第二十八話
嵐の前の静けさ
えー、俺は現在B-ST-4基地のトレーニングルームにて、トレーニングをしています。
流石大企業最新式のトレーニング器具が揃ってるね!
これ全部自分とこの系列企業の製品で揃えてるってんだからすげぇな。
「お、これは…よく広告で見たな」
なんか液体で満たされた変なカプセルの中に入って、よくわかんねーのを体に張り付けて微弱な電流だかを流して筋肉に刺激を与えるってやつじゃん!
これSFっぽくてやってみたかったんだよね~♪
クソ高いから我が軍の基地にはないし、自費で購入しようにもまだ兵舎から引っ越してないからこれ置くスペースないし…
「!“#$%&‘U(I)=~{!?」
あ?なんじゃこりゃ!
なんかこれヌルヌルしてて気持ちわりぃ…
しかもなんか静電気でバチバチしてるみたいで不快なんだが?
例えるなら、静電気でパチパチしてる全身タイツを全裸で着てる感じだ。
数分後、ようやく出れたわ…
「うーむ、これの購入はやめておくか…」
「ああ、そうすることをおすすめするよ」
お?誰か話しかけてきたな…
アジア系のおっさん?
あ、こいつ一応アステリアのランカーとして事前に資料で見せられた人じゃん。
確か名前は…
「ソンイルさん、あなたもトレーニングを?」
ソンイル・ハン…名前的に韓国人とかその辺っぽいよな。
ブレイカースクワッド時代にはパクとかリーとかヤマダとかの東アジア系っぽい奴もいたなぁ…
確か、この人は元GISDFのエースパイロットだった人で、Eランク帯36位のランカーでユリウスたちが来るまではここの最高戦力だったらしいね。
下位とはいえ、ランカーを重要拠点には常駐させておけるのは流石大企業だよな。
「ははは…もうおじさんだからねぇ…現役を続けるためにもトレーニングはきちんとやらなきゃね!それより…それは買わない事をおすすめするよ。本気で」
「あー…理由はいくつか想像つきますけど…なんでですか?」
うん、もうあの不快感でちょっと無理。
「…おじさんの知り合いがあれを買ったんだけどね?あれ動かすのに電力を馬鹿食うから、エアコンと一緒に使ってたらブレーカー落ちたんだって」
あー…確かにめっちゃ電気食いそうだよなぁ…
つーかこの液体なに?
我ながらよくこんなクソキモイの使う気になったよな(手のひら返し)
「この中の液体は、自動的に体の老廃物や汚れを取るだけじゃなくて、疲労も取ってくれるって優れものなんだけど…これを再使用のために綺麗にするのに滅茶苦茶電気を使うらしいんだよ…しかも、定期的にこの液体を交換しなきゃいけないからそれで更にお金がかかるんだってさぁ…」
うわぁ…めんどくせえな…
「そもそも、これの使い心地が最悪だっていう人もいるけど…おじさん的には風呂に入りながら筋トレして疲れも取れるってのはありがたいと思うんだけどねぇ…あと、こういうとこにあるのは使いまわしだから、なんかヤダって人もいる」
うわぁ…めっちゃ維持費かかりそう…
機能は良くても…不快極まりないからこれヤダ。
つーか、そうじゃん…これ不特定多数との使い回しじゃん(絶望)
「個人で使うには維持費が恐ろしくかかりますなぁ…まぁ、不特定多数との使いまわしが嫌じゃなきゃ、こういう備品として設置してくれているのをありがたく使うのが無難ですね」
「そうだねぇ…ちょっと維持費がね…ところで、ギャレット最先任上級曹長」
「ジャックでいいですよ」
「じゃあ、ジャック君使い心地どうだった?」
「最悪でした!」
「だよね!あれだけ効果モリモリじゃなかったら、おじさんもちょっと使わないかな!」
「「HAHAHAHAHAHA!!!!!」」
やっぱあれみんなキモイと思ってんだな。
しかし、パーシーといいソンイルさんといい…思ったよりもみんなフレンドリーで助かるわ!
針の筵かと思ったら意外と快適だな!
「おっ!ジャックさんとソンイルさんじゃないすか!」
「お疲れ様です。ソンイル主任、ギャレット最先任上級曹長」
お、パーシー君と誰だこの娘…
いや、訓練の時に見たな…
それだけじゃねぇや、事前に資料で見た顔だな…
確か名前は…
「ああ、よう!パーシーにリュシー」
「やあ、パーシー君にリュシー君。君たちもトレーニングかい?」
「うっす!俺とリュシーもトレーニングっす!」
「先輩…目上の方にはもっときちんとした言葉遣いを…」
そうそう…リュシー・フルカードって名前だった筈。
ランクはFランク帯48位…
シミュレーターだとキルディザスター(笑)よりギリ強いかどうかだったな…
新世代型強化人間で、尚且つ武装を両手両肩で使えてそれって経験不足?
それともそもそもあんま才能無いのか?
そういや、パーシーもFランク帯で順位は46位とかそこらだったような…
同じ新世代型強化人間でもユリウスとは大違いだな…
「そりゃあ何よりだ。パイロットは体が資本だからな」
「うん、先天的な素質はトレーニングである程度伸ばしたり補ったりできるからね」
やっぱ、ソンイルさんも元軍人ってだけあって、“パイロットは肉体こそ資本論”を理解してくれてるな!
ケリー少佐…なんで死んじまったんだ…
あんたがいれば屑共の教導もまだもうちょっと楽だったのに…
「まあ、サボってんのがバレたらユリウス隊長に火花が散るほど怒鳴られそうなんで…俺なんか目をつけられてそうっす…」
目をつけられてるってより、ランカーの新世代型強化人間だし目を掛けられてんじゃね?
なんとなくだけど、あいつの不興を買ったらなにも言われずに使い潰されそうだしな。
小言を言われてるうちは捨て駒にされないでしょ。
俺の場合は捨て駒扱いなのか“どうせ死なないだろって”危険に放り込まれてんのか判別つかねーけど。
ブレイカースクワッド時代そうだったし…
「これでなにも言われなくなったらクビでしょうか?」
「クビで済ませてくれるといいな」
「おじさんからのアドバイスだけど、ああいう上司は小言を言って来たら内心どうあれ殊勝な態度をとる方がいいよ。不興を買ったら捨て駒にされかねないからね」
「怖い事言わないでくださいよぉ!」
やっぱ、ユリウスってそういうタイプだと思われてんのな。
「おや、我が方のランカーが勢揃いですか…まぁ、その殊勝な心掛けに免じて貴方たちの言動には目をつぶって差し上げましょう。ありがたく思いなさい」
噂をすればユリウス。
メガネくいってしてる…
「いやぁ…どうもすみません…ははは…」
「慈悲深い上官殿に心より感謝を」
「申し訳ございません…」
「いやぁ…あはは…すみません…」
「……」
つーか、トレーニング中もメガネ外さないの?
「まぁ、いいだろう。罰として私のトレーニングに付き合いなさい…ウォリック」
「え゛っ゛」
パーシー完全に目をつけられてて草
「貴方が普段からさぼってないか見て差し上げましょう。光栄に思いなさい」
「うっす…」
「サボっていた事が判明した場合、貴方が言った通り火花が散るほど怒鳴ります」
「全部聞いてらっしゃった…」
パーシー君が助けを求めるようにチラチラ見て来る…
隣にいるソンイルさんの方を向く、彼は無言で頷いた。
それに俺も頷いて、二人でパーシー君にGISDF式の敬礼を送る。
見捨てられたパーシー君は凄い顔で連れていかれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「──と、まあこんな感じなんですよ」
『お前楽しそうだな』
俺は基地の通信室で、ユリウスに許可を貰ってサリヴァン総司令官に近況報告をしている。
お互いに状況を把握すべきだからね。
特に俺の場合はアステリア内部の状況とかも報告しないとだしねぇ…
『しかし、これは本当に講和が成立してよかったな…戦争継続などゾッとする』
「ええ、本当に…兵員の数が多いのもそうですが練度も非常に高い」
そりゃあ、全部合わせたら数では勝ってるはずの惑星AL4近辺のコロニー駐留艦隊が殲滅されて、コロニーのほとんどが白旗上げるわけだわ…
まぁ、そりゃあそうか…うちは星系一つなのに、向こうはいくつも星系を支配下に置いてるもんな…
総兵力だけでうちの星系の全人口より多いし…
「なにより…ここが重要拠点とはいえ本拠地だけでなく、地方星系にある拠点にすらランカーを常駐させられるのですから…」
『うむ、戦力の圧倒的な差を痛感させられるな…』
うちの星系は本拠地や最重要拠点のAL4近辺に、俺やサリヴァン総司令官、バレット中尉といったランカーが集中してるしなぁ…
本当は星系外縁部にもランカーを配置したいんだろうが…
何度か俺がいなきゃヤバい場面もあったからなぁ…
「それと…第五世代機SAFの配備状況ですが…」
『なにかわかったのか?』
「現地の仲良くなった隊員に聞いてみたところ、第五世代機は高性能ではあるものの非常にピーキーなため、現在はランカーへの集中配備となっているようです」
『ふむ…流石にあれを量産して配備という訳にはいかなかったか…とはいえ、データが出揃えば操縦を簡単にした量産型モデルが出てもおかしくはないか…』
「ええ、実際に第四世代機もそんな流れでしたからね…」
マジでうちに攻めてきたのが第五世代機の軍団できる前でよかったわ…
流石に第三世代機じゃ厳しいわ…
もしそうなってたら何機か叩き落してから力尽きるのが目に見えるな…
『ああ、そうだ!うちの星系でも第四世代機の配備が始まったぞ』
「おお!それって、アイアンクラッド・インダストリーが開発していた、コグネイトの頑強さと信頼性を受け継ぐっていう機体ですか?」
『おう、周回遅れではあるが…遂にうちの星系も自前の第四世代機が手に入った。この調子で、純アルビオン製の第五世代機作るって息巻いてるぜ?』
アステリアからの技術提供が相当デカかったみたいだな。
まぁ、元々自前で開発してた分の蓄積なんかもあったんだとは思うけど…
「それサリヴァン総司令官にも回されたんですか?」
『おう、防衛軍総司令官の権限フル活用で手に入れたぞ。スペックはまあまあだが…乗り心地はなぁ…軍で乗ってたラボロのが良かった』
「あー…やっぱその辺のノウハウは一朝一夕じゃ得られないですからねぇ…」
やっぱその辺は大企業が強いよな…
GISDFに売り込む前に自分とこの私兵に使わせてデータ取るとかできるし…
『エネルギー兵器の開発も始めたらしいが…どうしてもその辺はなぁ…』
「競合が強すぎますしねぇ…関税も撤廃されてるせいで下手するとアステリア製のが安いとかあり得ますし…」
『そうなんだよなぁ…』
相互に関税を撤廃したせいで、今までよりお安くアステリア製品が市場に出回るようになっちゃったからなぁ…
おかげで経済への損害も結構ヤバいらしい…
それでもこの条件飲まないと、戦争かもっと条件の悪い他の企業の傘下に入らなきゃならんという…
それでも戦争継続を強硬に主張してた、他の企業とのつながりのある財界の大物が“事故死”したり“病死”したりしたってよ。
怖いねぇ…
まぁ、元々は相互じゃなくてこっちが一方的に関税撤廃する筈だったから、ヴァレンタイン議員もかなり頑張ったんだがね…
え?星系が特定の企業に対して関税を掛けれるのか?
うん、掛けられるよ?なんでかっていうと、大企業が自分の縄張りから他の大企業の製品を締め出すために、元老院に働きかけて法律作らせたから☆
糞かな?
『まぁ、一応今の内に技術力の差を取り戻して売れる製品を作ろうとしてるみたいだが…』
「アステリアの勢力圏になったので、他の大企業の勢力圏から見事に締め出されましたしねぇ…」
『ああ、正確には“ヴァルハラ・サイバネティクス”以外のだがな』
「……」
すごく戦乙女のパパからの圧を感じます。
ヒルデをフッたらこれどうなっちゃうの?
…流石に公私混同してアルビオン星系になんかしたりしないよね?
『安心しろ、“これは”お前になにか関係してるってわけじゃない。ヴァレンタイン議員が、ステラリウム利権を餌にヴァルハラと交渉してたらしいんだ』
「なるほど…」
じゃ、あのメンヘラ戦乙女をフッても大丈夫ってこと?
「それなら!俺が──」
『まぁ、お前が発狂したヒルデにぶっ殺されても忖度しなきゃいけなくなったんだけどな?』
糞かな?
大企業ってそういう事するのよね。
マジであいつら法をなんだと思ってんだよ!
「なんとかなりません?」
『ごめん無理。ヴァルハラの会長の娘に目をつけられたわが身の不幸を呪ってくれ』
「Oh…」
これどうすりゃいいの?
『まあ、そんな事より』
「そんなこと?」
一大事なんだが?
『アイアンクラッド・インダストリーズの第四世代機、“ICI-F04-WARBUDDY”はお前以外の我が軍のエースパイロットなどの優秀なパイロットへ優先配備されている』
ウォーバディ…戦友ねぇ?
血族とか同族なんて意味のコグネイトに引き続き、周りとの繋がりを重視しているような名前だな。
コグネイトの流れを汲む、耐久性と信頼性がある機体にはおあつらえ向きだね。
「それじゃあ、バレット中尉も?」
『ああ、彼だけでなくお前が目を掛けている者たちにも渡っている』
おお!じゃ、シドウ軍曹にコールリッジ軍曹も乗り換えか!
良かったな!シドウ軍曹!
主人公らしい乗り換えイベントだぞ!
『中でも目覚ましいのはアサクラ伍長だな』
「え?」
おい…待ってくれよ?あいつまだ養成所にいる候補生じゃ?
『ああ、言い忘れてたな。彼はお前がレギュレーターズに出向した後、下士官養成課程を最短でこなして第1パトロール艦隊に配属になった』
嘘でしょ?AL4αコロニー駐留艦隊じゃなくて?
これ俺の背中を撃ちに来てるよね?
『その後、何度かの海賊との戦いでSAFを計五機撃墜し、晴れてエースの仲間入りというわけだ!やはり、お前の人材を見つけて来る相馬眼には目を見張るものがある…』
「ありがとうございます(震え声)」
『どうだ?戻って来たら、本土やAL4αコロニー以外に行って人材発掘してみないか?』
「やります!!!!」
『おお!やってくれるか!』
なんとかしてレンくんから逃げなきゃ!
じゃないといつか俺か彼のどちらが発端かは知らないが殺し合いになる!
今まではどうせ第三世代機だし、性能差で圧倒してしまえば主人公もお陀仏だと思ってた!
でも、あいつ第四世代機に乗り換えちゃったじゃん!
主人公じゃない俺でも一世代の性能差なら技量や経験なんかで簡単に覆せるのに、主人公が出来ないわけねぇよ!
俺もうレンくん殺し合いになったら最悪負けて死ぬじゃん!
バレット中尉や第1SAF中隊のみんなには、頑張って俺を殺しちゃいけない理由を積み上げてもらおう!
巨乳でクールビューティーな、カウラネン少尉の小隊に配属になったなら、ワンチャンレンくんを繋ぎ止めて…駄目だ…リア充になられたら俺が嫉妬の余り殺したくなる(憤怒)
「…ところで、アルビオン星系の防備のほどは?」
『ああ、アステリアから防衛用の対艦攻撃衛星を買ったが…相手が大企業だと心もとないな…』
「ランカーがいたら攻撃をすり抜けて、衛星を破壊しかねないですからねぇ…そうでなくとも、相手の物量次第では人海戦術で押し流されますし…」
流石に厳しいか…
アステリアの増援や俺の帰艦まで持ちこたえてもらうしかないな。
『ああ、だが俺も第四世代機に乗り換えたんだ。お前が戻るまでなんとか持たせてみせるさ!』
「俺が帰る前に片づけてくれてもいいんですよ?」
『おいおい!掃除の手伝いくらいしてくれていいだろ?』
お互い強がりなのはまるわかりだな…
「こちらが片付いたらすぐに戻りますので…なんとか持ちこたえてください」
『ああ、持ちこたえてみせるさ。それじゃあ、武運を祈る』
「ありがとうございます。…ご武運を」
さて…俺たちの思い過ごしならいいが…
どうにもさっきから悪寒がしやがる…そろそろ仕掛けて来るか?
『レギュレーターズ各員!至急ブリーフィングへ集合してください!』
こりゃあ…ヤバそうだな…
マジで…ユリウスの時と同じかそれ以上に悪寒がする…
「そういや、ブレイカースクワッド時代に…彼は退役後に大企業に就職するって言ってたな…」
連絡取れなくなったから知らないけど…
あの人…タイタン・ヘヴィ・インダストリーズに行ったのか?
「あの時言いましたよね?ギルバート・グレイブス大尉」
戦場でかち合ったらお互い微塵も容赦はできないって…
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