第三十四話
急げジャック!お前の戦友が次々と斃れていく!
『サリヴァンや“ギャレットの置き土産”が来るまで…退屈させてくれるなよ?』
その宣告と共に、“コンフィデンス”はその蜘蛛の目のような複眼を怪しく光らせ、第4SAF中隊へ突撃して行く。
「正面から!?各機!持てる全火力を奴にぶつけろ!弾幕ですりつぶせ!」
『『『『『了解!』』』』』
“コンフィデンス”は中量級機にも拘らず、軽量級機並みの圧倒的な加速力で弾幕へ飛び込んで行く。
「なんて加速力だ…!まるで…ギャレット最先任上級曹長が乗っている第五世代機のようだ…だが!これだけの攻撃を正面から受ければ一溜まりもッ!?」
第4SAF中隊の猛攻撃によって、“コンフィデンス”は撃破されると確信していたリカルド。
しかし、彼は知らなかった…トップランカーという存在が如何に化け物染みているかを…
『オイ…どうなってんだよ!?』
『攻撃が効いてないのか!?』
『いや、当たってないんだ!攻撃が奴をすり抜けているんだ!』
弾幕を踊るようにすり抜ける“コンフィデンス”。
その動きは、彼ら第4SAF中隊の“ほとんど”にとって、想像を絶する超絶技巧の連続によって為される絶技であった。
(違う…あれは弾幕をすり抜けているんじゃないッ!ミサイルなどの爆発物を攻撃して爆破、その爆風で実弾を逸らしたり他の爆発物を誘爆させている!躱しているのはほぼレーザーだけッ!だが!そんなこと普通はできるわけがねぇ!爆発物を撃ち抜くタイミングを間違えればアウトッ!レーザーの回避する動作は最小限にしなければ逸らせていない実弾に当たってアウトッ!)
「こいつ…イカレてやがるッ!」
ただ一人、リカルドだけがアルバンのやっている絶技の内容をなんとか理解できていた。
しかし、そんな彼から見てもアルバンの動きは人間の域を超えていた。
「全員攻撃の手を緩めるな!こいつにだって限界はあるはずだッ!」
(そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃこいつは人間じゃねぇ!)
『ほう、なるほど…中々悪くない攻撃だ。下位とはいえランカーを殺れるのも納得だな』
そんな、リカルドの願望にも似た思いを打ち砕くかの様に、アルバンの動きは更に鋭さを増し無駄が消えて行く。
「まさか…あれは…第五世代機なのか…?そうじゃなきゃ…あんな動きは…」
リカルドは、第五世代機がコックピットの耐G装備のおかげで、無茶苦茶な加速をしてもかかる負荷は多少無茶な機動をしたとき程度だという話を聞いていた。
そのため、あんな機動を取れるのは第五世代機の性能故ではないかと考えたのだ。
しかし、それは大きな間違いである。
“コンフィデンス”は第五世代機ではない。
正確に言えば、この機体の全てが第五世代機のパーツで構成されているという訳ではない。
“コンフィデンス”の頭部パーツは“ゼン・マトリクス・ダイナミクス” の第五世代機“ZMD-05M-ARACHNID”のもので、ジェネレーターとブースターは“ヴァルハラ・サイバネティクス”製第五世代機のものである。
残りのパーツは、ボディが“アステリア・エレクトロニクス”の “AE-04M-LAVORO”で、手足が“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”の主力機”THI-MM04-CYCLOPS”と第四世代機のパーツで構成されている。
『新調したパーツの性能を試したい…少しギアを上げよう』
「なッ!?まだ速くなるのかッ!?」
“コンフィデンス”は純粋な加速力であれば第五世代機並みである。
しかし、機体のパーツの半数以上はあくまでも第四世代機の物であり、機動性などでは第五世代機に劣る。
『では、一番近くにいるお前からだ』
「トーマス!狙われているぞ!」
『あっ…クソ!』
『少尉を援護しろ!』
『戦友を死なせるな!』
第4SAF中隊は、アルバンに狙われたトーマス少尉を援護し、トーマス少尉もアルバンを振り切ろうと動きながら必死に攻撃して払いのけようとする。
『時に…なぜ俺が“百舌鳥”と呼ばれるか知っているかね?』
アルバンは、トーマス少尉らの攻撃を掠めるようにギリギリで躱し、ある程度の距離まで近づくと機体を沈みこませ、相手の足元を通って背後に回った。
『なッ!目の前から消えッ!?後ろ──』
『このように串刺しにするからだ』
“コンフィデンス”は左腕に装備したパイルバンカー“THI-PB-02”を無防備な背中に叩き込んだ。
必死の抵抗も空しく彼は“百舌鳥”の餌食となった。
『少尉ィ!!!』
『小隊長ぉ!!!』
『トーマスが殺られた!?』
『あり得ねぇ!あの弾幕を掻い潜って…敵を殺すなんて…!』
「全員ボーっとするな!動き続けろ!」
(なんて奴だ…あの速度であんな動きを…普通ならG耐えられない筈だッ!)
リカルドは、呆然とする部下たちを叱責して機体を不規則な機動で動かし、“コンフィデンス”へ火線を伸ばし続ける。
『ふむ、悪くない…単なる偏差射撃ではなく、予め逃げ道を塞ぐかのような攻撃も交えているな…』
「なんだとッ!?」
アルバンへ背後から集中砲火を浴びせる第4SAF中隊。
しかし、そんな攻撃もまるで“予知”されていたかの様にあっさりと躱される。
『この“肌”で感じる殺気…下手な下位ランカーよりもずっと良い』
そして、再び弾幕踊るようにすり抜け第4SAF中隊のSAFに襲い掛かる。
『今度はこちらから攻めさせてもらおうか』
彼は、左肩に装備したヴァルハラ製レールキャノン“VC-RCA-09-THOR”を撃ちながら、ブースターを小刻みに吹かして第4SAF中隊へ近づく。
レールキャノンの弾頭が、進行方向から来るミサイルを爆散させて弾幕を無理やりこじ開けながら彼らの機体へ襲い掛かる。
『ま、またミサイルを!?』
『ミサイルを撃つのをやめさせろ!』
『馬鹿言え!やめたら火力が減少する上に、相手がミサイルを迎撃してた分のリソースが攻撃に振り分けられるだろうが!』
「各機!動きを止めずに攻撃し続けろ!それ以外に手はない!」
アルバンは、右手に持った高出力レーザーライフル“AE-LR22-PHOEBUS”を連射しながら、右肩の六連誘導ミサイル“THI-T3-6”を発射。
『ミサイルだと!その程度──』
『一つ!』
『クッソ!ミサイルの迎撃に意識を割きすぎッ!?被弾し──』
『二つ!』
『この程度…!躱し切れない筈が!あ──』
『三つ!』
ミサイルの迎撃に気を取られた者はレーザーで撃ち抜かれ、レーザーに気を取られた者はミサイルと続け様に放たれたレーザーに、レーザーを躱しながらミサイルを迎撃できる強者はパイルバンカーやレールキャノンの餌食となって次々と墜とされていく。
「クソッ!分が悪いがやるしかねぇ…ゴードン!ヘンダーソン!あれをやるぞ!」
『了解!』
『了解!あれですね!』
余りにも分が悪いと思いつつも、リカルドは部隊の中でも特に腕のいい二人を呼び出す。
「全機!ミサイル斉射!続いてミサイルへ一斉射撃!」
『り、了解!』
『『『『了解!』』』』
『え…?あ、了解!』
何人かは戸惑いつつも全員がその指示に従う。
当然、アルバンはミサイルを迎撃するが先ほどまでとは違い、自身ではなくミサイルを狙う敵の攻撃に興味深そうな顔を浮かべる。
『ほう?なにをしようというんだ?…そうか、煙幕の代わりか』
“コンフィデンス”のセンサーが、爆炎を切り裂いてこちらへ真っすぐ向かって来る熱源を探知した。コックピットのモニターに映し出されたのははリカルドの機体だ。
アルバンは誘導ミサイルを放ちながら、リカルド機へレーザーライフルを発砲する。
「食らえバケモン!」
リカルドは、それとほぼ同時にバズーカと誘導ミサイルを放ち、飛んで来た誘導ミサイルを迎撃する。
しかし、リカルドはレーザーをギリギリまで躱そうとしない。
次の瞬間、熱源は一機から三機に増えた。
『くたばれぇ!』
『墜ちろォ!』
リカルドを撃破すべく狙いをつけたアルバンに、リカルド機の後ろから現れた二機のSAFが、左右から挟み撃ちのように襲い掛かる。
『なるほど…自身が撃墜されることも厭わず、爆風でセンサーを誤魔化しつつ三機で接近したか…』
「ぐわっ!?…ははは!なんとかダメージは最小限で抑えた…俺たちの勝ちだ!」
リカルドは、アルバンのコックピット狙いの一撃を機体をずらしながら、右手を攻撃の間の挟み込む事でコックピットへの直撃を防ぐ。
次の瞬間、右手のマニピュレーターが千切れ飛ぶもリカルドは無事だ。
突如として現れた二機からの不意打ち。
そこらのランカーならば、防ぎきれずにやられていただろう。
そう、そこらのランカーならば…
『ククク…いいぞ!もっと俺を楽しませろ!』
アルバン・ファビウスという男は並ではなかった。
トップランカーとして、銀河にその名を知らしめる正真正銘の化け物である。
『え?嘘だろ…どんだけGがかかると思ってやがる!』
『あり得ねぇ…普通あんな動きしたら…ブラックアウトして意識が消えるだろ!?』
“コンフィデンス”は、並のパイロットならば自身にかかるGによって、とうに意識を失っているであろうマニューバで二人の攻撃を躱す。
「二人とも呆けるな!ゴードン!狙われているぞ!」
『しまっ──』
そんなリカルドの叫びも空しく、ゴードン中尉の機体は急所をレーザーライフルで撃ち抜かれ爆散。
『この野郎!』
ゴードン中尉の仇を討とうとしたのか、アルバンへ突撃したヘンダーソン中尉。
『無謀な…だが、悪くない動きだった』
『クソ──』
レールキャノンで機体を撃ち抜かれ、機体の左半身をえぐり取られ失速。
その後、近くの艦の物と思われる残骸に激突し、彼の機体は沈黙した。
「腕利きのベテラン二人が…こうもあっさりと…!」
(バズーカは右手ごと失った…ミサイルやグレネードの弾数も心許ない…こりゃ、詰んだな…)
リカルドはブースターを全開にして、“コンフィデンス”へ向かって行く。
「各機、こいつはもう駄目だ!逃げろ!とにかく散らばって逃げ回って時間を稼げ!数秒は俺が稼いでやるッ!」
そう言うと、彼は返答を待たずに通信を切る。
部下がここを離脱し、アルバンから逃げ回るための時間を稼ぐために死ぬという腹積もりだ。
『ふむ、自棄を起こしたのか…?いや、違うな周りの機体が逃げ支度に入った…時間稼ぎか?部下を逃がすために…か?』
「アルバァァァン!!!」
ミサイルを撃ちながらグレネードを発射するリカルド。
彼は、自身の耐G能力の限界ギリギリまで加速しながら自機を左右に揺らして、偏差射撃をされづらい動きをしながら“コンフィデンス”へパイルバンカーを振りかぶって近づく。
何度もブラックアウトしかけながらも強烈なGにリカルドは耐える。
(時間を少しでも…稼ぐ…!このバケモン相手なら…数秒だろうと値千金だ!ここで…俺が死んでも…サリヴァン総司令官が…!ギャレット最先任上級曹長が…!戦友たちが…!必ずやってくれるッ!)
彼は自分たちがここで死んでも、後に続く戦友たちが必ずこの星系を守ってくれると確信し、後の者へ託すために命を投げ出すことを決意した。
『ああ!そうか!部下が逃げ回って時間を稼ぐために、更なる時間稼ぎをしようとしているのか!となると…来るのはサリヴァンたちだな!』
しかし、そんな気高い意志は圧倒的な力の前にあっさりと打ち砕かれた。
「ぐわぁッ!」
アルバンは、リカルドのパイルバンカーをギリギリで避けると、彼の機体に蹴りを叩き込んだ。
『中々楽しめたぞ』
「う…おごぇ…そ、操縦不能…万策尽きた…か」
リカルドの機体は姿勢制御装置が一時的に硬直。
一瞬の差が生死を分けるSAF戦において、最も致命的な隙を相手に晒す事となった。
(サリヴァン総司令官…申し訳──)
リカルドは、パイルバンカーが自機を粉砕する激しい衝突音を聞きながら意識を手放す。
“不死鳥”は遂に“百舌鳥”に打ち砕かれた。
『なるほど…最後まで足掻くか…ククク…不死鳥の面目躍如といったところか』
アルバンは目の前に浮かぶ、大破したスクラップ同然の状態となったリカルド機を見てそう言った。
『た、隊長ォォォ!!!』
『馬鹿!逃げるぞ!最後の命令を守るんだ!』
『俺の機体は被弾のせいで機動力がねえ…精々時間を稼いでやる!さっさと行けぇ!!!』
『畜生!畜生!畜生ォォォ!!!』
『落ち着け!隊長の機体は大破したが爆発してねえ!きっと、あの人はまた不死鳥みてえにひょっこり現れるさ!』
『退け!退けぇぇぇ!!!』
第4SAF中隊は部隊の支柱を失いつつも、最後の命令である時間稼ぎを行おうとする。
『おい!お前損傷してるだろ!?さっさと母艦に!』
『馬鹿野郎!俺のせいで母艦の位置がバレるだろうが!ここで死ぬまで戦ってやる!』
損傷し、本来ならば母艦へ戻らせるべき機体も、母艦の位置をこの化け物に悟られないように踏みとどまって戦った。
『隊長機を失ってなおこれか…雑魚共では勝てぬわけだ』
その姿は、敵であるアルバンすら感心するほどであった。
しかし、それは手心を加えるというわけではない。
『あ──』
『く、来るな…来るなァ──』
『当たれ!当たれ!当た──』
『悪くない動きだが…先ほどの三機ほどではない』
彼は微塵も手心を加えずに第4SAF中隊の隊員たちを刈り取って行く。
数十秒後、生き残りが半数に減った頃にアルバンは機体のレーダーに何かを捉える。
『ふむ、なるほど…サリヴァンだけではないか…』
それは数機のSAFらしき反応であった。
それと同時に、必死に逃げ回る第4SAF中隊の元へサリヴァンからの通信が届く。
『こちら、防衛軍総司令官レイモンド・サリヴァン!よくぞ持ちこたえてくれた!諸君らは我が軍の誇りである!』
『サリヴァン総司令官…?来てくれたのか!?』
『や、やった!助かるぞ!』
『なんで…もっと早く…』
『来てくれたぞ!サリヴァン総司令官たちが来てくれたぞ!』
第4SAF中隊のほとんどの者が弱々しくも歓喜に満ちた声を上げる。
彼らの決死の時間稼ぎが実った瞬間である。
そんな彼らの姿は、どこの誰から見ても無防備で隙だらけなものであったが、幸いにもアルバンは攻撃を仕掛けてはこなかった。
『ククク…サリヴァン!元ブレイカースクワッドの貴様は…ギャレットと戦る前の肩慣らしに丁度よかろう!』
こちらへ全速力で向かう機影に向かって行ったからだ。
戦いはより一層激しさを増す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第1パトロール艦隊旗艦“ブリストル”。
戦場に到着したばかりのこの艦では、多くのクルーが慌ただしく行きかっている。
『総員、第一種戦闘配置!繰り返す!総員、第一種戦闘配置!』
第一種戦闘配置の命を受け、第1SAF中隊の面々も自分の愛機に慌ただしく乗り込んでいく。
その中には、レン・アサクラの姿もあった。
彼は対海賊での活躍により、伍長から軍曹に昇進していた。
彼の乗機は最新鋭機の“ICI-F04M-WARBUDDY”であり、武装は右肩が誘導六連ミサイルの“ICI-M16-6L”、左肩がグレネードランチャー“ICI-G03-CRAG”、右手に高出力レーザーライフル“AE-LR22-PHOEBUS”、左手にレーザーブレードの“AE-LB05-PERSEUS”という、露骨にジャックの“ハングドマン”を意識した構成になっている。
(ギャレット最先任上級曹長不在の時に狙いすましたかのように襲撃…アルビオン星系側が流した…?自分も死ぬんだぞ?あり得ないだろ…ギャレット最先任上級曹長は…“英雄”なんだから裏切るわけがない。アステリア内に情報を流している奴が?一体なんのために?)
「今のアステリアはこの星系の味方なんじゃないのか?」
レンは同盟相手の情報を敵に流すことに意味などあるのかと疑問に思った。
彼はまだ、この世界には政争のためだけにいくつもの勢力をかき回し、戦争を引き起こすような愚か者が存在するということを理解していなかった。
『諸君らの任務は、敵艦隊に劣勢を強いられる連合艦隊の救援である!最優先目標は我が方の艦に取りつく敵機!なお、第5パトロール艦隊を壊滅させた敵ランカーには、サリヴァン総司令官率いるSAF部隊が相手するとのことだ!よって、諸君らには敵艦隊への対処に注力してもらう!それでは各員の健闘を期待する!』
『『『『『了解!』』』』』
「…了解!」
艦隊司令による指示が出た後、彼らは順次発艦して行く。
『カウラネン、発艦します』
『エドワード・ブラッドロー!出ます!』
「レン・アサクラ、出撃します」
『マックス・バレット!“アイアンウィル”!出撃する!』
『ロビン機!出撃します!』
『こちらゲイル!発艦します!』
第1SAF中隊は、付近に布陣している第7パトロール艦隊の元へ急行する。
『こちら第7パトロール艦隊旗艦“グラスゴー”!既に麾下の艦は二隻撃沈されている!我が艦隊は危機的状況にあり!至急増援を!』
通信で聞こえる、第7パトロール艦隊のオペレーターの悲痛な声は、彼らが陥ってる状況がどれほど危機的なものかを物語っている。
『聞いたな!彼らにはあまり時間が残されていないようだ!ペースを上げる!部隊から逸れるんじゃないぞ!もし現場が乱戦状態になっているなら通信状態も最悪だろう!孤立すれば死ぬぞ!』
通信を聞いた中隊長の檄が飛ぶ。
実際、早急に駆けつけなければ第7パトロール艦隊は殲滅されかねないだろう。
『『『『『了解!』』』』』
そんな彼らの行く手を、ランカーであるバレット中尉を討ち取って名を上げたい、十数機の傭兵たちが阻む。
『あれが…49位のマックス・バレットだな?』
『あの灰色の機体…“アイアンウィル”!乗り換えたばかりなんだ…まだ機体には慣れていない筈!』
『あいつを殺せばランカーだぜ!』
『ギャレットに守られて、ぬくぬくしてた雑魚が放り出されるなんてかわいそうでちゅねぇ~?全員嬲り殺してやるよッ!!!』
そんな自分たちを狙う敵を見た中隊長は、鼻を鳴らすと第1SAF中隊の隊員たちに向かって言った。
『あの動き…我々を舐め腐っているな?各小隊、応戦しろ!バレット小隊は正面から攪乱、アバティーノ小隊と我が小隊でそれを援護!カウラネン小隊とアンデル小隊は、我々に敵が釘付けになった隙に回り込んで側面から叩け!』
『『『『了解!』』』』
各小隊長は中隊長の命令に応じると、素早くフォーメーションを組んで命令を遂行する。
『ロビン!ゲイル!俺が相手の気を引く!お前たちから意識を逸らした敵や、俺の攻撃で姿勢を崩した敵を叩け!二人とも…背中は任せたぞ!』
『了解!』
『了解です!』
バレット中尉は、自機の右肩にマウントされた六連誘導ミサイルを発射しつつ、左手に持つマシンガンと右手に持つバズーカで敵を攻撃する。
『さて、これで何機か墜としたいところだが…』
『あ──』
『こ、こいつ!?ただの金魚の糞じゃ──』
ミサイルを躱し切れなかった二機の敵へ、マシンガンとバズーカの弾が襲い掛かり爆散させるが、未だ無傷の敵が何機も残っている。
『なるほど、タイマンじゃ強いんだろうなァ…ここは戦場だぞ?囲んで叩きゃいいだろうが!』
『そんな攻撃に当たるかよォ!』
『あっ!?クソ!被弾──』
『被弾!?だが…この程度で墜ちるか!』
『か、躱し切れな──』
『当たれ!当たれぇ!』
『墜ちやがれ!』
バレット中尉の僚機のロビンとゲイルは、必死に彼の背後を狙う者たちを撃ち落とそうとするも、その一部を墜とすだけにとどまるが小隊長の背中を守るという役目を全うしていた。
『おい、あのうぜぇ雑魚どもから潰さねぇか?』
『ランカーより…あっちのが狩りやすい獲物だァ』
『マックス・バレットの後背を突くには…奴らを排除する必要がある…』
しかし、そんな二人から狙う事を考える者も当然いる。
『あ──』
『クソがぁ──』
『この俺が!?こんな──』
『他の機体が邪魔で近づけん…!』
『各機!彼らを援護しろ!彼らを狙う敵を排除するのだ!』
『『『『了解!』』』』
中隊長らがバレット小隊の援護につき、彼らを狙おうとする敵を排除しているからだ。
(なるほど…中隊長も、あのギャレット最先任上級曹長たちが首を挿げ替えないだけあって、中々優秀な人だったみたいだ…普段のギャレット最先任上級曹長の威光を笠に着るような態度からは想像もつかないなぁ…しかし、バレット中尉…また腕を上げたか?援護があるとはいえ、敵に突撃してまだ一発も被弾していない)
レンが、彼らの動きを見てそんな風に考えていると、直属の上官である小隊長のカウラネン少尉から通信が来た。
『ブラッドロー伍長並びにアサクラ軍曹、聞こえるかしら?これより私たちも敵の側面から突入するわ…死にたくなければ敵中で孤立しないように』
「…了解!」
『り、了解…』
いよいよ、カウラネン小隊も敵中へ突入する。
そう通達され、レンは落ち着いた声色でブラッドロー伍長は上擦った声で応じる。
『アサクラ軍曹は私と敵の足を止めて!ブラッドロー伍長は足の止まった敵に攻撃を!』
カウラネン少尉は部下に命令しながら、右手に持ったマシンガンを撃ちながら敵に鋭い軌道で近づき、乗機の右肩に装備したレーザーキャノン“AE-LC07-ARTEMIS”を発射。
『あ──』
『あぶねぇ!?』
『しまっ──』
『ぐぅ!?被弾した!』
マシンガンの弾と高出力レーザーによって、彼女に狙われた敵機の内二機は爆散し、何機かが被弾した。
「了解!ブラッドロー伍長、撃ち漏らしはお願いします」
『りょ、了解!できるだけ隊長やアサクラ軍曹の足を引っ張らないようにします…』
レンはそれを見て、彼女に狙われなかった敵や彼女の攻撃をなんとか躱した敵を狙い、ミサイルで敵を動かし、レーザーライフルやグレネードランチャーによる偏差射撃を行い、三機ほど墜として見せた。
「これで三機目!」
『流石ね、アサクラ軍曹』
「い、いえ」
カウラネン少尉に腕前を褒められるも、彼は内心やや気まずかった。
(俺が撃墜した内の二機は、少尉の攻撃を避けた瞬間のを狙ったものだし…それに、少尉のおこぼれを貰っておきながら、何機か撃ち漏らしたからなぁ…)
彼は何ら恥じる事もしていないし、獲物を横から掻っ攫われたなどとカウラネン少尉も咎めないのだが…
レンは、エースパイロットと呼ばれるようになってから、そういう事を自分がされてもさほど気にしないが、他人に対してやった時は気にするようになっていた。
ブラッドロー伍長は、二人とは違って派手さはないが両手に持ったマシンガンで撃ち漏らしを次々と火球に変えていく。
気が付けば、十数機という数だけ見れば中隊規模の敵機は、その数を半数ほど減らされていた。
『じょ、冗談じゃねぇ!ジャックがいねぇから、この星系にはバケモンもいねぇって聞いてたからこの依頼を受けたんだぞ!』
『割に合わねぇよ!あんな端金に命を懸けていられるかよ!』
『は、話と違う!』
すると、ようやく不利を悟ったのか傭兵たちは散り散りに逃げて行った。
尤も、逃がしてやる理由もないので、第1SAF中隊に背中を散々に撃たれることになるが…
『敵が逃げていく…?』
「味方を置いていくのか?」
レンやブラッドロー伍長がそう呟く。
そんな二人に対しカウラネン少尉は言った。
『半数がやられたのだから…むしろ、撤退には遅すぎるほどよ?それに、傭兵にとっての同業者は、潜在的な商売敵兼命を奪い合う敵と言ってもいいわ。だから、同じチームにいるわけでもなければ、余程義理堅くなければ平然と見捨てるわ』
彼女が口にしたのは傭兵たちのシビアな現実であった。
『それは……いえ、教えてくれてありがとうございます』
(そんな…いくらなんでも……商売敵だからって…!)
「なるほど…勉強になります」
(兄さんは傭兵だった…兄さんはそんな現実の中で戦っていたのか?)
ブラッドロー伍長は、そんな傭兵たちの残酷な世界について思う所があるようだ。
レンはその話を聞き、かつて凄腕の傭兵SAF乗りとして銀河にその名を轟かせていた、自身の兄の苦労に思いを馳せた。
しかし、彼らにはそんなことをしている時間はない。
『各機へ!追撃の必要はない!我々の目標は飽くまでも味方の救援だ!』
そう言った中隊長に対し、全員短く“了解”と返事をして、第1SAF中隊は再び友軍の艦隊の救援に向かう。
この戦闘での第1SAF中隊の損失機は0であった。
第1SAF中隊が、友軍の救援に向かう途上でレンは考えた。
(俺たちの方は大した敵が出てこない…ということは、サリヴァン総司令官の方に強敵が集中しているのか?…あり得なくはない。彼はアルビオン星系では、ギャレット最先任上級曹長とならんで“英雄”と名高い人だ…それに、元ブレイカースクワッドって経歴も考えれば…討ち取ることができれば、かなり名が売れる!)
そんな彼の脳裏に最悪の想定が過る。
(もし…第5パトロール艦隊を壊滅させたっていう…トップランカーにサリヴァン総司令官が殺されれば……アルビオン星系は…“英雄”を失う!これは総司令官が死ぬことよりも不味いんじゃないか…?)
レンは自身の兄がジャックに殺された瞬間の避難船の船内を思い出す。
皆一様に、希望を打ち砕かれ絶望に打ちひしがれていた。
「ギャレット最先任上級曹長…早く戻って来てください…あなたが一緒に戦えばトップランカーが相手でも勝ち目はある筈…でないと」
──この星系は焼き尽くされてしまうかもしれない
そんなレンの呟きは誰に聞かれることなく消えて行った。
高評価とブックマークありがとうございます!
これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!




