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第二十一話

ジャックの心が休まる時はない。

「クッソ…どうしてこうなる!」


 なんで海賊を血祭りに上げただけでこうなるんだ!

 フー…落ち着け…冷静になるんだ。

 とりあえず、こういう時は落ち着いて状況の整理を行うんだ。


 えー…強化人間たちはやって来た医療班たちが収容していったよ。

 なんでも、手順を間違えると中の人が危険なんだってさ。


 はぁ…ようやく楽しく雑魚狩りができたと思ったのに…


 しかし、レン・アサクラか…


「明らかになにかありそうな名前だよな…」


 シドウ軍曹とアサクラくんのダブル主人公?

 でも、シドウ軍曹は初めてあった時、思い詰めまくって強化人間になろうとしてたし…

 シドウくん…もしかして故郷も家族も仲間も全て失って、闇落ちした敵キャラとかだった?


 え?じゃあ、これ…物語の過去編とかの時間軸?

 いや、落ち着け!これは現実だ!ゲームやアニメじゃない!

 でも…俺転生してるし…

 ひ、一先ずはこんなことを考えるんじゃなくて状況の整理に戻ろう!


 艦を拿捕した際に送り込んだ陸戦隊から聞いたんだが…

 どうやらあの屑どもは、見た目の良い人間を捕まえてから、闇医者に犠牲者を強化人間に改造させて売り飛ばしてたらしい…

 強化人間はそのまま売ってたってよ。


 ちなみに、大企業以外の強化人間手術って成功率20%くらいだし、最新技術無しだから身体能力も空間認識能力と反射神経以外それほど上がらない。

 ジョン・ドゥが贔屓にしてる闇医者だと成功率12%だってよ。

 ひでぇな!


「しかし…彼らも気の毒だよな…すでに死亡した扱いで戸籍が無いとか…」


 胸糞悪い事に“商品”のリストに戸籍抹消済みとか書いてあったってよ。

 この世界で戸籍が無いってことは人権がないに等しいんだよなぁ…

 まぁ、戸籍あっても権力者の都合でぶっ殺されるんだけど…


「戸籍がなきゃまともな仕事に就けないしなぁ…それこそ傭兵やるか売春、犯罪組織に入るとかがマシな選択肢ってくらいだからなぁ」


 最も、その三つでもあっさり死ぬけどな。


 傭兵は、使い捨ての兵隊の代わりに使い潰される捨て駒がほとんどで、コネがあるか捨て駒にされて何度も生き延びる豪運凄腕野郎だけが、ランカーになって名前を世に知らしめることができる。


 売春だが…これはまず、戸籍がない奴を雇うとこってまともじゃないんだよね。

 だから、客も性病持ちばっかりだし、性病にかかっても店側は稼げるうちに稼ぐって平気で使う。

 治療?この世界は国民健康保険ないから、アメリカみたいに保険入ってないと死ぬほど高い金を取られるよ?

 そもそも戸籍ないから保険入れないし、まともな病院は受診できないよ?


 犯罪組織に入る?今ここで死にたいって事?


 で、戸籍を手に入れるには…身寄りのない死人の戸籍を乗っ取るか、偽造するかなんだよね…

 役所で戸籍を作る?それできないんだよねぇ…

 これ明らかに上の意向で、無戸籍者が戸籍を新しく作れなくしてる?


「闇が深いな…」


 まぁ、上が行方不明や戦死扱いにした見た目の良い人間を玩具にしてるとか、気に入らない奴を死んだことにして企業に検体として流してるとか聞くし…

 つーか、俺も何度かされかけてんだよね…

 顔の良さが気に食わない奴と俺の顔を気に入った奴なんかに…

 ま、どっちも上官だったから“流れ弾”で名誉の戦死を遂げてもらったけど。


「しかし…どうしたものか…このままでは戸籍の無い人間を何人も放り出すことになる…野垂れ死ぬか犯罪者になるかの二択だぞ…」


 まだ、子供だったら親が出生届出し忘れてたって事で、誰かの子どもにして誤魔化せるんだが…


「大人はできないようにされてるんだよなぁ…」

「如何せん若い男女ばかりだったからなぁ…なんとかしてやりたいが…若い者は発育が良い十五歳って誤魔化したりできるが…」

「二十代や三十代となると…流石に誤魔化しが効かなかったりするしなぁ…」


 戦力足りてないし…まぁ、強化人間ならうちの低練度カスパイロットよりかは物覚えもいいだろ。

 何年か兵役に就くとかの条件で、彼らに戸籍を与えられないか打診してみるか…


 少なくとも、そういうので戸籍与えるのは合法だったからね。

 一定期間、どっかに雇われた事でまともな人間だって証明したら、戸籍を貰えるって法律があった筈…

 戸籍の無い傭兵を企業が私兵として抱え込む際に、勧誘するための餌に戸籍とかあるし…


「これ戸籍が作りにくい理由の一つじゃね?」


 企業が政治家どもに圧力かけて、クソみたいな法律作るのはいつもの事なんだよなぁ…

 戸籍まで玩具にしてんじゃねぇよ!


「まぁ、なんにせよ打診してみるしかないな…サリヴァン総司令官ならわかってくれるだろ」

「強化人間でも、あまりにも向いてない奴はまぁ…後方支援とかの方で使うって感じで…野放しにして犯罪者になられるよりは良いって事で押し切るか?」


 とりあえず、艦隊司令たちに話を通してからサリヴァン総司令官にお伺いを立てるか…

 こういうので、直属の上司を飛び越えて上と話をすると、話やら関係やらが拗れるんだよなぁ…


 でも、軍内の序列では俺の最先任上級曹長の階級は中将より上なんだよね…

 別に艦隊司令を無視しても問題はないんだが…

 後々面倒くさいから、形だけでも承諾を取っておくか…


 なんなら、代わりに艦隊司令から上申して貰いたいね。

 その方が楽だし。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ブリストル、通信室。

 ここでは、宇宙を航行する艦内からAL2やAL3などの居住惑星やコロニーに通信ができる。

 ジャックは司令と共に、AL2のアルビオン防衛軍司令本部にいるサリヴァンに、ここで保護した強化人間の処遇に関する連絡を取っていた。


「──という訳で、ギャレット最先任上級曹長の提言通り、ジョン・ドゥの艦から保護した強化人間を防衛軍などで使う代わりに戸籍を与えたいのです。閣下にも是非お力添えを頂きたく存じます」

『なるほど…しかし、全員が全員、軍人に適性があるとも限らんしな…非戦闘員として雇用する者もいるだろうし…一先ず参謀本部にも話を通しておく』

「ありがとうございます、閣下」


 艦隊司令は今回の一件の報告と、強化人間たちの処遇に関する上申を行っていた。

 幸いにも、防衛軍総司令官であるサリヴァンはそれを好意的に受け止める。


「それと、未成年の強化人間ですが…」

『うむ、とりあえず軍内で里親になってくれる者を探そうと思う…ヴァレンタイン議員にも話を通しておくし、その時に政財界から里親を探すこともできるかもしれん』

『里親が見つからなかった子どもたちは俺が出生届を出した後、養護施設に送る事になるだろう』


「なにからなにまで…ありがとうございます!」

『気にすることはない!これは我が軍にっても必要な事だ!しかし、お前たちからこういう提案をしてくれたことを嬉しく思うぞ!』


 サリヴァンは、将兵の質とモラルの低下が著しい防衛軍において、高いモラルを維持している部下たちの姿を心から嬉しく思っていた。


「は、ありがとうございます。サリヴァン総司令官のおかげで、彼らに少しでも救いの手を差し伸べることができました」


 ジャックは、そんなサリヴァンの言葉に少し嬉しそうな顔で応じた。


 彼は内心で他者をボロクソに罵ったり、貶したり、事あるごとに殺害が選択肢に入るような男だが、少なくとも何の恨みもない悪人でもない相手が不幸な目に遭っている際に、助けてやりたいと多少は思う程度の善性はある。

 故に、この嬉しそうな表情には特に裏はない。


「報告は以上です。後程、正式に書面による報告を行います」

『うむ、わかった。本当によくやってくれた。諸君らの働きに感謝する』


 そう言って、サリヴァンとの通信は終わった。


「司令、今回は本当にありがとうございました」

(でも、どうせなら俺と一緒じゃなくて一人でやっておいてほしかった…)


 通信を終えると、すぐにジャックは艦隊司令に礼を言った。

 内心の不満は隠しながら…


「いや、礼を言うべきなのはこちらの方です。ギャレット最先任上級曹長がいなければ、ジョン・ドゥによって第1パトロール艦隊は壊滅させられていたかもしれません」

「司令…そう言って頂けるなら幸いです」

(思ったんだけど、あいつが来たのって俺を拉致して売り飛ばすため?俺が敵を引き寄せた?…気づいてないなら言わんとこ)


 そんな彼らの会話を盗み聞きしている4人の少年たちがいた。

 彼らはカプセルから出され、医務室のベッドの上に寝かされていたところ、隙を見て脱走したのだ。


「あー!なにも聞こえない!この扉どうなってるのよ!」


 そう言って、会話が聞こえない事に腹を立てているような様子の茶髪の少女。

 そんな彼女の隣にいる金髪の少年が咎める。


「おい、アリス。大声出すなよ!見つかっちまうって!」


 そんな彼の言葉に、アリスと呼ばれた茶髪の少女は反論した。


「レックス…あんたこそ大声出してるじゃない…大丈夫よ。向こうから聞こえないなら、こっちからも聞こえないだろうし…」

「それに、この辺りに来る人の“気配”も感じないわ」


 アリスはそう言うと、先ほどの自分の様にドアに耳を当てている、黒髪に青いメッシュの入った彼らの中でも年長に見える少年…“レン・アサクラ”に尋ねた。


「で?そっちはどうなの?中でなんて言ってるかわかる?」


 レンは扉から離れ、彼女の問いに答えた。


「ああ、ドアの向こうでのことならちゃんと“視えた”…どうやら、この人たちは俺たちを売り飛ばそうとしてる連中の仲間じゃないらしい」

(なんだ…あの男…ずっとこっちに意識を向けていた…“覗いて”たのがバレている!?)


 そう言った彼に、一番後ろにいる坊主頭に褐色肌の少年が尋ねた。


「じゃあ、僕たちはどうなるんだ?あいつらは一体何者なんだ?」


 そんな彼にレンは首を横に振って言う。


「それは後で話そう。今はここから離れないと、もうすぐ彼らが部屋から出て──」


 “もうすぐ彼らが部屋から出てきてしまう”彼がそう言い終わる前に、ジャックたちが通信室から出てきた。


「保護した強化人間か…ここでなにをしている?」

(さっきからドアの前から感じてる気配ってこいつらだったのか…)


 ジャックが四人に向かって尋ねる。


「や、ヤバい!逃げないと!」

「あ、あの違うんです!アタシたちは!」

「ひぃ!殺さないで!」


 レンを除いた三人が焦る中、彼は落ち着いてジャックに話しかけた。


「兵隊さん…ですか?勝手にうろついてごめんなさい。俺たちは目が覚めたらベッドが沢山ある部屋に寝かされていたんです…てっきり、あいつらが俺たちを売り飛ばすためにカプセルから出したのかと…」

(俺たちが保護対象なら、なにも知らなかったと言えば脱走した事への追及は少なくなるか?一先ず、盗み聞きしていたことをバレないようにしなければ…)


 申し訳なさそうな顔で言う彼に、艦隊司令は警戒を解いて言った。


「ああ、ここはアルビオン防衛軍第1パトロール艦隊旗艦ブリストルだ。ここには君たちに危害を加える者はいないから安心してくれ」


 そう言った艦隊司令にジャックは言った。


「本来なら、スパイの可能性も考慮して拘束すべきなのでしょうが…相手が相手で事情が事情です…どうしましょう?」

(真主人公かもしれないから恨みは買いたくない!でも、マジでスパイだったら俺の責任になりかねない!どうしよう!?)


 彼は少し困ったような顔で、艦隊司令に尋ねた。

 そんな彼の脳内には保身のことしかない。


 そんな事は露知らず艦隊司令は答えた。


「うーむ…そうだな。事情が事情だ…まぁ、医務室に連れ戻して部屋から出さなければ良いか…そうだな、見張りをつければ問題あるまい」

「できるだけ、人格的に信頼のできる者を彼らの見張りにした…という体にしておこう。強化人間とはいえ、流石に子どもを尋問したりするのはな…二度目の脱走をすればスパイの可能性を考慮して尋問する」

「これで問題ないかね?」


 そう言った艦隊司令に、ジャックは頷くと口を開く。


「そうですね、それがよろしいかと」

(こいつ少年兵が騙し討ちして来たらあっさり死にそうだな。警戒心低すぎない?)


 彼は保身のために艦隊司令に同意しつつ、普通に失礼なことを考えていた。


 四人は医務室に連れ戻された後、ベッドの上に座って話をしていた。


「ねぇ!あの人たち良い人そうね!しかも、あの若い軍人さんすっごいハンサムだった!」

「俺たちを攫ったあのクズどもはやっつけられたんだな!いい気味だぜ!」

「なぁ、レン!俺たち里親探してもらえるってほんとか!」

「ああ、本当だ。ただ、俺は年齢的に兵役に就くことになりそうだ」


 レンは三人と話しながら考え事をしていた。


(こいつらは俺と違って、15歳未満だ…運がよければ里親に引き取られて、スラムで暮らすよりはずっといい暮らしができるだろう…元々あいつらは親がいないから戸籍も無かったしな…)


 彼は三人がまともな生活を送れることを喜ばしく思う。

 そして、次に頭に浮かんだのはジャックのことだ。


(あの人…なんでずっと俺たちに気がついてたんだ?それで、すぐに通信を止めなかったのは…俺たちに聞かれても問題なかったから?)

(いや、それよりも…あの人は出てきてからずっと俺を意識していた…俺が“強化人間にされてから使えるようになった力”に気づいてる?)

(アリスも気配を察知する力はあるが…そっちには目もくれずに、俺に意識を向けていたのは…俺が扉の中を“視ていた”ことに気がついていたからか?)

(あの人は…何者なんだ?なんで俺が盗み聞きしていた事に気づいて何もしなかった?)


 レンはジャックの行動について、ずっと疑問に思っていた。

 なぜ、自分が彼らの会話を把握している事を知っていてなにもしないのかと…


 なお、ジャックはそんな事は知らない。

 気がついていたのは四人が通信室の前にいることだけだ。

 彼を見逃すどころか、考えていたのは自分がレンに恨まれないようにする事と責任を負わずに済む方法だけだ。


(なんにせよ…ここでなら、俺の目的も果たせるかもしれない)

(なんとなくだが…そう“感じる”)


 レンは強化人間となった事で得た感覚を元に、なんとなくそう思った。


高評価とブックマークありがとうございます!

これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!

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