品川 その1
ミケタマの二人は、JR品川駅の南側へ。
「ここは、元の品川宿の本陣があった辺りよ」と、歴史マニアのミケコ。
周りをキョロキョロ、スキーを流す。
本陣とは、かつて宿場の中で、参勤交代の大名や公家、幕府の役人などが泊まるための宿泊施設があったところ。
「都内なんて、いつでも見れるじゃないの」と、タマコはあまり関心がないのだが。
「見て、問答河岸跡の碑よ」と、ミケコは史跡を見つけてはいちいち立ち止まる。
問答河岸跡の碑とは、徳川家光がこの付近にある東海寺を訪れたとき、見送りにきた沢庵和尚に「海近くして東海(遠海)寺とは如何に」と問うと、和尚は「大軍を率いて将軍(小軍)と言うが如し」と答えたというのを記念した碑だ。
「ダジャレもオヤジが言えばオヤジギャグだけど、偉い人が言うと史跡になるって、面白くない?」とミケコが言えば、
「あなた課長のダジャレに耐えられる?」と言い返すタマコである。
道はしばらく横浜まで、京浜急行電鉄の線路と並走するように通っている。
大井競馬場付近まで来ると、前方に大きな門が見えてきた。
何らかの施設があるようだ。
すると霊感の強いタマコがいきなり悲鳴を上げた。
「キャー!」
「どうしたのよ?」
「ひいい、ゾクッとしたあ!」
そこはかつて罪人を処刑した場所。
鈴ヶ森の刑場跡であった。
リーン、リーンと、鈴ヶ森の名の由来となった鈴の音が聞こえる。
「れ、霊聴だわっ」とおびえるタマコだが。
「弥次喜多グループの社員なのに、忘れちゃったの?鈴ヶ森のアトラクションじゃない」といたって冷静なミケコ。
鈴ヶ森刑場跡のこの区間は、ゲレンデに設けられたお化け屋敷のアトラクションなのだ。
旅人を飽きさせないように、こういったアトラクションが、各地に設けられている。
「入るの?他の道で行きましょうよ!」とタマコ。
「他で行ったら、東海道を通ったことにならないわ」とミケコ。
ここの区間は、否が応でもお化け屋敷の中を通っていかねばならないようにできていた。
尻込むタマコをよそに、ミケコは中に入っていく。
「こんなところで油売ってたら、日が暮れるまでに戸塚に着かないわよ」
「ちょっと、置いていかないでよ〜」と、仕方なくタマコも後をついて、お化け屋敷に入っていった。
その二人の後を、こっそりついていく、男が二人。
高級スキーウェアの割に、コソコソとした身のこなしは、もちろん、弥次喜多一茶と歌井鱒之助である。
「坊っちゃん、何もこんなにコソコソしなくても。次期当主の名が泣きますぞ」
「甘いな、爺よ。計画というものはだな、どんな些細なバグが起きても対応できるように慎重に進めねばならぬのだ」
なんてことを言いつつ、お化け屋敷の暗がりに消えていく。
だが、そんな二人の後をついていく、何やら影の薄いものがいるのだが、はてさて……?
お化け屋敷の中は、ほとんど真っ暗と言っていい。
そろそろとスキー板を滑らせていくミケタマの二人。
「キャー!」と驚くタマコ。
「な、何よ!?」と、ミケコはタマコの驚きっぷりに驚いた。
「い、井戸があるわ!?」
「井戸?」
暗闇にボーッと浮かび上がったのは、鈴ヶ森で処刑された罪人の首を洗ったという、首洗いの井戸だ。
「これは首洗い井戸よ。置いてあるだけよ」と、ミケコは井戸をパスして先に行こうとした。
そのとき。
「お若えの、お待ちなせ〜い」
と、二人を呼び止める声がする。
「ひいっ、お、お化けよ!」と、取り乱すタマコ。
「しっかりしてよ。歌舞伎の御存鈴ヶ森の幡随院長兵衛だわ。これも演出よ」
歌舞伎の演目では、野盗を蹴散らした、美剣士白井権八を、長兵衛が呼び止めるというシーン。
「きっと権八役の俳優さんよ。綺麗なお顔を拝んで行きましょう」と、期待して振り向いたミケコであったが。
「きゃああーっ」と、叫んでしまった。
「な、何よっ」と、振り向いたタマコも、「きゃーっ」
そこにいたのは、恐ろしい化け物。
今まさに井戸から出てこようとする、首なしの男であった。
「こ、これも演出だわ!」と、言ったミケコであったが、さすがの彼女も声が震えている。
「き、綺麗なお顔が、どこにあるのよっ。きゃーっ」と、また叫ぶタマコ。
なんと井戸の中から、次から次へと首なし男たちが出て来たのだ!
「いっへへへへ、おれの首を取ったのは、お前たちか〜」
「おれの首を返せ〜」
「返せ〜」
あっという間に、首なし男の集団に囲まれてしまった二人。
「ひい〜、お助け〜」




