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【ゼータ・セクター戦役編】第二話

ジャックの経歴が明らかに!?

前世の記憶なんてものがある時点で、彼の記憶がどれだけ当てになるのかは…

 人生ってこんな筈じゃなかったって事の連続だよな。

 絶望させる前に希望をチラつかせるのはこの世で一番悪趣味な行為だと思うわ…


 俺は…名前すら覚えてねえどっかの星系のスラムに生まれ育った…

 そこは街を大きな壁が覆っていて、その外に戸籍があるかもわからねえ薄汚い連中が暮らしてるスラムがある…俺はそこにいた。

 親は物心つく頃にはいなくなっていた…

 まあ、その辺でくたばってたんだろ。


 毎日毎日いつかあの壁の中で暮らすんだって…カスみてえな夢を同い年のガキどもと毎晩語り合ってたな…

 固まってねえと、俺たちみてえな親無しのガキはぶっ殺されるか、骨の髄までしゃぶり尽くされて死んだ方がマシな目に遭うかだからな…

 それでも、朝が来る度に誰かがいなくなってた…


 スラムの連中は、毎日壁の中から来る連中にトラックにぶち込まれて奴隷未満の待遇で超低賃金で扱き使われるか、その超低賃金奴隷労働者相手に体を売るか…

 犯罪以外で生計を立てる手段はそれくらいだったよ…

 俺の顔の良さを考えたら母親は体を売って生計を立ててたのかもなぁ…

 まあ、なんにせよ生まれた時に殺さなかった事だけは感謝してるよ。


 俺は顔が良かったせいで…クソみてえな大人に何度も襲われかけたり、ケツを売らされそうになった事があった。

 だが、この体は最高だ…そいつら全員ぶちのめして身ぐるみ剥いでやれたんだからな。


 壁の中の連中は、俺たちみたいに子供の小遣いより少ない給料で働くガキを助けるどころか指差して、自分のガキに向かって“見ろ、ちゃんと勉強しないからああなるんだ”、“努力しないとあんな落伍者になる”とかほざきやがる…

 俺たちは勉強する機会をふいにした怠け者なんだとさ…ふざけんなよ。

 全く素晴らしい方々だよ!


 俺はそうやって一生糞みてえに生きるか…ギャングやマフィア、海賊なんかになるんだろうなって考えてた。

 あの時まではな…


 ある日…スラムを“浄化”するって宣う目が逝ってるお役人たちがやって来た…


「うん!小さい子供たちはみんなこっちの車に乗ろうね!大丈夫!言う事を聞くなら酷い事はしないからね!」


 抵抗した奴は動かなくなるまで殴られて放り捨てられ、抵抗してない10歳未満のガキでもタッパがある奴は嘘を吐いたって言われて、動かなくなるまで殴られて放り捨てられた。

 後ろからは大人たちの断末魔が聞こえた…従うしかない…選択の余地はなかったのさ。


 俺か?当時は精々…7歳かそこらだったが、デカかったんでアウトかと思ったんだがね…

 連中は表向き、スラムの犯罪組織から子どもを救出したって政府には通してたらしい…

 ガキの中でも見栄えのいい連中は、多少デカくても連れて行ってもらえたらしい。

 もちろん、自分たちに都合の良いセリフをベラベラ喋らせるためだ。

 顔が良いってのは得だね。


 後で知った事だが…あいつらはスラムを焼き払い、10歳未満のガキを除いて住民全員火炎放射器で焼き殺したんだと…

 普通はスラムの外の“まとも”な住民たちが暮らす街も火事でやべえ所だが…

 街を囲ってる壁が耐火なおかげさんで“善良な市民”が危険に晒される事はなかったそうだ。


 それが明るみに出た理由?

 ああ、あの星系が政権交代した際に、現職の元老院議員が前の元老院議員の悪事って事でばら撒いたんだよ。

 ついでに、自分のやらかしもそいつに押し付けたらしい。

 真偽のほど?さあ?

 元議員は両手を縛られた状態で拳銃自殺したんだとよ…怖いねえ。


 その後、俺たちは政府の養護施設…“特別児童養護施設”に放り込まれた。

 だが、そこはまともな家庭で育った人間が考えるような、なまっちょろい場所なんかじゃなかった…

 常時愛国心の育成と称して元老院を崇拝させ、政府にその身と魂を捧げる事を唯一絶対の美徳とし、年端もいかないガキに過酷な軍事訓練を強いる少年兵育成機関だった。

 訓練について行けない落伍者は…どっかに連れて行かれて二度と帰って来なかった。


 GISDFが、兵隊を平気で使い捨てられるのは、こういう施設上がりの使い捨ての兵士が銀河には大勢いるからなんだろうな。

 そいつらは感情を持つことを許されず、地獄みてえな戦場でやっと芽生えた感情は死への恐怖と絶望。

 なんとも救いのない話だ…


 使ってたらいずれ孤児のストックも無くなる?

 そうなったらいよいよクローンでも作るんだろうな…

 技術的にはできるけど、倫理的に認められてないそうだが…倫理感の無い連中だから、そんな紙みたいに薄っぺらい建前は簡単に捨てちまうだろうよ。

 そんで、自分たち上流階級や従順な中流階級以外は、クローンで十分だからって理由で廃棄処分かねえ?


「私ね!将来はジャックのお嫁さんになる!」


 あー…そういう事言ってた奴もいたな…こいつは四六時中俺にベタベタしてきたんだったな…確か……そう、ミラベル。

 そんな名前だった気がする。

 俺って超絶イケメンだから、施設にいた頃からモテモテで凄くモテモテでめっちゃモテモテで超モテモテだった…


 ほんとだよ?


 尤も、そういう感情は持つことを禁止されている…

 なのにそんな事をほざいたんだ…

 当然と言うべきか…俺の顔の良さに嫉妬したか…或いはその娘を排除したいのか…

 誰かがそいつの事を密告した。


 ミラベルは連行されて罰を受けることになった。

 俺も罰を受ける羽目になった…

 なんでって?俺が彼女を誘惑したって垂れ込みがあったからだ。

 もちろん、そんなんするわけねえよ…

 どうやら…俺を嵌めたい奴がいたらしい…


 だが、俺はちょっと殴る蹴るされた後、独房の中で反省文を書かされるだけで済んだ。

 一緒にスラムから連れてこられた仲間や、俺の顔ファンが必死に擁護してくれたおかげらしい…

 つまり、超絶イケメンでモテモテなせいで危機を招き、超絶イケメンでモテモテなおかげで命拾いしたって事だ!

 やはり…美男子は数奇な運命を辿るのだな!


 でも、俺が戻ったとき…ミラベルはどこにもいなかった。

 職員に尋ねたが…無駄だった。


「ミラベル?そんな子は“元々”いないよ!…次にその名前を出したら今度こそ“懲罰”を受けてもらうからね?」


 彼女の身に何が起きたかは知らんが…碌な死に方はできてないだろうな…

 可哀想に…俺がイケメン過ぎたせいで…

 この世界では…美しいと言うだけで罪になるのかッ!


「ジャックさん…あなたは私たちを“絶対”に“何があっても”裏切りませんよね?」


 そう言ってきたのは、ミラベルの妹の…あー…そう、クロエだっけ?

 クロエにそう言われて、よくわからんけど適当にうんうん頷いてたんだったな。

 それで満足してたし問題ないでしょ!

 なんか言ってた気がするけど…まあ、いいか!


 銀河は広いし二度と会う事もないだろうから問題ねえ!


 ないよね?(震え声)


 その後、俺たちは15になって施設を放り出されて軍にぶち込まれた。

 一応、GISDFは13歳から入隊できるが、その場合三年間の訓練を経て各部隊に配置される。

 つまり、訓練が完了するのは16歳になってからだ。

 でも、俺たちは既に施設によって訓練が完了した状態で、一山いくらの使い捨ての雑兵として送り出される。


 俺もそうなるはずだった…

 だが、俺は得たんだ…這い上がるためのチャンスを!

 持ってたんだよ!特別な素養ってやつを!


 量子脳波感応係数(Quantum Brainwave Resonance Coefficient)…通称、QBRC。

 俺にはこいつが平均以上あった!

 そして、この強靭な肉体と銃弾すら見切れる動体視力は、この俺に…パイロットとしての天賦の才を授けてくれた!

 そのおかげで…俺は本来一山いくらの雑兵として使い潰されるところ、こうして下士官養成所に入れて貰えたってわけだ!


 勉強は…まあ、施設ではトップだったおかげで二番手だが…一応飛び級はできた。

 下士官養成所から、士官学校へ進学する条件である優等の成績ってのは満たせていた筈だ。

 士官だった経歴があれば、どこへ行ったって悪い顔はされない!俺の人生これから!


 そう思ってたんだがな…


「おお!ギャレット候補生!そうか!そうかッ!君は“特別児童養護施設”の出身か!素晴らしい!その向上心に愛国心!そして元老院に対する忠誠!素晴らしい!実に素晴らしいぞッ!!!」


 最悪な相手に目をつけられた。


 指導教官は、俺が必死こいて勉強して飛び級したのは、早く最前線に行きたいからだと勝手に解釈しやがった。

 あの教官は…スラムを焼き払った役人や施設の職員共と同じ目をしていた…

 他人の行く末を勝手に捻じ曲げ、地獄への直行便に乗せて“より良くしてやった!お礼は要らないぞ!”などと宣う者の目だった。


 絶望させる前に希望をチラつかせるのはこの世で一番悪趣味な行為だ…

 ここまで来て…俺が俺の手で切り開く人生は…再び誰かに好き放題玩具のように弄ばれるものに逆戻りしちまったのさ…


 その後、俺は“スーパーソルジャー課程”への半強制的な編入を余儀なくされた。

 この“スーパーソルジャー課程”ってのは、“スーパーソルジャー育成計画”に基づき何でもできるワンマンアーミーを育てようって代物らしい…

 考えた奴は頭がおかしいわ。


「おい!ジャック!焼肉喰いたくなったから喰いに行くぞ!お前も来い!先輩命令だぞ!」

「悪いねジャック君…サンヨンが、空挺の課程修了したら焼肉行くってずっと言ってて聞かないからさ…」

「お代は俺ら持ちだ!お前も来い!」


 だが、失うだけが人生じゃなかったってわけだ。

 俺には二人先輩ができた。

 SAFパイロット志望のサンヨン・パク候補生と空挺部隊志望のケン・タナカ候補生だ。

 なんとも珍しい事に、彼らの代の“スーパーソルジャー課程”の候補生は二人もいた。


「おい!ジャック!奢ってやるからスンドゥブ食い行くぞ!」

「おい!ジャック!博物館で働いてる叔父さんからチケット貰ったしみんなで行くぞ!え?何の展示か?あー…古代地球文明21~22世紀東アジア展…?まあ、行けばわかるだろ!」


 サンヨン先輩はやや強引な人だったが…色々な物を食わせてくれたし、色んな所へ連れてってくれたよ…

 不機嫌な時に話しかけたらスペーステコンドーの餌食になるが…


「ジャック君知っていますか?黒薔薇の花言葉は『永遠の愛』、『あくまであなたは私の者』、『憎しみ・恨み』…この私が贈られたのはどの意味のなんでしょうか?あ、これ実家から送られてきた宇宙餡蜜ブルーハワイ味です。よかったらどうぞ」

「超古代の地球のギリシアの哲学者ディオゲネス…彼は貨幣改鋳の容疑で追われた、ぶっちゃけ頭おかしいし偏屈なジジイですが、あそこまで自分を貫き通せるのは素晴らしい事だと思います…あ、実家から送られてきたゲーミング苺大福食べます?」


 ケン先輩は、人生においてあんまり役に立たなそうな知識と実家の和菓子屋?から送られてきた妙な和菓子?(カレーやすき焼きみたいな味で美味しかった)をくれたりした…

 ちょっと変な人だった…


 二人とも変な人たちだけどいい先輩だったと思う。

 彼らが任官してからは一度も連絡が取れていないが…

 無事でいてほしいもんだな…


 二人の卒業の日…あの日俺の人生は大きく変わった。

 俺は、先輩二人やその繋がりで仲良くなった他の先輩たちの祝いの席を、同期の皆と設けた。因みに発起人は同期のアダム。

 アダムいなかったら俺はボッチだったかもな…サンキュー!アダム!


「おい!ジャック!俺らがいなくなって寂しいよな~?」

「滅茶苦茶寂しいです…留年できません?」

「できるわけねえだろ馬鹿!」

「「「「はははははははは!!!!」」」」


「不肖、ジャック・ギャレット!!!オソーシキ・マッハカクテル一気飲み行っきま~す!!!」

「「「「「「一気!一気!一気!一気!一気!」」」」」」


 俺はオソーシキ・マッハカクテルという、アルコール度数96%の酒にクソ程健康に悪そうなエナジードリンクを入れた後、塩をぶち込むという意味わかんねえ危険物を特大ジョッキで何十杯も一気飲みした。

 俺じゃなきゃ死んでるねぇ…


 倫理感や道徳が、前世の世界ほど無くなったせいで体育会系のノリは悪化していた。

 そのせいで昭和でもやらないような危険行為まで行ってしまうようになっていた…

 まあ、スラム生まれだからその辺期待されてもねえ…?


 その後、俺は寮に戻ると大声で歌いながらシャワーを浴び、タップダンスしながら歯を磨いて水を大量にがぶ飲みすると、全裸でベッドに飛び込んで大いびきかいて寝たらしい。

 全く記憶にない…


 そして…そのショックで俺は前世の記憶を取り戻した!


 俺の前世は、新卒切符をブラック企業で無駄にした二流私大卒の社畜だったのだ!

 今まで下士官養成所で過ごす日常内で、常に脳裏にチラついていたスラムでの暮らしが日本人だった頃の記憶に押し流されたが…

 まあ、こっちのがよっぽどいい思い出だしいいや♡


 その記憶が確かだと…21世紀の時点で、この世界と前世の世界はかなり歴史が違っていた…上が都合悪い歴史を書き換えたとかじゃなきゃね?

 それでも、数学やらなにやらの知識は結構役に立った。


 けど…中でも意外なものが役に立った。


「おい、ジャック!さっきのどうやったんだ!?どうやってあんなエースみたいな動きできるようになったんだ!」

「やってる事は至ってシンプルだ。狙いがつけづらいよう、左右にブースター吹かして小刻みに揺れて、相手の狙いから外れてたんだよ。その後、近づいたらブースター使って頭上取って滅多撃ち」


 前世のアニメやゲームの知識だ!

 ゲームやアニメなんかに出てきたロボットの動きを再現できないか試してみたところ、そのいくつかは理論上可能で実際に修得できた!

 発想力の差を補えるのは本当に助かるよ。


 だが…それで調子に乗ったのが不味かった…


「喜びたまえ、最前線だぞ」


 糞カルト教官がそれを見逃す筈がねえ…

 迂闊だった…!本気で迂闊だった…!

 マジであの時調子に乗らなきゃこうは…いや、もう目をつけられてたし…

 俺は詰んでたのか…?


「君の演習で何度も見せた、トップガン顔負けの機動と明らかに実戦を意識していた立ち回り、あれを視察に来ていた大隊長が見ていたのだ」


 とにかく、俺は第3独立機動遊撃大隊行きが決まる…


 士官学校の試験はどうなったのかって?

 俺の意向と軍の意向…人権の無い世界で優先されるのはどちらだ?


 翌日俺は輸送艦に押し込まれ、劣悪な環境で寝泊まり…

 ゼータ・セクターに着いたと思ったら輸送機でジャングルへ移動…

 それでやっと窮屈な環境から逃れられたと思ったら…


『ふざけんな馬鹿野郎!機首を上げるな!』

『高度2000フィート!?』

『嘘だろ、どうなってんだ!?』


 輸送機墜ちやがった!

 なんでこうなるんだよ!

 無能ともいえる操縦士共め!


 …気が付くと俺は血肉の海で転がっていた。

 他の人間が偶然クッションになったとかで生き延びたのか?

 わっかんねえや。


「お゛え゛え゛!!!」


 うえ…思い出しただけで吐きそうになるな…

 最初は、錯乱して文字通り地獄にいると思ってたし、暗闇に目が慣れてないから平気だったが…

 人間の死体の山だってわかったら吐き気が止まらなくなったよ…


 あんなひでえもんはスラムでも見た事なかった。

 ひでえ死に方した仏さんなら何度か見た事はあったが…

 そん時だって吐きそうになったのに…こんな壁も天井も血肉塗れな地獄絵図には耐えられる訳がねえ…


 あと、日本人のメンタルでスラムの孤児がちょっと上書きされてるのもあると思うわ…

 歩兵は毎回こんなの見るのか?

 パイロットでよかったよ…本当に……


「帰りたいよぉ…ゔ゛っ゛!お゛げ゛え゛え゛え゛え゛」


 数分…あるいはそれ以上…俺は腹の中のもん全部吐いて、腹ん中空っぽになったら胃酸も吐いた。

 日本に帰りたい…本気でそう思ったよ。


「あ゛ぁ゛ぁ゛…クッソ…はあ…おえっ……ど、どの道戦場で目にするんだ…遅かれ早かれだろうよ…おえっ…」


 ま、ずっとこんなとこに蹲って泣いてるわけにもいかないし…

 人の声も聞こえて来たんで動く事にしたんだったな…


「数は一人…なら…やれる!」


 錯乱してた俺は、人の声を敵かもしれないと思い、殺る気満々で歪んだ扉をこじ開けた…

 今思えば…銃持ってなくて良かったよ…

 彼女を出会い頭に撃たずに済んだ。


「いやああああ!!!!」

「うわああああ…あ?」


 懐中電灯を向けながら、彼女は…メルツァロヴァ少尉は俺に驚いていた。

 当然だな…なんせ血塗れの男が目の前に突然現れたんだ。

 …あんな時間にあんなとこで銃持って何してたんだ?


 必要なもんは揃ってるんだから、わざわざ夜中に墜落機の元へ行く必要もない筈…

 そういや、銃は機内で喧嘩になってぶっ放しやがった馬鹿が大昔にいたせいで、兵員室には持ち込めないから貨物室に預けてるんだったな…

 …彼女はなにをしようとしていた?


 考えすぎか…

 物資確保した時に野生動物対策で持ってきてたんだろ。


「輸送機で隣に座ってた人ですよね!無事だったんですね!よかったぁ…」

「え?あ、ああ!隣の席の方でしたか!暗くてよくわかりませんでした」


「あ、それならもう私があっちで火を起こしてるます!一応、使えそうな物は持って行ったので…食料や水も日が落ちる前に確保してあります!」

「本当ですか!?助かります!」


 美人で有能で性格が良い…

 すき


「えっと…どこか痛むところとかありますか?」

「いえ、特には…」


「だ、大丈夫ですか!?どこか痛いとか!?」

「いえ、大丈夫です…ただ、ちょっと…機内の地獄絵図が頭に…」


「大丈夫…大丈夫だから…」

「あ゛り゛が゛ど゛ゔ゛ご゛ざ゛い゛ま゛ず゛」


 手当てしようとしてくれた上に、吐きそうになってる俺の背中をさすって優しく声を掛けてくれる…

 まさに女神(確信)

 あと、見た目がめっちゃ好みのタイプや…


 糞みたいな俺の人生…こういう無償の善意がスーッと効く…

 俺はこの人のためなら死ねるね!美人で優しいから!


 パッと見プレイボーイに見えて俺って結構一途なんだぜ?

 一度決めたなら貫き通さなきゃ漢が廃るってもんよ!

 トップランカーが相手だろうが、地平線を埋め尽くす敵軍だろうが…

 彼女のためなら粉砕してやるぜ!


「そうだ…自己紹介が遅れ、申し訳ございません。私は第3独立機動遊撃大隊着任予定のジャック・ギャレット伍長と申します。よろしくお願い申し上げます、少尉殿!」

「…グスッ…すみません…久しぶりにちゃんとした自己紹介をされて…ズビッ」


 まず粉砕するのは彼女に酷い事した奴らね(殺意)

 惨たらしく殺す(決意)


「私はユーリア・メルツァロヴァ少尉です!ギャレット伍長と同じ第3独立機動遊撃大隊着任予定よ!よろしくね!」

「よろしくお願いいたします!メルツァロヴァ少尉!」


 新任の少尉…きっと俺は彼女の小隊の隊員として呼ばれたんだろうな!

 俺は…クソったれの政府や保身しか頭にない上層部のためじゃなく!

 彼女のために戦うッ!

 そして──



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「己の運命をこの手に取り戻す…うぇ?」


 ここどこ?ジャングル…?

 あ、そっか…昨日輸送機が落っこちたんだわ。

 見飽きた輸送船の雑魚寝してた部屋の天井じゃねえから混乱したわ…


 はー…おかしな夢だったな…

 まるで自分の人生の総集編だったわ。

 日本人の頃の記憶の総集編な時もあるから、時々自認がジャックと○○〇で滅茶苦茶混乱するんだよね…


「さて、救助はいつ来るやら…」


 基地はそう遠くない筈だし…すぐに来てくれるか?

 いや、来てくれるならもう当日の内に来そうなもんだが…


「えーと…確か昨日はメルツァロヴァ少尉と交代で火の番しながら寝たんだよね…ありゃ?日が昇りかけてる…」

「あ、ギャレット伍長!おはよう!もう少し寝てていいのよ?」


 あ、よかった。

 女神は無事であらせられる。

 火の番交代するか…いや、もう日が昇るから火の番はいいのか?


「いえ、そう言う訳にもいきませんよ。…そろそろ日が昇ります。自分が薪をs「だめ」はい」


 えー?駄目なの?

 俺こう見えて、ジャングルや雪山、無人島色んなとこで一定期間単独で生き延びた後、自力で脱出する訓練を受けてるから大丈夫っすよ?


「こういう時に単独行動は危険よ!」

「少尉、お言葉ですが…荷物の番がいなければ野生動物に食料などを荒らされかねません。二人以上いるのであれば、片方は荷物の番として残るべきです」

「うぅ…でも……その…伍長になにかあったら…」


 我が女神は過保護であらせられる。

 大丈夫ですよ!俺はありとあらゆる過酷な環境で生き延びられるスーパーソルジャーなんで。

 野生化した品種改良されて全長5mの大熊を素手で殺した事もありますし。


 あんときは流石にちょっと死を覚悟したね。


「ご安心ください!私はグリズリーを素手で仕留められます!それに、スーパーソルジャー課程により、ありとあらゆる劣悪な環境で生き延びる方法を心得ていますので!」


 不本意だけどね…

 まさかこうして役に立つとは…

 ケッ!あの腐れ教官のほほを引き攣らせるような嫌な笑みが、脳裏に浮かんで甚だ不愉快だ!


「うぅ…」


 若干涙目?

 もしかして…寂しいのかな?一人でいるのが怖いのかな?

 俺と別れるのが辛いってんなら嬉しいね!


 これが演技だったら…俺は間違いなく女性不信になるね。


「…大丈夫です!すぐに戻りますので!では…こうしましょう、私は一定の間隔で木肌にナイフで傷をつけ目印にします。30分以内に戻らなかったら…探しに来て頂けますか?ただ、入れ違いになる可能性があるので、15分ほど探して見つからなければ一度ここへ戻ってください」

「わ、わかった…けど、無事に戻って来てね!?お願いだから!」

「了解!では、行って参ります!」


 うーん…女神はやけに過保護だな…

 同じ部隊で俺のがちょっと年下で 超 絶 イ ケ メ ン だからってだけじゃないよな?

 前にこんなシチュエーションで親しい人を失ったのがトラウマとか?


 あ、そうだ!墜落機の方に発煙筒とかがあったら拾いたいな!

 それがあれば救助を待つためだけに薪を使わんで済む!

 薪拾い終わったら少尉に聞いて行って来よ~♪


「……今度こそ…独りにはならないよね…?」


 うん?誰かなんか言った?

 動物か?山の中でおーいって男の声が聞こえたら熊ってのは有名だよな…

 …少尉以外には小動物の気配しかないから大丈夫か?

 じゃあ、少尉の独り言?

 …心配だしすぐに戻ろう。


 俺への愚痴じゃありませんように!(必死)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺は一定の間隔で木にナイフで傷をつける。

 女神が俺をお迎えに来てくれるようにだ!

 もちろん!俺より身長低い彼女にも見えやすい高さに傷をつける配慮もしてるぞ!


「やれやれ…ジャングルとは……木の一本も生えていない雪山の山頂や、マジでなんもない砂漠のど真ん中に置き去りにされて、一週間生き延びた後自力で近隣の基地まで戻れって言われたときよりはマシだな…」


 マジ“スーパーソルジャー課程”頭おかしいわ…

 あれ絶対毎年死人出てるよ…

 つーか、俺の代でも何人か行方不明になってたし…


 単独でサバイバルさせるためとか言って、候補生全員ナイフ一本だけ持たせてばらばらの位置に配置するの鬼畜過ぎる…

 他の候補生に出会えた時、思わずお互いに抱き合って泣きそうになったわ…

 なんで泣かないのかって?水分を浪費しろと?


「ふーむ、立ち枯れてる木は無いものか…」


 ジャングルでは、地面に落ちている木や葉はほぼ湿って使い物にならん…

 だから、立ったまま枯れている木を見つけられたら、乾かしたり湿ってる部分を削り取ったりしなくていいから最高なんだよなあ…


「ここは…竹が生えてるのか…こいつを使うのは出来れば避けたいが…」


 竹は中が空洞で乾燥しやすく、油分を含んでいるから湿っていてもよく燃える。

 だが、そのまま火にくべると…中の空気が膨張して「パンッ!」と破裂して、火の粉が飛び散るんだよなぁ…

 女神のご尊顔に火の粉が降り注いだら腹を切って詫びるしかねえ…


「縦に割るか、節に穴を開けてから火に入れればそんなでもないんだが…ちょっと面倒くさいよね…お、枯れ枝!」


 木の下の方にある日光が当たらずに枯れてカサカサになった細い枝を発見!

 これはねえ、もうへし折って持って帰りますよ!


『ガラガラガラガラガラ……』

「あ?」


 後ろからまるで地響きみてえな異音が聞こえる…

 鳥たちが一斉に飛び立ち、今までジャングルの中で聞こえたよくわからん鳥や虫、その他の生物の鳴き声が止む。

 ふむ、心当たりがある…


 ゼータ・セクター第三惑星の赤道直下には凶悪な肉食獣がいる。

 学術名“Ursopanthera vorax”…食肉目外星熊科に分類される猛獣。

 そいつは虎と熊のハーフって見た目から“ビイガー”なんて呼ばれてる。

 ベアとタイガー…まんまだね。


「察するに…お前の縄張りに輸送機は墜落しちまったのか?」


 後ろを振り向くと奴がいた。


 ヒグマみてえに分厚い肉とそれを覆う虎斑模様分厚い毛皮…

 部位や距離によっては小銃で撃たれてもびくともしないらしい。

 熊と虎の良いとこ取りみてえなフィジカルで、恐ろしく鼻が利いておまけに偏執的…

 落ちてる死肉も食うから、こいつはもしかしたら墜落事故の犠牲者を食いに向かってたのかねえ?


『フシュゥゥゥゥゥ…ゴフッ!』

「…俺を食うつもりか?熊畜生風情が?虎畜生風情が?ハハッ…笑わせんなよ」


 アルテミスとか…ディアナとか…狩猟の女神っているよね?

 メルツァロヴァ少尉は狩猟の女神だったんかね?

 こんな大物が現れてくれるなんて…幸先良いぜぇ!


 こいつを狩って持って行ったら…少尉は褒めてくれるかなぁ?

 なにせ、こんなのが夜中に突然襲ってきたかもしれないんだからさ!


『グラアアァァッ!!!』


 奴が熊よろしく二本足で立ち上がり威嚇する。

 俺を単なる獲物ではなく自身を脅かし得る外敵と見做したようだ。


 馬鹿め!その格好じゃボディががら空きだろうがァ!!!


「少尉のためだ……てめえを狩ってやるよォ!」


 開幕の号砲代わりに…強烈なボディブローをお見舞いするッ!!!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ジャックたちの野営地。

 そこで、ユーリアはジャックの帰りを待ちつつ荷物番をしていた。


「どうしよう…ギャレット伍長朝食すら食べずに行っちゃった…さ、30分だし…大丈夫よね?……途中で倒れちゃってたらどうしよう!」


 彼女はジャックの心配をしながら、食料などの荷物の周りを銃を抱えながら回り続けている。

 ジャックの事が余程心配なようだ。

 すると、突然ジャックが向かって行った方角から一斉に鳥が飛び立った。


「え?なに今の…一斉に飛び立ってたけど…いくらなんでも多すぎない?…何が起きたの?」


 ユーリアは、あまりにも飛び立った鳥の数が多い事に困惑する。

 しかし、次の瞬間彼女の疑問は解ける事になる。


『…グラアアァァ』


 それは遠くから聞こえて来た“ビイガー”の咆哮だった。

 現在、“ビイガー”は突如縄張りに現れた強大な敵と死闘を繰り広げている。


 しかし、ユーリアはそんな事知る由もない。

 彼女は、獰猛そうな獣の雄叫びの聞こえて来た方向が、ジャックのいるであろう方向と理解して顔面蒼白になっていた。


「今のは!?野生動物の鳴き声!?しかも…聞こえた方角はギャレット伍長が向かった方!?ギャレット伍長って銃は持ってた?…もし、持ってなかったら……」


 彼女の脳裏に、数分前まで一緒にいた今度こそ守ると誓った年下の部下(だったらいいな)が、凶悪で獰猛な肉食獣に襲われ為す術なく食い殺される姿が浮かび上がる。


(どうしよう…!彼、銃を持ってなかった気がする…)

「今すぐ行かなきゃ…!」


 彼女はジャックのもとへ駆け出そうとした。

 その時、空の向こうからヘリコプターのローター音が聞こえて来た。


「ヘリ!?まさか企業連合の…!?」


 彼女は、仮に企業連合の武装ヘリに見つかれば命が無いため、近くの木々に身を隠して慎重に音の出どころを探る。

 すると、彼らの野営地の周りをGISDFのエンブレムがついたヘリが旋回しているのが見えた。


「よ、よかったぁ…GISDFの捜索隊だったのね…」


 彼女は慌てて姿を現し、ヘリに向かって手をぶんぶんと振る。


「おーい!!!ここよー!!!生存者いるわよー!!!」


 彼女の姿を視認するとヘリは近づいていった。


『おいおい…マジかよ…機体はあんなに損壊してたのに…生存者が…しかも、ピンピンしてるじゃねえか…』

『まさか…あんな状況で生きてたとは…降下しますか?』

『ああ、他にも生存者がいるかもしれねえ…ったく、上の連中はなに考えてんのかねぇ…“使い捨ての囮はいくら死んでも構わんから救出する必要ない”とか言っておいて、ブレイカースクワッド行きの“お客様”が乗ってたって知ったら血相変えて“探せ!何としても見つけ出すんだ!”とかほざきやがる…』


 ユーリアの大事故の生存者とは思えない、あまりにも元気そうな姿を見てヘリの搭乗員たちは驚いた。

 そして、行くなといったり行けと言ったり、指示がコロコロ変わる上官への愚痴をうんざりとした顔で口にした。


 そう、ジャックたちの救助に来るのが遅かったのは、そもそも救助が来る予定ではなかったからだ。

 GISDFは、基本的に本命の部隊の囮である輸送機が撃墜されても一切関知しないが、今回は書類ミスでユーリアが囮部隊にいた事が発覚し、更に彼女の件で他にミスが無いか必死に調べたZ1-53基地首脳部は、前日に無理やり捻じ込まれたジャックの存在を認知してしまった。


 片やエースパイロットで、片や下士官養成所主席の“スーパーソルジャー課程”修了者の二人。

 どちらも明らかに囮部隊に入れられるような人間ではない。

 案の定、二人が配属される予定だったのは精鋭部隊である第3独立機動遊撃大隊…ブレイカースクワッドであった。


 そのため、死んでいるのであればそれで良し生きているのであれば救助した後、適当に丸め込むという考えで救助ヘリを寄越したのだった。


「大丈夫ですか?助けに来ました!」


 降下してきた救助隊員が彼女に向かってそう言った。

 そんな救助隊員に、ユーリアはジャックの事を伝えた。


「あの!もう一人生存者がいるんです!彼はジャック・ギャレット伍長!今は焚火の薪を集めにあっちの方へ!」


 彼女が指差した方向を見て救助隊員はギョッとした。

 そこは、“ビイガー”が良く出没すると言われている地帯と同じ方角だったからだ。


「わ、別れてから何分ほどですか?」

「数分くらいだと思います」

「数分ですか…良かった…」


 救助隊員はユーリアの返答を聞いて胸を撫で下ろした。

 数分程度では、“ビイガー”の多発地帯には辿り着かないだろうと考えたからだ。

 しかし、実際には既に“ビイガー”はその生息区域を変えており、ここはある個体の縄張りの範囲内であった。


「だったらもう一人の方もまだ大丈夫でしょう。先にヘリに──」


「先にヘリに乗ってください」そう言い終わる前に、なにか大きな…そう、例えるならヒグマのような大型の肉食獣が、ヘリの方向を目掛けてが草木を掻き分けて向かって来ているかのような物音が聞こえた。


「ま、不味い!ビイガーだ!」

「び、ビイガー!?」

「はい!今すぐヘリに「メルツァロヴァ少尉~!」え?」


 救助隊員は“ビイガー”の襲撃かと思い、急いでユーリアと共にヘリに戻ろうとしたが、次の瞬間人間の男の声が聞こえた。

 しかも、それはユーリアを呼んでいた。


「あ、ギャレット伍長!救助のヘリが来たわ!急いで!でも、転ばないように気を付けて!」

「了解!迅速かつ安全にそちらに向かいます!」

「に、人間か…いや、でもさっきの音は…ッ!?」


 救助隊員が目にした信じがたい物。


「いやあ、まさか自分が少尉と別れて行動してる最中に救助が来るとは!」


 それは、血で全身赤黒く染まった軍服に身を包んだ美青年…それが、片手で体重数百㎏はある猛獣“ビイガー”を引きずっているという光景だ。


「は?え?あ、あれビイガー…え?」


 救助隊員は困惑した。

 それも無理はない…誰だって大型の肉食獣を仕留め、片手で引きずっている人間がいれば驚くに決まっているのだ。


「救助ありがとうございます!ジャック・ギャレット伍長であります!」

「え?あ…ご、ご無事で何よりです…」

(マジかよこいつら…二人とも五体満足どころか無傷じゃねえか…)


 あまりにも規格外に過ぎる存在、ジャック・ギャレット。

 それを初めて見た救助隊員は大いに吃驚した。


「と、取り敢えずヘリに…」


 その後、二人はZ1-53基地までヘリで送り届けられ、基地内で精密検査を行った結果異常なしと判断され、第3独立機動遊撃大隊の駐屯するZ9-171基地へ送られていった。

 軍医曰く「し、信じられん…あんな大事故を無傷で生き延びるとは…特に、ギャレット伍長!彼はもう滅茶苦茶だ!なぜ大型の肉食獣を素手で殺せるんだ!?」とのことである。


 悲惨な墜落事故を当然の様に生き延びたジャック。

 しかし、第3独立機動遊撃大隊に着任した彼に対し、待ち受けていたのは更なる悲劇に他ならなかった。


果たして…ジャックはメルツァロヴァ少尉を守り切れるのだろうか…


高評価とブックマークありがとうございます!

これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!

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虎と熊のいいとこ取りをステゴロで◯るなんて、化け物越えてるのよ
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