鳴海 その2
一方、相方に付き合ってはやるものの、歴史にはさして興味のないタマコである。
ブラブラと跡地内を見て回る。
「ふーん、今川義元のお墓があるのね」
さぞ無念だっただろうなあ、と、いらんことを考えてしまった。
「あ、まずい」
霊感の強い彼女。
うっかり当時のことを考えたことで、土地が持っている記憶と共鳴してしまう。
「うう、羨ましい。義元様が羨ましい。……って、あれ、ここはどこ?私は誰?」
気付くと、貴族のような装束に身を包み、大きな盃を持っている自分がいた。
しかし、入っているのは、酒ではなく、水である。
「うう、こんな戦場でも義元様は本物のお酒を飲んでいるのに、それもとびきり上等な、駿河で一番上等なお酒を飲んでいると言うのに、影武者の私は、水しか飲ませてもらえないなんて。……って、私は何を言っているのかしら?それに、何よ、この格好。これじゃまるで今川義……」
そのとき、ドドドドドッ!と、馬の駆ける音を聞いた。
ワー、ワーと、鬨の声が上がる。
ザーザーと、土砂降りの雨が降っていた。
「え、え!?もしかして、敵襲!?」
向こうから、槍を構えた侍が突進してくるのが見えた。
「義元の首、打ち取ったりーっ!!」
真っ直ぐこちらに向かってくる。
「ひええっ!わ、私は、義元じゃないわよおおっー!」
盃を投げ捨て、尻尾を巻いて逃げ出すタマコ。
だが、着慣れない貴族装束が煩わしい。
どべしゃっ、と、ぬかるみに転んでしまった。
「か、勘違いしないで!本物の義元は、あっちよ〜!ちゃんとしたお酒を飲んでいる方よ〜!」
「義元、覚悟ーっ!!」
「ひ、ひえ〜っ、お助けをを〜っ!」
槍の穂先がキラリと光った。
「……っと、ちょっと、タマコ!」
「……ひっ、ここは、天国!?」
目を覚ますと、心配そうに覗き込むミケコの顔があった。
「あなた、大丈夫?急に倒れて、寝言を言うものだから」
「ね、寝言!?」
「そうよ。本物の酒が飲みたい、本物の酒が飲みたい……って」
背筋がゾク〜っとするタマコである。
ミケコの足に縋りついて言った。
「は、早く、宮まで行きましょ!宮まで行きましょ!熱田神宮でお祓いをしてもらうのだわ!」
「ど、どうしちゃったのよ、一体!?」
ただならぬ迫力に、ミケコもタジタジである。
「取り憑かれたんだわ、きっと。影武者の亡霊に取り憑かれたのよっ!」
「か、影武者!?落ち武者じゃなくて?」
よくは分からなかったが、タマコの勢いに押されて、跡地を出ることに。
「あ〜ん、早く本物のお酒が飲みた〜いっ!」
と、スキーを飛ばして行くタマコの背を見て、ミケコは言った。
「あの子、影武者じゃなくて、お酒に取り憑かれたのだわ」
ちなみに、桶狭間の戦いの場所であるのだが。
ここではぼかしているが、跡地と伝えられて現代に残っている場所は、二つある。
東海道沿いにあるのが、愛知県豊明市栄町南館《あいちけんとよあけしさかえちょうみなみやかた》にある、桶狭間古戦場伝説地。
そこから徒歩15分ほどの、名古屋市緑区桶狭間にある、桶狭間古戦場公園。
そのどちらにも、義元の墓がある。
実際にどちらが本物かは、意見の分かれるところだが、案外と影武者がいたのかもしれない。
ということで。




