角いのね」

「何度片付けても、街道に転がり出たという、伝説の石なんですって。別名を弁慶転がし」

 二人は、弁慶がコロコロ転がっていくさまを想像して、おかしくなった。

「プッ、おかしい」

「本当ね」


 さらにしばらく行くと、今度は筆捨山ふですてやまが見えてきた。

「大きな岩石がゴロゴロしてるわね」

「昔、室町時代に絵師が描こうとしたけど、あまりの素晴らしい眺めに、筆を捨てたという伝説があるそうよ」

 山の天気がコロコロ変わるので、描けなかったという伝説もある。


 だんだん細くなる鈴鹿川。

 源流に近づいているのだ。

 それを横目に見ながら、道はますます険しくなっていく。


「うー、寂しいところね」

「昔の旅人は、心細かったでしょうね」

 鈴鹿峠の手前に、鏡岩かがみいわと呼ばれる、岩がある。

 別名を鬼の姿見。

 岩面が鏡のような光沢を持つ奇岩である。


 かつてはこの辺り、山賊が出たという。

 物陰に潜み、この岩に映った旅人の品定めをしていたのだとか。

 残念ながら、明治時代の山火事によって、岩質が変わってしまったようで、現代では鏡肌ではなくなっているが、昔はよく映ったらしい。

 近未来では、かつての旅情を再現するため、ピカピカに磨き上げられていた。


 そこに一人の男が、ミケタマが通るのを今か今かと待ち構えていた。

(はあ、はあ。鈴鹿峠名物・鏡岩かがみいわに映ったミケタマを眺める幸せ……)


 ご存知、日影ウスオである。

 この旅の間中、ずっとミケタマの尻を追いかけている彼は、尋常でないレベルの影の薄さを誇っている。


 先ほど、確認のために鏡岩の前に立ってみた。

 すると、本物の鏡の如くに磨き上げられた近未来の鏡岩といえど、彼の姿を映し出すことはできなかったのだ!

 それをいいことに、ここでミケタマの後ろ姿と、岩肌に映った正面姿とを同時に楽しむという、難度の高い変態行為に及ぼうとしていた。


(しかも、左右逆転だぞ。左右逆転だぞ!)

 二度も言うことではないが、趣味が特殊なレベルに達した彼の心中など、図る術はない。


 そこにミケタマがやってきた。

「ふう、ようやく鈴鹿峠までやってきたわよ」

「やっと三重県も終わりね」

 物寂しかった峠が、パアッと華やぐ。


 鏡岩の前で、しばし立ち止まるミケタマの二人。

「これが鏡岩ね。本当に鏡みたいに良く映りますこと」

「かつての旅人は、こんなふうにゆっくりしてられなかったのでしょうね」

 と、リラックスして鏡岩を眺めた。


「記念撮影するわよ」

「ありがとう、三重県。こんにちわ、滋賀県」

 鈴鹿峠は、三重と滋賀の境目だ。

『ここより滋賀県』の看板の前で、パシャリ。


「じゃあ、行くわよ」と、ミケコはもう一度鏡岩に姿を映して、バイバイと手を振った。

「鏡岩さん、さようなら」と、タマコも手を振って行こうとしたのだが。

「あら?」

 そのとき、物陰でかすかな音がしたのを、耳のいい人なら聞こえたかもしれない。

「どうしたの、タマ?」


「今、私たち以外にも、もう一人誰かが映っていたような気がしたんだけど」

「もう一人?嫌ね。もしかして山賊じゃないでしょうね?」

 相方を怖がらせてはいけないと思い、タマコはこう言った。

「そういう邪悪なものではなかったと思うけど」

「じゃあ、何、悪の大魔王か何か?」

「それは邪悪でしょう」


 気にすることではないということなので、先を急ぐことに。

「タマったら、お酒が切れかかっているんじゃないの?だからそういう幻影を見るのだわ」

「やだ、ミケと一緒にしないでよ」

 峠を下っていく、ミケタマである。


 そんな二人の後ろ姿を眺める、二つの目。

 日影ウスオは、ドキドキしていた。

 鏡岩には映らない彼。

 堂々とミケタマの後ろに忍び寄っていたのだが……。


「な、な、な、何だ?タマコさんには、この僕が見えたのか?」

 気づかれそうになって、慌てて物陰に隠れた次第であった。

 鏡岩の正面に立って、自分の姿を映してみる。

 岩の表面には、彼の後ろの様子がバッチリ映っていた。


「だ、大丈夫のようだな。ちゃんと映っていない……」

 だとしたら、どうしてタマコが気付いたようだったのか、疑問であったが、彼は事実を魔解釈した。

「あ、愛の力だ!僕とタマコさんとの間にある、愛の力がそうさせたのだ!」


 一方、その頃タマコは……。

(やだ、幽霊見ちゃったかもしれない。うー、またお祓いが必要かもね)

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