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【ゼータ・セクター戦役編】第六話

ジャックくん上官を博打の共犯にするの巻

 俺は屑共から有り金を巻き上げるため知略を駆使して策謀を練っていた。


「──というわけで俺に賭けて二人で有り金巻き上げません?」

「ああ、こりゃ駄目だ…可哀想に…この新兵絶望のあまり完全に気が変になってる」


 俺の策?

 他人に俺に賭けさせて連中の有り金を山分けするって寸法よ!


 なんでそんなんするのかって?

 俺が俺に賭けに行ったらあいつらぜってえ誤魔化そうとするだろ!

 最初、フェルディナントくんを使おうと思ってたけど、あいつ嘘つくの苦手そうだからサリヴァン大尉に頼むことにした。


 大尉に頼んだ理由?

 グレイブス中尉は頷かなそうな気がするし、なんとなくこの人は基本的には善人だけど割と賭け事とか悪巧みとか悪ノリとかしそうなタイプに見えるから。

 …あと、さっき偶々その辺で出くわした。


「私は至って正気ですよ。ただちょっと…私の与り知らぬところで、私の生き死にを駆けの対象にして、勝っただの負けただの言ってるのに腹が立つんです。後、初任給まだなんで金欠です…(小声)」


 あと、初任給まだだから懐が寂しいんだよね。

 だから、この絶対に負けないギャンブルで懐を温めたいんだ☆


 え?死んだら負けだって?

 賭けようが賭けまいが、結局は死地に赴くことに変わりないんだから、生き残ったら金がもらえるなら賭けておきたい。


「なんという事だ…久しぶりに真面目な奴が入って来たと思ったのに…自分の生死を賭け事にされてこの言い草…こんなにイカレてるとは思わなかったぞ…」

「配属初日で自分より年齢も階級も上の美女に粉かけてるような奴ですよ?真面目だと思います?」

「ああ…うん…そうだな……にしたってこのイカレっぷりは…」


 着任したての挨拶の時に、ハルトネン曹長に粉をかけてる時点で俺の真面目要素どこよ?

 …ひょっとして俺ってこの部隊にお似合いのカス野郎?


「…しかしだ、ギャレット伍長…君はなぜこの話を俺に持ち掛けた?普通に考えて承諾する筈がないだろう?それに、ギャンブルなどこの俺が容認するとでも?」


 ああ、普通はそうだろうね…

 …普通はね?


「いえ、サリヴァン大尉はビラール准尉を営倉に入れる事はあっても、ギャンブルを本気で取り締まろうとはしていないでしょう?」

「…ふむ、続けたまえ」


 さて、俺はそれなりに弁が立つ方だと自負しているが…

 イケるか?


「最初は、ザルムホーファー中佐が強権を振るい、腕の立つビラール准尉を営倉入りだけで済ませるようにしているものだと思っていました…でも、どうやら違うようですね?」


 この前とか、ビラール准尉以外はその場で訓練のノルマが増やされるとかで済まされてんのよね…

 おかしいよな?

 普通こういうのって、首謀者以外もなんかしらの罰が下るもんじゃん?

 戦力に穴を開けなくても、減俸とかの処分は普通にできる筈じゃん。


 やってないってのも不自然だよな。


「ビラール准尉の行為は軍規に照らし合わせれば軍法会議物です。それに、彼と一緒になってやっていた者も何らかの罰を受ける筈…それでも、彼らは特に罰を受けた様子はない。それはなぜか?」

「……」

「それは准尉を通じて、賭けに勝つための仲間同士での殺し合いなどを抑制しつつ、最前線では致命的な戦力の低下を防ぐためにもビラール准尉などのランカー並みの腕を持つ者が、軍法会議にかけられないようにしているからではないのですか?」


 実際、ビラール准尉はゲームのルールを決める話し合いで、度々危ない方向に行きそうになっているのを軌道修正してたしな。

 まあ、あれは単なる良心とかじゃなく司法取引みたいな形で、そうやって軌道修正するって大隊長たちに持ち掛けたんだろうな。


「…興味深い仮説だな、伍長。確かに、ビラールは同士討ちなどの越えてはならない一線を越える事はない…だが、それは彼が自身の戦術的価値を理解していて、ギリギリ軍事法廷に立たされずに済むラインで、自分たちの乱痴気騒ぎを止めているだけかもしれんぞ?」


 まあ、そう言うわな…

 でも、さあ…

 こういう最前線で使い潰される連中が耽る物ってさ…


 ギャンブルだけじゃないだろ?


「実は…歓迎会では古参の先輩方から興味深い事を聞きまして…」

「む?」


 ベトナム戦争のアメリカ兵はモラルハザードが起きてたよな。

 その中には以前この部隊で起きていた事も含まれていたんだわ。


「中佐や大尉が着任されるまで…この部隊では、薬物の蔓延やSAFの飲酒運転、そして上官や部下の殺害などが横行していたようですね…娯楽として」


 フラッギングに薬物の蔓延とかマジでベトナム戦争かなって…

 なんか、ラリった状態でSAFに乗ってる奴とかいてすげえ怖かったって言ってたわ。


「先代から、ザルムホーファー中佐に大隊長が代わり、この部隊はかなりまともな状態になったと聞いています。しかし、ギャンブルだけはその頃から取り締まられずに続いている」

「なるほど…それで?」


 さて、ここからが正念場だが…イケるか?


「薬物の乱用や味方殺し、飲酒した状態でSAFに乗られるなどよりは、素面の状態でSAFに乗って貰えるだろうギャンブルの方がまだマシではあります」


 本当にマシかは知らんけど(適当)

 それっぽい事を並べてどうにかできるか?

 待てよ?なんで俺はこんな事してまでサリヴァン大尉に賭けて貰いたかったんだ?


 あ、そうじゃん…口が堅そうで少なくとも後になってから、山分けの話を反故にしたりしなそうな人を選んだんだった…

 時間が無かったから、第13SAF中隊の人くらいしか人となりはわからんしな。


「実際、ビラール准尉のものは悪趣味ではありますが、同士討ちや味方殺しなどを禁ずるルールでやっています。少なくとも、先に上げた今は厳重に取り締まられている三つよりかは遥かにマシです。それに、最前線では極めて娯楽が乏しい…薬物なんかに飛びつかれるよりは、悪趣味だが一線を越える事のないギャンブルに熱中された方が良い。そうお考えになられたのでは?」


 どうかな…?

 これで乗ってきてくれればありがたいが…


「なるほど…もし…そう、もし仮に君の言う通りギャンブルを容認していたとして…ギャレット伍長、なぜ俺がわざわざ君に賭ける必要があるんだ?まるで自分が…あー…勝てると確信しているかのようだが…」

(やっぱ彼はストレスでおかしくなってるんじゃないのか?死ぬかもしれないって時にその態度はとれないだろ…ヤケクソになってるのか?)


 乗って来てくれたな…!


 やたら自信満々な態度を取っておいて正解だったな!

 なんで大尉に俺が賭けさせるのかじゃなくて、なんで大尉が俺に賭ける必要があるのかって尋ねたんだからなあ!

 ギャンブルする理由についてじゃなく、ギャンブルで賭ける方について言及してるって事は、俺に賭けるべき理由さえあれば賭けてくれるかもしれねえ!


 クリーヴズ曹長から得た情報は正しかったらしいな…

 今度お礼にお酒でも贈るか…お互い生きてたらだけどな!


「ええ、わかっていますよ…新兵の俺が次の戦場を生き延びる事が出来る確率は低い…そう、お考えなのでしょう?ならばご安心を!」

「いや、ちょっとま──」

「私は500人中498人が死亡した輸送機事故を生き延びました!」


 二の句が継げないように強引に押し切ります!


 え?強引な奴は嫌われるって?

 どうせ四年間あるかないかの短い付き合いだから問題ねえ!

 退役後にはもう会う事も無いだろうしな!

 まさか再就職先にこいつがいるなんてこたあねえだろうよ!


「そう言う問題ではなく!お前は──」

「ちなみに私の座っていた席での約生存率は0.01%だそうです!」

「だから話を…え?マジで?そんなに生存率低かったのか…報告書には無かったな…」


 それがマジなんだよなあ…

 俺の話聞いてた銀河宇宙航空事故調査局の人が、みんな口をそろえて言うんだよね…

 “そんな筈がない。あの位置、あの状況で墜落時に無傷で生き延びられる筈がない”ってさ…

 それでみんな俺をバケモンでも見るような目で見るんだよ…


「はい、本当です。調査官にバケモン扱いされました」

「まあ、そりゃあそうだろうな…お前の場合、絶望的な状況を無傷で生き延びた上に猛獣を素手で殺してるんだからな…」


 取り敢えず、この二度もできるかわからん奇跡の生還を前面に押し出してアピールするぞ!


「どうです?そんな奴のオッズが非常に高い状態なんですよ!」

「いや、そう言う問題ではないだろう…」

「因みに、先ほど確認した倍率だと俺の生存は20.0でしたよ?」

「なるほど…ふーむ…だが…ウーム……俺が賭けたら…オッズが……いや、しかし…」


 よーし…クリーブス曹長の言ってた通りだ…

 この人普通にギャンブルとかやるわ!

 一見堅物に見えたけど、この人もこの部隊に相応しい不良軍人だったぜ!

 …俺こんなダメ人間の巣窟みたいなとこにぶち込まれたんか?


 迷ってるし…もう一押し要るか?


「大尉、これは願掛けのようなものです!」

「願掛けぇ?…これギャンブルだぞ?それも滅茶苦茶悪趣味な…」


 無理やり過ぎたか?

 だがまあ、ここまで来たなら無理やり押し通すッ!


「はい!このオッズからわかる通り、私は死地に赴くというのに今多くの戦友たちから死を望まれています!それも滅茶苦茶勝手な理由で!」


 改めて考えるとマジでひでえな…

 こりゃあ連中には罰が必要だよな…

 具体的には有り金全部むしり取られるって感じの!!!


「つまり…私が生き延びる事を望んでいる者…それが必要なのです!それが生きようという気力に繋がるのです!また、私が生き延びる事でこの部隊が得られるメリットとして、“スーパーソルジャー課程”を修了したパイロットのみならず爆弾の解体とかもできる、激戦を生き延びた猛者が一人誕生する事が挙げられます!どうでしょうか!サリヴァン大尉!ここは一つ…私の生還を祈っては頂けませんでしょうか!?もちろん、五体満足無事での生還をお約束します!後ろ盾頂けるのであれば身命を賭してお仕え致しますッ!」


 さて…取り敢えず大尉が正気に戻らない内に事を済ませよう…

 全力で畳みかけて俺の都合の悪い所を見られないようにするッ!


「そ、そうかぁ…が、願掛けかァ……あー…そうだよなあ…お前の生還を祈ってくれる奴が一人くらい…ハルトネン曹長はこういうのはまだ早いし……メルツァロヴァ少尉は?」

「あの人をあのクズどもに関わらせたくないです」

「そりゃあそうだ」


 よし…イケるか?

 これなら賭けて貰えるか?

 真面目で口が堅いギャンブル好きのイカレた人なんて好条件が他にいるとは思えん!

 必ずここで決めるッ!


 じゃねえと…中隊長であるこの人経由でグレイブス中尉に事が露見する!

 そうなったらやべえ!

 扱いがリー少尉の同類になっちまう!(もう手遅れ)

 つーか、メルツァロヴァ少尉やハルトネン曹長にバレて幻滅されたら死にたくなる!

 あれ?これサリヴァン大尉に頼まなきゃこんな事にならなかった?

 …細けえこたあいいんだよ!


「どうでしょうか!サリヴァン大尉!ここは一つ私に賭けてくれませんか!…願掛けとしてッ!」

「………」


 どうだ!?

 これで駄目だったら終わりだぞ!?

 頼むぅぅぅ!!!OKしてくれぇぇぇぇ!!!!!


「…願掛けなら……仕方ねえよな!」


 よっしゃああああああ!!!!!!!!!!

 やっぱ、根が不真面目な人が普段真面目にしてる分、抑圧された分が溜まってたんだろうな!(失礼)

 こうして暴発して俺の提案に乗ってくれた!


 …まてよ?まだ俺に賭ける事に合意しただけだわ…山分けまではしてくれるとは──


「そんじゃあ、俺はこのくらい賭けるからお前の分も賭けてきてやるよ!あ、当たったら山分けするからちゃんと生き残れよ!」


 マジで!?

 山分けだけでなく…そこまでしてくれんの!?

 ありがてえ…

 てっきり俺が賭けた分の払い戻しを二人で山分けすんのかと思ってたわ…


「あ、お願いします。しかし、いいんですか?」

「ああ、構わん。初任給もまだだろ?…ジャック、お前は取り敢えず二日後はスコア0でいいから生き残れ。総大将の“皆殺しのショヴァン”は少なくとも無能揃いの指揮官の中じゃ恩賞は弾んでくれる方だ…少なくとも、理不尽に叱責したり降格させたりしないからな」


「ありがとうございます!…なんでそれであんなボロクソ言われてるんですか?」

「そりゃあ、お前…彼より悪評が立ってる指揮官は、みんなもう流れ弾でこの世にいないからよ。…あと、ぶっちゃけあれより酷いのが来たら、比喩抜きで全員死ぬから悪評の立ちようがない」

「ああ…なるほど…お答えいただきありがとうございます…」


 なるほどねえ…軍規とか抜きに考えても、無能だけど性格は終わってない指揮官殺したら、もっとヤバいの来るかもって思ったら迂闊には殺せねえよな…


 しかし、まさか俺の手持ちだけでなく大尉が金を出してくれるとはねえ!

 サリヴァン大尉には足を向けて寝られねえや。

 こりゃあ、明日からはまともにやらねえとな…

 生き残るために猛訓練だな!

 大体いつも通り…?


 そういや…俺名前呼びされてた?

 まあ、いいや!さっさと部屋に戻りましょ!


「ジャック・ギャレット伍長、初日から気に入った女に粉をかける軟派な男かと思ったら中々どうして…愉快な奴じゃないか。問題児を二人も抱えるギルバートには悪いが、俺の中隊に面白い奴が増えて良かったよ。頑張って二日後を生き延びろよ…俺はお前が“これからも”生き残るのに賭ける事にしたんだからな」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 よっしゃあ!サリヴァン大尉が俺の共犯者になってくれたー!!!


「これで後は…二日後を生き残るだけだ!」


 あー疲れた…ベッドで横に…なるにはちょっと早いか…

 それに、シャワー浴びてから寝たいしな。


「あ、ギャレット伍長。戻られてたんですね。メルツァロヴァ少尉との逢引きはどうでしたか?」


 そう言って、俺に声を掛けて来たのは同室になったトゥルンヴァルト伍長。

 ビラール准尉とかが相部屋じゃなくて良かったわ…

 リー少尉?あの人はあんなんでも士官だから個室を与えられてる。


「ああ、二日後は必ず生き残って言われたよ!レディとの約束が先約って事で、死神さんにはお帰り願うしかないな!それと、トゥルンヴァルト伍長…俺の事は名前呼びでいいよ?自由時間内かつ人目も無いなら問題ないさ」


 そうそう…我が女神が俺と逢引きしたいって仰ったのよ!

 しばらく、二人でその辺歩いてたんだけど人気のないところで彼女なんて言ったと思う?

 “私の…その…親しい人はみんな死んでしまうの……ジャック…どうかあなただけは死なないで”だって!

 年上の儚げデカπ美女からそんなん言われて死ぬ奴おる?

 俺は必ず生きて帰るって誓ったね…


 その帰りに、俺の生死で博打してるゴミ屑たちがいたから、ついカッとなってやっちゃった☆

 正直マジで迂闊だったと後悔してる…

 でも、大金手に入るかもだからいっか♡


 本当に…色んな意味でなんとか無事に生き延びねえとな…


「いいなぁ…僕も美人なお姉さんにそう言って貰いたいや…」


 大隊長直属小隊の小隊長…確かあー…そうそう…


「フランカ中尉に頼んでみたらどうだ?…あ」


 やべえ口に出しちゃった…


「え゛!?お姉さん…じゃなくて、ブラウエル中尉にお願いするなんて畏れ多いですって…」


 フランカ・ブレヒチェ・ブラウエル中尉…

 彼女は軽量級機だけで構成される大体本部直掩小隊の隊長だ。

 SAFの腕はかなりのもので、スコアはSAFの撃墜数はトータルで120機、艦船10隻の凄腕だ。

 うちの部隊じゃ大隊長を除くと、この人とサリヴァン大尉、グレイブス中尉が上位ランカー相当の戦力として数えられてる。

 まあ、単騎で戦況を変えられるバケモンの一人ってわけだ。


 彼女はかなりの美人だったが…中身はイカレてる…上官にセクハラして飛ばされて来たらしい…

 自称永遠の17歳の御年3X歳で婚期に焦ってるヤバ女だ。

 俺をロックオンしてたらしいが…歓迎会でフェルディナントくんに撃墜されてた。

 ロックは向こうに移ったかな?


「そのぉ…呼び名は…ジャックさんでいいですか?流石に年上を呼び捨てはちょっと…あ、僕の事は呼び捨てでいいですからね!」

「そう気にしなくてもいいよ。階級も養成所出た時期も同じなんだ…ほぼ同期みてえなもんだろ?それに口調もため口でいいって。階級同じで先任でもないんだ…年齢だけで威張り散らすのもあれだろ?」


 驚いたことに…彼は俺の二つ下だった。

 俺は今17歳…つまり、彼は15歳ってわけよ…


 GISDFは13歳から入隊できる。

 で、三年訓練してから各地に配属されるんだわ。

 つーことはよ?フェルディナントくんは、入校を許される最年少の13歳でラドラリア下士官養成所に入って、飛び級して二年で卒業してここに送られて来たってわけ…


 こいつをこの部隊に送った教官共には心が無いらしい。

 じゃなきゃ、俺みたいにクソカルト野郎に“飛び級=早く最前線送りにされたい”と解釈されてここへ飛ばされたかだな…

 二日後の事を考えると…本気で不憫な奴だよ…

 …俺と違ってイケメンじゃないしな!


「え?いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて…改めてよろしくね、ジャック!」

「おう、よろしくなフェルディナント!ぜってえ二人揃って二日後を生き延びような!」

「うん!…ところで聞きたいことがあるんだけど」


 何だろ…女にもてる秘訣かな?

 まず、イケメンに転生しましょう!(無理難題)


「ジャックはメルツァロヴァ少尉とハルトネン曹長のどっちと付き合ってるの?…その、二股とかはサリヴァン中隊長にボーイェン少尉、グレイブス中尉なんかにしばかれるし…なんなら、ラッパライネン曹長に殺されるけど…?」


 え?なに言ってんのお前?


「…どっちとも付き合ってないけど?」

「え?そ、それってどういう…」

「どういう事も何も…付き合ってないんだもん。そりゃあまあ…いつかは美人さんと付き合いたいとは思ってるけど…別にあの二人とはそういう関係じゃないよ?」

「え?」


 そう、俺実はどっちとも付き合ってないんだよね!

 メルツァロヴァ少尉は守ってあげたいなあって思ってるし、ハルトネン曹長はかわいいなあって思ってるけど、別にどっちとも付き合ってはいないのよね…


 なんであんなに距離感近いんだ?

 ここ二日だけで、メルツァロヴァ少尉は隙あらば腕を組もうとするし、ハルトネン曹長は無言でニコニコしながら俺の手を握って撫でてくるし…

 なんでだろ?俺がイケメンだから?


「…それであの距離感?」

「うん」

「ジャックってよく女の子に刺されない?」


 え?刺される?俺が…?

 ありえないだろ…


「フェルディナント…お前…我が鋼鉄の如き肉体に刃物が通用すると?」

「ジャックって本当に人間?」


 失礼な奴だなお前は…

 どっからどう見ても人間だろ!

 なんでみんな俺をバケモン扱いするんだ…


 ただ、刺されても斬られても撃たれても航空機事故に遭っても猛獣と素手で戦っても死なないだけなのに…(哀しきモンスター)


「ねえ、ジャック…一体なに食って育ったらそうなるの?」

「わかんねえな。確か…味のない四角い白い粘土みたいな謎の食いもんばっか食ってた」

「ジャックって研究所で作られたりしてない?」

「してないと思う…多分おそらくきっと…」


 研究所から逃げ出した実験体がスラムに身を隠した…

 その後、何らかの要因で記憶を失う…

 なんかちょっとあり得そうで怖いな…


「でもよお…俺とまともに殴り合えるリー少尉みたいなのがいるんだぜ?俺はきっと人類の外れ値の一人とかそんなもんなんじゃね?」

「ジャックたちみたいなのが敵で出てこない事を祈るしかないね…」

「ああ、特にそいつが暗殺のプロじゃない事を祈るしかねえ…俺と同等の戦闘能力の暗殺者とかゾッとするだろ?」

「そんなのいたら絶対死ぬって…」


 暗殺特化の訓練受けた俺が殺しに来るとかマジでヤバいよな…

 リー少尉とかいるから、あり得なくも無いのがマジで怖いわぁ…


「リー少尉ってなに食って育ったんだろ…普通にバケモンだし…」

「あの人曰くインスタントヌードルとスナック菓子で体が出来てるんだとよ」

「そんな食生活でよく生きてられたね…そんなクソみたいなもんばっか食ってたらすぐ死んじゃうって…」


 インスタントヌードルって言われたら現代のカップ麺とか思い浮かぶよな?

 まあ、味は実際なんかその辺のスーパーで売ってる、どこのブランドかもわからん安いカップ麺みたいな味なんだが…

 あれ添加物の二郎系みたいな代物だから、現代のカップ麺より遥かに健康に悪いよ…

 スナック菓子もそう…得体の知れない添加物マシマシで、実験用マウスに一か月間与え続けたらくたばるようなやべえ物…


 そんなんで生きていけるわけがねえよ。


「多分、適当にホラ吹いてんだろうとは思う。前に、あの人またほらを吹くのか?とか煽られてたし…」

「そ、そうだよね!そんな食生活あり得ないよね!」


 でもネグレクトされてたとかならあり得なくはないかもな…


 まあ、嘘ついてるってのが一番有力だよな。

 もし仮に俺みたいに“特別児童養護施設”育ちなら…絶対に言おうとはしないだろうからな。

 “施設”の出身ってだけで、当然の様に命を捨てて貰えるものだと思ってる人間が一定数いるらしいからな。

 養成所のクソカルト教官はそうだったし…


「そういや、フェルディナントはラドラリア下士官養成所の出だよな?ラドラリア星系の出身なのか?」

「うん、そうだよ。それが?」

「お前の実家ってどんなとこなん?俺…キャピタル育ちだし、他の星系に出たことないから、その辺の暮らしとかはよくわかんないんだよね…」


 キャピタル(にある特別児童養護施設で少年兵として)育ちだから嘘は言ってないしセーフ!

 ちょっと、中央星系育ちのシティボーイぶってみたかった。


「へー…ジャックってキャピタル出身なんだ」

「とはいえ…幼少期から常に勉強漬けで、キャピタルの事もよくわかってないが…」

「そっかぁ…」


 取り敢えず、表向きはそう言う事にして通してる。

 尤も、教官は俺の個人情報を閲覧できるから“施設”育ちって知ってたらしいな…

 なーにが“最近の施設の出身の者は君と違って弛んでる”だボケ!

 どんなに頑張っても使い捨ての捨て駒扱いってわかってて努力する奴はいねえよ!


 俺はわかってなかった…


「そうだなあ…僕もラドラリアの事をなんでも知ってるって訳じゃないけど…取り敢えず、実家周りの事で良い?」

「ああ、頼む!」


 この世界の普通の市民の暮らしってよくわかんねえんだよな…

 だからすげえ気になってた。

 まあ、前世が割とSFが好きだったてのもあるが。


「僕の実家は、ラドラリア星系の四番惑星ラドラリアⅣの工業地帯の街“第8精練区”にあるんだよね。あの星は結構荒れ地や砂漠が多い星で水が結構高いんだよなぁ…レアメタル鉱山とかも全然取れなくなって閉鎖になって…年々寂れてってる。おかげで“デッドレジャー”…死んだ大帳簿なんてあだ名までつけられちゃってる…友達とかみんな首都星のラドラリアⅢに移住しちゃってて寂しかったなあ…」


 うーむ…世知辛いね…


 ラドラリアは、レアメタル取れなくなってから金融業とかで食いつないでるんだよね。

 星系内企業は、大企業に羽化する前に上の利権絡みの問題で、勢力を大きく削がれてしまったとかで絶賛斜陽中の星系なんだが…

 そこの工業地帯か…滅茶苦茶不景気の煽りを受けてそう…


「僕の家族は五人家族で、父さん母さんと僕を含めた兄弟三人。あ、ちなみに僕は次男ね?それで実家は定食屋をやっててさ…工場とかで働く人たちがみんなお昼や夜になるとやって来るんだ。父さんたちの料理はおいしいって評判で…おかげで年々規模も投資も縮小されていってる工業地帯でも、僕たちは食うに困らなかったよ」


 へえ、労働者向けの定食屋が実家だったんだ…

 なんだってわざわざGISDFに?

 そんなにラドラリアの衰退の仕方がヤバかったの?


「へえ、お父さんは料理の腕が良いんだな…客足が途絶えないってのは地元から愛されるお店なんだろうねぇ」

「うん!そうなんだよ!でも、やっぱ年々お客さんが減っててさ…」

「それでGISDFに?」


 これで、孝行息子がクソカルト野郎に捕まって、最前線送りとかだったら哀しいんだが…

 クソカルト教官なら、親を想う気持ちを国や元老院を想う気持ちと曲解して最前線送りしそうだしな…


「いや、実はうちの星系だと従軍してる人や従軍経験がある人が家族にいれば、減税してくれるって制度があってさ…うちも最近はそんなに余裕があるって訳じゃなかったし…兄さんは父さんの後を継いで店を守らなきゃいけないからさ…僕が行くことにしたんだ」


 マジで!?自分で軍隊行き選んだの!?

 すげえなこいつ…


「フェルディナント…お前凄いな…」

「そ、そう…?」

「ああ、お前は凄いよ」


 俺なら弟にお前が行けって言ってる。

 こいつ良い奴だしまともだから生き残って欲しいな…

 こいつが死にそうになる度に、リー少尉が代わりに死にかけるシステムとかないかな…?


「いやあ…照れるなあ…あははは!」


 15歳か…前世で言えば…中三とか高一ってとこか?

 死ぬにはあまりにも早すぎるわ。

 ボーイェン少尉には頑張ってこいつを生還させてほしいわ。


「あ、そうだ!ジャックは退役後なにするか決めてる?」

「俺?んー…特に決めてないな」


 地方の防衛隊でブルペンエースとか考えてるなんて言えねえよ。

 雑魚をしばきまくってちやほやされたいとか言えるわけねえ…


「じゃあさ、ラドラリア警備隊とかに入らない?僕も退役後に入るつもりなんだよね!」

「うーん…警備隊か…SAFパイロットの枠が無かったらなあ…」


 地方星系だと警備隊に数十機もSAFがないなんて事もあるしなぁ…

 縁故採用で俺よりヘタクソな奴がパイロットになれて、俺はなれないとかだったらブチギレて暴れちゃうぞ☆


 GISDFが駐屯してる時点で警備隊は軽装備なの確定だしな。


「それがさあ、なんか最近GISDFがラドラリア星系から戦力を引き上げてるんだよね…各地の紛争に投入するためなんだろうけど…そのせいで海賊なんかの被害が増えててさ…ラドラリア政府は警備隊を更に戦力増強するらしいよ」

「なるほど…」


 あちこちで滅茶苦茶な兵士の使い方してるからこうなるんだよ…

 このままいけば、銀河戦争(80年ぶり二回目)とかあり得るんじゃね?

 あちこち火種塗れだし…


「じゃ、二日後に大戦果を上げたら…書類選考だけで内定貰えるようになるかな?だって“俺たち”は無敵のブレイカースクワッド様だからな!」

「あはははは!!!うん!そうだね!エースパイロットならきっと大歓迎してくれるよ!」


 地方の警備隊で追い払える海賊みたいな雑魚を蹴散らして、チヤホヤされるんならラドラリアも悪くねえかもな!

 斜陽って言っても、地方星系の中じゃあまだマシな部類だしな!


「じゃあ、二日後はなんとしても生き残らなきゃな!」

「うん!こんなとこで死にたくないしね!」

「どうせ死ぬなら絶世の美女に殺されてえな~」

「え~?僕はいくら綺麗な人でも殺されるのはやだよ!」


 取り敢えず…今は馬鹿みてえな話して盛り上がっておこう。

 そうすりゃあ、少なくとも二日後への恐怖が今は薄れるからな。



次かその次でいよいよ初陣です。

果たして何人生き残るか…


高評価とブックマークありがとうございます!

これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!

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