藤枝
山あいの地区を抜けて、藤枝の市街地へと入っていく。
藤枝宿は、全長2キロにも及ぶ、長い宿だ。
とっくに近代的な商店街に変わっているが、往時をしのばせるものもまだ残っている。
「へえ、珍しい。だるま屋さんだって」
「藤枝は、だるまが名物みたい」
人気の土産物として、藤枝だるまが有名だ。
小泉八雲こと、文学者のラフカディオ・ハーンが愛したことから、八雲だるまとも言われる。
「一口でだるまと言っても、いろんな形があるのね。なになに?面長型にカボチャ型?」
「耳付きだるまに、鬢付きだるま、ですって!面白いわ」
一つ買っていきたいところだが、ミケコのリュックには、例の擬宝珠がある。
ここは見るだけにしておいた。
「それより、そろそろお昼にしない?」
「賛成!もうお腹ぺこぺこよ」
藤枝に来たら、食べたいものがあった。
「藤枝ラーメン!」
「あったかいのと、冷たいの!」
「両方いっちゃうの?」
「もちろん。温と冷をセットで食べるのが、藤枝流よ」
藤枝ラーメンは、早朝の仕事が多いお茶関係の仕事をする人たちのために考え出された、朝ラーメンだ。
スープは魚介系のさっぱりした醤油味で、朝のデリケートな胃袋に優しい。
だが、それがお昼に食べられるのは、この物語が近未来を舞台にしているからである。
実際に食べに行かれる方は、ご自身で確認を願う。
「あっさりしていて、つるっといけちゃたわ」
「朝食べて美味しいものは、昼でも美味しいのよ」
ラーメンのお供には、瀬戸の染飯。
クチナシの汁で黄色く染めた強飯をすりつぶし、おにぎりにしたもの。
昔の旅人の、山越えの携行食である。
「北斎の浮世絵にも描かれているんですって」
「クチナシの実は、消炎、解熱の漢方薬だそうよ」
かつての旅人の足腰の疲れを癒した瀬戸の染飯。
近未来のOLも癒されて、二人は次に向かうのであった。




