第四十話
これでこの章は完結になります。
中央星系、惑星キャピタル。
スコルピオーネ運輸、社長室。
「クソがァ!アルバンの野郎!なにが銀河最強の殺し屋だッ!糞田舎の三流軍隊を蹴散らせねえどころか時間を稼がれた挙句、あの赤いクソったれに返り討ちに遭いやがってッ!!!」
セバスティアーニは、デスクの上の物を薙ぎ払い、大声で喚き散らしながら怒り狂っていた。
床には今回の顛末の書かれた報告書などが散らばっている。
「タイタン・ヘヴィ・インダストリーズも使えねえ…あの程度の戦力で攻め込むとは馬鹿な奴らめ!攻める側が防衛側と同数の戦力でどうする…ユリウスが活躍したおかげでルキウスの野郎は更に勢いづいてやがる…面倒ばかりだッ!」
彼は怒りのままにデスクへ拳を振り下ろし、そう吐き捨てた。
そして、溜息を吐いて自身の椅子へ腰を落とし、これからの事を考え始める。
「ルキウスの派閥は今や俺の派閥の勢いを上回りつつある…おまけに、今回アルバンの野郎が返り討ちに遭いやがった…!ギャレットの野郎がトップランカーになるのは確実…トップランカーをアステリア側に引き込んで見せたって事で、ルキウスは更に声望を集めるだろう…この流れは不味い」
彼の脳裏には、副社長の地位に就いたルキウスによって徐々に追いやられ、最期は権力闘争の敗者として惨めな末路を迎える自身の姿があった。
(なんとしても…なんとしても奴に勝たなきゃなんねぇ!この俺がここでお終わっていい筈がねぇ!まだ…まだ勝負はついてねえ!)
「奴が消えれば…奴さえ消えれば振り出しに…いや、俺のリーチに盤面は戻る!デリックはあの大失態のせいで失脚したも同然!他に奴の派閥を飲み込めるような奴は排除した!ルキウスさえ死ねば俺の天下だッ!」
セバスティアーニはルキウスを除くための謀略を再び練り始めた。
「奴自身のガードは固いだろう…それに、ユリウス坊やはレギュレーターズでの影響力を増しつつある。そうでなくとも、アトラス派はレギュレーターズ内で増えつつある…チッ!ギャレットめぇ…奴が出てきてからだ…あのクソったれのせいで俺の謀略がここぞという所で裏目に出やがるッ!」
彼の脳裏に、アルビオン星系への侵攻に始まり、ジャックの暗殺やアンジェラの拉致、ジャックに関する情報の横流しなど、ジャックによって台無しにされた数々の謀略が浮かび上がる。
「最初の侵攻で、チャズにユリウスの背中を刺すように命じたが…ユリウスはそれを警戒していたのか、奴をラモントのお守りにつけて自分から引きはなしてやがった…それまでならなんとかなった!艦の中でなら簡単に始末できるし、ランカーが二人いる星系ならもしもの事があっても不思議じゃねえからなァ…だが、ギャレット!あいつがユリウスを生け捕りにしやがったッ!あれで、アステリア側の人間が技術流出を恐れるあまりに、再侵攻に及び腰になるようになっちまったッ!」
まず、最初に台無しにされたのはアステリアによるアルビオン星系への侵攻。
自派閥の人間であったチャズにより、ユリウスを始末してアルビオン側に罪を着せる事を画策するも失敗。
それどころか、ジャックによりユリウスが生け捕りにされ、アステリア上層部や他の企業との交渉材料に使われる始末であった。
「そんで…あいつの赴任先を特定して、生物兵器送り込んで始末しようとしたら返り討ちだ…これはまだわかる…軍事施設なんだ…兵隊たちが束になってかかりゃ勝てるだろうよ」
ジャックの暗殺のため、ヴァルハラ・サイバネティクス製の生物兵器を送り込むも、憲兵隊の奮戦もあり失敗。
その際、ジャックに怪異と呼ばれていた軍人が入れ替わられていたが…
ジャックに気色の悪いラブレターを送ったのは、入れ替われていない本人か生物兵器かは定かではない。
「青年将校の武装蜂起を潰したのもまだわかる…ギャレットの身柄は狙われてたからなァ…だが!訳が分からんのはデリックの娘を拉致して殺そうとした時だ!ギャレットてめえ一体どっから湧いて来やがった!?普通は気取られてもSAFパイロットを一人で寄越すわけねぇ!来るのは精々現地の治安維持組織!つまり、あの時てめえは偶然居合わせやがったって事だ…どういうことだ!?なんであんなとこにいるんだよ!?なんで平然と銃弾躱してんだよ!?バケモンかよてめえは!!!」
その次に台無しにされたのは、戦争継続派の青年将校を武装蜂起させるものとアンジェラを拉致してアルビオン星系で防衛軍を騙って惨殺する様を生配信し、交渉が進んでいるアルビオンとの講和を御破算にすることでルキウスを失脚させるというもの。
ジャックにどちらも防がれ、アルビオン星系とアステリアは無事講和が成立した。
前者はともかく、後者が失敗したのはジャックが偶然居合わせたからである。
サプライズジャックにより、ほぼ確実に成功するはずだった悪辣で残忍な策略は潰されたのだった。
「クソ!今回は危ない橋を渡ってまで…ユリウスやジャックを始末しようと思っていたのによぉ!タイタン・ヘヴィ・インダストリーズは使い物にならねぇ上に、連中がアルビオンを見せしめに焼き払うための艦隊へ、俺が密かに雇い入れたアルバンをジャックを仕留め損なった時のために捻じ込んだってのに!返り討ちにされてんじゃねえよ!どいつもこいつも使えねえッ!!!」
彼は情報を敵対企業に流してまで邪魔者を排除しようとした。
しかし、その結果はあまりにもひどい失敗である。
ジャックの活躍により、政敵であるルキウスが更なる躍進を遂げる事になった。
「奴をどうこうするのは最後だ!今はとにかく…!奴が関与出来ねぇようなタイミングでルキウスの方へ!?」
社長室の戸が三回ノックされた。
「…誰だ?」
ドアの向こうの相手に対し、慎重に問いかけるセバスティアーニ。
彼はデスクの引き出しから音を立てないよう慎重に拳銃を取り出す。
「“清掃”に参りました…至急第三会議室へお越しください」
それはあまりにも不自然な返答だったが、セバスティアーニは安堵したような表情で息を吐く。
「ああ、すぐに行く」
そう言ってセバスティアーニは部屋の外に出た。
そこには二人の清掃員が立っており、一人はセバスティアーニにとって見慣れた顔で、もう一人は見覚えのないものだった。
「…見ねえ顔だな?新入りか?」
第三会議室へ向かう途上、セバスティアーニは見知った顔の清掃員に尋ねた。
すると、清掃員は後ろからついて来る特徴のない顔の男を一瞥して彼の質問に答える。
「ええ、こいつは最近入った奴で…使える奴なんで、今回の“掃除”には使える筈です」
「ほう、そうかそうか」
新入りは無言でセバスティアーニへ頭を下げる。
(薄気味悪い奴だ…まあ、いい…俺の役に立つならなんでもいいさ)
数分程歩くと、一行は第三会議室へたどり着く。
分厚い防音扉を開けると清掃員はセバスティアーニに向けて言った。
「周辺の人払いは済ませてあります。それに、盗聴器などの類も仕掛けられていないのは確認済みです」
「おう、いつも通り仕事が速いじゃねえの」
彼は勝手知ったる我が家のように部屋の上座に座る。
「で?お前がここに来たってことは…例の件だな?」
そう言って清掃員へ尋ねるセバスティアーニ。
しかし、清掃員は無言で扉を閉めると彼の元へよたよた歩いていく。
「お、おい!聞いているのか──」
清掃員に向けて怒号を上げようとしたセバスティアーニ。
それを制するかのように清掃員は四つん這いになって奇声を発する。
『アレサンドロォォォ♡メルキオッレェェェ♡アロルドォォォ♡セバスティアーニィィィ♡センムゥゥゥ!!!!!♡』
それは人間の様な姿のなにかであり、歓喜の声を上げながら腰をカクカク振って、彼を目掛けて四足で駆けて来る。
そう、先ほどまで会話をしていた相手は見知った顔の男ではなく、自身がかつてジャックの元へ送り込んだ生物兵器であった。
セバスティアーニはそれを見て顔面蒼白で懐に入れた拳銃を掴む。
「く、来るな!こっちへ来るんじゃねぇ!」
必死の形相で拳銃を生物兵器へ向けるセバスティアーニ。
すると、乾いた発砲音が部屋の中に鳴り響く。
「ぐ、がああ!!!」
飛んで来た銃弾によって彼の手元の拳銃が弾き落とされる。
「て、てめえ…一体どこの回しもんだァ!」
彼は自分の手を抑えながら、銃弾の飛んで来た方向を睨みつけて怒鳴った。
そこにいたのは、拳銃を持った先ほど新入りと紹介された特徴のない顔の男である。
男はセバスティアーニを見て、その姿を鼻で笑うと口を開いた。
「これから死ぬ人間相手に自己紹介なんて必要はないでしょう?ま、強いて言うなら貴方が生きている事で、不利益を被る者がいるとだけ…」
セバスティアーニは男の言葉を聞き、必死の形相で叫ぶ。
「どこのどいつだッ!ルキウスか!デリックか!ジャクソンか!デイビスか!ルーベンか!いくらで雇われてる!?倍の…いや、10倍の額を払う!だから殺さないでくれ!」
自身が死ぬことで得をするであろう相手の名前を列挙し、10倍の額を払うから殺さないでくれと必死に命乞いをするセバスティアーニ。
そんな彼の哀れな姿に欲情し、生物兵器は更に腰振りの速度を上げながら男に懇願する。
『ハヤク!!!♡ハヤクオカシタイィィィ!!!!♡セバスティアーニヲヲヲ!!!!♡オカシタイノォォォ!!!!♡』
男はそんな生物兵器に対し、汚物を見るような目で一瞥するとセバスティアーニへ再び話しかける。
「セバスティアーニ専務…これは額の問題ではありません。プロならばプロとして最後まで仕事を成し遂げなければならないのですよ?例え、貴方の尊厳を踏み躙って殺せと言うものでもね?正直言って…見るに堪えませんが……最期まで見届けて差し上げますね?おい、犯していいぞ」
男からの命令を受け、セバスティアーニへ奇声を発しながら四足で這い寄る生物兵器。
『フォオオオオオオオ!!!!!!!アレサンドロォォォ!!!!!♡』
「や、やめろ!離せッ!!!嫌だぁ!!!せめて!せめて普通に殺してくれぇ!!!!」
必死に生物兵器を引き剥がそうと藻掻くセバスティアーニ。
男は必死の形相で殺してくれと叫ぶ彼を冷たい目で見つめている。
(馬鹿な男だ…お前が生きているだけで不利益を被る者と聞いて、自分の政敵の事しか頭に浮かばんとはな……その視野の狭さが原因でこんな死に方をする羽目になるんだよ)
男は先ほどから必死に助けを求めるセバスティアーニへ目を向ける。
『ハア♡ハア♡アレサンドロォォォ♡アレサンドロォォォ♡』
「助けてくれぇぇぇ!!!!頼むぅ!!!じゃなきゃいっそもう殺してくれぇぇぇ!!!」
「はあ…なんて嫌な仕事だ……」
彼は今すぐ帰りたくなったが、仮に何か起きてセバスティアーニが生還すれば自身の責任となるため、セバスティアーニが犯し殺されるのを最後まで見届けなければならないのだ。
うんざりして溜息を吐く男は、セバスティアーニの聴覚と思考能力が機能している内に言えと言われた伝言を思い出す。
「…ああそうだ、セバスティアーニ専務。あなたに伝言があります。長年の忠勤ご苦労様…だそうですよ」
それを聞いたセバスティアーニは、男の雇い主を誰だと思ったのか堰を切るように泣き喚き出した。
「嘘だ…嘘だ!そんなの嘘だ!そんな事あってたまるか!い、嫌だああああ!!!やめてえええ!!!!こんな…こんな惨めな死に方は嫌だあああああ!!!!」
『アレサンドロォォォ♡!!!!!!イッショニカミサマノトコヘイコオオオ!!!!!♡』
そんな彼に興奮したか、生物兵器は更に腰を振る速度を上げる。
男は吐き気を抑えながらその悍ましい光景を見続ける。
(少なくとも雇い主がこれを録画しろとか言う異常者じゃなくて良かったよ…)
翌日、スコルピオーネ運輸オフィスの第三会議室にて変死体が二体発見されたと、キャピタル治安当局に通報が入る。
DNA鑑定の結果、臀部を激しく損傷したものはセバスティアーニ専務と判明。
もう片方は検死の結果、人間と大きく異なる身体構造かつ大部分を機械化していたため、何者かがなんらかの意図をもって送り込んだ生物兵器ではないかと推測するも、当局の懸命な捜査にもかかわらず犯人が特定できず、捜査は打ち切られ事件は迷宮入りする事となった。
「“あれ”が消えて清々したよ。無礼で下劣で思慮に欠けた抹殺すべき愚か者を生かしておいては、再び我が星系は脅かされる事になるだろうからね…」
人知れず毒蛇は愚者の末路を嗤う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「──これからは“より良い”関係を築いていきたいものです」
「ええ、もちろんですよ。“不幸な行き違い”はありましたが、これからも御社とアルビオン星系の良好な関係が“今まで通り”続くことを願っております」
えー…なんか話し合いの最後に、レギュレーターズの艦隊司令官とヴァレンタイン議員が満面の笑みで握手し合ってます。
感動的ですね!みんな拍手してるよ!
防衛軍側の何人かはぜんっっっぜん気づいてないけど、二人とも目が笑ってないのよ…
しかも、お互いに掛け合ってる言葉が噛み合ってねえよ…
あれってさあ…要約すると「過去の事は水に流して仲良くしようぜ!アステリアの“勢力圏”なんだからさ?」「うん!戦争仕掛けられたけど、これからも“今まで”通り仲良くしたいね!」って言ってるんだよね?
もう、オブラートに包んでないよ?
星系内一の企業である、“アイアンクラッド・インダストリー”はアステリアのグループ企業になったけど、あくまでも今まで通りの独立した企業のように振る舞うって言ってるようなもんだし…
これ言って大丈夫?あれかな?ユリウスパパがなんとかするとかそんな感じ?
もう怖いから関わらんとこ…
俺はノンポリなんだ!下手に関わると死ぬなら選挙以外ノンポリでいいわ。
取り合えず…今日の会議はこれで終わりかな?
なんかレギュレーターズの人たちにも勲章をあげるらしいね。
それと…レギュレーターズは外縁部のために支援物資を大量にくれたらしいよ?
まるで、星系全部焼け野原になって食うもんも何もないって状態になっても大丈夫なくらいの量らしい…
これもうあれだよね?襲撃の事知ってたよね?
どさくさに紛れて“保護”と称して占領しちゃう気だったよね?
「全く恐ろしいな…」
「なにがだ?」
「ッ!?」
びっくりした!?
サリヴァン総司令官!突然後ろから話しかけないでくださいよ!
「気配を消しながら話しかけないでくださいよ…マジでビビりました…」
「ハハハハハ!!!いやあ、すまんすまん。そうじゃなきゃあそこの挨拶回りに巻き込まれちまうとこだったんだよ!」
サリヴァン総司令官が指さした方向、そこには色んな偉そうな人に囲まれて困ってるマクドナルド副司令官の姿が…
「いや、あんた総司令官でしょうに…行かなくていいんですか?」
お偉いさんならそういうのも仕事の内では?
「ああ、大丈夫だ!何人かの重要そうな相手や有望株とはちゃんと話をしたからな!出世できなそうな奴は無駄に自慢話が長くて困る」
「まあ、大丈夫ならいいんですが…」
やっぱこの人組織のトップとかやりたくないのかな?
できるのとやりたいかは別だし…
ああ、そうだ…
彼の事を話さないとな…
「…今お時間大丈夫ですか?まだ、話すべき相手がいるなら後日でも構いませんが」
「いや、大丈夫だ…場所を変えるか?」
「はい、お願いします…」
さて…どうしたもんかな…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺たちは基地にある施設のバーラウンジ…その個室に来た。
ここは、高級軍人なんか密談で使ったりもするんだと。
「それで?どうしたんだ?…また“ワルキューレ”関係か?」
「いえ、今回は違います」
言いにくいが…言うしかないな…
「今回のレギュレーターズへの出向の際、スローターと交戦しました。その一員として…グレイブス大尉がいました」
サリヴァン総司令官は何も言わずに無言で頷く。
多分、もう既に俺が彼を殺したって察したんだろうな…
「そうか…ジャック、すまなかった」
「え?」
なんで謝るんです?
ブチギレられる事くらいは覚悟してたんだがな…
「なぜ、あなたが謝られるのですか?」
ぶっちゃけ謝られるような事はされてないんだが?
どういうことなの?
「あいつを…ギルバートを介錯してくれたんだろ?俺は一番辛い役目をお前に押し付けちまった。なんとなくだがな…いつかあいつとは敵になる気がしてたんだよ。…俺たちは同じ日に退役したんだが…あの時のあいつの様子は明らかにおかしかった」
「おかしかった…ですか?」
まあ、確かに…目が逝ってたし…普通にPTSDとかになったのかと思ってたけど…
「ああ、お互い政府や軍に不信感や失望を感じて退役したが…その時に喧嘩別れしたんだ。あいつは…ルガルバンダ戦役の後、“この世には救いなどない。力こそが正義だ”って言い出したんだ。今思えばあの時ががあいつを引き留められる最後の分水嶺だったんだろうな…」
“この世には救いなどない。力こそが正義だ”ねぇ…
それで大企業に入ったのか?
そういや、俺も“ジャック、退役後は大企業に入るといい。お前の腕ならトップランカーも狙える…くれぐれも大企業に逆らうなよ?”とか言われてたっけ…
…だとしたら“逆位置の教皇”はなんだ?
「グレイブス大尉は…タロットカードの“逆位置の教皇”をエンブレムにしていました…これは…彼がこの選択を後悔していたって事なんでしょうか?」
そうでもなけりゃ“正位置の教皇”を誇らしげに掲げる筈だ…
“守旧性”、“偽善”、“不信感”、“束縛”、“躊躇”、“独りよがり”…
あの人は、政府や大企業のやり方には常々不満を感じてはいたが…
それでも、政府や大企業があってこそ秩序が保たれ、罪なき民間人が徒に殺される事が少なくなるって信じてはいたな…
政府も企業もクソだが無いよりはマシ。
自分たちのできる範囲で罪なき人々を守るってのが彼のスタンスだったが…
それを打ち砕いたのがルガルバンダ戦役での政府や軍部の所業だろうな…
面子のためだけに、一つの星系相手に大企業を纏めてねじ伏せられるような戦力を動員して、普段は地方星系が助けを求めても治安維持のために戦力がギリギリだから無理とか言ってたのに、自分らの面子を潰されたと思った瞬間地方の治安が悪化するくらい戦力を引き抜いてぶつけにかかるんだもの…
滅茶苦茶だよ…
あの後、軽装備の警備隊くらいしか無かった地方は、酷いとこだと宇宙海賊やらギャングやらの犯罪組織が跳梁跋扈して治安崩壊したとこもあるらしいね。
クソだよ!クソ!
「多分、その“逆位置の教皇”はあいつが自分の正義を捨て去ったって証拠であり、後悔の現れなんだろうな…まあ、戦後に見せられた地方星系のあんな悲惨な有様を見たら無理もないが…元々、正義感が強くて真面目な奴だったんだ…大企業なんて、この国の腐敗の原因みたいな所に行って、そんな自分を正当化することができなかったんだろうな…」
まあ、ルガルバンダ戦役引き起こした元凶が大企業なのに、地方星系が悲惨な事になった元凶に所属している自分を正当化できなかったんだろうな…
まあ、大企業の連中もあんまりにもあんまりすぎて若干引いてたらしいが…
「なあ、ジャック…あいつと戦ったんだろ?…どうだったんだ?」
「とても強かったです。マジで死ぬかと思いましたよ。ただ…」
「どうした?」
あの人、なんでジャミングした時点で不意打ちしなかったんだろ?
「彼はジャミングと通信への割り込みとかしてきたんですよ…その時、彼は完全に不意打ちができた筈なのに…態々声を掛けてから攻撃してきたんですよ」
俺がそう言うと…サリヴァン総司令官は少し黙って考え込んだ。
「もしかしたら…答えが欲しかったのかもな」
「答え…ですか?」
「ああ」
答えってなんだ?
…そういう事?俺…もっと言うとサリヴァン総司令官とグレイブス大尉の選択。
地方星系の人々を手の届く範囲内で助ける道を選んだサリヴァン総司令官。
今までの全てを捨て去って力だけを信じる道を選んだグレイブス大尉。
「…俺との戦いを通して、自分とサリヴァン総司令官のどちらの選択が正しいか確かめたかったのか?」
「おそらくはな…最期になにか聞かれなかったか?」
なにか聞かれたか…?
『なぁ…ジャック…お前はなんでそんなに強いんだ?』
『馬鹿…そうじゃねぇよ…ゴホッ……心の話だ…』
『ははは…そうか…ゲホッゴホッゴボッ!…そりゃあ……サリヴァンに…ハァ…教わったのか?』
『なる…ほど……な…いつの…間にか……忘れ…ちまって……た…』
そういう事か…
「なんで俺の心がそんなに強いのかって聞かれましたよ」
グレイブス大尉…あんたは答えを求めてたのか。
「そうか…なんて答えたんだ?」
「自分が何をやりたいか、どうなりたいかってのが重要だって答えました」
「あいつは…ギルバートはよくそう言ってたな」
なあ、大尉…俺はあんたとは違って、折れるような正義の心なんて元々持たない人間の屑だ。
だが…そんな屑でもここまでやって来れたのはあんたの教えのおかげでもあるんだ…
「ジャック、ありがとうな」
「…なんで礼なんて言うんです?」
「お前が勝ったおかげで…あいつもようやく楽になれただろうからな…」
そうだったらいいんですがねぇ…
俺と違ってあの人は自分の行いにも苦しんだだろうしな…
俺?何人殺しても、命令だからしょうがないって言って、罪悪感ゼロで今夜もぐっすり熟睡できるよ。
「なあ、ジャック…今回散っていった“全ての”戦友に献杯しないか?」
「いいですね…あれ?それって」
「ああ、お前よくこの酒飲んでたろ?今日は奢りだ…一杯付き合ってくれよ」
サリヴァン総司令官…俺本当は酒の種類とか全くわかんないんスよ…
その酒は、グレイブス大尉が良く飲ませてくれて味と名前が気に入ってるから、バーとか行くと格好つけて注文してたんです…
俺本当は酒なら何でも良いって人間です…
「もちろんいいですよ」
俺たちは献杯した。
どっかのクソったれのせいで死んでいった戦友たちに。
最期まで使命を果たして散っていった戦友たちに。
欺瞞の中でもがき苦しみ続けた戦友に。
この酒は甘い筈なんだが…今日はやけにしょっぱい気がする。
次は過去編の「ゼータセクター戦役編」か、そのまま現在の時間軸である「ジャックくん嫁(嫁じゃない)の実家に行くってよ編」になると思います。
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