宮 その4
一方、テーブルでは。
「ねえ、ミケ。ミケ」と、タマコが相方の目を覚まさせようとしていた。「あなた、さっきからお酒も飲まずにカレーばっかり。どうしちゃったのよ」
しかしミケコはまだ、どこか時空の狭間に落ち込んでいるようだった。
「綺麗な花火ね。私がこの城のお姫様になったら、領民を楽しませるために、毎日花火大会をやるわ。あ、年貢はカレーで勘弁してあげる」
「もう、こうなったら」と、タマコは給仕のスタッフを呼んだ。「この城にある、一番強いお酒を持ってきてちょうだい」
すぐに酒のボトルが持ってこられた。
「正気を取り戻すのよ」
問答無用、ボトルを口に突っ込んでやる。
グビ、グビ、グビ、グビビビ……。
あっという間に、強いお酒を全て飲み干してしまった。
「ップハア〜、うまい!」
すっかり正気に戻ったミケコ。
辺りをキョロキョロ見回した。
「あ、あれ?私の戦国大名様は?」
「もう、とぼけてないで、現実をちゃんと見なさい。戦国大名様って、アレのこと?」と、タマコはミケコの顔を、隅の方で部下と話し込んでいる、一茶にむけさせた。
何やら、慌てている様子。
いや、控えめに言って、一茶は取り乱しているように見えた。
とてもではないが、戦国大名の威厳はない。
「あれ、ただの一茶さん?」
ようやく、ミケコは幻覚から戻って来れたらしい。
そのとき。
ドーン、ドドーン!
巨大なお城が、振動で揺れるほどの、激しい音が鳴った。
「わ、何、あれ」
「花火じゃないわ。もしかして、砲撃!?」
石垣の下で、赤い火が噴いているのが見えた。
ヒューン……、ドッカーン!
グラグラグラ……!
「わ、わわっ!」
「し、城が攻撃されているの!?」
そこに一回、地獄に行って戻ってきたみたいな表情の、一茶が戻ってきた。
「ご、ご心配ありません!」
「何が起きたんですか?」とミケコ。
「い、いえ、ご心配ありません!」
「城は大丈夫なの!?」と、タマコにも。
胸が触れそうなくらいの距離で、美女二人に両側から詰め寄られ、タジタジがさらにドキドキになる、一茶。
「い、いえ、大丈夫、大丈夫。今、部下に情報を収集させているところです!」
そこに、部下が報告にやってきた。
「ただいま、我が城は、敵の攻撃を受けております。忍者らしきものが、下から大砲で狙い撃っているもよう」
わかった、というように一茶が頷くと、部下は下がっていった。
「一茶さん!?」
「忍者ですって!?」
と、さらに詰め寄るミケタマ。
ギリギリのところで踏みとどまって、一茶は言った。
「だ、大丈夫です!落ち着いて。ほら、あれですよ。これまで、さんざんバグを起こして、僕らの恋路を……、いや、旅路を邪魔してきた、例の風魔忍者の仕業ですよ!」
「風魔忍者……」
「十返舎開発に雇われているという……」
少し、胸との距離が離れて、落ち着きを取り戻す一茶。
「ですが、ご心配はございません。敵もこの城に攻め込んだことを、後悔することになるでしょう」
ククク、と不敵に笑った。
これは小田原城にて、一茶が言った作り話。
一応、弥次喜多グループのライバル企業、十返舎開発が、風魔忍者を使って、東海道にバグを起こしている、ということになっている。
だが、実際は、読者の皆さんがご存知の通り、最初の方のバグは、一茶の自作自演。
途中からは、十返舎開発に雇われた、甲賀忍者、多羅尾ユラの仕業である。
しかし、一茶は、全てを風魔忍者のせいにして、ミケタマの歓心を買おうとしていた。
そして、これを、陰からこっそり見つめる、二つの目があったのである!
(一茶のやつめ、また適当なことを言いおって。ミケタマが真に受けたらどうするんだ?これはなんとかする必要があるな……)
濡れ衣を着せられている、本物の風魔忍者、日影ウスオである。
(しかし、後悔するとは、どういうことだろうな……?)




