第三十二話
ジャック抜きの防衛戦…
果たして…
アルビオン星系外縁部。
第4パトロール艦隊旗艦“プリマス”。
“プリマス”のブリッジは異様な緊張感に包まれていた。
複数のパトロール艦隊による連合艦隊は、現在偵察機からの情報を基にジャミングに包まれていた敵の大凡の規模と位置を推定し、その予想される進行方向へ集結していた。
「…外縁司令部からの連絡はあるか?」
一時的に付与された権限により、艦隊司令長官代理となったアントシュ司令は重々しい声で艦橋要員へ尋ねる。
「いえ、外縁司令部からは…待ってください!?これは…本土防衛艦隊からの通信です!」
「うむ、繋げてくれ」
彼は艦橋要員の言葉を聞き、防衛軍総司令部が増援を送ってくれるものだと期待した。
そんな彼が通信を繋げると、モニターに映ったのは意外な人物だった。
『やぁ、アントシュ司令。リース司令から話は聞いているぞ』
「さ、サリヴァン総司令官!」
ブリッジにいる全ての者が一斉に、モニターへ映ったアルビオン星系の英雄に向けて敬礼をした。
アントシュ司令は本土防衛艦隊の艦隊司令を務める、マクドナルド副司令官が通信に出るものとばかり思っていた。
しかし、サリヴァンはこれを星系の危機であると判断し、愛機と共に“ポーツマス”へ乗艦。
第1パトロール艦隊含む複数の艦隊を率いて救援に向かったのだ。
故に、アントシュの予想はいい意味で裏切られることとなる。
サリヴァンは敬礼する彼らに楽にするように言うと、用件を話し始める。
『我々は外縁司令部からの要請を受け、本土防衛艦隊率いるすぐに動かすことができる5個艦隊でそちらに向かっている。現在、AL4αコロニーに駐留して各コロニーの戦力を抽出、更なる戦力強化を行っている…必ず助けに行く!それまでなんとか持ちこたえてくれ!』
彼の力強い言葉に対し、アントシュは戦意を漲らせながら答える。
「は!必ずや…閣下の到着まで敵を足止めして見せます!屑共に我らの故郷を踏み躙らせはしません!」
サリヴァンは、そんな彼に力強く頷いて「各員の奮闘を期待する!」と言って敬礼し通信を切った。
必ずこの星系を守り抜く。そう、新たに決意を固める彼ら。
そこへ、火急の知らせが舞い込む。
「警備艇“メリノ”から入電!レーダーにノイズが走り始めたとのことです!」
「“ロムニー”や“テクセル”からも同様の報告が!」
それは敵襲を知らせる予兆であった。
「総員、第一種戦闘配置!ジャミングを剥がすために、SAF部隊は各中隊ごとにアステリアから取り寄せた耐干渉ユニットを最低一機には装備させておけ!」
斯くして、第二次アルビオン防衛戦の戦端が開かれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『総員、第一種戦闘配置!繰り返す!総員、第一種戦闘配置!』
慌ただしく人が行きかう“プリマス”の艦内。
その中には当然待機していたパイロットたちの姿もあった。
「機体の状態は!?」
「既に出撃準備は完了しています!」
「もたもたするな!さっさと乗り込め!」
ハンガーへ駆け込み、各々の乗機へ乗り込んでいくパイロットたち。
彼らこそが、アルビオン防衛軍でも屈指の精鋭SAF部隊、第4SAF中隊である。
第4SAF中隊は、ランカーを擁する海賊艦隊やレギュレーターズを相手に全滅の憂き目に遭うも、その度に再び立ち上がり戦う不撓不屈を体現する部隊だ。
また、今回は部隊が壊滅しても生き延びた腕利きのベテランやジョン・ドゥから救出された強化人間などの精鋭やエースが数多く揃い、“ICI-F04M-WARBUDDY”が優先配備されたおかげで全員が第四世代機に乗っているという、歴代最強と言っても過言ではない陣容である。
そんな彼らに、アントシュ司令は敵によるジャミング…すなわち妨害電波の発生源の排除という重要任務を任せた。
『第4SAF中隊各員へ通達!諸君らの作戦目標は、耐干渉ユニットを用い妨害電波の発生源を特定し、それを速やかに排除することだ。よって、耐干渉ユニットが破壊された時点で任務は失敗となる。くれぐれも気を付けるように。それでは、諸君らの奮闘に期待する!』
『『『『『了解!』』』』』
次々と発艦していく第4SAF中隊。
その中でも右胸に“不死鳥”のエンブレムをつけた機体がある。
中隊長にして部隊のトップエース、リカルド・ロドリゲス大尉。
通称、“不死鳥リカルド”。
彼は元GISDFのベテランパイロットであり、キルディザスターの海賊艦隊やレギュレーターズなどの戦いの際に、どちらも殿を引き受けて生還したことから畏敬の念を込めて不死鳥と呼ばれ、ランカーになる日も近いとまで言われている。
彼の乗機の武装構成は右肩に六連誘導ミサイル、左肩にグレネードランチャー、右手にバズーカ、左腕にパイルバンカーという、以前ジャックの乗っていたコグネイトと同じものになっている。
これは、彼がキルディザスターを相手に敗北を喫した苦い経験から、キルディザスターを倒したジャックの戦いを研究してその動きや武装構成を取り入れたためだ。
「さて、お前ら…さっきの話は聞いてたな?俺たちはこのクソうぜぇジャミングを引っぺがしに行くってわけだ!おい、ジェヒョンにコータにユーシェン!お前らの機体に装備した耐干渉ユニットが俺たちの目であり耳なんだ…ぜってぇ壊すなよ!」
『了解…そんなヘマはしません』
『りょーかい!僕らの腕を信用してくださいよ!』
『了解!そんなこと言って…俺らに持たせたって事は本当は信用してるんでしょ?』
リカルドの言葉に3人は不敵な笑みを浮かべて返した。
これは、単なる部下とのコミュニケーションや命令の確認だけでなく、実際に耐干渉ユニットによって妨害電波の影響が取り除かれているかという確認も兼ねている。
(よーし!通信はいつも通りクリアに聞こえる!今んとこ耐干渉ユニットちゃんはちゃーんと働いてくれてるなぁ…あの3人も腕のいいベテランだ…そう簡単にユニットを破壊されたり撃墜されたりはしねぇ筈だ)
「言うじゃねーか!よしよし…そんじゃお前ら!こいつらがヘマしそうになったらちゃんとカバーしてやれよ!普段と武装が変わってるんじゃ、例え腕利きでも動きづらいだろうからな!それに、このユニットが無きゃ敵軍のど真ん中で目と耳を失う。こいつらがいる一定の範囲では、流石に母艦までは無理だが…俺たち同士はこれまで通り通信が可能だ!生きて帰りたきゃ3人に指一本触れさせねぇようにしろよ?」
『了解!敵さんの中に、敵味方の位置もわからん状態で放り出されるなんて、堪ったもんじゃないですな!』
『了解!ま、精々動きにくそうなこいつらをカバーしてやりますよ』
『了解、3人とも事故って壊したりすんなよ!』
リカルドの言葉に、隊員たちも笑みをこぼしながら返答する。
彼はそんな部下たちの声に頼もしそうに頷く。
エレメントを組んで、冷たい宇宙空間を進んで行く彼らの前に中隊規模の敵機が現れる。
『あの先頭の機体についた“不死鳥”のエンブレム…間違いない第4SAF中隊だ』
『ハッ!ランカーじゃねぇなら俺たちの敵じゃねぇよ!』
『俺たちならサリヴァンどころかギャレットだって殺れるだろうぜぇ?』
『無駄口を叩くな。ジャミングを剥がされちゃ面倒だ…とっとと鬱陶しいコバエを叩き墜とすぞ!』
それは、全員が“THI-MM04-CYCLOPS”第四世代機に乗った、“イェヌ”と名乗る悪名高い12人の腕利きの傭兵チームだった。
『ありゃあ…イェヌか!?』
『イェヌって…既にランカーを五人始末してるって連中じゃ!?』
強敵の登場に第4SAF中隊の隊員の間に動揺が広がる。
リカルドは彼らを叱責し、鋭く指示を飛ばす。
「落ち着け!どうせ遅かれ早かれ腕利きとやり合う事は決まってたんだ…一々ビビってんじゃねぇ!それより、ミサイル小隊はミサイルを斉射!マシンガン持ちは、ミサイルを躱して来る連中を側面から迎撃!バズーカやグレネードランチャーを持ってる連中は、俺と前に出てミサイルに気を取られた連中を撃て!」
『『『『『了解!』』』』』
リカルドの指示を聞き、隊員たちは即座に行動を開始した。
誘導ミサイルと垂直に降り注ぐミサイルが“イェヌ”のSAFに襲い掛かる。
『チィ!こいつは誘導ミサイル!?面倒な!』
『垂直ミサイルが来るぞ!』
『ショットガンじゃなくてマシンガン持ってくるべきだったかァ…?』
迎撃や回避行動などを各々行う“イェヌ”。
そこへすかさずバズーカやグレネードランチャー、マシンガンの弾幕が襲い掛かる。
『な…クソ──』
『ひ、被弾したッ!?』
『この俺が!?こんな…糞田舎の三流軍隊相手に──』
第4SAF中隊の連携攻撃により、“イェヌ”のSAFも被弾する機体が出る。
中には躱し切れずに爆散する機体もある。
「チッ!流石に仕留めきれないか…残りは九機か!いいかお前ら!常に小隊単位で固まって敵に当たれ!常に三機で一機を攻撃しろ!常にお互いをカバーし合って死角を無くせ!」
『『『『『了解!』』』』』
彼はそう言いながら、近くの敵へバズーカで足を止めた後グレネードランチャーを叩き込む。
そこへすかさず近くの二機が集中砲火を浴びせ、敵機を爆散させる。
『じゃ、俺らは隊長の僚機って事でいいですね?』
『ひょっとして…私たち……一番大変な役回り引いちゃったんじゃ…』
「ああ、そういう事だ!では…飛び込むぞ!」
リカルドはそう言って、こちらへブースターを全開にして向かって来る四機を迎撃するため、ブースターを吹かし誘導ミサイルを撃ちながらジグザグの軌道で敵に向かっていく。
『了解!』
『り、了解』
後の二機もそれに続いて行く。
『ええい!なんたるザマだ!』
リカルドを討たんと向かって行く四機のSAF。
その先頭に立つ機体は“イェヌ”の指揮官の物である。
彼は格下と侮っていた第4SAF中隊に良いようにされ、はらわたが煮えくり返っていた。
『俺たち“イェヌ”がこうもやられるとは…部隊単位で見ればDランク帯のランカーに相当する戦力か!おい!お前ら二人は僚機を引き剥がせ!俺たち二人で隊長機を墜とす!奴さえ殺せば…あの部隊は瓦解するだろう!』
『『了解』』
『へいへい…』
彼の見立ては強ち間違ってはいない。
事実、リカルドは第4SAF中隊の支柱であり、彼が墜とされるようなことがあれば今までの様な動きはできなくなるだろう。
彼はそれを見抜き、リカルドを速攻で墜とすことを決意した。
(ああいうタイプのエースは得てして自意識過剰だ…このような数的有利のある状況下で…こうして身を危険に晒しているのだからッ!)
『自分が本当に不死身だと思っていたのか…?死ねぇ!リカルドォ!』
二機が僚機であるリカルドの部下を引き剥がす。
『お!?クッソ!そこをどけ!』
『悪いが…お前らの頭が死ぬまで付き合ってもらうぞ』
『た、隊長!?』
『あーあ…無能な上官に相応しい無能な部下だ…可哀想だからここで殺してやるよ!』
残り二機が連携してリカルドへ襲い掛かる。
『くたばりなァ!』
『不死身のエースなんてのは…単なる幻想なんだよォ!』
二機から放たれるミサイルや銃弾にレーザー。
リカルドは不敵な笑みを浮かべ、その渦中に飛び込む。
『なに!?』
『こ、こいつ!?ランカー級の芸当を!』
彼は愛機を躍動させ、追尾するミサイルをバズーカで吹き飛ばし、迫りくるレーザーと銃弾を躱す。
「おいおい…随分と甘く見てくれるな…こんなでも俺はサリヴァン総司令官から直接声を掛けられてここにいるんだぜ?」
それどころか、敵に向け右肩のミサイルを発射しながらバズーカを連射して反撃してみせる。
『こいつはFランク帯からEランク帯のランカー相当の戦力だ…舐めてかかれば死ぬぞ』
『了解…』
二機はミサイルを迎撃し、バズーカを躱す。
「なるほど、こいつら…手練れって噂は本当らしい…そこらの奴は今のでお陀仏だが…じゃあ、やるしかないわな!」
リカルドはブースターを全開にして、左右に揺れながら敵へ近づいていく。
『チィ!こいつ…これで偏差射撃を封じたつもりか?』
『甘いんだよ!』
彼らは十字砲火をするかのようにタイミングを合わせ、リカルドが来るであろう位置に火線を伸ばす。
『な!?あの姿勢から!?』
『こ、こいつ!』
リカルドはバレルロールの様な動きでそれを躱し、二機へ誘導ミサイルを発射する。
そして、再びバズーカを連射。
『こんなものに!』
『なっ!あ──』
二機はミサイルを振り切ろうとするも、その内の一機が飛んで来たバズーカを食らい、そのまま後ろから追尾してきたミサイルが当たり爆散。
『墜とされただと!?こ、こいつらは…三流軍隊のエース部隊もどきではなかったのか!?』
「一対一でなら…お前くらいのやつなんざ敵じゃねぇよ」
リカルドは右肩のミサイルを発射しつつバズーカを撃つ。
『この程度!?』
「意識が逸れたな?」
“イェヌ”の指揮官は、ミサイルを迎撃しながらバズーカの弾を躱すが、その隙に急接近したリカルドの機体が強烈な蹴りを入れた。
『ぐわっ!?』
「終わりだな…」
そして、リカルドは左腕のパイルバンカーを振りかぶり、容赦なく敵機のコックピットへ叩き込んだ。
銀河にその名を轟かせた、悪名高い傭兵部隊“イェヌ”の指揮官は地方星系のローカルエースに討ち取られることとなった。
「あのブレイカースクワッド上がりの二人なら…もっと早く片付いたのかねぇ?…さて、部下たちを助けに行くかねぇ…お?」
彼が僚機の元へ向かおうと機体を向けると、そこには指揮官を墜とされ動揺した敵機を討ち取る部下たちの姿があった。
『な、頭ァ──』
『沈め!』
『これで…決める!』
『た、隊長が墜とされ──』
「俺が助けに行くまでもなかったか…よし、仲間と合流するぞ!」
『『了解!』』
リカルドらが合流した頃には、すでに趨勢は第4SAF中隊に傾いていた。
そこへ更にリカルドらが加わった事で、“イェヌ”の残党はあっさりと壊滅する。
「各小隊、損害を報告しろ。こちらは全機健在だ!」
『こちら、ルパート少尉。全機健在!』
『こちら、ゴードン中尉!ケンの馬鹿が肩のミサイルポッドを吹っ飛ばされやがった!それ以外に損害はありません!』
『こちら、トーマス少尉。被弾した機体はありますが全機機能に異常なし。まだまだやれますよ』
『こちら!ヘンダーソン中尉!全員無事ですよ!コウタも被弾してねぇっす!』
被弾や武装の喪失こそあれど全機健在という報告を受け、リカルドは満足そうに頷いて口を開く。
「よーし!そんなじゃ、ジャミングを引っぺがす作業に戻るぞ!…こうして通信が出来てるってことは、少なくとも耐干渉ユニットは一つは無事なんだろ?」
『こちら、ジェヒョン!無事ですよ!』
『こちら、キタジマ伍長…傷一つつけちゃいません』
『こちら、ユーシェン・ファン曹長!そもそも隊長はそんなヘタクソに任せたりしないでしょ?』
「おう!そいつは上々!ジャミングの発信源は特定できるか?」
そんな彼の問いに三人は答えた。
『あー…しばしお待ちを…三時の方向から来てますね…待てよこれ…複数の反応がある』
『ふむ、なるほど…十一時の方向からも…おい、ジェヒョンそっちはどうだ』
『十二時の方向…複数個所から来てるな…?…一番近いのは三時の方向か…』
『ノイズ混じりのレーダーの反応はァ…艦船と直掩機か…』
『フーン…三箇所から来てるわけだ…』
『なるほど、隊長!反応が正しければ、妨害電波は三方向!それぞれ十一時の方向、十二時の方向、三時の方向です!一番近いのは三時の方向の物で、発生源は艦船です!直掩機らしき反応もあります!』
三人は相談し合い情報を纏めると、最も階級の高いユーシェンがその旨を伝えた。
それを聞いて、リカルドは一番近場の方から片づける事にした。
「よし!じゃあ、一番近いところから片づけるぞ!」
『『『『『了解!』』』』』
第4SAF中隊は三時の方向にある、妨害電波を発する艦の元へ向かう。
『おい!敵が来やがったぜ!』
『ジャミングで碌に通信も出来ねぇのにご苦労なこった!』
『そんじゃあさっさとスコアになってくれや!』
彼らは自身に襲い掛かる敵機を粉砕して進む。
『『墜ちろ!』』
『こいつらなんで連携が──』
『クッソ…ノイズでレーダーが見えにくいな』
『あ、あれは耐干渉ユニット!?クッソ!話とちg──』
『ま、待て降参だ!や、やめ──』
『一機撃墜!』
「さっさと進むぞ!」
『『『『『了解!』』』』』
やがて、妨害電波の発生源と思しき艦が見えて来る。
『こいつら…ここまで来やがったのか!』
『迎撃に出た“イェヌ”はどうなった…?』
『まさか…“イェヌ”が全滅!?ランカーでも混じってやがったのか!?』
「まずは直掩機を片付けるぞ!」
『『『『『了解!』』』』』
第4SAF中隊を迎撃せんと向かって来る直掩機。
しかし、その力量差は目前であり鎧袖一触とばかりに、第4SAF中隊に蹴散らされた。
『あ──』
『ひ、ひぃ!ギャ、ギャレットやサリヴァン以外は雑魚じゃ──』
『く、来るなァ──』
そして、第4SAF中隊は対艦戦に移行する。
「よし!俺が先行する!俺を追いかけようとした対空砲を破壊しながらついてこい!」
『『『『『了解!』』』』』
『なんだあいつら!?やけに動きが良いぞ!』
『なんでこんな糞田舎にGISDF顔負けの部隊があるんだ!』
『さっさと迎撃しろ!』
対空砲火がリカルドを必死に捉えようとするも、彼はそれを華麗にすり抜けていく。
「レギュレーターズの物よりかなり練度が低い…練兵にはもってこいだな!」
彼はそう言いながら対空砲を潰していく。
撃ち漏らしたものは彼の後から来た隊員たちに残さず刈り取られていった。
「艦橋を潰す…その後対空砲火が鈍った所を一斉に叩くぞ!」
『『『『『了解!』』』』』
リカルドはブースターを全開にして、艦橋へパイルバンカーを叩き込む。
それと同時に、隊員たちは一瞬動きを止めた火器やバイタルパートを容赦なく攻撃する。
すると、その攻撃によって敵艦は爆沈した。
「よし!まずは一箇所潰したな!それじゃ──」
次へ行くと、彼が言い終わる前に母艦から通信が来た。
『こちら…“プリマス”!聞こえ…か!こちら、“プリマス”!聞こ…るか!』
それは、ノイズ混じりではあるがなんとか聞き取れるものだった。
「こちら、第4SAF中隊!妨害電波の発生源を一箇所潰した!それで、一体どうした?」
『おお!それは良いニュースだ!通りで徐々にノイズが消えて行く訳だ…』
「それにしちゃ、やけに音が綺麗すぎやしないか?」
リカルドは、妨害電波の発生源を一つ潰しただけにしては、やけに通信が明瞭に聞こえるようになったことを訝しむ。
そんな彼に対し、喜色の混じった声で母艦のオペレーターは続けた。
『ああ、実をいうと君たちより先に第6SAF中隊が発生源の艦を一隻沈めてな。それを知らせるために通信を掛けたという訳だ』
「なるほど…先を越されましたな!」
『ああ、だが君たちがもう一隻沈めたおかげでッ!?』
先ほどまで、喜色の混じっていた声で喋っていたオペレーターが、急に何かに驚愕し黙り込んだ。
「どうした?」
『悪いニュースだ…第5パトロール艦隊が全滅……旗艦の…“ペンザンス”も沈んだ』
「なッ!?」
それは、味方の艦隊の旗艦が沈むという最悪の知らせであった。
しかし、彼らにとっての最悪の知らせは更なる最悪の知らせで上書きされる。
『“ペンザンス”からの最後の通信では…第5SAF中隊を粉砕し、第5パトロール艦隊を殲滅したのは…』
「一体どこのどいつだ!もったいぶらずに言え!」
『Bランク帯9位…“百舌鳥”アルバン・ファビウスだ』
その名は彼らにとっては絶望そのものだった。
Bランク帯以上のトップランカーは、10隻以上の艦隊をいとも簡単に粉砕する。
ジャックやサリヴァンといった、上位ランカー相当の戦力抜きで戦うのは余りにも無謀であった。
「……おいおい…冗談だろ?」
『残念だが本当だ…サリヴァン総司令官率いる増援はすでにこちらへ全速力で向かっているが…』
「それまで持つかわからないってことか?」
リカルドは青ざめた顔で、震えた声で言った。
「つまり…この俺……いや、俺たちが頼みの綱…なんだな?」
彼は脳裏を過る死の予感を必死に抑え込む。
『頼む…』
オペレーターは絞り出すような声で、彼らに対して時間稼ぎのために死ねと頼んだ。
「…お前ら聞いてたな?これから決死の足止めだ…確実に死ぬだろう…だから、志願者以外は来なくていい。なに、第5パトロール艦隊壊滅を受け、艦隊の直掩に増援を送ったって名目にすればいいさ。だよな?」
『ああ、今回の件はあくまでも命令ではない…要請だ』
アントシュ司令は彼らに逃げ道を用意していたようだ。
「ああ、そうだ…ジェヒョン、コウタ、ユーシェン…お前ら3人は残れ」
『な、何故です!』
『俺たちも一緒に行きますよ!』
『最期までお供します!』
3人はそう言ったが、彼は首を決して縦には振らなかった。
「駄目だ。お前たちは耐干渉ユニットをつけているせいで普段より火力が低い…格上相手では死にに行くようなものだ。残れ、これは命令だ!“プリマス”!この3人は残す!」
『…了解した』
「他に残りたい者は?」
しかし、誰も声を上げなかった。
「馬鹿野郎どもめ…よし!それじゃあ…俺たちで時間を稼ぐぞ!」
彼の宣言と共に隊員たちは一斉に気炎を発した。
『どうか…お気を付けて…』
『ご武運を…』
『全員…死ぬなよ!』
残れと命じられた3人は、死地に向かう戦友をただ見送る事しかできなかった。
これから、連合艦隊はトップランカーという怪物を相手に、サリヴァンらが来るまでの絶望的な時間稼ぎを強いられることになった。
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