鳴海 その1
知立の宿を出て、しばらく行くこと、二人は境川にかかる橋を渡った。
これは元の三河の国と尾張の国を隔てる境橋。
ここから先は、尾張の国である。
「いよいよ、織田領に入ったわ」
「名古屋ももうすぐね」
「一茶さん、安心して宮まで来るようにと言っていたけど、大丈夫かしらね」
「やっぱり、シティホテルを探した方がいいかもね」
名鉄線沿いに飛ばしているうちに、やがて中京競馬場の近くまでやってきた。
有松絞で有名な、鳴海の宿もそろそろだが、その前に、歴史マニア垂涎の場所がある。
桶狭間古戦場跡地だ。
少数気鋭の織田信長軍が、今川義元の大軍を打ち破った、桶狭間の戦いが行われたとされる場所である。
「きゃっほーっ!ここから日本の歴史が動いたのよ!」と、歴史的な場所に立って、興奮が高まるミケコであるが、
「ここでたくさんの人が亡くなったのよ。よくそんなはしゃいでいられるわね」と、タマコは何だか背筋がゾクゾクする。
「大昔の話じゃないの。それより、桶狭間の戦いで信長が勝利しなければ、今頃、日本はなくなっていたかもしれないのよ」
「それは言い過ぎじゃないの?」
「だって、信長じゃなかったら、天下統一は出来なかったわよ」
「そうかしら?今川義元が天下を取っていたかもしれないっていう可能性は?」
「残念だけど、それはないわ」
「武田や毛利とか、あの当時、強い武将はいっぱいいたじゃない。信長でなくても、きっと誰かが天下統一していたわよ。それに家康だっているし」
「そう思うでしょ?でもね、良く思い出してみて。信長って、すごく酷いこともやっているのよ。比叡山とか本願寺とか、宗教勢力に対しても容赦がなかったの。こんなことは、他の武将には出来ないわ」
「確かに、戦国武将って、情に熱いイメージもあるし。敵に情けをかけてそう」
「逆に言えば、戦国時代の日本というのは、こんな酷いことをしなければ統一出来ないような群雄割拠の状況にあったっていうことだわ。だから、それが出来た信長じゃなければ、統一は不可能だったというわけ」
「なるほどね。でも、どうして今頃日本がなくなっているのよ?」
「だって、その頃、ヨーロッパじゃ大航海時代よ。日本にだってフランシスコ・ザビエルを始めとした宣教師が来てたんだから。もしそのとき日本が、地域ごとに争ってまとまりを欠くという状態を続けていたら、アジアの他の国々のように制服されていたでしょうね」
「なるほど〜」
と、ここぞとばかりに高説を垂れるミケコである。
彼女の説が正しいかどうかはわからないが、どこかで言いたくてたまらなかったのであろう。




