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【ゼータ・セクター戦役編】第四話

今回も酷いな…

第3独立機動遊撃大隊のジャックを含む愚連隊染みたメンバーの心温まる日常回です!

 Z9-171基地トレーニングセンター。

 そこでは、第3独立機動遊撃大隊の各中隊が過酷な訓練に臨んでいた。


「さっさと走れ屑どもぉぉぉ!!!」


「「「「「「サー!イエス!サー!」」」」」」


 ジャックが所属する、第3独立機動遊撃大隊の面々は現在パイロットスーツを着た状態で、通常の歩兵部隊の三倍以上の距離を倍のペースで走っていた。

 彼らはそんな超人的な体力に加え、新兵のジャックたち以外のほぼ全員がSAFを五機以上撃墜したエースパイロットである。

 まさに、GISDFの最精鋭に相応しい部隊と言えるだろう。


「あー…だりいな…なんとかサボりてえけどよォ…」

「馬鹿言え…サリヴァンやグレイブスなんかの堅物野郎どもに大目玉食らうぜ」

「お、あの娘!メルツァロヴァ少尉だっけ?中々の可愛いじゃん!あれで胸が小さければなァ…」

「あ?なに言ってんのお前?胸は巨乳に限るだろ!貧乳派は精神病かなんかだろ!(暴言)」

「なんだとてめえ!この低能揃いの知性の欠片もない巨乳派の分際で!(暴言)」


「何をやっている!営倉入りしたくなければ無駄口を叩くな!そんなに体力が有り余っているなら貴様らは三周追加だ!」


「チッ…マジかよ…」

「貧乳好きのせいで…!」


 とは言え、隊員たちは素行不良や前の部隊でなんらかの問題を起こし、追い出されて来た者が多いためか訓練中に平気で無駄口を叩く者も多い。

 教官の資格を持つ、インストラクターを務める隊員はそれらを見つけ次第咎めるも、如何せん焼け石に水であった。


「~♪~♪~~~♪」

「お前随分とご機嫌だな?」

「ああ、この後格闘訓練だからよぉ」


 鼻歌まじりで走るリー少尉は、話しかけて来た顔なじみの隊員にそう言った。

 衆人環視の中、合法的にジャックを叩きのめすつもりなのだ。


「ああ、あのスカしたガキをぶちのめすつもりか…へっ、あいつも運がねえな」

「リーの奴はバケモンだからなぁ…きっとまた死なない程度に嬲られちまうぜ?」

「可哀想な新兵くん♡あの整ったお顔がぐちゃぐちゃになっちまうな♪」


 既に、基地内の女性兵士のアイドルと化しているジャックに対し、面白くない感情を持っている隊員たちは、自称カンフーマスターが彼を叩きのめす様を見たがっていた。

 そこへ、ビラール准尉がやって来て彼らに話しかける。


「おい、ジャックとリーのどっちが勝つか賭けようぜ」


 そんな彼に対し、周りの者は怪訝そうな顔をする。


「賭けるまでもねえだろ」

「あの自称カンフーマスターが負けるとは思えねえよ」

「流石に新兵じゃ無理だろ…サリヴァン大尉たちですら敵わないんだぜ?」


 リー少尉が勝つことを疑わない彼ら。

 そんな彼らに、ビラール准尉はニヤリと笑って言う。


「それがな…ギャレット伍長はよ?“スーパーソルジャー課程”修了者なんだとよ!それに、ここに来る前に輸送機の墜落事故を生き延び、素手でビイガーを仕留めたんだとよ!これは確かな話だぜ!メルツァロヴァ嬢や大隊長から聞いた話だ!…サリヴァンたちには聞くなよ?賭けの事がバレちまう」


 すると、それを聞いていた特にジャックに含むものが無い者たちも、その賭けの話に加わって来た。


「おい…そりゃあ本当かよ!」

「猛獣を素手で仕留めやがったのか!」

「こりゃあすげえ!リーの奴ぶっ殺されるんじゃねえか!?」

「いやあ…でも、リーも熊殺しだって言ってたぜ?」

「どうせいつものホラ話だろ!俺は新兵に賭けるぜ!」


 娯楽の乏しい最前線では、このような低俗な賭け事が彼らの貴重な娯楽の一つとなっている。

 だが、当然そんなバカ騒ぎをしていればインストラクターに見咎められる。


「おい!なにをベラベラお喋りしている!貴様らも三周追加だ!」


「へーい…」

「はいはい…」

「わかりましたよ~」

「りょーかい!」


「貴様らァ…!」


 しかし、彼らはペナルティを課されるもどこ吹く風という有様である。


「奴らめ…今度という今度はァ…!」


 先ほど、注意したインストラクターであるグレイブス中尉は、そんな彼らの全く悪びれもしない態度に青筋を立て憤怒の形相で睨みつけていた。


「…どうした?ギルバート」


 そんな彼の様子を見て、同じくインストラクターを務めているサリヴァン大尉が話しかける。


「奴ら…訓練中に私語を慎まないばかりか、格闘訓練でリー少尉とギャレット伍長のどちらが勝つか賭けるなどとふざけた事を…訓練は見世物ではないというのに!なにより、新兵が叩きのめされるかどうかを賭けるなど…言語道断です!それにビラール!奴は何度注意してもあのザマです!奴は即刻営倉へ放り込むべきです!」


 そんなグレイブス中尉の言葉に彼は頷くと口を開く。


「そうだな、いくら何でも看過できん。常日頃からの素行不良もある…奴は営倉行きが妥当なところだ」


 彼もグレイブス中尉同様、常日頃からビラール准尉の素行不良にはうんざりしていたのだ。


 ビラール准尉は、これまでに何度も営倉行きなどの処罰を受けるも、性懲りもなく悪趣味でくだらない賭け事を不良軍人たちと再び行ってきた。

 更に重い罰を与えようにも、彼は無駄に腕が立つため大隊長はそれ以上の罰を与えようとせず、大隊が全機出撃する際には彼を営倉から出して出撃させるなどしている始末だ。

 そのため、彼らからすればビラール准尉を営倉に放り込むのは、周囲から隔離しバカ騒ぎを抑制するための措置であり、最早彼に対し罰を与え反省を促すための措置ではない。


「おい!ビラール!お前は営倉行きだ!」


 サリヴァン大尉は、大隊のナンバーツーとしての権限を無慈悲に行使した。


「おら、来い」

「へいへい…そんじゃあ別荘まで案内頼むぜ!」

「営倉は別荘ではない」


 ビラール准尉は警備の兵士に連れられて営倉に行った。


「あいつめ…今度は降格処分にしてやる…いや、賭博の胴元なんぞやってるんだ軍法会議送りが妥当か?」

「あれでEランク帯以上のランカー並みの腕があるのだから性質が悪い…でなきゃ今頃軍法会議だ」


「他の者の処分はいかがいたしますか?」

「数が数だ…全員営倉入りさせてしまえば戦力に大穴が開く…業腹だが軽微な罰に留めるほかない」

「それは…嘆かわしい事ですね。平時でさえあれば、ビラールは軍法会議で他は全員営倉にぶち込めたものを…」


 二人は、連れられて行くビラール准尉を忌々し気に睨むと、インストラクターの仕事に戻った。


(馬鹿じゃねえのあいつ?なんで上官が見てるとこで平然とそんなんやるかね?)


 ジャックはビラール准尉の醜態を鼻で笑うと再び格闘訓練の事を考え始める。


(我が女神メルツァロヴァ少尉に、中隊のアイドルのハルトネン曹長が見てるんだ…自称カンフーマスターのリー少尉を華麗に倒して、カッコいいとこ見せてえなァ…)


 この男、相手を完全に舐め切っている。

 既に勝つ事しか考えていない。

 果たして彼の運命や如何に…



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺は今トレーニングセンターのレスリングマットの上でリー少尉と向かい合っている。

 格闘訓練の時間になったら向こうからわざわざやられに来てくれたよ。

 なんかめっちゃ皆俺たちの周りで手を止めてみてるんだけど大丈夫そう?

 教官役までそれとか…見世物になったみたいだわ。


「よう、ジャック…お前、ビイガーを素手で殺したんだって?その噂が本当かどうか…確かめてやるよ」

「いいですよ…精々、少尉殿の胸をお借りするとしましょう」


 お!あそこにメルツァロヴァ少尉いるじゃん!


 なんか同じ所に女性が集まってるね…

 あれか?大隊長直属の小隊は全員女だって広報で言ってたし…そういう事か?

 それにしちゃあ数が多いけど…


 手を振ったら…怒られそうだからイケメンスマイルを投射します。


「「「キャー!ジャックくーん!!!」」」

「ねえ、ユーリアの言ってたイケメンくんって彼よね!」

「うん!彼凄いのよ!ビイガーを素手で仕留めてたの!」

「マジで?ヤバ!」


 じゃ、ジャックくん?くん付けで呼ばれるとか養成所以来なんだが…

 てか、黄色い声上げてる奴ら全員上官じゃね?(マサイ族並の視力)

 肩の階級章は…大尉、中尉、中尉…

 美人だし若見えするけど実際は結構年上のおばさ…お姉さまが多そう…


 こんな最前線の使い捨て部隊に、美人が集まっているとは…かなり碌でも無い背景がありそうじゃん…


 つーか、なんでこんな人気なの?

 イケメンだから?…イケメンだからだな!(確信)


「あのガキ…気に食わねえ…!リーの野郎が捕まえなきゃ、俺が直接殴りまくり、蹴りまくり、関節極めまくりなのによぉ!」

「あいつビイガー素手で殺ったらしいぞ」

「リーさんやっちゃってください!」


 …なんか滅茶苦茶ヘイト買ってる?


「へえ、大人気じゃねえか…お前、歳はいくつよ?」


 こいつ年齢でマウント取ろうって?


「…17です」

「17…17かあ…あのBBA自分の年齢の半分のガキにキャーキャー言ってたのか…」


 違った…リー少尉は未成年の性的搾取について憂慮してたわ。

 しかし、俺の倍の年齢のBBA…どれだ?

 メルツァロヴァ少尉は違う(確信)

 あの人は加齢臭とか一切しない、いい匂いがしたし。


 あ、審判のサリヴァン大尉が寄って来た。

 そろそろ始まる感じ?


「いいか、お前ら…これはあくまでも訓練であって殺し合いじゃない…目つぶしや金的なんかはもちろん寸止めだ…実際には当てるなよ?噛みつきとかは下手すると歯が折れたりするから駄目だ。いいな?殺し合いじゃないからな!殺し合いじゃないんだからな!!!」


 めっちゃ念を押すじゃん…

 俺たちをなんだと思ってるの?


 お、あっちでグレイブス中尉が他の教官たちと話をしてんじゃん。

 何話してるか聞いてみよ!(地獄耳)


「いいか…割って入る時は絶対に一人で行くなよ。必ず、二人以上で一人を抑え込め」

「わかっています…しかし、二人掛かりでも抑え込めるか…」

「どちらも大型の肉食獣を素手で仕留める怪物ですからね…果たして人力で抑え込めるかどうか…」

「だが、やらなければ猛獣同士の本気の殺し合いという、凄惨な光景を見せられることになる」


 俺たちをなんだと思ってるの?

 てか、リー少尉の熊殺しってマジだったのか…

 こりゃあ、当初の予定程楽勝じゃねえな…


 なんかさっきから上から狙われてる気配がするんだけど…

 殺気は無いし麻酔銃かなんかか?


「安心しろよジャック!半殺しで済ませてやるからよ!…運が良けりゃな」

「おい!リー!さっきの聞いてたか!?俺あくまでも訓練って言ったぞ!?」

(今すぐ止めるべきか!?いや、俺たちがいないときに周りに乗せられてやり合ったとかだと不味いッ!それならいっそ今やってくれた方が止めに入れる分マシか!?)


 向こうさんもやる気満々じゃねえか。

 こりゃあヤバいな。


「いいか!これは訓練だからな!俺たちの本職は、パイロットなんだから本職に差し障りのないよう、できるだけ怪我をしないようにしなきゃならんのだからな!いいな!安全に気を付けるんだ!」

「わかってますよ。殺しはしません」

「あ、だめだこりゃ…」


「よし!聞いてないなら格闘訓練は中止「中止にしたらマジで暴れますよ」上官への脅迫か?お前はマジで軍法会議にかけられたいのか?軍法会議が嫌なら俺の言う事を聞け」

「チッ…わかりましたよ…殺しちゃダメ、目突きや金的は寸止め、怪我させないように気を付ける、殺しちゃダメですね?」

「スナイパーを待機させてある」(そうだ!絶対にそれを破るなよ!)


 あらまあ…奴さん上官の話も聞いてませんわ…

 つーか、サリヴァン大尉がここまで恐れるってこいつ相当やべー奴?


 …やっぱスナイパーいたのね。


「ギャレット伍長、ヤバいと思ったら即降参(どころか棄権してほしい)してくれ!俺たち全員全力で割って入るからな!いいな!」

「了解!」

「頼むぞ…」


 まあ、とにかく勝てばいいよね!(馬鹿)

 こんだけ挑発されて引き下がるわけねえだろ(憤怒)


「じゃあ、開始のブザーが鳴ったら始めろ。…開始のブザーが鳴ったらだぞ!」


 めっちゃ念を押すじゃん…


 “BEEP!”


 お、鳴った!

 さてどっから──「ホアタアアアア!!!!」

 !?


「なッ!?」


 今のは…ジャブか!?

 速すぎるッ!一瞬反応が遅れかけたぞ!?

 ビイガーより速くねえかこいつッ!?


「うおっ!?」

「アタァァァッ!!!!」


 間髪入れずに右を撃って来やがった!

 こいつ!?さっきからファイトスタイルがボクシングじゃねえかよ!?

 カンフーどこ行った!?


 左のショートアッパー!

 キックのがリーチは長いんだよ!

 懐には入れさえねえ!

 蹴りで顎を叩き割ってやんよ!


「チィ!」

(なんだ今の蹴り!?食らってたら顎を蹴り砕かれてたぞ!?)


「外したッ!」

(確実に当てたと思ったんだがッ!)


 バックステップで回避されたか…

 こいつ脚力やべえな…

 もしかしたら脚力は俺以上かもしれんな。


「おい…見えたか今の動き…」

「全然わかんねえ…リーの姿がブレたと思ったら、ギャレットが後ろに下がって顔面狙いの前蹴りを放ってたわ…」

「どっちもバケモンだ…」

「リー少尉…速攻を仕掛けるとか本気じゃねえか…」


 外野がなんか言ってるが、なに言ってるか聞いてる余裕はねえな…

 こいつの攻略に役立つなら内容を聞きたかったが…


「ホアタアアアア!!!どうしたジャックぅ!まだ一発も有効打を当てられてねえぞ!!!」


 そんな暇がねえんだよッ!

 いるんじゃないかと思ってはいたが…こうして見ると信じがたいよな…


「亜ッッッ!!!!」

「ぬおっ!?」


 俺と互角以上の身体能力の持ち主なんてよォ!

 だが油断し過ぎたなァ!


「テイクダウンだこの野郎ォ!一々鬱陶しい怪鳥音を口にしやがって!」

「てめえ…!被弾を無視して突っ込みやがったな!?」

「なあにがカンフーだこの野郎!せめてジークンドーとか少林寺拳法とか使えや!さっきからボクシングばっかじゃねえかよ!」


 お生憎と…俺はガキの頃から、リーチや身体能力で俺を上回ってる奴を散々ぶちのめしてきてんだよッ!

 スラムじゃ喧嘩に銃出てくんのは当たり前なんだよッ!

 鉛玉で止まんねえ奴が拳で止まるかよッ!(暴論)

 不意を突いてマウントポジション取ったら容赦はしねえぜぇぇぇ!!!(サリヴァンの言葉は忘却の彼方)


「サリヴァン大尉!止めに入りましょう!あいつら滅茶苦茶です!あれもう殺る気です!ギャレット伍長は、完全にリー少尉を殺しにかかってますって!!!」

「その必要は無いぞギルバート」

「いや、どっからどう見ても止めなきゃ不味いでしょう!?」


「リーは曲がりなりにも寝技も修めている……主に女性隊員にかけて合法的にセクハラするためにな。なあ、格闘訓練で上達するのに一番いい方法って知ってるか?」

「それは…まさか!リー少尉とギャレット伍長、双方を練磨するためにお互いを砥石に!?」

「危険ではあるがもう少し様子を見る。ギャレット伍長はリーの最高のスパーリングパートナー足り得る存在…それは逆もまた然り。なにせ、ギャレット伍長やトゥルンヴァルト伍長に初陣まで残された時間は僅か…酷ではあるが、実戦で死なないために訓練で死にそうな目に遭わせてでも鍛え上げる必要がある。また、自身の才に驕り高ぶり同じ小隊の新兵の足を引っ張りかねない者の増上慢も、事前に打ち砕いておかねばなるまいよ」


 なんか周りがうるせえなあ…

 まあ、いいや。


「このまま畳み掛けるッ!」

「こ、この俺が新兵相手に押されてんのか!?」


 おらおら!リーちゃんよぉ!

 後輩にマウントポジション取られて、タコ殴りに遭ってもガードすんのが精一杯かァ?

 …どれも手応えがねえな。

 こりゃ、打撃は上手く捌かれてるな?


「クソ!この体勢でよくもまあ!」

「へっ!見掛け倒しじゃねえか!全ッ然!お前の打撃大した事ねえよ!」

(めっちゃ痛いんだけど!?早く止めろよサリヴァン大尉!あれか!?この前ザルムホーファー中佐に、関節技かけるフリして胸を揉んだのがバレたのか!?こいつもしかして、上が俺を訓練中の事故に見せかけて殺すために送り込んだ暗殺者か!?…舐めんじゃねえ!)


 チンピラとの喧嘩や新兵未満との格闘訓練しか経験がねえのが仇になったか!?

 打撃じゃ無理なら首を極めに行くッ!?


「返されただと!?」

「形勢逆転だぜジャックゥゥゥ!!!」

「こいつ!?柔術もイケるのか!?」


 マウントポジションから返された!?

 クソ!なんとか逆転し──グエ!?

 ぎ、逆に首を極められた!?


「いいかジャック…截拳道ってのはよお…敵を倒す武術としての側面を表すのと、生きていく上で直面する障害を乗り越える方策や智恵を示したものなんだぜ?だからなぁ…截拳道=カンフーなら、截拳道=カンフー≒ボクシング≒柔術≒ショットガンは成り立つんだよッ!!!!!」

「ぐうう…それは流石に違うと思う…グエ!」


 ショットガンどっから出て来た!?


「「「「「いや、流石にショットガンはカンフーじゃねえよ!!!」」」」」


 だよね!!!

 ところでサリヴァン大尉の静止はまだっすか?

 続行?流石は“狂人部隊”ブレイカースクワッド…


「うるせえ!俺がカンフーと言ったらカンフーなんだ!おい!ジャック!ショットガンはカンフーだよなァ?はいって言わなきゃこのまま絞め落とす」

「……ぇだろ…」

「あん?」


「ショットガンがカンフーなわけねえだろッ!てめえマジに頭沸いてんのかッ!!!」

「おわぁ!?グエ!?」


 よっしゃ!振りほどいたぞ!

 ぶっ殺してやる!(危険人物)


「ハァ…ハァ…来いよォ…俺はカンフーマスター…チャック・リーだ!」

「ゼェ…ゼェ…伝説的アクションスターのパクリみてえな名前でふざけた肩書名乗りやがって…」

((やべえ…もう限界だ…立つのもキツイ…たったあの程度の攻防でこれかよ!?))


 ぶ、ぶっ殺してやる…(ガス欠)

 やべえマジでもう限界…

 テイクダウンの時にパンチもらい過ぎたわ…

 よくよく考えたら、小銃でも部位次第じゃ殺せないような猛獣を素手で仕留められる俺と、同等の身体能力から繰り出されるパンチとか銃よりやべえじゃん…(冷静)


「ゼェ…ゼェ…ウォーミングアップは終わりでいいよなァ?ゴホッ…オエッ…ジャックぅ?」

「ゲホッ!…ハァ…ハァ…ええ、ようやく体が温まってきましたよ、少尉!…ハァ…いつでも本番を始めていいですよ?…ハァ…」

((コイツマジかよ!?まだやれんのかよ!?なんとか会話で時間稼がねえとッ!))


 ウォーミングアップ!?嘘だろ!?

 なんとか時間を稼がねえとヤバい…

 なにを話せばいい!?

 き、共通の話題…ねえよ!会ったばっかだぞ!?

 そうだ!カンフー!なんとか知ってる内容で時間を稼ぐッ!


「時にジャックよ…截拳道が影響を受けた思想に、老荘思想というものがあるが…知っているか?」

(頼むッ!乗って来てくれッ!これ以上あのブレーキの壊れたアクセル全開のダンプカーとは戦えねえッ!)


「確か…超古代の哲学者老子と荘子の教えでしたね。政治・処世の術として無為自然を説き、『道』『無』による万物の生成・運動・存在を唱えていたとか…それが?」

(前世の記憶の片隅にあったけど中身は全く覚えてないんだけど!?道教なんかわっかんねえよ!)


 助けてサリヴァン大尉(泣)

 助けてグレイブス中尉(泣)

 我が女神メルツァロヴァ少尉、どうか我に道をお授けくださいッ!(狂人)

 道って老荘思想のタオの方じゃないよ?


「よし、そろそろいいだろ。もう二人とも力を使い果たしたようだしな。ギャレット伍長には酷だが、リーにはいい薬になっただろう」

「そうですね、サリヴァン大尉。二人とも、こちらをチラチラと伺いながら、小鹿のように震える足で立って喋ってますからな…これでは訓練にならない」

(ギャレット伍長…彼、時々口悪くなってなかったか?)


 よ、ようやく来てくれた!


「二人ともそこまでだ!」


 遅いわ!

 もっと早く来てくれよ!


「よくやった!新兵がリーを相手にあそこまでやれるとは…お前は大した男だ!ギャレット伍長!」


 サリヴァン大尉…もっと褒めてくれていいのよ?


「へっ!運が良かったな!ジャック!…二人が止めなきゃお前の頭は今頃潰れたトマトだぜ!」

(二人とも止めんのが遅いって!あとちょっとで俺はあいつに潰れたトマトみたいな頭にされてんだぞ!?)


 こいつ俺に何する気だったんだよ…(戦慄)

 マウントポジション取った時に意識持ってけなかったのが痛かったな…


「よくもまあ…そんな強がりが言えるものだ!ギャレット伍長より、貴様の方がキャリアが長いのに勝ちきれなかったのは、偏に貴様が普段の訓練でどれだけ手を抜いているかの証明だろうが!」

「あ、あんなのがこれ以上いるわけないんだから問題「馬鹿野郎!」ぬぅ…」

「俺だって、今まではお前みたいなのが銀河にもう一人いるとは思わなかったが…お前みたいな化け物染みた奴、それもお前と違って真面目に訓練しているようなのが敵にいたらどうするつもりだ!諦めて殺される気か?」

「ぐぬぅ…」


 あいつグレイブス中尉にめっちゃ怒られてて草

 まって…?真面目に訓練って事は…


((俺またあの化け物と…いや、それどころか格闘訓練で毎回あの化け物と組まされんのか!?))


 嘘だろ…誰か嘘だと言ってくれよ!?


「しかし、ギャレット伍長が入ってくれたのはありがたいですな」

「うむ、今まではリーを仮想敵にして生身での対強化人間を想定した訓練をやっていたからな。彼が手加減に慣れてくれれば…上手くできるようになってくれるかもしれん。それにしても、あれだけ強いんじゃギャレット伍長も養成所では手加減が大変だっただろう…」


 もう、あんなのやり合いたくねえから毎回俺を仮想敵に対強化人間訓練しません?

 取り敢えず…強化人間の真似って、白目剥きながら「大企業万歳…」って言ってりゃいいんですよね?(特別児童養護施設出身者特有の偏見)


「すげえ!あの新入りあのリーを相手に引き分けやがった!」

「とんでもねえバケモンが入って来やがったな…」

「あいつ…いつまで生き延びられると思うよ?」

「この前の新入りはリー相手に30秒粘れる猛者だったが…先週──」


 なんか周りの反響すげえな…

 リー少尉ってもしかしてこの部隊でもとんでもねえバケモンだったの?


「ジャックくーん!♡かっこよかったわよー!!!♡」

「あっ!ジャックくんこっち見てる!♡」

「キャー!!!♡カッコいい!!!」

「あの女の敵にはいい薬ね!」

「死ねぇ!リー!死ねぇ!」

「いい?ユーリア?リー少尉がちょっかいかけて来たら教えるのよ?…小隊長もリー少尉とやり合える猛者だし、誰かがグレイブス中尉やギャレット伍長を呼んできてくれるかもだから」

「は、はい…」


 女性陣からの俺に対する黄色い声がすげえな。

 なんかアイドルのおっかけみたいになってる…

 そして、リー少尉…

 あいつこの嫌われようとか何やったの?

 あれで某アクションスターを敬愛してる風なこと言うのはやめてほしいわ。


 あ、メルツァロヴァ少尉だ!

 手を振ったろ!


「「「「「キャー!!!♡」」」」」


 あ^~!承認欲求が満たされるんじゃ^~!

 メルツァロヴァ少尉は見ててくれた…あっ


「……ムスゥ」


 ハルトネン曹長忘れてた…あの娘女性陣の方じゃなくて中隊員の方にいたのね…

 で、ファンサしてくれないからオコなのね?

 ほっぺ膨らんでてかわいいね♡

 よっしゃ、笑顔で手を振ったろ。


「お、おい…あの笑顔はもしかして覚えてろって意味か!?」

「アル中でギャンブル依存症予備軍のお前にはいい薬だな」

「……♡」

「ギャレット坊や…ありゃ後で滅茶苦茶苦労する羽目になるよ…アタシには精々女に刺されて死なない事を祈るしかないね…マリアーナを泣かせたら殺す(殺意)」

「おーい!ギャレット伍長ー!さっきのすごかったよー!」


 ハルトネン曹長は満足そう…

 ヨシ!(何を見てヨシって言ったんですか?)


「……」


 め、メルツァロヴァ少尉?

 どうしちゃったんです?その…裏切られたって顔は?


「ギャレット伍長、君に一つ忠告をしておく。いや、もっと早く言うべきだったんだが…」

「は、はい…なんでしょうか?」


 サリヴァン大尉?そんなマジな顔と声でどうしちゃったんです?

 リー少尉とはやり合うなっていうならもっと早くしてほしかったです。


「うちの大隊の女性陣は、ほぼ全員訳ありか…男に対して求める理想が高すぎて婚期がギリギリになっている者ばかりだ」


 え?マジすか?

 ハルトネン曹長に粉かけたのマジで不味かった感じ?

 刺されたくらいじゃ死なない体でよかった…

 スラムの喧嘩でよく刺されてたから、刃物って実は大したことないって知ってるもんね!(化け物)


「訳ありのパターンは、大抵前の部隊で上官から愛人になるよう言われて拒んだか…最悪、無理やり行為に及ぼうとした事を揉み消すためにここへ送られた者が多い」


 これであの人数?GISDFって無茶苦茶腐敗してね?(正解)


「ま、まさか…」


 ハルトネン曹長やラッパライネン曹長も!?

 ハルトネン曹長はともかく、ラッパライネン曹長は見た目的にそんなイメージ無いんだが…(失礼)


「我が中隊のハルトネン曹長は、前の部隊で上官に無理やり迫られていたらしい。挙句の果てに、その事を揉み消そうとした上官にここへ飛ばされたそうだ」


 あ、やっぱハルトネン曹長はそうなんか…

 てか、飛ばされるって…ここ完全に流刑地扱いじゃん…

 あのクソ教官はそんな場所に主席である俺を嬉々として飛ばしやがったのか!


「ラッパライネン曹長は、ハルトネン曹長と同じ部隊にいたが…彼女に迫っていた上官をぶん殴って、軍法会議にかけられた末に降格されてここへ8年前に飛ばされて来た。凄い人だよ彼女は…」


 かっこいい(小並感)


「それにな…中隊は彼女を含め皆ハルトネン曹長の事を可愛がっているんだ…もちろん俺も含めてな」


 風向きが怪しくなってきたぞ(白目)

 俺軽はずみでとんでもねぇことやらかした?

 もしかして、リー少尉嗾けられたのってほとんど娘に近づく悪い虫を排除しようとする親心的なの?

 この部隊ヤバいって…(確信)


 待てよ?彼女の経歴考えたら、男性恐怖症とかになってもおかしくないが…

 それが、好みのタイプの異性を相手に赤面するくらいになってるとしたら…

 かなり甲斐甲斐しくケアしたのか?

 で、そんな娘に粉かけやがった屑がいると…


 殺すしかねえな(確信)


「いいか、伍長…君が彼女を本気で狙っているかはともかくとしてだ…彼女に対しては真摯な対応をしろ。いいな?さもないと彼女にセクハラしてガチ泣きされた配属初日のリーのように…あ、これ入ったばっかのギャレット伍長に言ってもわかんねえや…とにかく酷い事になるから覚悟しておけ」

「配属初日でセクハラとか真性の馬鹿かよ(了解です!彼女に対しては紳士的かつ真摯な対応を致します!)」

「本音と建前逆になってね?」


 そりゃあ、ボロクソ言われるよカンフーマスター…

 飛ばされた理由もセクハラとかなんだろうな…


 なんで俺がそんなとこにぶち込まれるんだよ(憤怒)


「で、だ…お前は初日から、一部を除いた野郎共の愚連隊ぶりをうんざりするほど見せられたわけだが…」


 え?まだあんの?

 もうお腹一杯なんですが…


「もし、お前が女で婚期に焦っているとして、あれらは対象に「なりません(即答)」だよな?で、そこに若くてイケメンで殺しても死なないタフガイが来たわけだ」


 狙われてるってこと!?

 17歳のガキを!?本気で!?

 狙ってる奴いんの!?


「…大隊の女性陣にはな、見た目は良いけど中身がモンスターな奴もいるんだ。大隊本部直掩小隊の小隊長は上官へのセクハラで飛ばされて来た…後、永遠の17歳だからお前と同い年とか言い張ってる(白目)。そして、メルツァロヴァ少尉やうちの中隊を除いた女性陣の半数近くはなぁ…婚期に焦ってる。お前めっちゃ狙われてるぞ」


 ええ…上官にセクハラ…

 婚期に…ええ…


「それで、男性陣からはドン引きされて距離を置かれてるのに…お前ファンサしちゃうんだもん…」

「そ、そんな…ちょっとキャーキャー言われたからアイドルみたいにファンサしようかなって思っただけなのに…」

「伍長…君、本当は結構アホなのか…?」


 なんで…軽はずみにした行為がここまで致命的とは知らなかった…

 なぜだ…なぜ俺の人生はいつもこうなんだ…


「ところで、ハルトネン曹長は今年で24歳なんだが…君は年上の女性って恋愛対象に入るか?」

「10歳上までならバリバリ恋愛対象です」

「そうか…それはなによりだ…」

(後で教えたら喜ぶだろうな…年齢差気になってたみたいだし…あれ?成人年齢は18歳…ギャレット伍長は17歳…これ下手したら普通にハルトネン曹長捕まらね?…手を出そうとしたら止めるか…曹長を)


 メルツァロヴァ少尉は何歳くらいなんだろ?

 同い年かちょっと上くらいだと思ったけども…

 精々20代だよな?


「まあ、なんだ…曹長への態度もあれだろ?思春期の少年らしく、美人なお姉さんとお近づきになりたかったとかそういうあれだろ?ただな?そういうのを繰り返してるとな?ちょっと大変なことになるからな?その…な?」

「了解です!女性に対して軽はずみに好意的なアクションとか取らないように致します!」

「本当に気を付けてくれよ?…マジでなにかあったらすぐに俺やギルバートの所に相談に来るんだぞ?近くにいるならヤマダ小隊でも構わん!マリヌスは…素っ気ない態度は取るが…あんなんでも面倒見は良いからヤバくなったら駆け込め。ワイト小隊は小隊長のアイヴァンは当てになる。アル中…クリーヴズは素面なら当てになる。ただし、あのギャンブル依存症には相談するな。絶対にお前が誰に入籍させられるかで賭博をやり出すぞ」


 駆け込み先教えてくれてありがとうございます!

 でも、この後の歓迎会で言えば良かったんじゃ…


 あ、駄目だ歓迎会は大隊規模でやるし…

 永遠の17歳を自称するやべえ奴来るじゃん…

 そりゃあ無理だわ…



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 Z9-171基地司令室。

 ジャックたちが新入隊員の歓迎会に参加している中、レナータとサリヴァンは同基地の司令官であるアードリアン・ゴルトベルク准将に呼び出され、司令室へやって来ていた。

 二人の前には、白髪交じりの黒髪をオールバックにした壮年男性、ゴルトベルク准将が座っている。


「君たちを呼び出したのは他でもない…我が軍の一大反攻作戦についてだ」


 それを聞いた二人の表情は硬い。

 当然だ。こうやって呼び出しを食らうと言う事は、大抵の場合上からの無茶ぶりが第3独立機動遊撃大隊に降りかかるという事を意味しているのだ。


(そろそろだとは思っていたが…これは予想以上に早い!あまりにも早過ぎるッ!未だ援軍が送られて来たばかりだと言うのに…足並みも揃わぬまま何をしようと言うのかッ!)


 サリヴァンは、未だ足並みも揃わぬまま行われるであろう反攻作戦によって、甚大な被害を受けるであろうことを考え背筋が凍るのを感じた。

 これ以上戦力を無為に失えば敗戦もあり得無くはないからだ。


(そうなれば…企業勢力の専横は更に悪化する事だろう…それに対処するためにGISDFが更に戦力を…これは不味い!地方星系、特に自前で強力な防衛組織を持たない中小の星系は、犯罪組織の跳梁跋扈を許し完全に治安が崩壊するぞ!)


 彼の脳裏には、無法地帯と化した地方星系で遊び半分にその命を弄ばれる無辜の民の姿が浮かんだ。

 その中には、彼の生まれ故郷である“アルビオン星系”の人々の姿もあった。


「…それで、一体如何なご用件で我々を呼び出したのでしょうか?」


 レナータは准将に何の用件で呼び出したか尋ねた。


(大方…我々に先鋒を務めよという命令が届いた…そんな所か?)


 尤も、彼女には凡その予想がついているようだが…

 彼女からの質問に、ゴルトベルク准将はその数多くの皺が刻まれた顔に、重々しい表情を浮かべながら答える。


「ゼータ・セクター方面軍総司令官が変更になった。前任の司令官は更迭され、新たにダニエル・ショヴァン大将が総司令官に就任した」


 “ダニエル・ショヴァン”その名前を聞いた二人の表情は更に険しいものになった。

 なぜなら、ショヴァン大将の異名は“皆殺しのショヴァン”であり、彼の指揮する戦いでは敵味方問わず大勢の兵が死ぬ上に、追いつめられた際の口癖は「かくなる上は総員玉砕」だからである。

 おまけに、彼は熱心な元老院崇拝者であり精神論者のため、下からの評判は最悪そのものだ。


 それ以外にも、元老院議員が身内にいるから大将になれた、ある大企業に有利になるよう他社とGISDFの戦力を態と削るような真似をしている、普通に頭がおかしいけど自分たちのケツを舐めてくれるから元老院は出世させた、GISDFや元老院、大企業の上層部に老け専のガチムチ好きのゲイがいてそいつらの愛人だから出世できた、あいつマジ死なねえかななどと、現場からは好き放題罵られている人物である。


(最悪一歩手前のニュースだな…最悪なのは、彼の指揮下で“断頭台”の攻略に当たることだが…こういう事が起きた時は、連鎖して最悪な事が起こるものだ…なにせ、あの手の輩は余計な事をせずにはいられんのだからな)


 レナータはその凶報を聞き、准将から伝えられるであろう更なる凶報に身構えた。


「…ショヴァン大将は全軍で“ゼータ・セクターの断頭台”へ攻め込む事を決定された」

「なッ!?」

「それは…何とも…」


 ゴルトベルク准将から伝えられた凶報…それは全軍による事実上の集団自決だった。

 “ゼータ・セクターの断頭台”とは、企業連合が総力を挙げて築き上げた難攻不落の大要塞である。

 それは、超巨大な休火山が陥没してできた、直径数百キロメートルに及ぶカルデラにあり、周囲を数千メートルの険しい外輪山が囲んでいるという天然の要害にある。

 だが、問題は地形だけではない。

 この要塞を難攻不落足らしめているのは四つの要素にある。


 一つ目は、内部から吹き上がる強烈な上昇気流。

 火山活動の名残からか、カルデラの内壁からは猛烈な上昇気流が吹き上げている。

 ヘリや航空機がカルデラ上空を飛ぼうとした瞬間、気流に巻き込まれて機体が反転、墜落してしまう。

 ただし、この上昇気流は一日に何度か二時間だけ止むタイミングが存在する。

 また、上昇気流はあくまでもカルデラの内壁付近から吹き上がる物であり、一度内部に入ってしまえば上昇気流に晒される事はない。

 事実、企業連合の輸送機などは要塞内の発着場から、上昇気流が止まった際に外部へ行き来している。


 二つ目は、外輪山にある強固な要塞線。

 この要塞線は切り立った標高の高い山々に作られている。

 仮に、地上から山を駆け登り要塞を攻略しようとすれば、劣悪な足場のせいで滑落死するか、上から狙う無数の銃口と砲口の餌食になり粉砕される運命になる。

 また、上昇気流の止むタイミングに空から要塞線を突破しようとすれば、無数の対空砲火に晒され漏れなく撃墜される事だろう。


 三つ目は、内部に常駐している企業連合の精鋭部隊。

 仮に、上の二つまでであれば何とか条件さえ噛み合えば、GISDFであれば攻略は可能だろう。

 事実、要塞線をなんとか突破するまでは可能であった。

 では、なぜ“断頭台”の攻略が叶わなかったのか?

 その理由は、内部に常駐する企業陣営の精鋭部隊の存在である。

 上昇気流と要塞線を超えた先には、タイタン・ヘヴィ・インダストリーズの“スローター”、“ヴァルハラ・サイバネティクス”の“エインヘリヤル”といった大企業のランカーを含む精鋭SAF部隊に加え、雇用されたランカーの傭兵が待ち構えていたのである。


 四つ目は、中心部に存在する宇宙港。

 これが存在する限り、“ゼータ・セクターの断頭台”内の企業連合の部隊は、常に補給や増援が得られる状態である。

 そのため、この宇宙港を無力化するには内部に侵入して直接破壊するか、宇宙から補給線を寸断するかの二択である。


 GISDFゼータ・セクター方面軍は、度重なる攻略失敗によりこの要塞を無力することを諦め、“断頭台”の外へ出ようとする企業勢力の部隊や輸送機を叩きつつ、宇宙から補給線を寸断出来ない内はこれを迂回して敵拠点を攻撃するという方針を取っていた。

 だが、総司令官が変わった事でこの要塞を攻略する事になってしまった。


「方針が変わったという事は…宇宙からの補給線の寸断に成功したという事ですか?」


 レナータは縋るような思いでゴルトベルク准将にそう尋ねた。

 だが、返答は無情であった。


「…現在、そのような報告は届いていない」


 ゴルトベルク准将は震える声でそう答えた。


「ふぅぅ……司令本部は…なにがなんでもこの“断頭台”を攻略せよと、ショヴァン大将に命じられたようだ…彼も必ず攻略すると息巻いている…その際、君たちには再先鋒として第一次攻撃部隊に参加してもらうとも…」


 それを聞いた二人は頭を抱えたくなった。

 これが目の前の准将の命令であれば、第3独立機動遊撃大隊は指揮系統の都合上無視する事も出来た。

 しかし、自分たちに直接命令を与える事が可能な、方面軍総司令官からのものには逆らう事は出来ないのである。


「作戦の詳細な内容を教えて頂いても?」


 レナータは、目の前で絶望に打ち震える上官にそう尋ねた。


「ここに…」


 ゴルトベルク准将は震える手で彼らに指令書を差し出す。

 レナータはそれを冷や汗を掻きながら受け取る。

 そして、指令書を開いて見た二人の目が驚愕で見開かれる。


「み、三日後!?」

(不味い!あまりにも不味い!ベテランたちは兎も角、未だ碌に訓練できていない新兵たちは確実に生きて帰れんぞ!?置いて行けるなら置いていきたいが…)


 サリヴァンは驚愕のあまり思わずそう口にした。

 レナータは冷や汗を掻きながら言った。


「三日後とは…急ですね…第一次攻撃部隊というと…輸送機で要塞線に接近し要塞線の一部を食い破り、後から来る第二次攻撃部隊の血路を開いた後、“断頭台”内部の精鋭との戦いに参加すると…はぁ…相変わらず滅茶苦茶ですね」


 彼女は、いつも通り不敵な顔で笑おうとしたがそれは叶わず、やや引き攣った笑みを青褪めた顔に浮かべた。


 彼女が口にしなかった部分には、追記で何でもない事のように書かれた恐ろしい文章があった。

『なお、敵精鋭にはランク10位の“百舌鳥”アルバン・ファビウスとランク5位の“ワルキューレ”ヒルデ・ブランデンブルクの姿が確認されているため十分に注意されたし』


ジャックは色んな意味で無事に生き残れるのか…


高評価とブックマークありがとうございます!

これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!

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