岡崎 その2
宮とは、熱田神宮のこと。
宮の宿は、かつてその門前に広がる宿場町であった。
しかし、現代では、街はすっかり変わってしまって、その名残を見つけることは難しい。
近未来では、弥次喜多グループが宿場町を復活させたのだが、この辺りは競合するホテルなども多く、苦境が続いていた。
「出来ることなら、お城がいいんですけど、名古屋城は東海道沿いではないし、急いで桑名城まで行くのもなんですからね。名古屋グルメも堪能したいし」と、ミケコ。
「ああ、そうでしたか。実はそれなんですが」と、一茶は急に深刻な表情に変わった。
「な、何です?」
「お二人もご存知でいらっしゃるかもしれません。宮の宿は、利用客の減少が続いていまして。それでとうとう、閉鎖されるかもしれないということになって、それで僕が行くことになったんです」
「え、じゃあ、私たちが行っても、泊まれるかしら?」
「どこか、シティホテルでも探したほうがいいかしらね?」
「お二人にもご心配をおかけして申し訳ありません。ですが」
騒めき立つミケタマを制して、一茶は言った。
その眼差しは、決戦に赴く侍大将のような、強い覚悟を秘めていた。
「僕が行くからには、万事無事に済ませて見せます。大船に乗ったつもりでいてください。いずれにせよ、明日の宿のことは心配なさらなくて結構です。お二人は、安心して宮の宿まで来てください。お二人が到着するまでには、必ず僕がなんとかして見せます!」
「そ、そうですか」
「そ、それは頼もしいですわ」
と、一茶の迫力に、思わずミケタマもタジタジになった。
不適に笑う一茶。
うん、うん、と、主君を信頼して大きく頷く鱒之助。
だが、霊感の強いタマコは、ゾクッとするものを背筋に感じた。
「それより、今日は岡崎の夜を存分に楽しんでください。ところで、お二人は、ここ岡崎がどんなところか、ご存知ですか?」
「え、それはもう。徳川家康に、八丁味噌」
「岡崎公園の桜に、オカザえもん」
オカザえもんとは、岡崎市のご当地キャラクター。
キモかわいい系の、一度見たら忘れないインパクトである。
「さすがはミケコさんにタマコさん。良くご存知でいらっしゃる。ですが、もう一つ、肝心なものをお忘れではないですか?ここ岡崎は、徳川家康の地元。それゆえに、江戸時代にここだけは、あるものの保有が許されていたのです」
「うふふふ、お嬢さん方、それは何だと思われます?」
何か企んでいそうな顔で、ずいと鱒之助が出てくる。
「さ、さあ?」
「何かしら?」と、タジるミケタマである。
「こんなことが出来るのは、世界広しといえど、ウチの坊っちゃんだけですぞ。ぐふふふふ」
鱒之助は得意げだが、ミケタマは正直ちょっと気持ち悪いと思ってしまった。
「爺よ。そのくらいにしておけ。それより僕は、早くお二人にこれをご覧になっていただきたいのだ」
一茶は自信に満ちた表情で、窓の外を見た。
そして、一言叫んだ。
「ファイヤー!!!」
え、な、何!?と、ミケタマが思う間もなく、そのとき、にわかに強い音が。
ドーン、ドーン!バラバラバラ……。
ミケタマの横顔が、明るい光で照らされる。
「これは、もしかして……!?」
「花火……!?」
二人が窓の外を見ると、夜空に大輪の花火が打ち上がっていた。
ドーン、ドーン!バラバラ……。
ヒュー……、ドッカーン!ドッカーン!
連発で打ち上がる花火は、冬の夜空を色とりどりに染めた。
一茶が言ったあるものとは、花火の原料となる硝石のこと。
火器の原料ともなるため、厳格に管理し、自らの地元に限って許していたのだ。
そういうことがあって、岡崎では、花火が盛んになった。
それが今日まで続くのが、三河花火である。




