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第二十九話

ブレイカースクワッドVSブレイカースクワッド

「──敵艦隊は星系外縁部にて哨戒部隊を撃破し、進軍を続けています。敵艦隊の規模は凡そ150隻、こちら側は160隻と戦力的にはやや優勢ではありますが…油断は禁物です。戦略目標と思われるのは、ST-6のヘリウム3収集プラント並びに衛星にあるレアメタル採掘場」


 おー…ヤベェな遂に来ちゃったよ…

 100隻以上の艦隊同士の潰し合いとか、GISDF時代以来か?


「現在、敵艦隊は二手に分かれST-6とここST-4に向けて進軍しています。侵攻部隊の中には、タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ有数の精鋭SAF部隊“スローター”の存在が確認されています」


 よりにもよって“スローター”か…あいつら捕虜や民間人も平気で虐殺する愚連隊紛いの屑どもなんだよなぁ…

 元宇宙海賊なんて経歴の奴もいるし…


「確認されている敵ランカーは“四名”…Dランク帯26位ボリス・イヴァノフ並びに29位マクシミリアン・ルイス、Eランク帯35位“放火魔”カチュア・レードフ、Fランク帯46位強化人間104号。彼らが現在確認されている敵ランカーですが…確認されていないだけで上位ランカーが侵攻部隊にいる可能性があるため、各員気を引き締めてかかるように」


 四人ねぇ…?

 みんな四人だけなんて思ってないって顔だな。

 そりゃあそうか、自分とこの総大将が俺たち相手にやってるもんな。


 “放火魔”か…

 あのクソアマ結局大企業のケツを舐める事にしたんだな。

 俺らにビビって、仲間と手下置いて逃げ出した屑が俺に勝てるつもりなのかね?

 だとしたら失笑ものだが…俺と同じ元ブレイカースクワッド付いてて、気がデカくなっているなら話は別だ。


 しかし、強化人間104号って名前で平然と登録するとか…

 闇が深いのか堂々としてんのか…


「ST-4を狙う敵艦隊の規模は約80隻。こちらにはボリス・イヴァノフが確認されています。そして、ST-6を狙う敵艦隊は約70隻と数こそ少ないものの…残りのランカーの全てが在籍してることから、おそらくはこちらが本命でしょう」


 うーん…じゃあ、一人か二人をST-4に残して残りのみんなでST-6行くのか?

 ST-6はなんとなく嫌な感じがするから行きたくねぇ…

 なんか、ブレイカースクワッド時代にトップランカーが俺を友軍から孤立させて、ぶっ殺しに来た時を思い出すわ…


 なんでか知らんけど、タイタン・ヘヴィ・インダストリーズのSAFや艦艇のスコアが、俺の記憶の倍以上に膨れ上がってんだよな…

 それが原因か?


「我が方のランカーの内…二名はこのST-4防衛のために残しておきます。戦力の振り分けですが…」


 よし!ST-4に残ろう!

 挙手します!


「それなら──」

「貴方は当然私とST-6の防衛です」

「了解した」


 畜生…

 駄目だった…

 ユリウスに言う前にバッサリ否定された…

 ST-6行き確定だった…


「じゃあ、私が残りますよ。なに、この惑星の周囲にある攻撃衛星を有効に使えば、ランクが上の相手でもなんとか撃退出来る筈ですから」


 ソンイルさん…あんたも嫌な予感感じて残ろうとしてない?


 しー…じゃなくて!

 やっぱこの人確信犯だな!


「私は元々、ここの守備に就いていましたので、艦隊や他の兵器との共同を考えたら適任だと思います」

「ふむ、それは妥当な意見ですね…では、そうですね…貴方をここに残すのは確定として…後一人はどうするか…」


 うーん…パーシー君はST-6行き確定だと思う。


「じゃ、じゃあ俺が──」

「リュシー、貴方が残りなさい」

「了解しました」


 パーシー君!ST-6行き確定おめでとう!


「各艦隊の数はST-4が90隻、ST-6が70隻とします。それでは、各員持ち場に就きなさい」


 おいおい…ST-6は同数かよ…

 根拠はねぇけど嫌な予感がするんだよなぁ…



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 スタリオン星系、ST-6付近の宙域。

 70隻同士の艦隊が砲火を交え、その破壊力を遺憾なく発揮し互いを火球に変え合う。

 その最中、艦から伸びる火線を躱しながら両軍のSAFが矛を交える。


『来たぞレギュレーターズだ!“赤い死神”もいやがる!』

『叩き墜としゃ俺がランカーだ!』


 当然、その混沌とした戦場の渦中にはこの男…ジャック・ギャレットも存在する。


『ランカー各員へ、貴方たちの優先目標は戦艦やSAF母艦などの大型艦、並びに敵ランカーです。言うまでもない事ですが、敵に墜とされて味方の士気を徒に削ぐ事は許しません』

『りょ、了解っす!』

「了解、連中にここに来たことが間違いだったのだと教えてやりましょう」


 ジャックは自身を墜とさんとする無数の殺意を躱しながら、ユリウスからの通信に答える。


「では、まず一機だ」

『あっ』


 彼の乗機“ハングドマン”は、その右手に持ったレーザーライフルで、偶々目に付いた敵機の装甲の隙間を撃ち抜いた。

 哀れにも、“赤い死神”に目をつけられた贄は一撃で爆散し、宇宙の藻屑と化した。


「ふむ、丁度あちらに戦艦があるな。沈めに行くとしよう」

『誰か…誰かコイツを止めろォォォ!!!』

『当たれ…!当たれよぉ!!!』

『来るな…来るなぁ!!!』


 “スローター”のSAFは健気にも母艦を守らんと“赤い死神”の行く手を阻もうとする。

 しかし、それは余りにも無謀な行いだった。


「一つ…」

『あ──』


「二つ…」

『やめっ──』


「三つ…」

『嫌だ…嫌だぁぁぁ──』


 彼らは瞬く間に“赤い死神”にその命を刈り取られていく。

 やがて、直掩は全て彼に叩き墜とされ、死神の鎌は敵の戦艦を捉える。


『不味い!直掩が全て墜とされた!』

『識別反応…Dランク帯25位…!?あの“赤い死神”ジャック・ギャレットです!』

『対空砲火を奴に集中しろ!』


 彼らは死神の魔の手から逃れようと必死に足掻く。


「ほう、中々良い練度だ…防衛軍にも見習わせたい」


 しかし、それは彼らの余命を数十秒程永らえただけに終わる。

 ジャックは熾烈な対空砲火を踊るように躱しながら、“ハングドマン”の右肩のミサイルを発射。着弾したそれが主砲と付近の対空砲のいくつかを吹き飛ばす。

 “ハングドマン”はブースターを全開にして艦橋へ向かう。


『対空火器の20%及び主砲一基沈黙!』

『こ、こっちに来るぞ』

『そ、総員退艦!』


「…沈め」


 ジャックは艦橋へレーザーブレードを一閃。

 続けて、頭脳を潰され動きが止まった艦のバイタルパートを目掛け、レーザーライフルと左肩のグレネードランチャーを叩き込んで爆沈させた。


「こちらギャレット、敵戦艦一隻撃沈。引き続き──」


 爆沈する艦を尻目に、次の獲物を探しに行かんとする“赤い死神”。

 それを飲み込まんと爆炎が迫る。


「火炎放射…?なるほど…お前か」

『見つけたァ…ジャック・ギャレットォォォ!!!』


 それは敵のSAFが装備した火炎放射器による攻撃であった。


「識別反応はEランク帯35位カチュア・レードフ、機体名“ウィルオウィスプ”…相も変わらず馬鹿の一つ覚えの様に火炎放射か?」

『殺す…殺す殺す殺すゥゥゥ!!!』


 彼女の乗機“ウィルオウィスプ”は、タイタン・ヘヴィ・インダストリーズの第五世代中量級機“THI-MM05-HELIOS”に、火炎放射器“THI-FT-02”を両手に、六連誘導ミサイル“THI-T3-6”を両肩に装備させた機体だ。

 その火力は当然侮れない。


『死ねぇ!死ねぇジャック!』

「火炎放射でエネルギー切れになったらミサイル…単調な動きだ…機体と武装に頼る戦い方は変わらんようだな」


 ジャックはブースターを全開にして火炎放射を躱し、ミサイルをレーザーライフルで迎撃する。


『墜ちろ!ジャック!』

『仲間の仇だッ!』

『よくも…俺たちの母艦を!』

「…いいのか?近づいてきて?」


 カチュアと戦うジャックの背後を突かんとばかりに、殺到する“スローター”のSAF。


『死ね!死ね!死ね!!!燃えちまえぇぇぇぇ!!!!!』

『ああああああ!!!!!熱い!!!熱いぃ!!!』

『火が!?き、機体が炎上し──』

『カチュアさん!?こっちは味──』


「あーあ…可哀想に…味方を平気で殺すのは相変わらずだなッ!」


 爆散する敵のSAFを尻目に、ジャックはブースターを上下左右に不規則に吹かしながら接近する。


『アーハッハッハッ!!!近づけば燃やされないとでも思ったのかい!?そんなんで近づける筈ねぇだろうがァァァァ!!!!』


 カチュアは“ハングドマン”の方向へ火炎放射器を向け、“赤い死神”目掛けて爆炎を放つ。

 ジャックはそれなりに近づいていたため、彼女の視界は近距離で放った爆炎に遮られる。


『やった!ジャックを殺した!ついにアタシは──がッ!?』


 突如、彼女の足元から放たれたレーザーが、“ウィルオウィスプ”の左肘の機構の露出した関節部に着弾。

 機体の左前腕を火炎放射器諸共捥ぎ取る。


「足元がお留守なんじゃないか?」

『なんで…なんで死んでねぇんだよォォォ!?』


 ジャックは、愛機に迫る爆炎をギリギリで下へ潜り込む形で躱し、彼女を足元から攻撃した。


『死ね!死ね!死ねよォォォ!!!』

「ただでさえ武装や機体の性能に頼っているというのに…半減した火力ではな…」


 カチュアは、スラスターを吹かして後ろへ下がりつつミサイルを撃ちながら、残った火炎放射器で爆炎を放ち、ジャックが近づかないようにする。

 その様は、先ほどまでの狂犬染みたものではなく、怯え竦み恐ろしいものを遠ざけようとしているようだった。


「二年越しに討ち漏らした敵だ…今度は逃がさん」

『おい!ギルバートォ!!!見てるんだろ!?早く来いよォ!!!』


 “ハングドマン”は相手の左側に回り込み、ミサイルをレーザーで迎撃しながらブースターを全開にして近づく。


「終わりだ」

『ギルバートォ!!!人形野郎ォ!!!さっさと助け──』


 “ハングドマン”は、“ウィルオウィスプ”のコックピットブロックへ、左手のレーザーブレードを突き立てる。

 カチュアは彼女の乗機諸共爆発四散した。


 ジャックは、母艦へランカー撃破の報告を入れようと通信しようとした。


「こちらギャレット、Eランク帯35位カチュア・レードフを撃破した。…もしもし?」


 しかし、通信は繋がらず不快なノイズしか聞こえない。


「まさか…沈められたか?」


 彼は最悪の事態を想定し、一旦味方の艦隊の元へ戻る事を考えた。


「仕方ない…一旦艦隊の方へ──」

『よ!ジャック!』

「…ッ!?」


 ジャックは全身の鳥肌が立ち、生存本能に任せてブースターを全開にしてその場を飛びのいた。

 直後、彼が先ほどまでいた位置を何かが突き抜け、その後ろにあった艦の残骸が蜂の巣になる。


「なんつー威力だ!?当たったら不味い!それに…今の声は!」

『おっ!ちゃーんと避けたなぁ!感心感心♪』


 ジャックは、コックピットのスピーカーから聞こえてくる、まるで旧友と再会したかのように楽し気な、今ここでは聞きたくなかった声に返事を返す。


「ああ…おかげ様で命拾いしましたよ…ギルバート・グレイブス大尉!」


 先程の攻撃が来た方向には、全身をダークグリーンで塗装した左胸に“逆さまの教皇”のエンブレムが描かれた、城塞を思わせる第五世代重量級機“THI-MH05-CRONUS”…機体名“ハイエロファント”の姿があった。

 その隣には、両肩にパラボラアンテナのような大きな何かを装備した“THI-MM05-HELIOS”が佇んでいる。


 ハングドマンのコックピットのモニターに映る、Cランク帯17位ギルバート・グレイブスという情報が、ジャックの当たってほしくなかった懸念が大当たりだという事を示していた。


 ギルバートは隣の機体に通信で話しかける。


『104号、俺がジャックを殺るか…殺られるまで手を出すな。お前が墜ちればジャミングと通信の割り込みが出来なくなる』

『了解』


 強化人間104号は抑揚のない声でそう答えた。


『そいつはなによりだなァ…ジャック!命拾いして早々悪いんだが…仕事なんでな。お前には死んでもらう』


 彼の宣告とともに、“ハイエロファント”は左肩の大型誘導連装ミサイル“THI-T5-2”を撃ちながら、とても重量級機とは思えない速度で接近する。


「申し訳ないが…上役から墜ちないように厳命されているので…死んでやるわけにはいかないなぁ!」


 それに呼応するように、ジャックもブースターを吹かし、大型ミサイルを迎撃しながら誘導ミサイルを放ちつつ、半円を書くように“ハイエロファント”へ向かう。


『活躍は聞いてるぞぉ!ジャックぅ!お前…レギュレーターズを叩きのめして講和の席に着かせて、“ワルキューレ”を誑かしてヴァルハラとの交渉窓口を作ったんだって?すげぇなぁ…』

『何もかもがうちの上層部の神経逆撫でしてやがるぜぇ!』


 ギルバートは右手に持った大型の銃器、“THI-SG-08”をジャックの“ハングドマン”に向けて引き金を引いた。

 すると、ショットの一発一発が通常のSAF用マシンガンの弾のような大きさの散弾が、“ハングドマン”へ襲い掛かった。


「ッ!?そいつはご愁傷様ってやつですなぁ!憤死しそうなお宅の上司に、ご冥福をお祈りしますって伝えといてください!」

(なんだ今の!?ショットガンどころかショットキャノンじゃねぇか!?至近距離で食らえば最悪一発でお陀仏だ!)


 ジャックは咄嗟にブースターを全開にして直撃を避ける。

 散弾が“ハングドマン”の装甲を削るが有効打には至らない。


 “ハングドマン”はレーザーライフルを連射して、“ハイエロファント”に見事当てるもその装甲を貫く事は叶わない。


『あー…残念だがァ…伝えるのはお前の訃報になる。だが、安心しろ!後からサリヴァンも地獄に送ってやる!そうすりゃてめぇも寂しくないだろォ?優しい先輩を持てて良かったなァ!ジャック!』

(さっきから装甲の隙間や関節部…それに武装に向かって攻撃してやがる…ああ、正解だよ。こいつの装甲は生半可な攻撃は通らねぇ…それこそ同じ個所に何度も攻撃当てるか、レーザーブレードみてぇな超高出力のエネルギー兵器を叩き込む以外じゃぶち抜けねぇ!)


 彼はそういうと、“ハイエロファント”の右肩の武装、ガトリングレールキャノン“THI-RG-06”を発射。

 その圧倒的な火力でジャックを追い立てていく。


「ははは!そいつはご親切にどうも!お礼にできるだけ痛くないように殺してあげますよ!先輩ィ!」

(こいつは…さっきデブリを蜂の巣にしやがった武装か!)


『てめぇの口の減らなさは相変わらずだなァ!ジャックぅ!同情するぜぇ…お前は生き方を改める機会に恵まれなかったんだ!あん時からなんにも変われなかったんだからなァ!』

「変わる必要が無かったんですよォ!あんたと違って…俺は顔も頭も性格も良かったんでねぇ!」


 ジャックは、必死にレールキャノンの一撃を躱しながら、レーザーライフルとミサイル、グレネードを放って応戦する。

 しかし、レーザーライフルは“ハイエロファント”の重装甲を少し溶解させるだけに留まり、ミサイルとグレネードは連射されるレールキャノンと大型ショットガンで迎撃される。


 そんなジャックをギルバートは大型ミサイルで更に追いつめる。

 “ハングドマン”はその攻撃をレーザーで迎撃するが、その分攻撃に割けるリソースが減る。

 その結果、ギルバートは防御に割くリソースが減り、より一層激しい攻撃を仕掛けて来るようになった。


 更に、ジャックはコックピットの計器に表示される、加速度的に減っていくエネルギー残量を見て苦々しい表情を浮かべる。

 度重なるレーザーライフルの使用と、連続でブースターを全開にした事による機体のエネルギー消費量は無視できない程重くなった。


「ははは…こいつはちとキツイな」

(このままじゃ重火力と重装甲で押しつぶされる…!エネルギー切れもあのレールキャノンがどんだけエネルギー食うかわからんが…重量級機って時点でジェネレーターも大型のを積める。こっちが不利だと考えるべきかッ!)


 しかし、対するギルバートもそれほど優勢という訳ではない。

 先程から彼の口数が多いのは、それを必死に誤魔化そうとする虚勢のようなものだ。


『どぉした~?ジャックぅ?随分と声に元気がねぇぞぉ!眠いなら寝かしつけてやろうか?二度と目を覚ませないけどなァ!』

(クッソ…!こいつマジでどんな脳みそしてやがる!?普通はこれだけ追い込まれたら処理能力が追い付かねぇ筈だろうがッ!しかも、こいつ相変わらず鋭い射撃の腕してやがるッ!さっきから関節や武装狙いの攻撃を装甲で受けるので手一杯だ!それこそ、同じ個所に二回以上当たったか気にしてらんねぇくれえだ!これ以上攻撃食らうのは不味いッ!)


 両雄が下した決断は奇しくも同じだった。


((長期戦に縺れ込んだら負けるッ!))


 先に動いたのはジャックだった。

 ミサイルとグレネード、レーザーを一斉に発射。

 ギルバートは自身の全ての武装でそれに対処した。


「やるしかねぇか!」

(潜り込んでレーザーブレードを叩き込むしかねぇ!)


『ぬおっ!?は、ははははは!!!自棄を起こしたかァ?ジャック!』

(根競べは俺の勝ちだッ!…待て、こいつ本当に自棄を起こしたのか?)


 次の瞬間、六発のミサイルとグレネードによる爆発が起きる。

 そして、それを切り裂いて飛んでくる一発のレーザーを、ギルバートはSAFの装甲のまだ攻撃を受けていない箇所で防ぐ。


『あばよ、ジャック。それなりに楽しめたッ!?』

「オルァ!!!」


 先程のレーザーから、間を置かずに飛んで来たレーザーが、未だ彼に武装の照準をつけられていない“ハイエロファント”の頭部のカメラに直撃する。


『ぐわっ!クッソ…この野郎やりやがった!』


 当然、一発レーザーが当たった程度でカメラが破損しないように、第五世代機の頭部パーツはできているが、一時的に視界がホワイトアウトする事は避けられない。


「墜ちろぉ!!!」


 そんな“ハイエロファント”に、“ハングドマン”はレーザーブレードの発振器から光刃を発生させて切りかかる。


 しかし、相手も元ブレイカースクワッドの猛者。

 メインカメラが使用不能と見るや否や、即座に狙撃用のガンカメラに切り替え、ガンカメラの視界から迫りくる“ハングドマン”を視認。


『クソッ!』

(武装を構えるんじゃ間に合わねぇ!)


『オラァ!』

「ぐぅ!?なんだと!?」


 神憑り的な操縦技術によりブースターを微細に駆動。

 レーザーブレードの一撃を躱しながら、“ハングドマン”に蹴りを入れる。


「な、操縦不能!?クソ!今ので姿勢制御装置が硬直しやがったッ!」


 重量級機によるスラスターを全開にした蹴りは、運悪く“ハングドマン”の姿勢制御装置を一時的に硬直させた。


『ハァ…ハァ…てめぇはマジで…相変わらずバケモンだな…だが、俺の勝ちだ!』


 ギルバートは“ハイエロファント”の左腕のパイルバンカー“THI-PB-02”を振りかぶる。


『俺みたいに企業に逆らわなきゃ…企業に迎合して生きてりゃあこうはならなかったかもなァ!死ねぇ!ジャック!』


 その瞬間、ジャックの視界はスローモーションのようになる。

 死に瀕して極限の集中力がそれを可能にしたのだ。

 ジャックはコンソールを高速で叩くと思い切り操縦桿を引いた。


『なっ!?』

「お生憎だが…俺はあんたと違ってそんな生き方をするつもりはないッ!」


 すると、操縦不能に陥った筈の“ハングドマン”がパイルバンカーをギリギリで躱して見せた。


『一体何が…!?てめぇ!姿勢制御装置をオフにしてマニュアルで動かしやがったのか!?』

「ご名答!」


 通常、SAFの姿勢制御装置を切ってマニュアルで操縦するのは無謀そのものである。

 なぜなら、今までは姿勢制御装置がやってくれていた、繊細な姿勢制御や射撃中の反動制御の補助などがなくなり、それら全てを自力でやらなければならなくなる。

 故に、普通ならまともに機体を動かすことなどできなくなるのだ。


 そんな凡百のエースパイロットには不可能な芸当を、ジャックはこの土壇場でやってのけた。


 ジャックはパイルバンカーを外し、姿勢を崩した“ハイエロファント”のコックピット付近へレーザーブレードを一閃。

 “ハイエロファント”のコックピットブロックで小爆発が起き、機体にスパークが走る。

 それでもこの機体は、コックピットブロック以外無事なためか未だ爆散しない。


『ゴハァッ!?クッソ…ははは…マジかよてめぇ…イカレてやがる…』


 コックピットのスピーカー越しに聞こえる彼の声は、ジャックの記憶にあるどんなものよりも弱々しい。


「おい、グレイブス大尉!まだ生きてんならさっさと脱出しろ!後ろの強化人間に拾わせて逃げる間は見逃してやる!だから早く!」


 ジャックは、先ほどまで戦っていた敵手であるかつての戦友に向けて脱出を勧告する。

 しかし、その返答は非常であった。


『そうしたいが…無理だな……さっきの爆発で…下半身が潰れてる…この出血じゃ……どの道助からねぇよ…』

「……ッ!」


 ギルバートはジャックへ尋ねた。


『なぁ…ジャック…お前はなんでそんなに強いんだ?』

「なに言ってんだ…あんたは今俺を追いつめてただろうが…」

『馬鹿…そうじゃねぇよ…ゴホッ……心の話だ…』


 ジャックは少しの逡巡の後、口を開いた。


「そいつは…自分が何をやりたいか…どうなりたいかってのが重要なんだろ?」

『ははは…そうか…ゲホッゴホッゴボッ!…そりゃあ……サリヴァンに…ハァ…教わったのか?』


 ジャックは少し悲し気な声で言った。


「……これはあんたが教えてくれた事だろ?」


 そんな彼の言葉にギルバートも悲し気に掠れた声で言った。


『なる…ほど……な…いつの…間にか……忘れ…ちまって……た…』

「グレイブス大尉?…彼も逝ったか」


 ジャックはかつての戦友の死を悲しみながら、後ろからパイルバンカーを振りかぶって来る強化人間104号の攻撃を避ける。


「無粋な奴だ…」

『ギルバート・グレイブスの死亡を確認。ジャック・ギャレットを排除する』


 マシンガン“THI-MG-03”を発砲しながら、パイルバンカーを叩き込もうとブースターを小刻みに吹かす強化人間104号。


「…正確な狙いだ。実に読みやすい」

『回避された!?あり得ない!確実に当たる筈!』


 ジャックはマシンガンを躱しながらミサイルを放ち、ミサイルを躱そうとしたところにレーザーライフルを数発撃ち込み動きを止め、グレネードランチャーを叩き込んだ。


『こ、これは…で、データを大きく上回って──』


 ジャックは敵の爆散を確認すると母艦へ通信を行おうとする。


『こちらST-6方面防衛艦隊旗艦!聞こえますか!応答してください!』

「ああ、聞こえるよ」

『無事だったんですね!ギャレット最先任上級曹長!』

「すまない、さっきまで敵にジャミングされていてね。通信が出来なかった」


「…敵ランカー、ギルバート・グレイブス並びにカチュア・レードフ、強化人間104号を撃破した。少しばかり弾薬が心許ないので、補給のために母艦へ一時的に戻る」

『り、了解しました!』


 母艦のオペレーターが上擦った声で通信を切ると、ジャックは“ハイエロファント”の残骸を悲しげな顔で見つめながら言った。


「グレイブス大尉、俺の心はあの時から…ずっと弱いままだよ」


 ──ずっと自分の事しか考えてないしな


 そんな彼の呟きは誰にも聞かれることなく消えて行った。

 ジャックは補給のため母艦に向かって行った。


高評価とブックマークありがとうございます!

これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!

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