第三十一話
ジャックは果たして間に合うのか…!?
アルビオン星系外縁部。
ここは五番惑星AL5の軌道の外側に存在し、準惑星などの天体や氷や岩石でできた無数の小天体などが分布する領域である。
この領域にも人々は僅かながら住んでおり、いくつかの小天体や準惑星の付近には資源採掘用のコロニーが存在する。
そんな外縁部に住む彼らを守護する存在。
それこそが第4パトロール艦隊を筆頭とする、アルビオン防衛軍星系外縁防衛機動部隊だ。
第4パトロール艦隊はアルビオン防衛軍の最先鋒として、宇宙海賊キルディザスターやアステリアのアルビオン侵攻などにより、何度も全滅の憂き目に遭っている。
艦隊の再建に伴い、星系外縁部防衛の要として防衛軍総司令官レイモンド・サリヴァンによって、元GISDFのベテランやジャックが救出した強化人間が数多く配置されており、ランカーのいる第1艦隊や本土防衛艦隊を除けば最も練度の高い部隊である。
「こちら第4偵察小隊、レーダーに感なし。また、電波干渉の痕跡も発見されませんでした。当該宙域異常なし」
そう母艦に通信を入れる、外縁防衛機動部隊所属のSAF。
その機体は、未だ防衛軍の数的主力である“ICI-F03-COGNATE”ではあるが、その頭部パーツはパンケーキの様な平たいレドームに覆われた大型の物に換装されている。
これは、肩部に武装が積めなくなる代わりに索敵能力を強化した、通称“偵察型コグネイト”である。
『こちら“レスター”、了解。引き続き付近の哨戒を続行せよ』
「了解…行くぞお前ら」
『了解』
『了解』
母艦であるサウスダウン級警備艇十五番艦“レスター”へ通信を行うと、僚機である通常使用のコグネイト二機を連れて再び付近の哨戒を再開する。
「今日はやけに静かだな…」
そんな彼の呟きを通信を切り忘れていたのか僚機が拾い、鼻を鳴らしてそれに返事を返した。
『今日は海賊共のお袋の誕生日で、パーティーのために忙しいんじゃないです?ハハハハ!』
「…無駄口を叩くな」
お喋りな部下に、うんざりとした声色で偵察型コグネイトのパイロットは答える。
すると、先ほどまで沈黙していたもう一人の部下も口を開く。
『しかし…今日は異様に静かです。普段なら海賊や密輸業者に密航者…その辺をいくつか見つけていてもおかしくはないですよ?こりゃあまるで…キルディザスターなんかが来た時みたいだ』
「縁起でもない事を言うな。だが、そうだな…いくらなんでも静かすぎる」
この宙域はデブリが多く、シャトルなどの民間船が通る航路から外れており、海賊などの犯罪者が多数出没する危険地帯の一つだった。
それが、全く異常がないというのは却って異常なことだった。
「ん?あれは…デブリか?」
彼は何やら気になる物を見つけ、偵察型コグネイトの高倍率メインカメラをズームさせて様子を伺う。
すると、何かに気がついたように慌てて母艦へ連絡する。
「……違うッ!?あれはただのデブリじゃない!SAFの残骸だ!こちら第4偵察小隊!“レスター”聞こえるか!?」
『どうした!なにがあった!』
「直近に当該宙域にて戦闘を行ったSAFがッ!?レーダーに感あり!」
『どうした!?』
「SAFと思しき反応が一つ…二つ…続々と増えて…これは……艦船!?艦船と中隊規模とみられるSAFが突如出現!おそらくはジャミングを──」
言い終わる前に、彼の乗機は飛んで来た高出力レーザーに貫かれ爆散。
『た、隊長!?』
『ち、畜生!狙撃しやがったのか!?』
『おい!どう……なにがあった!そちらで何…起きている!?状…を報告しろ!』
母艦からの通信にもノイズが走り始める。
『こ、こちら第4偵察小隊!小隊長が墜とされました!おそらくは長距離からのそ──』
今度は、母艦からの通信へ返答を行おうとした機体が爆散。
『お……な…があった!………』
『こちら第4偵察小隊!救援を!…クッソ!』
最後の一機は、母艦へ向けて救援を要請しようとするも、ジャミングのためか通信が繋がらなくなる。
『こうなったら…自力で母艦へ逃げるしかねぇ!母艦のビーコンの信号は…よし!消えてねぇ!』
彼はまだ辛うじてわかる母艦へ向けて、撤退しようと試みた。
しかし、そんな彼を背後から襲う者たちがいた。
『…なんだ、残りは一機かよ』
『あの野郎…ちょっとは俺たちの分もスコアを残しておけよなぁ!』
『生きて戻られても面倒だ…殺しておく』
それは先ほど偵察型コグネイトの補捉した所属不明のSAFだ。
彼らの機体は高機動の軽量級機のパーツで構成されており、瞬く間に距離を詰めて来たのである。
『さっさとやるぞ』
『スコアはいつも通り三等分だろうな?』
『外しやがったヘタクソのスコアは坊主に決まってんだろ!』
『あ──』
哀れにも、第4偵察小隊最後の一機は孤立無援の中散っていった。
『クライアントから、前金と一緒に渡されたジャミング装置は役に立ってるみたいだな…尤も、あのパンケーキヘッドのドラム缶に捕捉された時点でバレただろうが…』
『ボスはサリヴァンたちを討ち取って“スローター”入りするんだって息巻いてやがる…期待されてるとでも思ってんのかね?』
『こっちはさっさと雑魚を嬲って、適当にその辺のコロニー燃やして帰りてぇのによぉ…この前“掃除”してた連中の仕事が雑なせいで…』
そう言ってぼやく彼らの背後から、雑多な艦種の数十隻規模の艦隊がデブリを掻き分け現れる。
『ま、あんだけの規模の艦隊の指揮を任されたんじゃ舞い上がんのも当然かねぇ?つってもどいつもこいつも雑魚の海賊や傭兵ばかり…ランカーも混じってるが…どこまで働いてくれるやら』
『どうぜ企業同士の嫌がらせのための駒なのになぁ?金払いの良い上司だからついて来てたが…そろそろ手を切る時期かねぇ?』
『よりにもよって…あの“百舌鳥”にジャックを殺れるって騙して連れて来るんじゃあなぁ…なんも教えてねぇ奴に話を持ち掛けさせたとはいえ…ただで済むわけがねぇよ』
『ま、なんにせよ…ギャレットの奴には同情するぜ』
『“スローター”とやり合ってヘロヘロで帰ったら、家が燃え尽きてんだからよォ!』
『ま、恨むなら企業の…それも“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”の不興を買った上の連中を恨むんだな』
数十隻規模の海賊や傭兵による艦隊。
規模だけならば、“血濡れの髑髏”キルディザスターの海賊艦隊や“レギュレーターズ”の侵攻艦隊すらも上回っている。
アルビオン星系に再び大企業の魔の手が迫ろうとしていた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第4パトロール艦隊旗艦“プリマス”。
その艦橋にて、艦隊司令は第4偵察小隊が消息を絶ったという報告を受けている。
「ふむ、それは確かなのか?」
『はい、彼は通信が途絶する寸前に確かにジャミングと言っていました。その前に、艦船と中隊規模とみられるSAFが突如出現したと発言していたことから、その可能性は極めて信憑性が高いでしょう』
艦隊司令はその報告を受け、すぐさま対応策を講じる。
「偵察機をすべて出せ。ジャミングを検知したらすぐさま範囲外に退避し、その旨を報告せよ。そうすれば敵の大まかな位置を特定できる筈だ」
そう指示を飛ばすと、司令は“アルビオン防衛軍星系外縁防衛機動部隊司令部”へと通信を行う。
“アルビオン防衛軍星系外縁防衛機動部隊司令部”とは、この広いアルビオン星系外縁をカバーするためにいくつも存在するパトロール艦隊の統括を行っている組織で、星系外縁では最大規模の基地に存在している。
通称“外縁司令部”と呼ばれるこの組織は、広いアルビオン星系外縁部をカバーするため、防衛軍総司令部から独自の裁量を与えられている。
「こちら、第4パトロール艦隊司令アントシュ。外縁司令部応答を願う」
『こちら、アルビオン防衛軍星系外縁防衛機動部隊総司令官ベルタ・ローゼマリー・リース。アントシュ司令、用件はなんですか?』
アントシュ司令はリース総司令官に今回の件について報告する。
『なるほど…ジャミングで姿を隠していた艦船とSAF部隊ですか…敵はそれ以上の規模である可能性が高いでしょうね。それに…ギャレット最先任上級曹長が留守中に、この星系に襲撃が起きる可能性大という防衛軍総司令部からの情報もありますし…看過できません』
「では?」
『付近の第5から第7までのパトロール艦隊を貴官の指揮下に入るように通達します…しかし、これが企業による侵攻だった場合…これでは足りないでしょうね。防衛軍総司令部に要請し、敵の規模次第では増援を送ってもらえるように手配します』
アントシュ司令は、迅速な対応をしてくれた上官に対し礼を言って通信を切る。
彼の脳裏には、キルディザスターやアステリアの侵攻艦隊によって、自軍が大打撃を被った苦い記憶がフラッシュバックしていた。
「アステリアから購入した、攻撃衛星が各コロニーや拠点の付近に設置してある…それに加え第四世代機も我が艦隊は優先的に供給されている!四個艦隊…20隻に加え、攻撃衛星などの兵器も活かせれば…サリヴァン総司令官の艦隊や“レギュレーターズ”が増援に来るまで持ちこたえられる筈!」
彼はかつてとは違うのだと気炎を吐く。
「悪辣なる侵略者どもめ…決してこの星系に住む無辜の民を踏み躙らせはせんぞッ!」
こうして、ジャック不在でのアルビオン星系防衛戦が始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「私はすぐにアルビオン星系へ戻らねばならない!」
「無茶を言わないでください!あなたの機体はランカーとの連戦のせいで整備が必要な状態なのですよ!?」
そっかぁ…それじゃあしょうがないよな!
という事で、私はアルビオン星系を焼かれた悲劇の英雄ジャック・ギャレットでございます☆
ま、ランカーとの連戦だったんだからしょうがないよな!
グレイブス大尉の事、サリヴァン総司令官になんて言えばいいんだ…
あの人にとっては俺よりも遥かに付き合いの長い戦友だったんだぞ?
「おい…またやってるぞ…」
「アルビオン星系が襲撃受けてるって聞いてからこの調子だぞ…」
「無理もないが…戻ったとしても最早更地になっているだろうな…」
なんだぁ?てめぇこの野郎!
サリヴァン総司令官がいて!バレット中尉がいて!シドウ軍曹とコールリッジ軍曹がいて!レンくんがいるんだぞ!
彼らがいない方面で普通に負けそう…
防衛軍みんなクソザコだし…
第4パトロール艦隊?GISDF出身の雑魚と旧式強化人間がいるゴミカスだろ?
雑魚じゃん…
第四世代機を集中的に配備?
俺は第三世代機で第四世代機墜としたが?
バレット中尉もアステリアの時に戦艦と一緒に数機墜としたし、シドウ軍曹たちも何機か墜としてたからなぁ…
やっぱ雑魚だよ…
ま、サリヴァン総司令官がなんとかしてくれるだろ!(適当)
「はぁ…貴方はなにをやっているのですか?」
お、ユリウスくんじゃん!
だって、ここで全く心配しないで余裕ぶっこいててアルビオン星系が火の海だったら、俺ってクソほど危機感が無い奴だと思われるか薄情者だと言われそうだし…
せめて英雄っぽい顔しておけば再就職に有利かなって…(屑)
「アルビオン星系が攻撃を受けている。すぐに戻らねばならない!」
無理だって言っていいぞ!
ちょっと食い下がって論破されたらそれを名目に休むから(屑)
「ふん、涙ぐましい郷土愛というやつですか…全く馬鹿馬鹿しい…貴方を乗せて来た輸送機で、破損した装甲や内部機構の交換も含めた完璧な整備が行えるとでも?」
だよな!しょうがないから休むわ!
「そんなに行きたいなら…この基地へ向かっている、アルビオン星系救援部隊と合流してから行きなさい」
え?思ったより早くね?
まだ、こっち戦闘終了してそんな経ってないよ?
戦闘終了したと思ったら、アルビオン星系襲われてますだもの…
まあ、普通に考えたらそんなおかしなことでもないか。
だって、こっちは戦闘中でそれどころじゃないけど、アステリアの本社とかにはアルビオン星系が襲われてるって話は行くからなぁ…
でも、なんでこの基地へ向かってるんだ?
戦闘終了したから俺を拾いに来た?
…わざわざそんな事する必要が?
「…それは本当なのか?」
アステリアはジャックくんの味方だよってアピール?
いや、それなら俺を拾わずにさっさと行けばいい…
なんだ?
「私が貴方に嘘を吐く必要があるとでも?先ほど通信で通達されたので、わざわざ伝えに来てやったのです…ありがたく思いなさい」
あ、出た。メガネくいってするやつ。
事あるごとにやるよね?
しかし、態々自分で言いに来たのはなんで?
「ああ、ありがとう」
「ふん…」
なにがしたいんだ?
まぁ、良いか…謀略なら食い破ってやるさ。
「お前の言う通り…レギュレーターズの救援艦隊と共に行くことにするよ」
そうすりゃあしばらくは休憩時間だからな。
マジでグレイブス大尉強すぎんだろ…
本気で死にかけたわ…
もう疲れたし一旦寝るか…
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