(9)家族会議
「女を囲って子供までつくって、とんでもないオヤジだけど、お母さんが我慢できるのなら、百歩ゆずって生活費さえ入れてくれれば、関係を断ち切らなくてもいいのかもしれないと思ってた。でも、その生活費が入らなくなった以上、もはや関係を続ける必要はないと思うし、それどころか、こっちがオヤジの借金のとばっちりを受けたりしたらたまったものじゃない」
話の成り行き上、拓二はみんなの前で、両親は離婚したほうが良い、という自分の意見を表明する形となった。
「なるほどね。そういう心配はあるかもね」
一雄はそう言い、さらに続けた。
「でも、俺はオヤジとお母さんが別れることには反対だな。心配な点があるのは分かるけど、オヤジの会社はまだ倒産したわけじゃないし、景気の流れはひょんなことで急激に変わることがある。特に金融業の場合、景気が持ち直せばすぐに状況が改善すると思うし、そうなれば、また生活費が入るようになるだろうから」
「生活費のことだけじゃない。オヤジは先月、来月には必ず生活費を入れると約束したんだ。でも実際には今月も入らなかった。オヤジの話には実がない。口先ばっかりで、平気で不確実なことを自信たっぷりに言う。オレはオヤジのそういうところが気に入らない」
「それは、『来月もどうなるか分からない』なんて言ったら、お母さんも俺たちも不安になるだろうから、不安にさせないように、『大丈夫だ』って言ったんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、そんなの誠実じゃないと思う。『来月もどうなるか分からない』って正直に言ってくれた方が、こっちだって心構えができるし、それだけ厳しい状況なんだ、と現実を見据えることだってできる。安心させるつもりで『約束する』なんて言っておきながら、実際には約束を実行できなかったオヤジを父親として立てることなんてできないし、オレは軽蔑する」
話が主旨から外れてきた、と気がついて、二人は一旦、話すのをやめた。
「お母さんはどう思ってるの? 最終的にオヤジと別れるかどうかを決めるのはお母さんなんだから」
一雄が知子に話を振ると、しばらく沈黙ののち、
「私は、まだどうすればいいか分からない。このままだと心配だけど、別れるのが良いのかどうか、まだ決められない」
と知子は言った。
「どうして? 何がネックなの?」
拓二はそうたたみかけた。
「何がって言われても……お父さんとは何だかんだ言っても長年連れ添ってきたんだから。いろいろあったけど……」
「でも、もう別居してから何年になる? 今の状態を、『連れ添っている』なんて言えるの?」
拓二がそう言うと、知子は悲しそうな表情になり、沈黙した。
「三郎はどう思う?」
拓二は、沈黙を守っている三郎に話を振った。
「俺は、どっちがいいか分からない。お母さんがよく考えて決めたことが正しい決断だと思う」
「そうかもしれないけど」
拓二は、三郎がどっちつかずの意見であることが不満であった。
「まあ、今日はこのぐらいにしておこう。のんびりはしていられないけど、今日中に結論を出さなきゃならないほど急ぐ必要もない。また近いうちにみんなで話そう」
一雄がそう言い、お開きになった。
拓二は、知子に対し性急に突っ込みすぎたと反省した。
拓二自身は、富雄との関係はもはや金だけだ、と冷めた目で見ることができるが、知子にとっては、富雄がいかに不誠実なことをしていても、単純に金だけの関係、などと割り切れるものではない。
また拓二は、普段から一雄のことを、ちょっと頼りない兄だと思っていたが、今日の話し合いをうまく切り上げてくれたことで一雄を見直した。自分とは意見の相違があるものの、自分には母の気持ちを尊重する視点が欠けていて、一雄にはそれがあった。
拓二はそのことに気づき、自分はまだまだだな、と思った。




