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第九話

今回から新章へ突入します。

 八つ橋のヘンフリー?だかをぶっ殺してから早一週間。

 俺たち第1パトロール艦隊は名残惜しくもAL4αコロニーを離れ、通常の巡回ルートに戻る事となった。

 全ての艦の修理と新しい艦の就航が終わったのだ…


 第4パトロール艦隊は、新しくサリヴァン総司令官が引っ張ってきた元GISDFベテランたちと、彼らやサリヴァン総司令官らが鍛え上げた人員になっているんだとか。

 なんでも、最精鋭の本土防衛艦隊や俺がいる第1パトロール艦隊を除けば、防衛軍でも最強の艦隊だと言われている。

 まぁ、俺やサリヴァン総司令官みたいな単騎で艦隊潰せるのがいなきゃ、一番強いかもってことだな。


 で、コロニー駐留艦隊は…まぁ、俺たち教官が頑張ったおかげで、ゴミカス練度はなんとか元のカス練度に戻った。

 以前よりも、明確にプラスだって言える要素は、コールリッジ伍長とシドウ伍長くらいかな?

 二人がかりなら、Eランク帯の下の方のランカーぐらいまでなら勝てるんじゃないかな?

 ようやく、戦闘時の三次元的なブースターの使い方に、及第点があげられるようになったよ…


 しかし、AL4αコロニーを離れるのか…


「寂しくなるな…」


 嗚呼…マクネアー大尉やコールリッジ伍長がいなくなってしまった…

 また、厳つくてむさくるしい連中に囲まれなきゃならない…


 こういう時は自分の愛機を見に行くに限るな…

 整備士たちが俺の機体のあちこちに張り付いて、装甲を引っぺがして中の機械を修理したり、丸ごと取り換えたり…ケーブルにつなげて動作状況を確かめたりしてる。

 やっぱいつ見ても飽きないななぁ…

 前世で、ロボットアニメやロボゲーが好きだったのは、こういうメカメカしいのが好きだからだったのかねぇ?


「おう、ジャック坊!どうした?」

「ん?おやっさん…」


 丁度、整備士たちも休憩に入るようだ。

 それで、ずっとハンガーを眺めてた俺に、おやっさんは気づいて話しかけたんだろうな。


「察するに、AL4αコロニーを離れたのが寂しいんだろ?」


 はい、AL4αコロニー(で教官やってるマクネアー大尉)から離れて寂しいです(曇りなき眼)


「ははは…いやぁ…まいったな。おやっさんには全部お見通しってわけか」

「ハハハハ!!!お前さんは昔から、誰かと別れるとすぐに機体の整備やってるハンガーに来て、ずっと自分の機体を眺めてたからなぁ!」


「えぇ?そんなにか?」

「おいおい!自覚が無かったのか?こりゃあ重症だな!ハーッハッハッハッハ!!!」


 そんな笑う?


「そうだ、お前さんは機体の識別名とかどうするか決めたか?」

「あぁ…いや、まだ考え中でよぉ…」


 識別名っていうのは、ランカーがIMLMAに登録してる乗機の固有の名前で、大抵の場合はフルで同じフレームのパーツを使うんじゃなくて、頭や胴体、腕、脚なんかを別のSAFの物に換装するとかしてあったりするため、固有の名前が無いと呼びづらいとかなんとかって理由でできた制度らしい。

 まぁ、一説には自分の愛機につけた呼び名を、世の中に知らしめたいって馬鹿たちが要求したって説もある。


 まぁ、ぶっちゃけ俺とかは識別名が登録されてないけど、俺自身にあだ名がついてるから、他所の連中は“赤い死神”のSAFとか呼んでるらしい。

 我が軍だと?最先任上級曹長の乗機とかギャレット機とか呼んでるらしいよ。


 機体名つけるって、正直ロマンあるから慎重にやりたい。

 いくつも候補があるんだけどね…

 タロットカードから取るとか、気象現象から取るとか、あとはなんかトランプやギャンブルなんかの用語から取ろうかなって思ってんだよね。


 “エンペラー”…“モンスーン”…“ワイルドカード”…“ジャックポット”…ジャックポットだと名前のせいで、ナルシストっぽくなる?

 これは没だな。

 あと、乗ってるのがコグネイトだからなぁ…見た目が名前に負けるんだよなぁ…

 いや、でも赤い死神には相応しい名前か?


「そうか…まぁ、自分のSAFの機体名なんてロマンの塊だからなぁ!ゆっくり考えてきめりゃあいいさ!」


 流石おやっさん!ロマンをわかってる!

 やっぱこういうのはちゃんと考えなきゃな!

 ちなみにだが、IMLMAに登録しなきゃいけないのはパイロット個人の情報で、SAFの識別名は別に義務じゃないらしい。


「ああ、ゆっくり考える事にするよ」


 俺はおやっさんに手を振りながらハンガーを出ていく。


 勲章授与と最先任上級曹長就任の式典まで後二週間…

 休憩時間はまだ残ってるし、部屋に戻って宣誓の練習でもしようかね。


『ジャック・ギャレット上級曹長、至急ブリッジまで来てください』


 なにこれデジャブ?

 しかも、この前の比じゃないくらい嫌な予感がするんだが…



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 え?マジでなんも身に覚えが…ついにマクネアー大尉から苦情が入ったのか!?

 そうに違いねぇ!

 じゃなきゃこんなキルディザスター(笑)の時以上の悪寒なんか感じるわけがねぇよ!


 とりあえず、怖いけどブリッジの中に入るか。

 …なんか艦隊司令や幕僚たち以外に、第1SAF中隊の中隊長とかもいるんだけど…

 さっき中隊長が呼び出されてたのってこれ?


「ジャック・ギャレット上級曹長、出頭いたしました」

「よく来てくれた。全員揃ったな?では、前置きはなしで要件だけを言うぞ」


 あ、スッゲー嫌な予感。

 スーパーキルディザスターが300隻の艦隊で攻め寄せてきたのかな?


「防衛軍総司令部から緊急の通信が入った」


 あっ、これ滅茶苦茶ヤバそうだな…

 想像の上を行く最悪の事態かな?

 まぁ、大企業でも攻めてこなきゃ最悪って程でも──


「アステリア・エレクトロニクスの艦隊がアルビオン星系に侵攻。第4パトロール艦隊を壊滅させ、真っ直ぐ首都星である惑星AL2に向かっている!」


 最悪だ…

 終わった…


「敵はランカー二人を擁する、10隻規模の艦隊だ…だが、本土防衛艦隊や付近の艦隊戦力も含めれば我が方の戦力はそれ以上になる」

「現在、我々は本土防衛のため、急遽AL2に向かっている」

「第1パトロール艦隊は、総司令部からの命令でAL2周辺で本土防衛艦隊らと合流し、敵を惑星AL3付近のAL3γ宙域で迎撃する!」


 …なんかいくつか気になるな


「なにか質問はあるかね?」


 そう艦隊司令が言うと、第1SAF中隊中隊長が青ざめた顔をしながら手を上げた。


「し、質問よろしいでしょうか」

「うむ、なんだ?」


「アステリア・エレクトロニクスのランカーという事は…あ、あのレギュレーターズなのでしょうか!?」

「…ああ、第4パトロール艦隊が手も足も出ずに敗れ去った事を考慮し、総司令部はレギュレーターズである可能性が高いと見ている」


 レギュレーターズ…その名前を聞いて周囲が騒然とする。


 まぁ、無理もないだろうな…

 レギュレーターズとは、アステリア・エレクトロニクスの警備部門という事になっている連中で、GISDF並みの練度の強力な艦隊を大量に揃えている上に、SAFや通常戦力なども充実しているという銀河でも指折りの軍事力を誇る武装組織だ。

 言わば、アステリア・エレクトロニクスの武威であり、ここみたいな中小の星系からすれば目をつけられれば破滅の恐怖の象徴だ。


 奴らの何よりも恐ろしい点は、ランカーが何人も所属していることだ。

 下位ランカーだけでなく、Cランク帯以上の上位ランカーやAランク帯の最上位ランカーまで所属している。

 それが、こちらよりも高性能な最新型の装備で出て来るんだから堪ったもんじゃない…


 だが…妙だな…

 あいつらは、数百隻以上の艦隊を持ってるのに、なんで差し向けたのが10隻だけなんだ?

 仮に、こちらへ100隻の艦隊を送り込めば、ランカーが二人もいれば確実に勝てるだろうに…

 じゃなきゃ、もう一人ランカーを送り込めば、二人が俺とサリヴァン総司令官を抑え込んでる間に、もう一人が我が軍の艦隊を荒らして回れるだろうに…


 なぜだ?他の大企業を相手に隙ができる?

 いや、あいつらはしょっちゅう100隻以上の艦隊送り込むし、なんならレギュレーターズのランカーじゃなくて独立傭兵のランカーでも複数ぶつけて来ればいい…

 なぜこんな規模の戦力を?なぜ今になってステラリウムを狙いに?


「ギャレット最先任上級曹長…君はこの中では最も経験豊富なSAFのスペシャリストだ」

「我が軍は、AL2周辺のAL2β宙域で一度各艦隊と合流してから、全軍でAL3γ宙域へ向かう事になっている」

「そこで、サリヴァン総司令官から作戦内容を聞かされるとは思うが…我々は君に聞いておきたい事がある…」


 え?なに?

 逃げないよねって事?

 逃げたい。


「…我々に勝算はあると思うかね?」


 全員が俺を凝視している…

 中には、頼むから勝てると言ってくれと言わんばかりに、必死に祈っている者も…

 まぁ、下手な事は言えないが…

 嘘を言っても仕方ない…正直に言うか。


「正直なところ…場合によるとしか言えません」

「私やサリヴァン総司令官ならば、レギュレーターズでも下位ランカー相手になら…性能差があってもなんとか勝てるでしょう」

「しかし、Cランク以上の最新鋭機に乗った上位ランカーが相手では、非常に厳しいとしか言いようがありません」

「司令は…今回のランカー二人が誰かわかりますか?」


 マジで面子次第なんだよなぁ…

 最高戦力のAランクのバケモン出たら、もうお手上げだね。

 それこそ、相対したら撃墜される前に脱出レバー引いて、戦後に命乞いしながらアステリア・エレクトロニクスに忠誠を誓い、レギュレーターズ入りする以外に生き残る道が無い。


 アステリア・エレクトロニクスは、自分たちのとこのレギュレーターズを墜としまくった相手でも、利益になると思えばレギュレーターズに入れるからな。

 ランカーなら確実に入れてくれるだろうよ。


 そんな事を考えていると、艦隊司令は胸をなでおろして言った。


「ああ、Eランク帯38位の“チャズ・ウィリー”、Fランク帯42位の“ラモント・デリック・テンプル”の2名が確認されている」


 それを聞いた皆は沸き立った。


「おお!上位ランカーはいない!勝てるぞ!」

「サリヴァン総司令官とギャレット最先任上級曹長のお二人なら負ける筈がない!」

「勝てる!勝てるぞぉ!!!」

「やれる…やれるんだ!!!」


 うるせえな…まだ勝てると決まったわけじゃねぇんだよ!

 末端の兵なら兎も角、てめえらがそれでどうする。

 艦隊司令は俺が黙ってんのを見て不安そうにしてるなぁ…

 まぁ、他と違って茹ってねぇだけ及第点だろ。


「喧しい!静かにしろッ!!!」


 俺が怒鳴ったら一瞬で静かになってて草。

 最初からそうしろやカス。


「浮かれるな!相手が下位ランカーだからといって、それが油断していい理由にはならない!今の上位ランカーだって、最初は下位ランカーから上り詰めていったのだぞ!」

「そもそも、本当は上位ランカーが出撃していないだけで、侵攻艦隊にいるかもしれん」

「敵を見る前に勝ったつもりになって浮かれるな!貴様らは指揮官だろうが!」


 合法的に他人を怒鳴りまくるの愉しい(屑)

 強いのは俺とサリヴァン総司令官なのに、なんでお前らが勝てるみたいなノリになってんの?馬鹿なの?


 そもそも、弱い者虐めして悦に浸る海賊共と違って、あいつらは最新鋭機に乗った競合他社のSAF乗りとしのぎを削ってきた猛者だからね?

 真のランカーって言ってもいい連中だからね?

 下位であっても侮れないんだよ?


 つーか、思ったんだけど相手の艦隊って…“本当に”10隻なのか…?

 単に、第4パトロール艦隊を壊滅させた艦隊が10隻だったってだけで、侵攻軍の総戦力が10隻とは限らないんじゃね?

 10隻の下位ランカーを乗せた艦隊を先行させて、後から本隊が来るって可能性もあるが…


 サリヴァン総司令官はその可能性を考慮して艦隊をかき集めてるのか?

 少しでも多くの戦力をぶつけるために…

 それも、直接AL3γ宙域へ行った方が早い艦隊もあるのに、一度集合させて各個撃破されにくくした上で戦場へ向かうくらいだし…


 …マジで上位ランカーや上位ランカーの卵がいないことを祈るしかねぇな。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 惑星AL5近郊。

 第4パトロール艦隊を壊滅させた、レギュレーターズのアルビオン星系侵攻艦隊“20隻”が、惑星AL5周辺のコロニーには目もくれず、出てきたコロニー駐留艦隊を蹴散らしながら進んでいる。


 その侵攻艦隊の旗艦の指揮所にて、パイロットスーツ姿の眼鏡をかけた神経質そうな美青年が、不機嫌そうな顔で立っていた。


「全く…本社の老人どもはなにを考えている?いくらステラリウムが貴重だからと言って、ここの鉱脈はとりわけ埋蔵量が多いというわけでもないのでしょう?」

「そのために、わざわざランカーのいる星系に攻め込み、戦力を無駄に浪費するつもりとは…全くなんと頭の悪い…!」


 そう言って、彼は上層部の判断に苛立ちを顕わにしている。

 周りの艦橋要員や艦長、艦隊司令らは彼の勘気に触れぬよう、決して目を合わせようとしない。


「旦那!AL5βコロニーの駐留艦隊は壊滅しましたぜ?」


 そう言いながら指揮所に入って来たのは、パイロットスーツの無精ひげを生やした屈強な中年男性。


「…えぇ、こちらでもモニターしていました。チャズ、“あれ”のお守りをご苦労様です」


 青年は嫌味ったらしく、入ってきた男…“チャズ・ウィリー”にそう言った。

 チャズはやれやれといった風に首を横に振る。


「全くひでぇもんですよ…父親がアステリア・エレクトロニクスの役員だなんだって…今にレギュレーターズの実権を握って見せるだのなんだの……」

「親の七光りでしかない人間が、なまじっかSAFパイロットとしての才能があって、その素養が“強化人間”になることで強化されたもんで…」

「そんでもって、そんな奴がランカーになってまぁ…ひでぇのなんのって…捕虜なんか要らないとか言って殺そうとするくらいですからなぁ…はぁ…」


 彼は、ほとほとお手上げだとばかりに、肩をすくめてため息をつく。

 そんなチャズの言葉を聞いた青年は、舌打ちをして再び上層部への不満を顕わにする。


「全く…あんな愚物がこの私と同じ“新世代型”とは…強化人間の選定条件に品性も追加してもらいたいものだ」


 彼の口にした“新世代型”とは、アステリア・エレクトロニクスの開発した新たな強化人間技術であり、その強化措置の成功率はなんと脅威の99.8%であり、従来の強化人間技術を大きく上回る安全性を誇る。

 また、強化人間としてのスペックも従来よりも上昇しており、より高い身体能力や処理能力を獲得することに成功した。


 アステリア・エレクトロニクスは、この強化人間技術を“最早旧来の強化人間技術など過去の遺物である”などと大々的に喧伝している。


「いやぁ…旦那がいてくれてよかったですよ!ほんと!」

「旦那はあれと違って話が通じますからね!」


 そう言われた青年は鼻を鳴らすと、チャズに向かって言った。


「当然です。あんなものと比較されては却って迷惑ですよ」


 そう、不快感を隠さずに言った。

 チャズは自身の失言で、上役である青年の機嫌を損ねたことを悟り、慌てて話題を変えた。


「それより!旦那の新型はどうです?あれも中々ピーキーな機体でしょう?」

「今回はランカーが二人もいるんで、旦那の愛機のフィッティングには丁度いいんじゃないですかい?」


 そう言われて、彼は自身に与えられた新型の事を思い出す。

 新世代型強化人間にである自分に相応しい、最新鋭の第五世代機SAF”AE-05L-REGINA“。

 ジャックたちが乗るコグネイトには、防御力を除いたありとあらゆる性能で上回っている。

 そのシャープで洗練されたシルエットの機体に、最新鋭の武装を装備した圧倒的な旋回性能と制動能力を誇る軽量級機。


(ふむ、まぁ…私の愛機のフィッティングには相応しい舞台でしょう)


 青年は漸くそのしかめっ面に笑みを浮かべた。


(頭の悪い上層部…親の七光り未満…ランカー二人を擁する敵勢力…)

(だがこの私に敗北など決してあり得ない)

(なぜなら、私こそが真の“新世代型強化人間”であり──)

「この地におけるアステリア・エレクトロニクスなのだから」


 そう言って、青年…Dランク帯25位、ユリウス・フォン・アトラスは不敵に笑った。


評価やブックマークありがとうございます!

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