【ゼータ・セクター戦役編】第五話
断頭台攻略戦まで残り二日
果たして彼らは生き残れるのか…
ゼータ・セクター方面軍総司令部。
総司令官執務室にて、白髭を蓄えた禿げあがった屈強な男がデスクに向かって書類仕事をしていた。
彼こそが、ゼータ・セクターにいるGISDF隊員の憎悪を一心に受ける男、ダニエル・ショヴァン大将だ。
彼の多くの皺が刻まれた顔、特に眉間の辺りに更に皺が寄っている事から、この書類の内容が彼にとって喜ばしいものではない事は明らかだ。
「ふん、司令本部の愚か者共め…介入するのであればもっと早くすれば良かったものを…こんな中途半端な時期に介入しおって!それならこの僻地で業突く張りの企業共を延々と殺し合わせれば良かったのだッ!」
彼の言葉には上層部への不平不満が滲み出ていた。
その時、執務室の戸が三回ノックされる。
「…誰だ?」
彼が扉の向こうにいる人物に尋ねると、低くしわがれた声で返答が返ってきた。
『ゼータ・セクター方面軍総司令部所属、ビクター・ロデオン大佐です。参謀本部からの追加の情報をお持ちしました』
扉の前から聞こえて来たのは、彼の副官であるロデオンの声だった。
彼はその返答に安堵したように溜息を吐くと、ロデオンに入室するよう促した。
「それで?参謀本部の頭でっかち共はなんと言っている?」
ロデオンは、手に持っていた報告書を手渡すと彼に向かって言った。
「タイタン・ヘヴィ・インダストリーズとヴァルハラ・サイバネティクスは、上位ランカー複数名を含む大規模な増援を派兵するようです。参謀本部は、情報部からの報告により敵の増援は今から約一週間後、“ゼータ・セクターの断頭台”に到着すると見ています」
ショヴァンは、報告書に目を通しながらロデオンの言葉を聞き、それを鼻で笑うと口を開く。
「…五日後だ。“エインヘリヤル”は兎も角、“スローター”が来るのは大体それくらいだろう…連中は“巧遅は拙速に如かず”を標榜して、常に早くて雑な仕事をする連中だからな…全く、これは完璧にしようとグズグズ時間をかけるより、多少出来が悪くても早くした方がいいという意味であって、早ければいい加減な仕上がりでも構わんという事ではないというのに…製品のリコール率の高さにはそれがよーく現れておるよ!」
ロデオンはそれを聞き、得心がいったとばかりに頷く。
「なるほど…それで司令本部は早急に“断頭台”を攻略するよう命じていたのですね?しかし、良かったのですか?“断頭台”近辺の制宙権は既に確保なさっているのですから…それを周知された方がよかったのではないですか?そうすれば、閣下の命に対する現場からの…あー…不満もまだ少なかったのでは?」
彼は上官が現場から好き放題罵られている事を快く思っていなかった。
そのため、制宙権は確保しているため攻略作戦中に敵の増援や補給、軌道上から降下して来た艦隊による攻撃などはないという事を周知した方がよかったのではないかと言った。
それに対し、ショヴァンは無言で彼に書類の束を手渡す。
「これは…?」
「まあ、読めばわかる」
書類のページを捲るロデオン。
彼の顔はページを捲るごとに、徐々に引き攣り強張っていく。
「閣下!これは…!」
「大佐、これは事実だよ。嘆かわしい事にな…」
そこには、ショヴァンが方面軍総司令官に就任してから、表向きは配置換えという事になった将官含む高級将校たちの名前が載っていた。
彼らの罪状と共に…
「見ての通りだよ…司令部にも内通者がいた。…これでも全ては炙り出せてはいないだろうがな。これを君に見せたのは、背後を洗って怪しい点が全く出てこなかったからだ」
「なんという…」
ゼータ・セクター方面軍内部には、多くの内通者や企業連合からのスパイが既に潜んでいたのだ。
リストに載っている名前には、方面軍司令部に所属していた高級将校も何人か含まれていた。
「御覧の通り、裏切り者がどこにいるかもわからんのだぞ?それで機密情報をベラベラ喋れるものか…頭のおかしな精神論者が常軌を逸した軍事行動を取ろうとしている。飼い主にはそう報告させればよいわ」
ロデオンはそれを聞いて納得したのか頷く。
「なるほど…では、三日後に全軍で“断頭台”へ攻め込むのは、“スローター”の増援が来るより早く陥落させるためで、情報を伏せていたのは内通者やスパイを警戒しての事でしたか。確かに、大軍に難攻不落の要塞に立て籠もられては厄介ですからね…それも、内通者を抱えながらではあまりにも分が悪い…」
「左様、ただでさえ既に企業連合を相手に苦戦を強いられているのだ…ここに来て大軍が難攻不落の大要塞に居座るなど悪夢そのものよ…仮に、四日後に攻め込んだとしたら戦況次第では頭上から、敵の増援に攻撃を受けかねんよ…過去の事例から、艦隊を無理やり突破して降下して来る可能性も無くは無いからな」
そう言いながら、ショヴァンは思考を巡らせる。
(情報を伏せるとはいえ…流石に現場に説明しなさすぎるのも不味かろう…我が軍の再先鋒である、第一次攻撃部隊…特に、第1独立機動遊撃大隊に第2独立機動遊撃大隊、第3独立機動遊撃大隊の大隊長には話を通しておかねばな…最精鋭に寝返られては不味い。それから──)
彼は、“ゼータ・セクターの断頭台”攻略作戦の前に、早急にやっておかねばならない事を脳内でリストアップしていく。
「しかし、その…トップランカー二名に対し十分に注意せよとだけというのは流石に…」
だが、それはロデオンからの命令書の文面への苦言に遮られた。
ショヴァンはそれに対し、呆れたように溜息を吐いて聞き返した。
「それのなにが問題なのだね?」
ロデオンは困惑しながら答える。
「え?そ、それは…相手は単騎で軍団を殲滅する正真正銘の怪物なのですよ?さ、流石に十分に注意されたしだけというのは…」
彼はそんなロデオンに対し呆れかえった表情で言った。
「いいかね?大佐…我々は彼らに対し、死地に赴き怪物どもの首を取れと命じるのだ…わかるか?どれほど文面に、彼らに対する薄っぺらい“思いやり”とやらを込めようとその事実は変わらん。それともなんだ?え?君は彼らに対し、怪物が出たら頭を抱えて蹲り怯えながら敵が去るのを待てとでも言えというのかね?」
そんな相変わらず偏屈な上官に対し、ロデオンは苦笑いする。
(こういう所が他人からの反感を買うんだろうなぁ…本当にこれが無ければもっと誤解してない人も多いんだろうが…)
「いやあ…しかしですよ?「しかしも何もあるか!」はぁ…」
彼はいきり立つ上官を見て「また始まった…」という表情を浮かべる。
「いいかね!そもそも全軍で挑むのは、怪物二頭を仕留める或いは退けるためだ!そのためにわざわざ全軍で往くのだ!わかるか大佐!たかだか二人と思うんじゃない!相手はたった二人で軍団二つに相当する怪物たちなのだ!これは軍団同士による大決戦と言っても過言ではない!高機動かつ神出鬼没の軍団二つを潰すまたとない機会なのだ!そうすれば、敵は行軍だけで人も物も遥かにかかる、普通の軍団を使わねば同じ結果が得られなくなるのだ!それにだ!私は第一次攻撃部隊だけで挑めとは言っておらん!彼らがこじ開けた防衛戦の穴から合流してきた友軍と合流するよう命じているのだぞ?加えて言うのであれば、ランカー…特に上位以上のランカーの存在は、敵味方の士気に関わる問題なのだ!特に“ワルキューレ”さえいれば、その存在を支えに企業連合は如何な苦境も乗り越えようと士気を保ち、最期まで戦い抜くこと──」
彼はトップランカーを仕留める利点は明白であり、実質的に軍団同士で対決するようなものであり、尚且つ第一次攻撃部隊には第二次攻撃部隊と合流しろと命令し、第一次攻撃部隊だけで怪物に挑めなどとまでは言っていないのだから、わざわざ心配するような文言を付け加える必要などないと熱弁する。
(あー…これはまた…銀河戦争が終結してから80年とかそういう話に繋がるな…)
「はぁ…」
そして、そんな彼の演説はロデオンの予想通り更にヒートアップしていく。
「──故に!我らは邪知暴虐なる企業共の専横を打ち砕き!正当なる権力を正当なる者の手に取り戻す!さすれば!かつて銀河中に国家が乱立し、二百年もの間泥濘の争いを繰り返した暗黒時代…すなわち!銀河戦争に終止符を打ち!この銀河に秩序を取り戻したかつての銀河統合星界政府を!在りし日の元老院を取り戻すのだ!おお!元老院よ!かつての英明なる元老院よ!我らは必ず昔日の栄光を取り戻さん!」
ショヴァンは立ち上がり両手を広げた。
そして、ふと我に返ったかのように窓の外を見る。
そこには、若い軍人たちが忙しそうに行き交っている姿があった。
余りにも急な、キャピタルにある司令本部からの“ゼータ・セクターの断頭台”攻略の命令を遂行するため、極めて短い準備期間を無駄にしまいと彼らも彼らの戦場で必死に戦っているのだ。
(この戦いには…ゼータ・セクター戦役には必ず勝たねばならない…でなければ、大勢の若者を死なせた意味が無いのだ…)
彼は元老院議員である弟に聞いた話を思い出す。
(現在、企業連合の主導権を握っているのは“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”だが、“ヴァルハラ・サイバネティクス”はそれが面白くないらしい…それも当然だ。そもそも今まで殺し合っていた仲なのだからな…おまけに“スローター”は“エインヘリヤル”を露骨に使い潰そうとしているとも聞く。故に、ヴァルハラは単独で元老院とできるだけ有利な条件で講和するため交渉して、企業連合を抜ける腹積もりのようだが…)
「“断頭台”という一大拠点を失えば、彼奴等も講和のテーブルに着くだろうさ…」
それは、企業連合が一枚岩ではないという事を裏付ける話だった。
「ロデオン大佐…」
「はっ!なんでありましょうか!」
「これで勝てなければ…本気で総員玉砕の選択肢しかないぞ?なにせ…“スローター”は捕虜を取らず降伏した者を嬲り殺し、“エインヘリヤル”は健康に問題のない捕虜がどこかに連れられて…二度と帰ってこなかったそうだからな…」
元老院や軍上層部にいいように使われ、汚名だけを延々と着せられる哀れな道化は外道の掌の上でその身果てるまで踊り続ける。
祖国が昔日の栄光を取り戻す事を夢見て…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
えー…昨日の歓迎会ですが…地獄でした。
メルツァロヴァ少尉やハルトネン曹長が、俺の腕を掴みながら俺を挟んで笑顔で睨み合ってんの…
目が笑って無かったの…
なぜに俺にそこまで執着を?
メルツァロヴァ少尉は…吊り橋効果レベル100?
ハルトネン曹長は…年下のイケメンが好みだったとか?
わかんないねぇ…?
やはり俺がイケメン過ぎたのが不味かったんじゃ…
イケメン過ぎてごめんね☆
自称永遠の17歳?
フェルディナントくんに絡みに行ってたよ☆
修羅場に巻き込まれたくなかったんだろうね!
ちなみに、フェルディナントくんにお姉さんを自称して絡みに行って、お姉さん呼びさせようとしたら「よろしくお願いします!お姉さん!」ってピュアな笑顔で言われて撃沈してたよ。
あいつは年増を墜とすのが上手なのかもね。
年上専門の夜の撃墜王の才能あるよ!
「しかし、まあ…とんでもない事になったッ!」
『うおっ!?なんだその動き!?Gがかかるから普通は出来ねえよ!』
俺は今シミュレーターでの操縦訓練中なのよね。
ぶっちゃけさ…第3独立機動遊撃大隊の隊員はさあ…下士官養成所の候補生と違ってトップアタックとかちゃんとやって来るけど…
「そこ!」
『ぬわ!?被弾だと!?』
反応遅くね?
動きは良いんだけどさ…如何せん反応遅いって…
それか俺が速いだけ?
「これで決める!」
『しまった!』
“訓練終了!”
取り敢えずミサイルとレーザーで動き止めて、グレネードぶち込んだらレーザーブレードでぶった切る!
これで勝てちゃうんだよなぁ…
これで精鋭って事は…俺普通の部隊ならエース扱いだったんだろうな…
普通のエースだとこの後生き残れるかわからんのがなあ…
おのれクソ教官!
おのれクソ大隊長!
「リザルトは…ふむ…」
あー…有効打じゃないけど…コックピットブロックに一発貰ちゃったな…
終わったし一旦出るか。
組む相手を変えて時間内は何度もやらないとだし。
「対戦ありがとうございました、クリーヴズ曹長」
「いやあ、お前強いなぁ!ジャック!いや、悪いな…俺なんかに付き合わせちまってよ…二日後を考えたら…もっと、サリヴァン大尉なんかとやるべきだろうに…」
「いえ、全然大丈夫ですよ。サリヴァン大尉からも戦う相手を変えないと変な癖がつくって言われてますし…」
そう、二日後生き残るには…変な癖をつけるわけにゃあいかんからな…
今朝の大隊朝礼の時だった…
『諸君、我々は今より二日後“ゼータ・セクターの断頭台”攻略に往く事になった』
大隊長がそう言った時…明らかに空気が変わったよ。
あのギャンブル依存症のビラール准尉に、俺と同等の身体能力を誇るリー少尉ですら顔に焦りが浮かんでやがった。
それだけで、俺たちはとんでもなくやべえ事を言われてるんだって事はわかった。
詳細は追って伝えるとの事だが…
どうなるんだか。
リー少尉曰く「今回ばかりは俺も生きて帰れるかわかんねえ」との事。
マジにやべえんだろうな…
その後、朝食からの訓練だが…
正直言ってもうわけわかんねえ…
死地に行けって言われても…実感わかねえよ。
「さて…次は──」
「…ジャック」
「ハルトネン曹長…?貴方が私の相手をしてくださるのですか?」
そう聞いたら無言で頷いた。
可愛いねぇ…
俺たちはシミュレーターの中へ入って行った。
シミュレーターを立ち上げると、仮想空間の中で二機のSAFが向かい合う。
仮想空間はこの星の重力環境と同じ設定になっている。
重力下じゃ宇宙程自由には動けねえんだよなあ…
機体はどちらもアステリア製第四世代中量級機ラボロ。
違いは武装だけだ。
彼女の機体の武装は、右手はバズーカ、左手にマシンガン、右肩にはガトリングガン、左肩にはレーザーキャノン…
足を止めたら木端微塵だぜこりゃあ…
近接武装がねえから懐に飛び込むしかねえな。
“訓練開始!”
「よろしくお願いします」
『…よろしくね』
俺は彼女が開幕早々ぶっ放したバズーカを躱し、両足の踏み込みに合わせて左右にブースターを小刻みに吹かし、ジグザグに高速移動して近づく。
「ッ!初っ端から飛ばしていきますね!」
『…躱した…それに…今の動きは偏差射撃を避けるためのもの?…だったらもっと不規則に動かなきゃ』
「マシンガン!さ、避けきれなッ!?ぬおっ!?」
あばばばば!?
バズーカは躱せるのにめっちゃマシンガン食らってるんだが!?
流石に最前線で戦ってる腕利きなら、養成所のへっぽこ共と違って普通に当てて来る人もいるか…
このままだとやられるか!?
ハルトネン曹長強いんだが!?
そういや、ラッパライネン曹長と一緒に来てるなら八年この部隊にいる猛者なのか!?
ヤバぁ…
「クソ…このままでは!」
『…更に畳みかけるよ…もっと不規則に動いて…武装を上手く使って自分のペースに持ち込んでね…この部隊だと、ミサイルは弾幕に叩き込んで煙幕代わりに使う人も多いよ?』
なるほど…煙幕代わりか…
開幕早々俺もミサイルやらレーザーライフルやらぶっ放して牽制するべきだったか?
つーか、ガトリングも飛んできてクソほどヤバいんだが!?
機体の耐久値めっちゃゴリゴリ削れてるってアラート鳴りっぱなしなんだが!?
「さて…どうするかッ!」
当たったら不味いとこへの直撃を避けて、装甲の厚い部分で受けてるけどそれでもきついって!
このままだと爆発四散不可避!
ちょっと回避運動が一瞬疎かになるかもだが…
「攻めるしかないな!」
『動きが変わった…!』
弾幕にミサイルぶっ放して煙幕にッ!
レーザーライフルで飛んで来たバズーカの弾を爆散させる!
そしてェ!
「一気に近づくッ!」
『ミサイルの煙幕…!早速使ってきた!ッ!?バズーカの弾を迎撃!?…まぐれ?それとも…』
俺が装備してるミサイルは誘導ミサイル!
SAFは俺たちの世界の軍用機みたくチャフは基本備え付けじゃねえ!
回避機動を取るか…迎撃か!
「どちらにしても…俺に割けるリソースは減るだろッ」
ミサイルを更にぶっ放してレーザーライフルを発砲!
『良い動き…最初とは比べ物にならない…ジャックはスロースターターなの?…でも忘れてない?…わたしまだ使ってない武装があるよ?』
跳躍してブースター全開!
相手もほぼ同時に滞空しだした!?
「一体なにを…?いや、頭上を取られるよりはいいのか?…本当にそれだけ?」
『…頭を取ろうとする敵を…下から狙うのって結構大変…ここからならよく狙える』
何を企んでる?
誘導ミサイルの迎撃に、マシンガンとガトリングを使わせてるから、使える武装はバズーカだけじゃ?
さっきから撃ってきてるけどレーザーライフルで迎撃できてるし…
とにかく懐に入る!
「エネルギー切れで滞空できなくなる前に…決着をつける!」
『鋭い機動…でも、当てられる』
ん?そういや、ハルトネン曹長の左肩って使ってたっけ?
ガトリングは右だし…両手にバズーカとマシンガン…あっ
『…これで終わり』
「しまった!?」
レーザーキャノン忘れてた!
やっちまった!!!
凡ミスじゃねえか!!!
やべえ…そりゃあそうだ!相手は経験豊富なエースなのに…!
俺完全に相手の意識からレーザーキャノンを外す戦法にハマってるじゃねえか!?
あ、なんか光った…
「お、おおおお!!!!」
ヤバいヤバい避けろ避けろ避けろ避けろォ!!!
「躱せたッ!」
『重力下で中量級機がバレルロール!?』
この距離なら…レーザーブレードを叩き込める!
エネルギー残量も足りる!
イケるッ!!!
「墜ちろォ!」
『シミュレーターは…パイロットにかかるGも忠実に再現されてる…そんな中で重力下で軽量級機でもないのにバレルロールを…隊長たちならともかく新兵がやるなんて!』
よっしゃあ!レーザーブレードをコックピットに叩き込んだぜ!
マジで強かったな…ハルトネン曹長…
「ハァ…ハァ…流石に…強いですね…ハルトネン曹長」
『…流石わたしのジャック…イケメンで強くて性格も良い上に学習能力が高い…ますます惚れ直した♡』
“訓練終了!”
あ、やっぱイケメンで強いってのがプラスポイント?
そういや、メルツァロヴァ少尉とかは周りが死んでいくせいで、謂われも無いのに死神呼ばわりされてたっけ…
もし、同じ部隊に彼氏とかいたなら…
あっ、そういうこと?
死神呼ばわりしない上に、イケメンで強くて隣にいても絶対死ななそうな男だから、会ったばかりの俺にあんなに執着すんの?
やはりイケメンで強くてイケメンである俺が彼女を狂わせてしまったのか…(納得)
ハルトネン曹長は…普通に俺を優良物件と見てロックオンしてる感じ?
わからんけど。
まあ、無理もねえ!
だって俺はイケメンで強くてイケメンだから!(納得)
「ありがとうございました、曹長!おかげで勉強になりました!」
「…いいよ……その代わり絶対死なないでね?」
「もちろんです!」
当たり前でしょ…
まだ死にたくないもん。
「ユーリアちゃん!次私とやろ?」
「……」
「どしたの?」
「ギャレット伍長から引き離された隙に…ぽっと出の女が私のやりたかった事やってる…(泣)」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
Z9-171基地、パイロット兵舎。
そのロビーでは、スクランブル待機から交代して戻ってきた、第3独立機動遊撃大隊のパイロットたちがたむろしていた。
現在は自由時間なので、スクランブル待機中の者以外はそれが許されている。
「ほー…それじゃあ、リーの奴とあいつは引き分けたって事か」
ビラール准尉は、営倉入りさせられた事で見ることができなかった、ジャックとリー少尉の格闘訓練の顛末を他の隊員から聞いていた。
彼の片手には丸められた紙の新聞が握られている。
この世界では、ニュースは端末などで見るのが主流ではあるが、紙を非常に安価に大量生産する技術の確立と使用できる電力に限りがある環境も存在することから、未だに紙の新聞は残っている。
また、新聞は端末の使用に制限がかかる最前線の兵士たちにとっては貴重な娯楽であり、後方での出来事を知る事の出来る貴重な情報源でもある。
「ああ、俺はリーに賭けるつもりだったんでな…お前が連れてかれなかったら破産してたよ」
「にしても…ジャック・ギャレットだったか…?ありゃあとんでもねえバケモンだな」
「ああ、ヒットマンに銃で撃たれてもピンピンしてたリーが…まさかあんな息を切らして顔を真っ赤にしながら、ふらふら立ち上がる様を見せられるとはねぇ…」
そんな彼らの話題は徐々にジャックが二日後を生き残れるかというものになる。
「ぶっちゃけどうよ?俺は生き残るんじゃねえかと思ってる」
「馬鹿言え…つええだけで生き残れるような戦場じゃねえよ…」
「ああ、今までだって俺らより腕の立つ連中が何人もくたばってんのに…突っ込むのは難攻不落の大要塞だぜ?」
「あそこに攻め込むって事は、処刑人の前で断頭台に首を突っ込むようなもの…“ゼータ・セクターの断頭台”とはよく言ったもんだ」
「ジャックでも無理ならフェルディナントも無理なんじゃね?」
「いやあ、あいつの機体はグレーだし目立ちにくいからワンチャンあるんじゃね?ジャックは赤だから目立って死ぬと思う」
好き放題口々にそう言う彼ら。
それを見たビラール准尉は、手に持っている新聞を見せながら彼らに言う。
「で、どうするよ…いつも通り…今週新しくランカーになった連中が一か月後に生きてるか賭けるか?」
そう言って、彼は新しくランカーになったというFランク帯ランカーの記事を指差す。
そこには“傭兵キョウヤ・アサクラ、Fランク帯47位ドンホン・インを撃破!新たなランカーが加わる!”、“宇宙海賊キルディザスターの犠牲者が100万人を突破!原因はGISDFの怠慢か?”などという見出しの記事があった。
「うーん…どうする?どっちもFランク帯だぜ?」
「Fランク帯かぁ…企業所属でもなきゃ一か月以内にお陀仏になるのがほとんどだしな…」
「ぶっちゃけこれもマンネリぎみだよな…」
「もっと…スリリングで…刺激的なのがないか?」
それに対する、彼らの反応はあまり良いものではなかった。
どうやら、彼らは今まで散々やって来た賭け事にマンネリ感を感じているようだ。
ビラール准尉は、それを見てふと何かを思いついたかのように手を叩き、笑って彼らに向かって言った。
「最高に刺激的なゲームを思いついたぜ!」
そんな彼の発言に周りは興味深そうな反応を示した。
「へぇ、どんなやつだい?」
「最近のはマンネリだからなぁ…」
「勿体ぶってないで早く言えよ!」
「刺激的…お前は確か…そうか…ははははは!そうか!悪趣味な奴だなおめえも!」
ビラール准尉はそんな彼らに今思いついたゲームについて説明する。
「へへっ!なんてこたあねえ…俺は忘れちまってたよ…命をチップにしたギャンブルほど刺激的なもんはねえ!…いいか?俺たちは二日後に“断頭台”っていう最悪の戦場へ行くんだ…果たして新兵は生き残れるか?お前は生き残れるか?」
そんな悪趣味極まりない彼の発言を聞き周りは色めきだつ。
彼らは類は友を呼ぶを字で行く、正真正銘ギャンブル依存症のリスクジャンキーどもだった。
「なるほど!俺たちの生死を賭けにするってことか!」
「そりゃあいい!二日後何人生きてるか楽しみだ!」
「死んでる奴が賭けた分は生きてる奴の取り分になんのか?」
「じゃあ、お前の分は俺が貰ってやるよ!」
「ああ?てめえ…舐めてんのか?」
彼らは喧々囂々としながらゲームのルールを作っていく。
「じゃあ、最初からだ。まず、俺たちがかけ金を賭けるのはジャックの生死だ!そして、生き残りは死んだ奴が多けりゃ多いほど取り分が増える。ただし…味方撃ちはご法度だ。そういうやつは略式処刑されるからな?いいな!もちろん、俺たちだけじゃなくジャックを事故に見せかけて殺すのも無しだ!ジャックの死因が味方の誤射だった場合は、やったのが誰であろうとゲームは不成立だ!」
それは他人の生き死にを賭け事にする極めて悪趣味なものだった。
おまけに彼らは、自身が生きているかどうかジャックが味方に撃たれるかどうかまで、ゲームの要素に組み込んだ。
明らかに度を越えた下劣で低俗極まりない娯楽だ。
「へへへ…じゃあ、俺はジャックが死ぬ方に賭けるぜ!」
「俺もジャックが死ぬ方に賭けるわ。いけ好かねえガキにはさっさと死んでもらいてえしな」
「俺もジャックが死ぬ方だ…養成所出たばかりのルーキーに生き残れる戦場じゃねえよ」
「俺もジャックが死ぬ方だな。傷心中の女なら口説きやすくなるだろ?」
「お前じゃ無理だろ!」
「その顔で口説くのか~?冗談キツイぜ!」
そう言って下卑た声笑う彼ら。
ビラールは無言で首を振って口を開く。
「あーあー…みんなジャックは死ぬ方に賭けやがる…しょうがねえ、俺がジャックの生存に有り金賭けるかねぇ…じゃねえとゲームにならねえよ」
彼が心配しているのは、ジャックではなくゲームが成立するか否かそれだけだった。
ジャックを心配しているものなら、そもそもやらないような所業なため無理もないだろう。
「お?お前らなにやってんの?」
そこへ偶然通りがかったのは、スクランブル出撃を終えて戻ってきたリー少尉だった。
「おお、リーじゃねえかよ」
「さっきアラート鳴ってたがどうだったよ?」
「ま~た、企業連の偵察機でも来てたのか?」
「スコアは伸びたか?」
リー少尉に対し、何があったかを口々に尋ねる彼ら。
そんな彼らに、リー少尉は手をひらひらと振りながら答える。
「おう、今回は嫌がらせ目的のハラスメント攻撃しに来た連中さ。俺とグレイブス隊長の二人で余裕だったわ。二機くれえ叩き墜としてやったら奴さんたち泡食って逃げてったよ…それより、面白そうな話してるじゃねえのよ?」
彼らはリーに悪趣味なゲームについて説明する。
「なるほどねぇ…」
(グレイブス隊長に教えておくか…でも、最近金欠だしなァ…)
「リー!お前もやるか?」
「馬鹿!やめとけ!あいつの賭け事の弱さは最早芸術の域だぜ?どっちに賭けてもあっさりくたばってお終いよ!」
「言われてるぞ~!リー!」
「あれれ~?ビビっちゃったのかな~?カンフーマスターちゃ~ん♡」
「なんだとぉ…やってやろうじゃねえかよッ!吠え面かかせてやるッ!」
沸点の低いリー少尉は、あっさりと彼らに乗せられて賭け事に参加する事にした。
「おい!ビラール!」
「おう、ジャックが死ぬ方と生き残る方…どっちに賭ける?」
ビラール准尉はリー少尉にニヤリと笑って問いかけた。
彼にはリーがどちらに賭けるか大体予想がついているようだ。
「ああ?俺の有り金全部ジャックの生き残る方に賭けてやるよ!」
それを聞いて、周りの者は囃し立てる。
「おいおい!どういう風の吹き回しだ?お前ならジャックが死ぬ方に賭けると思ったんだがなあ」
「随分と仲がいいんだな?女でも紹介されたか?」
「グレイブスに見つかっても言い訳が立つようにしたか?ヘタレのお前らしいや!」
「それともいつもの逆張りか~?」
リー少尉は彼らに対し顔を真っ赤にして言った。
「うるせえよ!不死身のカンフーマスターに引き分けたジャックが死ぬわけねえだろ!もしジャックが死んだら…そんな奴のせいで俺の常勝無敗伝説に泥を塗られたんだ!あいつの墓に小便かけてやるッ!」
それを聞いた彼らは、リー少尉が放った言葉を笑い飛ばした。
「てめえが墓に入ってなきゃいいな!」
「常勝無敗ってお前…まーた適当なホラ吹いてやがる!」
「安心しろ!お前みたいなのは顔に泥を塗られてる方が却って見れる顔になるからよぉ!」
「ジャックに墓が無かったらどうすんだ?」
「墓を立てて小便かけてやるッ!」
そんな彼らの下劣で低俗な会話を陰で聞いている者がいた。
「聞いちゃった♡ふーん…俺が死ぬかどうかの賭けねぇ…」
それはジャックだった。
彼は地獄耳のため、自身を話題にしている会話を遠くから聞き、彼らに近づき陰に隠れて盗み聞きしていたのだ。
「随分ふざけた真似をしてくれるなァ…今すぐ行ってぶちのめすのも良いが…初任給がまだで金欠だしなぁ…折角だ…!あいつら全員の有り金巻き上げてやるか!」
ジャックは邪悪な笑みを浮かべながらビラール准尉たちを見る。
「精々そうやって楽しんでなァ…最後に勝つのは俺だぜェ…」
そう言うと、どこかに向かって足音も立てずに歩いて行く。
「俺は常に…俺が生き残る方に賭けてんだよ…!絶対に負ける事のないギャンブル…ククク…最高だね!」
この男は単なる迷い込んだ哀れな子羊ではない。
それをまだビラールたちは知らない。
ジャックはなにを企んでいるのか…
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