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第八話

ジャックくんに平穏な雑魚狩りライフが許される訳ないんだよなぁ…

「はぁ…はぁ…畜生ッ!夢なら醒めてくれ!」


 宇宙空間をまるで何かから逃げるように、必死に傷だらけのSAFを駆る男。

 そのSAFは“THI-MM02-GIGANT”…通称、ギガントと呼ばれる機体であり、アルビオン防衛軍のコグネイトより一回り大きく、全体的に四角で構成される角張った見た目をしている。

 しかし、傷だらけで逃げ回る姿には、普段の威容は欠片も残っていない。


 なぜ彼が逃げ回る事になっているのか、それは少し前に遡る。

 周辺の星系で恐れられていた、“血濡れの髑髏”と呼ばれた悪名高い海賊キルディザスターが死んだ。

 それにより、かつてのキルディザスターの縄張りでは、他の海賊たちによる縄張り争いが勃発。その後、縄張り争いをこの男が制した。


 この男はヘンリー・マクガバンと言い、Fランク帯45位のランカーで通称“八つ裂きヘンリー”と呼ばれている海賊である。

 彼は捕らえた捕虜を海賊や軍人、民間人の区別なく、24時間以内に身代金が支払われなければ、捕虜を八つ裂きにするという非常に残忍な男だった。

 彼は縄張り争いを制し、かつてのキルディザスターほどではないが、瞬く間に勢力を拡大。

 それなりにSAFの腕が立つことから、あっという間にランカーにのし上がった。


「海賊が狩られてる?“赤い死神”だぁ?狩られてんのはキルディザスターなんぞに傅いてた軟弱者どもだろ?」

「俺ならジャックだかなんだか知らねぇが、生きたまま八つ裂きにしてやるぜ」


 しかし、彼はあまりにも増長が過ぎていた。

 自分はキルディザスターより強く、それを倒したジャック・ギャレットよりも、自分は強いなどと思い上がってしまったのだ。


 そして、AL4αコロニーに駐留する第1パトロール艦隊が、付近の巡回に行った。

 その瞬間を狙って襲撃した。

 その数はなんと艦船十隻、SAF八機という大戦力であった。


 しかし、いくらなんでも相手が悪すぎた。


 三機の手下とジャックを囲み、四方八方から波状攻撃を仕掛けようとした。

 しかし、彼の赤く塗装されたコグネイトは弾幕をすり抜け、一人また一人と手下を撃墜し、ついに残った海賊は彼だけになってしまった。


「ち、畜生!なんで当らねえんだ!?」


 ヘンリーの機体は、以前バレット少尉たちと交戦した機体同様、“ICI-VLS-M73”という連装垂直戦術ミサイルを装備していた。


「なッ!?」

『…隙だらけだ』


 だが、彼が垂直ミサイルを発射したその瞬間、赤いコグネイトが発射されたミサイルに右手のバズーカを叩き込み爆散させる。

 視界を爆炎で遮られたギガントへ、間髪入れずに左肩のグレネードランチャーと右肩の誘導ミサイルをそれぞれ叩き込んだ。


「グゥ!?なんだァ今のは!?」


 何をされたのかもわからず困惑するヘンリー。

 ギガントの圧倒的な耐久力により、なんとか生き延びることができたのだ。


「ひぃっ!?」


 そんな彼の目の前に、凄まじい速度で真っ直ぐ突っ込んでくる赤いコグネイト。


「くっ、来るなぁぁぁ!!!!」


 ヘンリーは半狂乱で、迫りくる“赤い死神”に右手のバズーカを向けようとした。

 その瞬間、飛び込んできた赤いコグネイトの鋭い蹴りがギガントの右手を打ち抜き、そのせいで右手のバズーカを取り落としてしまう。


「あぁっ!?バズーカが!こんなの勝てるわけねぇ!」


 彼は赤いコグネイトに背を向け、命からがら逃げ出した。

 こうして、冒頭の逃走劇に繋がったという訳だ。


「はぁ…はぁ…畜生ッ!夢なら醒めてくれ!」


 そう叫びながら、必死に母艦へ逃げる彼の背後に、誘導ミサイルとバズーカの弾が着弾した。


「ぐわぁ!?な、なんで!?逃げ切れたんじゃないのかよぉ!」


 そんな筈がない。ジャックは決してヘンリーを逃がしてなどいなかった。

 未だ母艦の位置が割れていないため、仮に同型で同じ武装の敵がいてもわかりやすいように、撃破しない程度の攻撃を加えて機体に傷をつけてその後を追い、敵の母艦の位置を特定するために、彼はただ泳がされていただけに過ぎなかった。


「クッソ…こうなりゃやるしかッ!?ブースターが!?」


 不幸な事に彼の機体は先ほどの攻撃でブースターに異常が生じたようだ。

 まさに運の尽きである。


「ち、畜生…畜生ぉ!!!」


 半ばやけくそになりながら両肩のミサイルを乱射するヘンリー。


『ふむ、ミサイルを撃ちながらバズーカを撃てるほど、反動制御や姿勢制御の技量はないようだな』


 その破壊の奔流を、ジャックは一切スピードを落とすことなく、ブースターを全開にして潜り抜ける。


「や、やめっぐわぁ!?」


 そして、そのままの勢いでヘンリーのギガントに蹴りを入れた。


『用済みだ…墜ちろ』


 ジャックは、愛機の左腕のパイルバンカーを相手に突き刺した。


「あぁ…嘘だ…俺はもっと殺して愉し──」


 他者をゴミの様に殺し、犯し、弄んで来た外道は、遂にその代償をその身で支払わされることとなった。


『ブリストルへ、こちらギャレット最先任上級曹長。敵の母艦群を発見。“八つ裂きヘンリー”も既に排除した』



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 いやぁ…久しぶりに雑魚狩り出来て気持ちいね!

 しかし、なんだってギガント乗りの海賊は、連装垂直戦術ミサイルを載せたがるんだ?

 デカくてかなり威力があって、古いからその辺に出回ってるからかな?


 あれは、撃ってるときに足を止めなきゃいけなくなるから、僚機がカバーに入ってくれるんじゃなきゃ使いどころを考えなきゃならないんだが…

 ミサイル撃ちながらバズーカを撃てないなら、先にバズーカで相手の動きを止めてからミサイル撃つべきだよね。


 うーん…海賊船は十隻か…

 俺ならともかく、バレット少尉以外に任せるには不安が残るな…

 コールリッジ伍長とシドウ伍長はコロニー駐留艦隊の所属だからなぁ…

 あの二人もいれば良かったんだが…

 よし、対空砲火や主砲は潰しておくか。


 八つ橋のヘンフリー?だっけ?

 あいつ民間人を襲うらしいから、船の中には救助待ちの民間人がいるかも?

 沈めずに拿捕するように上申するか。


「ブリストルへ、こちらギャレット最先任上級曹長。敵の母艦群を発見。“八つ裂きヘンリー”も既に排除した」


 そうそう!八つ裂きヘンリーだ!

 なんだよ八つ橋のヘンフリーって…


 ついでに上申しとくか…

 相手の対空砲火潰しておくから拿捕しろって。


「敵は民間人を平気で拉致する凶悪犯。今も艦内に民間人を捕らえている可能性もある。それに、連中の拠点に誘拐された民間人が要る可能性も捨てきれない」

「民間人の救助のためにも、捕えて拠点の場所を聞き出す必要があると考える」


 まぁ、これは断られないっしょ。

 問題は次だね。


「現在、敵艦隊は逃走を図っている。そこで、他の部隊が到着する前に、私が目に見える敵艦の武装を事前に破壊し、到着した部隊が敵艦の拿捕をスムーズに行える状況にすべきと考える」


 ダメって言われたらしょうがないけど、状況次第じゃ最先任上級曹長の階級持ち出してごり押しだな!

 それで駄目で、海賊逃がしたら艦隊司令たちに全力で責任擦り付けて、悲劇のヒーロームーブして誤魔化そっと☆


『了解、他の部隊にも通達しておきます。相手は十隻です…どうかお気をつけて』

「了解、そう時間はかからんよ」


 よーし、お許しも出た事だしやっちゃうか!

 おっ!近づいたら早速主砲を撃ってきたねぇ!

 でもな?この距離なら対空砲なんかの方が良いよ?

 それ、SAFみたいな小さく素早い目標を瞬時に打ち抜くのに向いてないでしょ?


 あーあ…砲塔の旋回が遅いなァ…

 うちの軍でこんな船があったら再教育でもう訓練させるよ。

 はぁ…ようやく対空砲撃ってきた…判断が遅い。


「まずは一基…」


 はい、主砲一基沈黙。

 さっきから俺の通り過ぎたところを撃ち続けてる対空砲群もバズーカぶち込みまーす。

 マシンガンを持って来れば良かったな…


「これでは少し…威力過多だな」


 とりあえず、弾薬もったいないから対空砲は回り込んで蹴るか…

 うおっ!?一基だけ反応速いな!元軍人でもいたか?

 ま、躱してミサイルぶち込んだけど。


 まぁ、とりあえず見えてる対空砲はほとんど片づいたし、残りの主砲を艦橋の上に乗ってぶち抜きまーす!


「…終わりだ」


 はい、無力化完了!

 じゃあ、他の艦がこの船ごと俺を砲撃で墜とそうとする前に離れてっと…

 これをあと九回繰り返します。


 数分後


『遅れて申し訳ございません!ギャレット最先任上級曹長!』


 九隻目を無力化したあたりで、バレット少尉らが合流してきた。

 意外と早いじゃん。

 あと数分はかかると思ってたよ。


「バレット少尉、君たちが来たという事はもう既にそっちは片づいたのか?」

『はい、敵四機全て撃墜しました!被弾した機体もありますが、戦闘に支障はありません!』


 おお。事前に母艦から、少尉たちが敵を全機撃墜してて、味方に撃墜されたのはいないってのは聞いてたけど、こうして直接聞いておくに限るよね。

 だって、伝達ミスによって間違ったニュアンスで、情報が伝達されることもあるからね。


『最先任上級曹長だけに仕事は押し付けませんよ!』

『俺たちも一緒に戦います!』

『自分にもやらせてください!』

『私たちだってやれます!』


 おー…好き勝手ほざきやがる。

 もう、ほぼほぼ終わってるんだけど?

 俺の愉しい屑ども嬲りまくりゲームの邪魔しないでくんない?

 つーか、お前らは艦隊直掩の小隊除いた六機で、四機を叩いてただけだろ。

 なに自分たちもやれます感出してるの?馬鹿なの?

 カカシみたいなトーシロがよくもまぁ…

 身の程を知れよ。


 まぁ、でもみんな無事かつ既に揃ってるならなら…

 あの艦…やってもらおうか?


「ふむ、わかった。実戦に勝る訓練は無いというしなぁ…あの船の全ての火器を無力化して拿捕してみせたまえ。君たちの日頃の訓練の成果を見せてもらおう」


 その間、俺は他の船が逃げようとする度に、艦橋へ銃口突きつけて脅したりしてるから。

 母艦にも通達しておくか…後で文句言われたくないし。

 文句言われたら四機を一機で相手して、船を九隻無力化した働きを持ち出して、艦隊司令たちの責任にすり替えよ♪


 十数分後、海賊艦隊は全て拿捕される。

 捕らえられていた民間人は無事保護され、拠点内に囚われていた者も後日救出された。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 AL4αコロニーにある兵舎。

 本来なら、将官や佐官などの高級軍人にしか割り当てられない部屋で、俺はいつも通りくつろいでいた。

 なぜなら、俺は形式上は大将に次ぐ序列の“最先任上級曹長”様だから!

 そろそろAL2の一等地の家でも買うかな?

 兵舎に住んでる人以外は持ち家あるらしいし。


 それにしても、いやーよかったよかった!

 あんな雑魚が俺より順位上なんだぜ?

 またランクが上がるな!

 雑魚をしばいて名誉を得る!これこそが我が理想の暮らし!


 さーて、今は休み時間なんでメッセージボックスでも確認しますかね!

 おっ!シドウ伍長がメッセージでトレーニングの様子の動画送って来てるじゃん!

 なになに?“最近、徐々に負荷に慣れてきました。もっと負荷を増やした方が良いですか?”ねぇ…


 うーん、動画見た感じだとこの前とそんなに変わってないし…

 でもまぁ…慣れてきたなら負荷を少しずつ増やすべきかな?

 一先ず、少し回数を増やして様子を見るように言うか。

 今度、直接会ったときに様子を見て、フォームやペースを変えるとか考えるかな。


 えーと、返信の文面は“成長が実感できているようでなによりだ。動画を見たが、きちんとトレーニングができているようだな!慣れてきたなら、少しだけ回数を増やしてみよう。成果が出て嬉しいからと無理は禁物だぞ!”こんな感じで良いっしょ!

 えーと、他のメッセージは…


「ん?防衛軍司令本部から?」


 なんか仰々しいと思ったらサリヴァン総司令官からじゃん。

 勲章の授与と最先任上級曹長就任の式典の話かな?

 確か、勲章の授与は他の人たちと一緒に授与されて、式典の終わりの方で俺がカメラの前で正式に最先任上級曹長へ任命されるんだっけ?


「式典は一か月後か…」


 前に、メッセージでサリヴァン総司令官から、大体その辺になりそうって言われてたな…

 正式に就任するときに、なんか宣誓とかするけど文面はもう決まってて、事前に送られてきて練習してるから問題ないな!

 これで、“何事もなければ”一か月後には正式に最先任上級曹長ってわけだ!


 えーと、他には…バレット少尉からか!

 なに?“今週末空いてますか?シドウ伍長と新しくできたジムに行くんですが、ギャレット最先任上級曹長もよろしければ一緒に行きませんか?”だって?

 シドウ伍長のトレーニングの件もあるから渡りに船だな!

 もちろん了承のメッセージを送信!


 おっ、コールリッジ伍長からじゃん!

 内容は…は?デートの誘い?

 わぁ…思春期の娘ってませてんのね…

 流石に捕まるんだが?サリヴァン総司令官にぶっ殺されるんだが?

 俺のストライクゾーンは豊満な胸の大人のお姉さんなんだが?


 一昨日来やがれマセガキって送ったら泣いちゃうかな?

 泣いちゃうな(確信)

 俺が中坊の頃、年上の美人な大人のお姉さんにデート申し込んで、その返事が返って来てたら多分泣いてる。


 “もっと自分を大事にしなさい。大人を揶揄ってはいけないよ。同年代の子と行っておいで”っと、こんな感じならいいかな?

 これで、余裕のある大人を演出しつつ、彼女を傷つけずに断れたはずだ!

 この世界では、ハラスメントの概念は上から下にやってる場合は適応されないけど、サリヴァン総司令官はそういうの許さない人だしなぁ…

 女の子泣かせたら副司令官と基地司令と一緒に殺しに来そう(偏見)


 しかし、もう俺がここへ来て一月以上経つのか…

 早いなぁ…

 色んな事があったもんなぁ…

 たった三十隻の海賊如きが、存亡の危機みたいなもんだったし…


 まぁ。これからも雑魚狩りして英雄扱いされて生きていきたいな…


「これからもこうして平和が続けばいいが…」


 でも、平和過ぎたら俺が屑ども殺して遊べなくなるから、適度に海賊なんかが湧いてくれると嬉しいな!(腐れ外道)



 ジャックはいつまでも今の様な暮らしが続くよう願った。

 だが、運命は彼に平穏な暮らしを送る事を決して許さない。

 彼はこれから、大企業たちの思惑や、自らが見出した主人公のような“英雄の卵”たちの物語に、否応なく巻き込まれていくことになる。


評価やブックマークありがとうございます!

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