吉原 その2
「実は、この一連のバグの原因が、三条大橋の擬宝珠にあることが判明したのです」とオヤジは言った。
「擬宝珠が?あんなの、ただの飾りじゃないの?」とタマコ。
だが、ミケコは、あることを思い出した。
「そういえば、弥次喜多グループが三条大橋を今の形に建て直したときに、擬宝珠をどうするかっていう話があったわね」
「なにぶん、入社前のことだわ」とタマコ。
「老朽化が進んでいるからって、最初は全ての擬宝珠を変えるつもりだったんだけど、一つだけ、やっぱりこれは残しておこうっていうことになったのよね。それが、幕末に新撰組が刀傷をつけたという、例の擬宝珠よ」
「そうです、そうです。さすがはミケコさん」と、オヤジが割って入ってきた。「ご存知のように、その擬宝珠だけが、今も残っています」
「でも、何かあったときに、いつでも取り替えられるようにって、ねじ式になっているのよね」とミケコ。
「そうなのです。ですが、それが古いままになっているせいで、東海道ゲレンデ全体との調和が取れなくなっているのです」とオヤジ。
「そういえば、今まででもちょくちょく小さなバグは発生していたわね」とタマコ。
「そこで、擬宝珠を新しいものと取り替えると同時に、バグを解消しようという、こういうわけです。これはただの擬宝珠ではありません。この中には、バグを治すプログラムが入っているのです。この擬宝珠を、お二人に京都まで持っていって、三条大橋にセットしていただく。そうすれば、東海道全域に影響を及ぼしていたバグが、一気に解消されるのです」
と、オヤジは新しい擬宝珠をミケコに渡した。
まじまじとそれを点検するミケコ。
「ふーん、これにも刀傷がついているわね」
「そうです、そうです。一見して新しいものとはわからないようになっております。まさか古い擬宝珠が原因で、バグが発生しているということが世間に知られれば、会社の一大事。このことは極秘に進めねばなりません。本来であれば、専門のスタッフの仕事ですが、公式にやってしまうと世間にバレてしまいます。そこで、現在休暇中のお二人には大変申し訳ないのですが、他にできる人がいないのです。というわけですので、くれぐれも頼み申しますぞ」
それだけ言うと、怪しげなオヤジは一目散に去って行った。
「行っちゃった。何だったのかしら、あの人」
タマコは今し方オヤジが去っていった方を眺めたが、もうどこにも彼の姿は見当たらなかった。
「要するに、京都に行ったら、この擬宝珠をはめ替えればいいってことよね?」
と、ミケコはもらったばかりの擬宝珠をリュックに入れた。
「よくわかんないけど」
「とりあえず、行きましょうか」
何事もなかったかのように、旅路を再開する、ミケタマである。
ところが、これが実は、東海道と弥次喜多グループすべてをひっくり返す、恐るべき陰謀だったのである!
その頃、例の怪しげなオヤジは。
ベリベリっと、顔にかぶっていたマスクを剥いだ。
「ふう、よし、成功だな」
中から現れたのは、甲賀忍者の末裔、多羅尾ユラであった!
なぜ、甲賀忍者の彼がここにいるのか。
それは、弥次喜多グループのライバル企業、十返舎開発が、彼を雇っていたからである。
何を隠そう、東海道49番目の宿、土山と、50番目の宿、水口は、滋賀県甲賀市にあるのだ!
そこで、十返舎開発は、甲賀忍者を使って、ある計画を実行しようとしていた。
それはなんと、東海道のシステムを変更し、ゲレンデを一気にゴルフカントリーにしてしまおうというものである!
ミケコが受け取った擬宝珠には、そのためのプログラムが入っていた。
彼女が京の三条大橋にセットすると、プログラムが発動するようになっているのだ。
ここで恐るべき偶然が。
小田原城で、一茶は口から出まかせを言った。
それは、十返舎開発が風魔忍者を雇って、東海道にバグを起こしていると。
だが実際は、一茶も知らないことだが、真実は、十返舎開発が甲賀忍者を雇って、一気にプログラムを書き換えようとしていたのだ!
「しめしめ。あとは言ったことが怪しまれないように、適当にバグを起こせばいいだけだ」と、多羅尾ユラ。
煙のように消えていった。
それを陰から見ていたのは、日影ウスオである。
「まずいな。このままだと、風魔忍者のせいになってしまう」
おまけに、弥次喜多グループが倒産してしまえば、彼の唯一の趣味である、ミケタマの観察もできなくなってしまう。
「なんとかせねば…」
こっそり、ユラの様子を見張ることにした。




