府中 その1
稚児橋を渡った後、いったん東海道本線の南に出て、JR草薙駅の前を通っていく。
それから再び線路の北側に出て、東海道本線と静岡鉄道の間を通り、府中宿へ。
府中と言うと聞き馴染みがないが、ここはご存知、静岡のこと。人口約80万の大都市だ。
「あ〜、久しぶりに嗅ぐわ、この懐かしい空気!」
「東京の匂いとは違うけど、都会の空気よね」
都会育ちのミケタマの二人。
久しぶりに街の空気を吸って、心を落ち着かせる。
ここ府中は、徳川家康が少年時代と晩年を過ごしたところ。
そして、『東海道中膝栗毛』の作者、十返舎一九の生誕地でもあるのだ!
「来たわよ、来たわよ、来たわよ〜!」
歴史マニアのミケコは、大興奮である。
その理由は、近代的なビルとビルの上に、今夜の宿がその姿を見せていたからだ。
「見てよ、あの美しい天守閣!これが神君家康公が愛した、駿府城よ!」
ミケコが示した先には、青い空に悠然と映える、駿府城の天守閣があった。
現代では駿府城天守閣は現存しておらず、跡地が駿府城公園として、市民の憩いの場になっている。
が、近未来では、弥次喜多グループの力によって復元され、ファミリーホテルへと変貌を遂げていた。
「きゃー、かっこいい!駿府城様〜!」
パシャパシャと、圧倒的に写真を撮りまくるミケコであった。
「富士山がくっきり見えて、素敵だわ」
と、歴史には興味のないタマコは別の方角を見ている。
それでも、美しい城と富士山の組み合わせには、感動を覚えた。
夕食には、静岡ちらしに舌鼓を打った。
これは、マグロ、桜エビ、〆もの、わさび、お茶の5つの食材に加えて、様々な静岡県産の食材を使ったちらし寿司。
海の幸にも山の幸にも恵まれた、静岡のいいとこ取りである。
お風呂の後、二人は駿府城天守閣の最上階にあるバーで、静岡の夜景を見ながら、カクテルを楽しんでいた。
「綺麗だわ。ホント、旅に出てよかった」
「お酒も美味しいわね。今夜は酔っちゃいそう」
なんともリラックスした、旅の一場面である。
だが、二人が眺めている静岡の街の闇の部分では、人知れず戦いが繰り広げられていた。
「うぬう、お主、なかなかやりおるな」
と、声の主は、甲賀忍者の多羅尾ユラである。
彼と対峙しているのは、風魔忍者の日影ウスオだ。
「その腕、敵にしておくには勿体無い。できれば味方として会いたかったが、致し方なし。我が仕事を邪魔する奴は何人たりとも許さぬ」
一方、ウスオは。
「どういう事情があるかは知らぬが、我が趣味を邪魔する輩は、ここで始末する。覚悟なされよ」
と、闇から答えた。
シャキーン、シャキーン!
闇の中、白刃が煌めく。
人気のない路地裏で斬り結んだかと思いきや、次の瞬間、ビルの上にいる。
静岡のビルには防火帯が設けられている。
長屋のようなその上を、二つの影が走っていく。
シュタタッ、タスッ!
バッ、ババッ。
さっきまでコウガがいたところに、十字手裏剣が突き刺さった。
ドスッ!
かと思いきや、ビルの陰にいたウスオを、棒手裏剣が襲う。
「覚悟!」
ウスオを一刀両断すべく、刀を大上段に振り翳したユラ。
ビルの上から降ってくる。
その瞬間。
ボフッ!
モクモクと白い煙が上がった。
「むう、煙幕か、小癪な真似を」
ウスオは再び防火帯の上だ。
すぐさま追いかけて、防火帯の上に飛び上がるユラ。それをウスオが待っていた。




