宮 その1
タマコに引っ張られるようにして、二人は宮の宿まで着いた。
ここは熱田神宮の真正面。
冬の太陽は、すでに西に傾きかけていたが、まだ多くの参拝客で賑わっていた。
そんな中、顔面蒼白のタマコは、相方を急かして正門の大鳥居をくぐった。
「は、早く、行きましょう!まだ、祈祷の時間に間に合うわ」
「祈祷よりも、アルコール依存症の治療の方が良くなくって?」
せっかく来たのだから、ゆっくり境内を散策したいミケコであったが、相方の回復が先である。
急いで受付を済ませ、神主さんにお祓いをしてもらった。
「ハライタマへ、キヨメタマへ、ジュンマイ、ギンジョウ、ホンジョウゾウ……」
(……なんだか、変わった祈祷だわね)
と、ミケコは内心で思ったが、これはタマコの症状に合わせて、特別にあつらえたもの。
そのおかげで、効果はバッチリ。
「あー、なんだか、すっきりしたわ」
と、生まれ変わったように、お顔も晴れ晴れなタマコ。
まるで二日酔いから回復したときのようであった。
「夕飯、どうする?」と、聞くミケコ。
そろそろ、そんな時間である。
ひつまぶしに、名古屋コーチン。
せっかくなので、豪華なものが食べたいのだが。
「そういえば、一茶さんはどうしてるのかしら?」というタマコ。
「宮の宿まで来てほしいって言っていたわね」
「夕食でも、奢ってくれるつもりなのかしらね」
と、境内を出る。
すると、そこで待ち構えていたかのように、一茶と鱒之助が現れた。
「お待ちしていましたよ、お二人さん」
一茶は、少し疲れた様子も見えたが、晴れ晴れとした表情であった。
あたかも、大仕事の後の充実感といった感じである。
「一茶さん」
「お疲れ様ですわ」
と、通り一遍の挨拶を返すミケタマである。
そっけない対応であるが、今日の一茶はそんなことには動じない。
「今から、お二人を今夜の宿に案内します。ついてきてください」
「今夜の宿?」とミケコ。
「ええ。生まれ変わった、宮の宿。その泊まり初め式を、これからやるのです」
「泊まり初め式……」とタマコは恥ずかしい思い出が蘇った。
浜名湖スケートリンクのときのようなことは、金輪際勘弁願いたい。
「ご安心ください。二人に最高級で最上級の夜をプレゼントいたします」
どういうわけだか、一茶は自信たっぷりだ。
連れて行かれたのは、七里の渡し場。
古の旅人は、ここから桑名の宿まで、船で渡った。
東海道唯一の、海路である。
「え、桑名まで行くんですか?」
「私たち、この後、名古屋グルメを楽しみにしていたんですけど」
しかし、今夜の一茶は強気だった。
一仕事終えた後の興奮が残っていて、気持ちが昂っているのかもしれない。
「ご心配には及びません。今宵の宿は、ニュー宮の宿。名古屋グルメもしっかり堪能してもらいます」
「ニュー宮の宿?」
「どういうことですか?」
「さあさあ、お嬢さん方。ここは坊っちゃんにお任せしていれば良いのですぞ。ぐふふふふ」
と、怪しげな笑みを浮かべる鱒之助に背中を押されて、不承不承船に乗り込むミケタマ。
「それでは、出発進行!」
一茶の合図で船は出航したのだが……。




