岡崎 その3
「すごい、綺麗……」
「でも、こんな真冬に花火大会なんて……?」
と、目を一茶に向けると、そこには彼の得意げな顔が。
「うふふふふ。東海道ゲレンデも、いつもいつも同じことをやっていたのでは、客足が遠のいてしまうと思いまして。僕の提案で、新しいサービスを始めたんです!僕の提案で!」
一茶は、僕の提案で、というところに力を込めた。
「さすがは坊っちゃん!」と抜群のタイミングで、鱒之助のヨイショが入る。
だが、新しいサービスというと、まだ記憶に生々しい、浜名湖での恥ずかしい思いが蘇るミケタマである。
不吉なものも感じたが、しかし夜空に咲く雄大な花に目を奪われる。
「素晴らしいわ。これが三河花火なのね……」
「お城でお酒を飲みながら花火を見るなんて、素敵ね……」
ミケタマも、これには感動した。
うっとりとした表情の女子二人。
一茶は思った。
これはチャンス。
ところが、思い余って、こんな大見得を切ってしまった。
「ふふふふふ、さあ、今夜は素晴らしい三河花火を眺めながら、心ゆくまで美味しいお酒を味わってください!」
「え、本当ですか!?」
「いくらでも飲んでもいいんですか!?」
「え?」
悲しいかな、一茶の言葉は、お酒と見ると歯止めの効かない女子二人に魔解釈されてしまったらしい。
だが、いったん広げた風呂敷をしまうわけにもいかない。
「ど、どうぞ、心ゆくまで……。心ゆくまでお飲みください!」
「やったー!」
「飲み放題だって!」
結局、花火が全て打ち上がるよりも、バーのワインがなくなる方が早かった。
「ぼ、僕は、明日の仕事がありますから、お、お先に失礼します……」
途中でたまらなくなって、退出する一茶であった。
「坊っちゃん、お気を確かに!」
そういう鱒之助も、気が遠くなりかけるのを戻すのに必死であった。
一方、思わぬ行幸を堪能したミケタマ。
部屋に戻って、先ほどの感動を思い出していた。
「綺麗な花火だったわ」と、トロンとした目でミケコが言った。
「本当ね」と、タマコの頬も上気していた。
「ねえ、タマ。一茶さんって、なかなかやるじゃない」
「あら、ミケったら、どうしちゃったの」
「私、あの人のこと見直しちゃったみたい」
「そうね。でも、ちょっとやりすぎじゃないかしら?」
「そうかな。御曹司なんだし、このくらいはしても構わないんじゃないかしら?」
「うーん、もうちょっと、さりげなくしてくれた方が、女の子としては、いいんじゃなくて?浜名湖みたいなのは、恥ずかしかったわ」
「あれはね。でも、花火のサプライズは、ポイント高いわよ」
「あなた、飲みすぎじゃないの?」
「うふふ……。ちょっと酔っちゃったかも」
そんな女子二人の会話を、天井裏で耳をそば立てて聞いていた男がいる。
ご存知、風魔忍者の日影ウスオである。
(そうか、そうか。タマコさんは、地味でさりげなくて、暗がりからじっと見守っているような男が好きなのか……)
と、今のミケタマの会話を、彼もまた都合良く魔解釈していた。
人間というのは好きなものを目の前にすると、何でも魔解釈してしまうらしい。
ミケコが、一茶に好感を持ったのは、意外であったが、名鉄電車の一件以来、彼のハートはタマコ一人で埋め尽くされていた。




