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東海道五十三次美人OLスキー旅ミケタマ珍道中  作者: いもたると


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吉原 その1

 しばらくして次の宿、吉原へ到着した。

 ここは万葉の歌人、山部赤人やまべのあかひとの歌で有名な、田子の浦がある。

 ちなみに、万葉集では「田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」


 と、詠まれているが、百人一首だと「田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」

 となっていて、若干意味が違っている。


「田子の浦ゆ」が「田子の浦に」に変わっているのは、「ゆ」という助詞が平安時代にはすでに使われなくなっていたからであるが、意味合いも違う。

 万葉集だと、田子の浦を通って海に漕ぎ出した舟の上から富士山を眺めているが、百人一首では、田子の浦から富士山を眺めている。


 また、「降りける」を「降りつつ」に変えたことで、今まさに富士山に雪が降っていることになっている。

 より技巧的でドラマティックになっているのだ。


 その田子の浦から北へ。

 ここは江戸から京都へ行くときに、東海道で唯一、富士山を左手に見るところ。

 左富士と言われるところだ。

 歌川広重の「吉原左富士」でも有名だ。


 二人がスキーのスピードを緩めて、その左富士を堪能していると、後ろから声を掛けてくるものがいた。

「もしもし、そこのお二人さん」

 振り向くと、背の低い怪しげなオヤジが、なにやら丸いものを持って近寄ってきていた。


「なーに?土産物の押し売りなら、お断りよ」と、ミケコ。

「いえいえ、違いますとも」と、怪しげなオヤジは言った。

「お二人さんはもしかして、弥次喜多グループのミケタマさんではありませんか?」

「そうだけど?」と、タマコ。


 するとオヤジは喜んだ。

「あー、良かった」

 顔を見合わせるミケタマ。

 日本橋OLきっての美人受付嬢である二人は、社外にもファンが多い。

 ミケタマ目当てに、用もなく会社に来てしまう人もいるくらいだ。

 きっとそういう人だと、二人は思ったのだ。


「なーに?サインなら、してあげてもよろしくてよ」と、若干お嬢になるミケコ。

「アイドルになっちゃったしね」と、タマコは平塚でのステージを思い出す。

 だが、違っていた。

 怪しげなオヤジが持っていたのは、何やら丸いもの。

「これをお二人に渡すよう、会社の方からご用を仰せつかったのであります」


 よく見ると、玉ねぎの形をしている。


「何かしら、これ?」と、首を傾げたタマコだったが、

「これは、擬宝珠だわ」と、ミケコはそれが何かわかった。

「そうです、そうです。これは京都・三条大橋の擬宝珠です」とオヤジは言った。

「三条大橋の擬宝珠と言ったら、例の新撰組が刀傷をつけたと言う?」と、歴史に詳しいミケコである。


 擬宝珠とは、橋の欄干の先端の、玉ねぎ状の頭の部分だ。

 ミケコが言うように、京都・三条大橋の擬宝珠には、新撰組の刀傷と言われる傷が、生々しく残されている。


「実はですね、今、東海道各地でシステムにバグが起きておりまして」と、オヤジは説明しかけたが。

「ああ、そのことなら、一茶さんから聞いてるわ」と、タマコが遮った。

 オヤジは一瞬、ドキッとした表情を見せたように思ったが、あまりにも刹那のことで、二人がそれに気づいたかどうかはわからない。


「え、ええ。一部の方にはすでに知られているのですが、実はこれは極秘事項でして」

「極秘?」とタマコ。

「そ、そうです。一茶さんにも内緒なのです。お二方以外には、内緒にしておくようにと、会社の方から念を押して釘を刺されておりまして」


 ミケタマの二人は顔を見合わせた。

 一茶にも内緒のこととは、一体何であろう。

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