第二十六話
嵐の前の静けさです。
「結婚を前提にお付き合いしてください!」
「あー…すまないが…私よりもっといい相手が──」
「いるわけないじゃないですか!!!」
俺はAL4αコロニーの下士官養成所で教官やりに来ていました。
そしたら訓練の後、なんか教え子が“すみません…ギャレット最先任上級曹長…今お時間大丈夫ですか?”って言って来たからついてったのね。
そしたらこれだよ。
「あー…落ち着きたまえ。一体全体どうしたというのだ?」
お付き合いなら兎も角、結婚を前提にってのがやだ。
だって重いもん…
そもそもお前は未成年だから恋愛対象として論外だわ
しかも、俺コイツに対して全然の好意も抱いてないよ?
精々「こいつちょっとその辺の女より見てくれが良いな~」くらいだよ。
ぶっちゃけ、俺がこいつと結婚する確率と俺とバレット中尉が結婚する確率なら、バレット中尉と結婚する確率のが遥かに高いからね?
「この星系に、ギャレット最先任上級曹長以上の優良物件って、そうそういないじゃないですか!それに顔が良くて声も良くて性格もいいじゃないですか!おまけに私の事をこんなに気遣ってくれたじゃないですか!!!」
ああ!仰る通り!
超絶優良物件の超絶イケメンでごめんな!!!
ところでお前誰だっけ?
興味ねーから名前忘れちゃった(屑)
「しかしだな…そういうのは…もっとお互いの事を深く知った上でだね…」
「ギャレット最先任上級曹長は、私が知らない私の事を知っていますよね?じゃあ、私にあなたの事を教えてくだされば、お互いにお互いを深く知っている事になります!」
「そうはならんだろ」
なんだこいつ!?
お前の知らないお前の事って…お前が把握してないお前の限界やポテンシャルだろ?
つーか…なんで好きでもねぇ相手に俺の個人情報を開示する必要があんだよ!
「ユーマ…またやってるわね…」
「うん、これで今週三人目だね」
シドウくんにコールリッジちゃん、見てないで助けて?
「何の騒ぎだ!?」
「…ギャレット最先任上級曹長とアンナ?…そういやあいつ最先任上級曹長にアタックするとか言ってましたよ?」
バレット中尉とレンくん!?あの二人役に立たないから代わりに助けて!
「なにぃ!?アタック!?彼女はギャレット最先任上級曹長へ攻撃を仕掛けるつもりなのか!?」
うーん…まぁ、ある意味攻撃って言えば攻撃だな。
「いえ、告白するって事です」
「ああ、なんだ…そんな事か…じゃ、野次馬を敢行することにしよう」
「そうですね、中尉」
ふざけんなお前らマジ使えねぇな!
俺が明らか困ってるだろ!?
助けろやカス!!!(屑)
チッ!やっぱいざって時に頼れるのはわが身だけだよな…
戦場で俺はそう学んだ。
「いいか?俺が君の知らない君を知っているのではない…君が君自身の事を把握していないだけだ。そして、私にとって君はあくまでも数多くの教え子の一人であって、特別な相手ではない」
「そもそもだ…我々教官が君たちへ気を配り、相談などに乗るのはそれが職責だからだ。決して君に対して特別な感情があるからではない。故に、私は君とこれ以上の関係になるつもりもない。…恋人や配偶者にするなら、私の様に仕事で気に掛けているだけの者ではなく、本心から自身を案じてくれる者を選びなさい」
おー…泣きながら走ってった…
泣きてえのはこっちだよ!
「ギャレット最先任上級曹長…もうちょっとやんわり言ってあげるべきだったのでは?」
「…コールリッジ軍曹、それでは意味が無い…中途半端に希望を持たせたままで終わらせる方が却って残酷だ」
私はそれを“ワルキューレ”食玩事件で学びました。
その前にメッセージで“上官と戦友ぶっ殺しておいてよく近寄ろうと思えたね”って送っておけば…
SAFで殴り込みに来そうだな…
彼ピ(勘違い)じゃなくて、普通にこの前仕留め損ねた敵になるしなぁ…
「いやぁ…流石はギャレット最先任上級曹長!モテモテですね!」
「しばかれたいのかね?」
バレットくん?野次馬を敢行するとかやってた奴がそんなん言うのか?
白々しいぞ!
まぁ、付き合うかどうかで賭けとかしてなかっただけ良しとしよう。
ちなみに俺は養成所時代に同期たちとそういう賭けやってた☆
ブレイカースクワッドに入れられたとき、先輩たちに俺が初陣でくたばるかどうか賭けの対象にされたなぁ…懐かしい…
俺?俺はむかついたから、サリヴァン総司令官に頼んで俺の生還に賭けてもらったよ。
見事大勝ちして二人で有り金巻き上げて山分けしたなぁ…
「あははは…その…一応彼女も本気だったみたいなので…邪魔したら悪いかなって…」
「まぁ、確かに…人間は失恋などの経験を経て成長していくものだしな…ノルマは三倍で勘弁してやる」
「え゛っ゛!」
当たり前だろ、お前俺を助けなかったじゃん。
コールリッジ軍曹?あの娘はアンナ?だかの側に近いし…
この前あのメンヘラ戦乙女(幼女)とデートさせられた日も、メッセージでデートしないかって送って来てたし…
普通に考えて、成人男性が未成年からアプローチされてOKしてたらやべぇよ…
「まぁ、正直こうなるのは目に見えてましたからね。皆から尊敬され、敬愛される“英雄”である最先任上級曹長が、未成年相手に手を出す筈がないんですから」
「もし手を出してたら……“幻滅”していましたね」
レンくん!?なんかすげぇ言葉に棘があるんだけど!?
やっぱこいつあれか!?
俺に対する復讐とか目論んでる!?
“英雄”と“幻滅”の所にやたら感情が籠っていたような…
「ああ、当然だ…そもそもお前たちのような子どもは……戦場に送りたくなかったんだがなぁ…」
思春期のガキほどめんどくせえ生き物はいねぇ…
戦場でガキのお守りなんざごめん被るね。
養成所出たばかりのガキだった俺は…サリヴァン総司令官によく迷惑かけてたかもなぁ…
まぁ、その分何度も命を救ってる(“ワルキューレ”が俺をめっちゃ優先的に襲って来る)からセーフって事で!
「……」
レ、レンくん?どうしたその顔?
凄い顔してるけど?
まるで肉親の仇が肉親に似た人間だった時みたいな顔だよ?
俺が殺した中にこいつの肉親いるのか!?
彼のフルネームはレン・アサクラ…
アサクラか……まさかね…
「…もう疲れただろう?さあ、君も寮に戻ってゆっくり休むといい。三人も今日は無理を言って来てもらってすまない。本当に助かった!」
「いえ、我が軍の将来有望なパイロットの成長の糧になれるなら本望ですよ!」
「先輩として、後輩にしてあげられる事があって嬉しいですよ!」
「レンくんも良い子だし、みんな熱心だからこっちも嬉しくなりますよ!」
バレット中尉…シドウ軍曹…コールリッジ軍曹…みんな良い奴だ…
戦乙女(幼女)曰く、俺が留守中にこの星系を襲うらしいし…
この後のタイタン・ヘヴィ・インダストリーズの報復で死なないで欲しいな…
だって、レンくんの復讐者ゲージ溜まりかねないし…
「そう言ってもらえると助かる…私はしばらくレギュレーターズに出向しなくてはいけなくてね…」
「…やはり、気が進まないんですか?」
レンくん!?君さっきから怖いよ!?
これ下手な返答すると“幻滅”されるな?
それに…三人も聞いているからなぁ…
よし!悲劇の英雄っぽいムーブでもしておくかな!
「ああ…実はGISDFにいた時から思っていたんだ…企業の暴虐に晒された人たちが立ち上がるのを叩き潰す私たちは……本当に正義なのかとね…」
「そりゃあ、私たちが出てきた時点でかなりエスカレートした事をやっているから…仕方ないと言えば…仕方ないんだろうが…そんなになるまで彼らを放置したのは我々だからな…」
「まぁ、今回も講和条件にあったとはいえ…なぁ?」
めっちゃ思う所ありますよって感じ出しておこう!
「ギャレット最先任上級曹長…」
(やはり…彼の背負う重荷や抱えている葛藤は……俺たちでは想像もつかないほどだろう)
よし!バレット中尉はなんか顔的に無力感を感じてるな!
残り三人はどうかな!
「それは…そうですよね…」
「つらい…ですよね?」
よーし!シドウ&コールリッジペアもクリア!
「ッ!?」
レンくん!?レンくんどうしたその顔!?
なに!?なにを思ってる顔なのそれ!?
幽霊でも見たような顔だよ!?
「まぁ、致し方無いさ…俺にできるのは…少しでも流れる血が少なくなるようにする事だけだ」
顔も名前も知らん連中がくたばろうがどうなろうが知らんけどな!
まぁ、流石に民間人虐殺しろって言われたら断るけども…
それで追われる身になったら?
…機体持ち逃げして“ヴァルハラ・サイバネティクス”行きだな。
ワンチャン生き残れるし。
「…不躾な事を聞いてしまい、申し訳ございませんでした」
ほんとだよ!反省しろよお前!
やっぱコイツ主人公じゃないんじゃね?
世界に対して復讐するとか考えてるラスボスじゃね?
いや、復讐鬼やラスボス系の主人公の世の中にはいるし…
俺が転生してなけりゃ、この世界はロボゲーやアニメの世界なんかじゃないって思えたのか…
いや、そもそもエースでもない単なる一パイロットで終わってたか?
どっちが良かったんだろうね。
「なに、気にする事はないさ。だが、覚えておいてくれ…正義は時に残酷なものだ。人間は自分の行いが正義だと確信した時、自分を見失うことがある」
「自問自答をしろという訳ではないが…引き金を引くという行為には、重い責任が伴うという事だけは忘れないでくれ」
だから、レンくん…頼むから俺の事寝首を掻こうとするなよ!?
重い責任が伴うからな!?俺は最先任上級曹長だぞ!!!アルビオン星系の英雄だぞ!!!
それを害するってすっっっっごくヤバいって自覚してね!!!!
でも…もしそれでも俺を殺すって言うなら…
お前を殺さなきゃいけない
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
中央星系から遠く離れた地方星系、スタリオン星系。
ハビタブルゾーンには、第4惑星“ST-3”という居住惑星がある。
また、この星系は“アステリア・エレクトロニクス”の勢力圏であり、数多くの貴重資源を算出するため、常に数十隻以上のレギュレーターズの艦隊が常駐している。
ST-3にある、同星系最大のレギュレーターズの基地“B-ST-3”。
アステリアは、“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”はこの星系への侵攻を企図しているという情報部からの情報を基に、ここへ数十隻規模の艦隊と複数名のランカー、“赤い死神”ジャック・ギャレットを増援として送る事を決定した。
“B-DT-3”司令部には、とある男の姿があった。
「私を含め…複数名のランカーの増員ですか…ふん、偶には上層部も迅速な決断をするものだ」
ユリウス・フォン・アトラス、現在Cランク帯18位のランカーである。
彼はジャックに敗れた後、レギュレーターズへ復帰して早々格上のランカーを撃破。
自身を侮る者たちへ、その極めて高い実力を見せつけることに成功した。
そして、今回のスタリオン星系防衛の指揮官を任される事となる。
「物資搬入の進捗状況はどうなっているのです?」
「八割方完了しています。予定より少し早く終わる見込みです」
「ふむ、よろしい。引き続き作業を行うよう伝えなさい」
「承知いたしました」
副官からの報告を受け、ユリウスは顔色一つ変えずに返答した。
「それで…奴の到着はいつ頃になる?」
ユリウスは副官に対し、やや眉間に皺を寄せながらそう言った。
副官はそんな上司の様子を見て、若干胃痛を感じるもそれをおくびにも出さずに答える。
「予定では二日後になるかと…」
「そうですか…ふん、態々私の下へ奴を寄こすとは…上層部…いや、あの下劣な男のやりそうなことだ」
不機嫌そうな顔でそう言ったユリウス。
彼の脳内には父の政敵の顔がちらついていた。
「まぁ、いいでしょう。彼奴の派閥にいる役立たず共を送り込まれるよりは遥かにマシだ」
そんな不機嫌そうな上司の姿を見て、胃痛を感じる副官。
(よりにもよって…彼の経歴に泥を塗った男を寄こすのか!?)
(せめて別々で運用してくれよ!)
そんな副官の胸中など知らずに、ユリウスは今後の事を考える。
(あの愚か者は私に奴を…ジャック・ギャレットを使う度量がないと思っているのだろう。それで失点をすれば派閥間抗争で優位に立てると?愚かな…)
(“ワルキューレ”が持ち込んだ情報が確かなら…タイタン・ヘヴィ・インダストリーズはアルビオン星系にも仕掛けて来る筈…)
(それで講和を結んだ利点が無に帰り、私が醜態を晒せば父の失脚は免れないと?ふん、どこまでも舐めた真似をする男だ!)
「どこまでも頭の悪い…!」
ユリウスの怒りが滲み出た声色に、副官は今の上司の勘気に触れぬよう目を合わせないようにする。
(これ…ギャレットが着いた瞬間殺し合いにならないよな!?大丈夫だよな!?)
(お、落ち着け…ユリウス隊長は神経質で恐ろしいが…感情に任せて馬鹿な事をする人ではない筈だ!)
副官は必死に祈った。
(頼むから…隊長を怒らせるような真似はしないでくれよ…ジャック・ギャレット!)
彼の声にならない叫びは、誰にも聞かれることなく消えていった。
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