島田 その4
一方、川の中では、今まさに戦いのクライマックスを迎えんとしていた。
「えーい、ちまちまやっていてもラチが開かぬわ!」
ユラは、一気に方をつけるべく、奥義を出すことに。
「甲賀忍法奥義・外来魚の舞!」
忍法・外来魚の舞とは、水中の外来魚を術者の意のままに操るという、甲賀の秘術だ。
日本の池や川に外来魚の生息が目立つようになった21世紀初頭に、日本古来の生態系を守るために編み出された。
有効に使えば、外来魚たちを元いた外国まで泳いで行かせることもできるという、恐るべき術である。
ドドドドドド!
ブラックバスやブルーギルなど、大井川に生息しているすべての外来魚たちが、一箇所に集まってきた!
「おわ〜」
「おわ〜」
外来魚たちは、その旺盛な食欲で、全ての人足ロボットを食い尽くしていく!
さらに、その脅威は水中にいるウスオにも及んだ!
「くう、このままでは魚の餌になってしまう!」
そこでウスオは、とっておきの秘術を使うことにした。
「風魔忍法奥義・風魔召喚!ウスラカタブラ、ウスラカタブラ……」
ウスオが呪文を唱えると、俄かに空がかき曇り、風が出てきた。
ピシャッ、ピシャッ!
稲光が走る。
風魔とは、風の魔神のこと。
この風魔を扱うことができるのが、風魔忍者なのだ!
「ねえ、一茶さん?なんかランプの魔人みたいの出てきたんですけど、これもバグですよね?」と、船の上のミケコは、空を見上げて言った。
「も、もちろんですとも!天候マシーンのバグです!」
しかし、一茶の脇は汗でびっしょりだ。
「ぼ、坊っちゃん!?あれは、どういう設定なのでしょうな?」
鱒之助は、その長い人生で初めて空に魔人が浮かんでいるのを見た。
「晴れのち魔人。私、ちょっと飲みすぎちゃったみたい」
タマコは少し酔いが回ってきたようだ。
一方、ウスオに召喚された風魔。
すうーっと、大きく息を吸った。
次には、ふうーっと、激しく息を吐き出す。
ゴオオオ……!!!
ものすごい風が吹き荒れた。
「きゃああーっ!」
「ひえーっ!」
「アジャパー!」
恐ろしい突風に、ドラゴンボートは、木の葉のように舞上がり、空を飛んだ。
「と、飛んでるわよおーっ!!」
「もっとワイン飲んでおけばよかったーっ!!」
「だ、大丈夫ですーっ!!あわわわわわわ……!!」
「坊っちゃーん!!れれれれれれ……!!」
万事休すと思ったが、船が向こう岸まで届いたとき、ふわりとした優しい風が吹いて、何事もなく無事に着地した。
ウスオが風魔を操って、風を整えたのである。
「う、うーん……。タマ、大丈夫?」
「何とか平気」
霧もすっかり晴れて、冬日の晴天。
大井川は対岸まで綺麗に見渡せた。
さっき見えたような気がした、ランプの魔人みたいなものは、どこにもいない。
ただ、川面が台風の直後のように、激しく波打っていた。
「あー、びっくりした。一時はどうなることかと」
ほっと胸を撫で下ろすミケコ。
「やっぱり、早くバグを直さなきゃダメね。先を急ぎましょう」と、タマコ。
「一茶さんたちは、どうしましょう」
「寝てらっしゃるようだし、このままでいいんじゃない?」
二人はドラゴンボートから降りて、スキーのジェットエンジンを吹かして、現場を離れていった。
ところで、一茶たちは……。
「う〜ん……」
「坊っちゃーん……」
ドラゴンボートの甲板の上で、目を回して伸びていた。
一方、壮絶な戦いを繰り広げた、忍者二人は……。
「くう〜、忍法・外来魚の舞を風魔で止めるとは。今回は失敗に終わったが、次回は必ず……」
ユラは風のように消えた。
「うう……、力を使いすぎたな。早くミケタマの入浴シーンでも覗いて、元気を回復せねば」
ヨロヨロと、ミケタマの後を追う、ウスオであった。
後には静寂を取り戻した大井川と、打ち上げられた大量のブラックバスが残されていた。




