宮 その3
夕食のメニューは、豪華名古屋グルメづくし。
ひつまぶしに始まり、名古屋コーチン料理。
水炊き鍋に手羽先、焼き鳥、卵を使ったスイーツまで、贅を尽くしたもの。
そして、忘れてはならない、最近はすっかり影が薄くなった感があるが、その昔は、名古屋といえば、コレだった。
エビフリャー、である。
だが、このエビフリャー、地元の人に言わせると、名物という実感はないらしい。
確かに、三河湾は、全国有数のエビの水揚げ量を誇るが、エビフライ自体は、どこにでもある。
特に、名古屋が発祥ということでもない。
そもそも地元の人は、エビフリャーなどという言い方はしない。
なら、なぜエビフリャーが名古屋名物として認識されたかというと、タレントのタモリが、エビフリャー、エビフリャーと、方言を揶揄してジョークにしたから、だという。
しかし、それを逆手に取って、後付けで名古屋の名物ということにしてしまった名古屋人の、逞しさのようなものも感じる。
「ですが、やっぱり僕はカレーが好きです!という人のために、カレーも用意してあります!」
と、一茶は胸を張った。
「さすがは坊っちゃん、抜かりがない」とヨイショの合いの手の鱒之助。
でもタマコは、
(そんな人、いるかしらね)と白けていた。
でも、美味しいお酒も、ふんだんに用意してある。
(カレーもいいけど、お酒もね)
と、いつもの通常運転に拍車がかかりそうだった。
ところで、ミケコは、完全に自分を見失っていた。
一茶のことを、これまでただのボンボンだと思っていた。
変なドラゴンボートで大井川を渡らせたり、浜名湖をスケートリンクに変えたりと、余計なことをするやつだと、少々鬱陶しがっていたが、今は見直していた。
岡崎城では、サプライズの花火大会を催す。
そして、思いもよらなかった、まさかまさかの名古屋城宿泊である。
このボンボンは、意外とデキる男なのかもしれない。
ロマンティックなレストランにロマンティックな夜景、それにロマンティックなお城。
目の前には、豪勢な料理と、まるで戦国大名のような、ロマンティックな男性(繰り返しますが、ミケコは完全に自分を見失っています)。
そうだわ、小さい頃、自分は戦国大名のお嫁さんになりたかったんだ。
と、昔を思い出す。
子ども用のポケット戦国大名大図鑑を眺めて、胸を熱くしたときの、トキメキが蘇ってくる。
このまま、ここに嫁いでもいいかもしれない。
尾張徳川家のお姫様として、領民に慕われ、聖母のごとく崇められる人生が幕を開けても、いいんじゃないかしら?
あれ、この人、尾張徳川家のお殿様だったかしら?
そもそも、尾張徳川家は、戦国大名とは言えないのじゃないかしら。
でも、まあ、いっか。
エビフリャー入りのカレーは、とってもおいしいし。
もう旅なんかやめて、このままここに住み着いちゃおうかしら……。
だが、ここでミケタマに旅を終えてもらっては、困る存在がいることを、忘れてはならない。
ミケコのリュックサックには、まだ例のアレが入っているのだから。
ヒューン、ドーン!
ババババババ……。
窓の外には、打ち上げ花火。
夜空に咲いた花に照らされて、金の鯱鉾も誇らしげに見えた。
「うん?打ち上げ花火?」
と、一茶は訝しげに窓の外を眺めた。
「素敵だわ、一茶さん。名古屋城でも、花火大会を催してくださるのね」
と、ミケコはトロンとした目で一茶を見つめた。
「ははは、そ、そうなんですよ。気に入っていただけたようだから、ここでもやろうと思いまして。絵になりますよねえ、お城に花火。あ、僕は少し用事がありまして。ちょっと失礼……」と席を立ち、暗がりの方へ行く一茶。
鱒之助もついていく。
「いかがなされました、坊っちゃん?」
「花火の予定なんかあったか?」
「さあ?」
部下を呼びつける。
「なんだ、この花火はどうしたんだ?」
しかし、部下の誰も、このサプライズについて、知っているものがいない。




