岡崎 その1
さて、旅は続くのである。
最終目的地はまだ先、京都三条大橋まで行って、欄干の擬宝珠を取り替えねばならぬ。
のどかな山あいの地域を過ぎると、道は岡崎の市街地へと入っていく。
「きゃーっ、ついに来たわよ。徳川家康の故郷!今日は岡崎城に泊まるんだからね」
歴史マニアのミケコは興奮が止まらない。
一方、タマコは、やや食傷気味。
歴史よりも食べ物の方が気になる。
「そろそろ夕飯時よ。岡崎らしいものでも食べたいわ」
「らしいものと言ったら、麦飯に八丁味噌、それと鯛の天ぷら。健康的な食事が長寿の秘訣」
「それは家康でしょ!愛知にいる間に、できるだけ名古屋グルメを食べておきたいのよ」
「金のシャチホコの刺身とか?」と、とぼけるミケコに、
「あら、シャチホコなら、佃煮にするのもいいわね」と、合わせてやるタマコである。
結局、定番の味噌煮込みうどんを食べることに。
一人用の土鍋で運ばれてきた、煮込みうどんは、まだぐつぐつと煮立っている。
「やっぱり岡崎と言えば八丁味噌。外せないわよ」
「はふー、はふー。熱々で美味しい!」
一緒に食すのは、淡雪豆腐だ。
淡雪豆腐とは、にがりを使わずに固めた豆腐。
これをあんかけにしたものが、江戸時代の岡崎宿では人気があったという。
残念ながら、宿の衰退とともに消えてしまったようだが、近未来では、それを再現している。
さて、そのお味はというと……。
「柔らかいお豆腐が、お腹に優しいわ」
「はふー、はふー。熱々で美味しい!」
「あなた、さっきと一緒じゃないの」
上々の感想であったようだ。
夕食を済ませた二人は、岡崎城に入った。
「食事の後は、喉が渇かない?」
「そうよね、やっぱり、あれよ、あれ」
心弾ませて、二人は天守閣最上階にあるバーに入った。
そこで、意外な人物と再会することになる。
と言っても、やはりといえばやはりなのだが……。
「やあ、お二人さん。旅は順調ですか?」
と、出てきたのは、やっぱりこの人。
「一茶さん!」
「ご無事だったんですか!?」
そんなに意外ではなさそうだが、浜名湖で、流氷に乗って太平洋に流されて行った一茶である。
もちろん、鱒之助が傍に控えている。
「ええ、無事でしたとも。黒潮に運ばれて、東京湾まで帰りつきました」
「くうう、坊っちゃん。ご無事で何より……」と、鱒之助はハンカチで目頭を押さえた。
「控えよ、鱒之助。この僕がそんなことでどうにかなったりはしない」
「おお、坊っちゃん、頼もしい!さすがは次期弥次喜多グループ当主であらせられる!」
だが、ミケタマの二人は、あまりそのことには関心を持たなかった様子。
「こちらには、どうして?」
「お暇なんですか?」
と、皮肉とも取れることをドライに言い放った。
一瞬、顔が引き攣った一茶であったが、すぐに意味ありげな微笑みを浮かべて言った。
「僕は出張です。明日、この先の名古屋で大事な仕事がありまして」
だったら、名古屋まで直接行けばいいものだが、この御曹司がわざわざ岡崎に前泊したのは、理由がある。
もちろん、ミケタマが今日ここに泊まるだろうということを見越してのことだ。
「そうなんですか。じゃあ、やっぱり名古屋でもバグが出ているんですね」
「私たち、明日には名古屋に入る予定なんですけど、大丈夫でしょうか?」
しかし、一茶は首を左右に振って言った。
「いえ、今回はバグの件ではありません。別の要件です」
「と、言うと?」
「ところでお二人は、明日は名古屋で宿泊するおつもりでしょうか?」
一茶は、ミケコの問いには答えず、意味ありげにはぐらかした。
「普通に、宮の宿で泊まるつもりですけど」と、タマコが言った。




