江尻 その1
江尻は、かつて静岡で二番目に大きな宿であった。
だが、今は江尻と言うより、清水と言った方がわかりやすいだろう。
Jリーグの清水エスパルスで有名な、あの清水である。
「ねえ、タマ。他に清水と言えば何を思い出す?」
「そうね、やっぱり清水の次郎長かしら?」
「でも、清水の次郎長は食べられないわよ」
「そうね。だったら、久能山のいちごで決まりね」
ということで、お茶屋に寄って、名物を食べる。
「おいし〜い!みずみずし〜い!」
「こんなおいしいもの食べたら、悩みなんか吹き飛んじゃうわね」
「悩みがないのに久能山とはこれいかに?」
「次郎長一家は心は一つなれど、志三つ(しみず)と言うがごとし」
「きゃ、私たち、史跡になっちゃう」
詳しくは品川の項を参考にされたし。
お茶屋を出て、スキーを再開した二人。
街中を滔々と流れる川に掛かる、橋に差し掛かった。
「これが巴川!」と、ミケコ。
歴史にちなんだこんな言い伝えを披露した。
「巴川にかかる稚児橋は、徳川家康によってかけられたんだけど、『わたりぞめ』のときに、川からおかっぱ頭の稚児が現れて、橋を渡ったという言い伝えがあるわ」
「だから橋の欄干に、カッパのオブジェがあるのね…って、動いた!」
と、タマコは驚いた。
オブジェのカッパが、二人を見てケラケラ笑っていたのである。
「カッパのロボットだわ」
「何か、アトラクションが始まるのかしら?」
こちら側にある、二体のカッパが、橋の欄干からピョンと飛び降りた。
仲良く手を繋いで、橋の向こう側に歩いていく。
「今から、渡り初め式をやろうというのね」
「なるほどね」
ところがカッパは、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。
足取りがおぼつかない。
「あれじゃ、千鳥足だわ」
「お酒でも、飲んじゃったのかしら?」
そのうちに、橋から落っこちてしまった。
そのまま、流されて行ってしまう。
「あらあら、失敗ね」
「これが本当のカッパの川流れだわ」
「ここにもバグが発生しているのね」
「一茶さんはどうしているのかしら?」
「姿を現さないところを見ると、まだなんじゃない?」
「やっぱり私たちが京都まで行かないことには、ダメなのね」




