第二話
今回ちょっと文字数多くなってしまいました…
次回から気を付けるので、多いようであればコメントで教えていただけると幸いです。
拝啓
日本のお父様、お母さま
いかがお過ごしでしょうか?
あれから一年、私はどうやら本当に腐敗した星間国家の軍人の卵に転生してしまったようです(絶望)
訓練用シミュレーターのハッチを開け、汗を拭いながら外に出る。
画面には今回のリザルトが映り、対戦相手はそれを見ながら呆然と立ち尽くしている。
平面的な動きしかしてこないため、トップアタック(ブースターで跳躍して頭上を取って攻撃する技術)で簡単に撃破できた。
「おい、ジャック!さっきのどうやったんだ!?どうやってあんなエースみたいな動きできるようになったんだ!」
「やってる事は至ってシンプルだ。狙いがつけづらいよう、左右にブースター吹かして小刻みに揺れて、相手の狙いから外れてたんだよ。その後、近づいたらブースター使って頭上取って滅多撃ち」
「じゃあ、見てから躱してるんじゃないってことか?」
「まさか、あくまでも相手が攻撃を当てずらい動きってだけだ」
訓練用シュミレーターから出ると、同室のアダムが興奮しながら話しかけてきた。
周りの候補生たちも、まるで本物のエースを見るような目で俺を見ていた。
なんでも、俺の動きはエースパイロットさながらだって、アダムはあちこちで喧伝して回ってるらしい…恥ずかしいからやめてくれ。
エースって言っても、所詮は訓練生同士のシミュレーターによる模擬戦だし、この世界のパイロットの“ほとんど”はどうやら俺が思っているより水準が低いらしい。
「そうは言うけどさ…お前よくあんなブースト吹かせたり、飛び回ったりできるよな…エネルギー切れとか怖くないの?」
「そりゃまぁ…着地狩りとかされないかとか怖いけど…その辺はエネルギー管理の仕方を考えてやってるしなぁ…むしろ、他のやつらみたいにノロノロと、歩いたり走ったりするだけの平面的な動きしてる方が怖えよ」
どういう訳か、みんなブースターを使って高速で移動したり相手の上を取って攻撃したりするのではなく、大して反動があるわけでもない武器を止まりながら撃ったり、戦闘時にブースターをそんなに吹かさないんだよなぁ…
重装甲高火力とかでもなきゃ、動きまくってた方が安全だと思うんだがなぁ…
ゲームとは違うってのは理解できるけどさぁ…
もっとこう…せっかく三次元的な動きが出来る兵器なんだし…
「そうなのか?うーん…だからランカーとかはジャックみたいな動きしてんのかな?」
「そうかもな」
そう“ほとんど”のパイロットは水準が低い。
ジャック・ギャレットの記憶を漁って、この世界にゲームやアニメに出てきそうな、それらしいキーワードが無いか思い出していた時に、出てきたのが星間機動免状交付管理機構(Interstellar Mobile Licensing and Management Authority)という団体。
通称、 IMLMAと呼ばれるその団体は、GISDF以外のSAFパイロットが登録を義務付けられている団体で、傭兵や賞金稼ぎに地方星系の防衛軍、企業のお抱えのパイロットなどは皆登録しているらしい。
その、IMLMAが認めた銀河でも一握りの50人の凄腕。それがランカーだ。
彼らはパイロットの雇い主などから提出された実績や、他の機体からの戦闘データなどにより、AIが厳正にランクを評価しているそうだ。
ランク帯はA~Fまで存在していて、AとBは五人、C以下が十人ずつって区分になっていて、1位から50位まで順位もあったりする。
どっかのゲームで見たような感じだよな。こんな数は多くなかった気がするけど…
養成所の候補生が閲覧可能なデータには、上位ランカーが俺と同じような動きをしている映像もあった。
それで、前世のゲームやアニメなんかに出てきたロボットの動きを再現できないか試してみたところ、そのいくつかは理論上可能で実際に修得できた。
前世のアニメやゲームの知識で、発想力の差を補えるのは本当に助かるよな。
「ジャックもランカーを目指すのか?」
「俺は(今のところは)GISDFだぞ?IMLMAには登録なんかする必要ないだろ」
「わかってるよ、そのくらい。退役後の話だよ。実際、IMLMAにいるより独立傭兵や企業のお抱えになった方が稼げるって聞くしなぁ…元軍人って経歴で、箔をつけたいってやつも同期には割といるだろ?」
「ああ、そうだな」
そうだったんだ…知らなかった。
いや、違うんだよ?これ俺がコミュ障っていうんじゃなくて、元々ジャックくんが結構他人と距離置いてて、俺は俺でこのディストピアじみた世界の出身者と平和な元日本人の価値観でなんか合わないなって思っただけだから!
「まぁ、いつんなるかはわからんし、退役後の事はおいおい考える事にするよ」
「そうか。ま、お前の腕ならあっという間にトップランカーだろ!」
二人で話していると、他の候補生がやって来て俺に話しかけた。
「よぉ、ジャック。なんか教官が呼んでたぜ」
「教官が?なんの用か言ってたか?」
「ああ、なんかお前の配属先についてだってよ」
「わかった、ありがとう。アダム、そういうことだから」
「おう、また後でな!」
俺は、呼びに来てくれた候補生に礼を言うと、アダムと別れて教官の元へ向かった。
教官のいる部屋の扉の前に立つと、俺は三回ノックした。
「入れ」
教官からの入室許可が出た。
「候補生ジャック・ギャレット、入ります!」
そう大きな声で言うと、静かに扉を開けて入った。
教官に向き直り、一度目の敬礼。
二歩ほど前に進んで二度目の敬礼。
「ジャック・ギャレット出頭致しました!」
「うむ、座り給え」
「はっ!」
着席の許可が出たので座る。
配属先はどこだろうな…
あんまり過酷じゃないとこがいいな…
かと言って買い物にも苦労する辺境はなぁ…
「ギャレット候補生、君が呼び出された理由は聞いているかね?」
「はっ、自分の配属先についてだと伺っております」
教官は「うむ」と言って頷くと、何枚かの書類をこちらに渡した。
その書類には、“第3独立機動遊撃大隊”と書いてあった。
「喜びたまえ、最前線だぞ」
「…ブレイカースクワッド!?」
第3独立機動遊撃大隊、通称“ブレイカースクワッド”とは敵の強固な防衛線や艦隊を単機、あるいは極小編成で打ち砕くために組織された、GISDF屈指の精鋭部隊である。
当然、任務の都合上損耗率は非常に高く、一年以上生きて在籍しただけで勲章がもらえるなどと揶揄されている。
通常、大隊規模のSAF部隊は50機ほどだ。
だが、この第3独立機動遊撃大隊は損耗率が非常に高く、50人のパイロットの内一年後に生きてる奴を数えたら、歩兵分隊規模の10人だけなどと言われている。
その結果、“ブレイカースクワッド”などと呼ばれる様になった…
最悪だ!退役後の人生どころか、生きて退役できるかもわからねぇじゃねぇかよ!
GISDFでは最低四年は軍務に就かなければならない!
なのに、優秀な人間でも一年生きていられるかわからんような部隊に配属!?
嘘だろう!?
「こ、これは本当なのですか?」
「もちろん本当だとも。実のところ、これは先方からも君を配属してほしいと強く言われてな」
なんで?
「は、はぁ…先方からでありますか?お、恐れながら…な、なぜ自分のような未熟者が……このような最前線で戦う精鋭の目に留まったのでしょうか?」
思わず二度も聞き返してしまった。
教官に対してそのような態度を取れば、本来であれば“修正”される。
しかし、教官は俺を叱責するどころか、喜ばしそうに言った。
「うむ、それは簡単だ。君の演習で何度も見せた、トップガン顔負けの機動と明らかに実戦を意識していた立ち回り、あれを視察に来ていた大隊長が見ていたのだ」
迂闊だった…せめてシミュレーターだけに留めておけばよかった!
「君のQBRCは並より上程度にも関わらず、あのような動きができる…そこにある血の滲むような鍛錬と、強い克己心…そしてなによりもそれをやってのけた胆力を彼らは見逃さなかったのだ!」
見逃して?危険運転してるクソガキ程度に扱って?
「お、お褒めに預かり光栄です。し、しかしながら、自分の技量は所詮訓練でのものであります!」
「ハハハ!君ならそう言うと思っていたぞ!なに、安心しろ!誰でも初陣前なら、どれだけ優秀でも訓練だけで発揮された優秀さに過ぎんよ!その、謙虚でどれだけ自分を高めても未だ足りていないと思う向上心溢れる姿勢!他の候補生にも見習ってもらいたものだ!」
あぁ…こりゃあもう駄目だわ…完全に最前線にぶち込む気満々だわ…
こうして俺はめでたく四年間最前線で地獄を見ることになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は四年もの間、第3独立機動遊撃大隊の一員として各地を転戦。最前線で地獄を見る事になった。
まず、初陣で俺を見出したとかいう大隊長が戦死した。
酷いときは、無能極まりない総大将の指示で損耗率八割超の戦場に突っ込まされて、なんとか生き延びたって事もあった。
一番酷かったのは、大企業が資源目当てに侵略をおっぱじめて、それを察知した別の大企業が商売敵への嫌がらせ目的で自分たちの息のかかった元老院議員共に働きかけ、普段ならガン無視してる筈の大企業の侵略を阻止させるためにGISDFが動いたときだ。
無能なのか相手側の企業の息がかかってるのか知らんが、GISDF側の総大将が散々無能極まりない采配でGISDF勢を壊滅寸前に追いやった事もある。
その時は、無能は更迭されてなんとか企業勢力を叩き出せそうになったが、叩き出されかけた企業の息のかかった元老院議員どもが介入し、そこを元老院の直轄地にして適切な管理をするとか宣った挙句、戦争を起こしやがった企業に“資源管理”の協力を要請、その後資源は“適切”に運用されるなんてオチになった。
もちろん、企業側はお咎めなし!
腐敗ここに極まれりだな!
「だが、そんな日々もこれでおさらばだ!」
そう!ついに俺は四年の任期を終え、五体満足で退役することができた!
通常、GISDFの下士官は二十年の定年まで、四年毎に契約を更新するという形になっているが、最短なら四年で退役できる。
激戦地に放り込まれ、生き残るために戦果を上げざるを得ず、名実ともにエースになってしまったため、かなり引き留められたがなんとか退役できた!
「さて、これからどうするかな…今更会社員になっても馴染める気がしないし…」
過酷な戦場を生き延びてきたため、元日本人としての自分は摩耗し、元々のジャック・ギャレットの方にかなり寄っているかもしれない…
実際、やるかやられるかの状況でなんとか行動できていたのは、現地生まれのジャック・ギャレットの価値観が残っていたおかげだろう…
とは言っても、日本人だった頃の記憶や価値観にもかなり影響を受けている訳で…
結局今の俺はどちらでもなくて、例えるなら精神的キメラって状態なのか?
「まぁ、そんな事考えてもしょうがない。とりあえず再就職先決めるか…元エースだからどこの軍事的組織やPMCでもウケは悪くないだろ」
「条件はそうだなぁ…もう前みたいにクソ強い奴らと殺し合うなんぞ真っ平だし…どっか地方の星系で雑魚狩りしながら、お山の大将や地元の英雄として気持ちよくちやほやされたいッ!!!よし、その方向で行こう」
とりあえずは就活を行う事にした。
俺は折り畳み式の端末(ノートPCみたいな)を取り出し、よさげなところをいくつかピックアップしようとする。
「俺は生き残るために軍で戦術や経済、政治(主に大企業の動向の予測)を必死に勉強した。まぁ…前世で一応、政治や経済を大学の選択科目で選択してたし、今生で必死に勉強したおかげで、ある程度はわかるようになった気がする」
「…でも、やっぱあれだな…戦術や経済、政治なんかは一流どころがいる大企業のエリートたちには速攻で見透かされて手玉に取られそう…やっぱ地方でお山の大将だな、うん!」
「さて…いい感じに、お山の大将や地元の英雄として、俺を持て囃してくれそうなのはどこかなぁ~?」
大学時代ですら、自分より出来の良い同期に地頭の差を思い知らされてたのに、前世で言いう旧帝大出てるのが当たり前みたいな、マジもんのエリートが比較対象になったら確実に心折れるわ!
大手だとそういうエリートが大勢いそうだし…
調べていると、何件か良さそうな条件のところはあるが、なんか厄ネタ感がありそうだったり、GISDFの事を敵視してそうだったり、糞田舎過ぎて余所者に厳しそうな上に買い物にすら苦労しそうだったりした。
そもそも、支給されるSAFが第一世代なんかの骨董品じゃ話にならんから除外。
「あー…あんまりないなぁ…うん?メッセージボックスに何件か着信?」
メッセージボックス(メールボックスみたいなの)を見てみると、そこには俺が退役したと知った同期や、ブレイカースクワッドの仲間たちからの暖かいメッセージがあった。
こういうのが来ると思わずうるっと来るよなぁ…
「ん?これは…サリヴァン少佐からか!」
レイモンド・サリヴァン少佐、彼は俺の初陣の際に大隊長が戦死して危うく全滅の危機に陥った際に、代理で指揮を執り危機を脱して以降は正式に大隊長に就任。
その後、何度も彼と共に死線を潜り抜けてきた戦友だった。
だが、一昨年に二十年の勤続を終えて退役。
その後、故郷の“アルビオン星系”から熱烈なラブコールを受けて防衛軍に入って、そこの総司令官に就任したんじゃなかったか?
確か、そこは前までは田舎でイキってる弱小海賊を追い払うのが精々の、脆弱な警備隊とパトロール艦隊しかなかったのを、優秀な退役軍人を集めて強化しようとしてるとか言ってたような…?
とりあえずはメッセージを開けてみる事にした。
「なになに?“元気にしてたか?中々メッセージを送れず済まない”…ははは!あぁ、自分も忙しいんだから、しょうがないでしょうに…あの人は相変わらずだな」
この世界では、部下を出世の道具として使い潰そうとしたり、弾除けや鉄砲玉代わりにしたりせず、少なくとも表面上は気遣ってくれる上司は貴重だ。
それが上っ面だけの態度じゃなければ尚更だ。
ほんとこの世界酷いよね
「“アルビオン星系ではレアメタル資源のステラリウムの鉱脈が見つかり、経済の活性化が見込まれている”か…」
「まぁ、ステラリウムは貴重と言えば貴重だけど…割と他の星系でも産出するし、大企業が既に主要な産出地抑えてて、中小の星系ではステラリウム鉱山が主な収益源ってとこもあるから…大企業に侵略される程じゃないかぁ」
ステラリウムとは、SAF含む多数の工業製品のパーツや、高出力ジェネレーターの触媒に必須とされる青白く輝く希少金属だ。
まぁ、これのために大企業が戦争を起こしたケースは“あんまり”無かったから、余程の事が無い限り大丈夫な筈でしょ。多分…
「それで…“IMLMAに登録後、鉱山を狙って来た海賊や犯罪組織に雇われたらしき傭兵を蹴散らしていたら、ランカーが混じっていたらしくランカーになった。今はDランク帯の30位になった”へぇ!あの人ランカーになってたのか!それもDランクかぁ…流石に元軍のエースは伊達じゃないな」
ランカーだからって言っても総司令官が出張るとか、結構人手不足なのかな?
「“ランカーになったおかげで、雑魚の中でも身の程を知らないの以外は、襲撃して来なくなった”か…うーん、ここもしかして結構よさげ?」
「“もし、退役後に困ったらうちの防衛軍に来ると良い。連絡してくれればすぐに入れてやる。今は人手が足りてないしな”フーン…これって書類選考抜きで面接も免除ってこと?しゃあっ!内々定!」
サリヴァン少佐…いや、サリヴァン総司令官の威光があるおかげで、海賊や犯罪組織が手を出してこないなら、現場で雑魚を適当にしばき上げてランカーに昇格とかできるか?
…流石にそれは厳しいか
でも、まあ…元エースってことで余程の才能の原石みたいなの…アニメやゲームなんかで主人公やってるような奴がいなけりゃ、サリヴァン総司令官に次ぐ実力者ってことで優遇して貰えるかな?
とりあえず、最有力候補にしておくか。
「えーと…とりあえず他に条件がよさそうな…あ?」
なんか就職先漁ってたらメッセージが来たって通知。
開けてみたら…大企業の“ヴァルハラ・サイバネティクス”ってとこから勧誘が来てる…
クソほど怪しいわ
つーか情報普通に大企業に漏れてんじゃねぇか…
「ヴァルハラって…あの女のとこかよ……つーか、これ滅茶苦茶怪しいよな。」
「こんな感じで、のこのこと行ったら実験体にされて、体に障害を負ったのに一切の保障もしてくれないどころか、“契約書を顕微鏡でよく見なかったのが悪い。きちんとここに実験体として採用って書いてあるだろう?”って言われたって噂があるんだよぁ…」
前世じゃ、こういうの単なる噂や都市伝説だったりしたんだけど…
この世界だと割と事実だったりするんだよなぁ…
“ヴァルハラ・サイバネティクス”は“アステリア・エレクトロニクス”と並んで、“強化人間”技術に定評がある会社だし…
「うわ…案の定だよ…募集要項に強化人間にするとかしれっと書いてやがる…この世界の“強化人間”っていうのは、人間の脳や神経を弄って反射速度や耐G性能、QBRCを向上させる技術なんだが…そんな美味しい話には当然デカいリスクもあるわな」
「施術に失敗すれば廃人か死亡、成功しても感情の摩耗や脳への深刻な負荷が残るってヤバい代物で、新しい強化人間技術がない大企業以外だと成功率20%台らしい…そんなもん求人載せてんじゃねぇよ!」
募集要項にこんなの載せてるとか、俺がこういうのきちんと読まないと思って舐めてんのかな?舐めてんだろうなぁ…
そういや、GISDFじゃ非人道的とか言って禁止されてたけど、何度かGISDF所属の強化人間っぽいの見たことあるんだよね…
この世界ほんと闇が深いね。
“ヴァルハラ・サイバネティクス”と“アステリア・エレクトロニクス”の二社は、それぞれ強化人間技術の方向性が違ってて、アステリアは成功率を100%に近づけつつ性能も向上させて副作用も抑えてるけど…
ヴァルハラの方は性能重視で成功率は他より低いとか…
それに、なにより嫌なのは昔戦場でかち合った、ヴァルハラの最高傑作と呼ばれる最高ランカー…
“ワルキューレ”の異名を持つ女、ヒルデ・ブランデンブルクがいることだ。
奴は最上位ランカーであるAランクの正真正銘の化け物だ。
あの時は、連戦で消耗した所に“ワルキューレ”がお出ましと、本気で死を覚悟した…
「仕留め損なったっつーことでなんかする気なのか…それか、素材としての価値を感じたのか…どっちにしてもろくでもねぇな」
俺はヴァルハラからのメッセージを閉じて、サリヴァン総司令官宛てに“再びあなたの下で戦いたい。防衛軍に入れてくれ”という旨のメッセージを書く。
「もうあれだな…元上官のところに転がり込むか」
メッセージを送ると、その日の内に“交通費はこちらで負担するから、来月か再来月あたりにこちらに来れないか?それと、この期日までに必要書類を送付してくれ”と返信が来た。
内定キタ――(゜∀゜)――!!
どうせここも引き払うつもりだったし、すぐに了承とお礼のメッセージを送った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アルビオン星系、二番惑星AL2。
アルビオン防衛軍総司令官執務室。
そこでは、一人の偉丈夫が自身のデスクの上の端末を見ながら、上機嫌で席に座っていた。
そこへ、部屋のドアを三回叩く音が聞こえた。
「おう、鍵は開いてるぞ」
その男…レイモンド・サリヴァン総司令官はドアの方を見ながら答えた。
「アルビオン防衛軍副司令、ゲイリー・マクドナルド。入ります」
低く威厳のある声が聞こえると、屈強な壮年の男が静かにドアを開けて入ってきた。
その眼にはこの星系を守るという強い意思を感じる。
マクドナルドはサリヴァンに敬礼する。
サリヴァンはそんなマクドナルドに対し、手をひらひらと振って言う。
「ここには俺たちしかいない。そう畏まる必要はないさ」
そんな上官の…いや、友人の態度にマクドナルドは苦笑いする。
「おいおい…総司令官が規律を乱すのはどうかと思うぞ?ったくお前は相変わらず変わんねぇな…」
「お前こそ…そういうお堅いところは昔から変わってねぇなぁ?」
そう、二人は笑って言った。
マクドナルドからサリヴァンに話を切り出した。
「しかし…お前やけに上機嫌だな?ひょっとして俺を呼び出したのはいいニュースなのかな?」
彼がおどけて言うと、サリヴァンはそれに頷いて口を開く。
「ああ、そうだ。最近、GISDFの退役軍人の中で、人格と能力を信用できる人間をリクルートしてたろ?ブレイカースクワッド時代の俺の右腕だった男が来てくれる」
マクドナルドは彼の言葉を聞いて、口笛を鳴らすと納得がいったという顔で言った。
「なるほど…お前の言ってたジャック・ギャレット上級曹長の事だろ?そりゃあ無理もねぇな!お前の話と公式の記録から察するに、SAFの腕前はランカー級で戦術に明るく、戦略や政治、経済にある程度の理解のある人物だろ?喉から手が出る程欲しい人材じゃねぇかよ!」
サリヴァンは彼の言葉に頷く。
「確かに優秀な人材が来るという喜びもある。だが、それ以上に再びかつての戦友と肩を並べられるというのが嬉しくてなぁ…」
「なるほどなぁ…確かに、お前らは二年だけとは思えないくらい、濃い時間を過ごしてたしなぁ…彼が来て最初の戦いがあのゼータ・セクター戦役だろ?」
サリヴァンは懐かしそうな顔で頷く。
「ああ、あの時はまさしく最悪の状況だった…なにせ、あの“ワルキューレ”によって当時の大隊長を討ち取られたんだ…彼がいなければ部隊は一人残らず殲滅されていただろうな」
「なるほど…あれは企業絡みの戦争で、かなり報道規制が敷かれていたからなぁ…まさか、そんな事になっていたとは…」
サリヴァンは思い出したように言った。
「あぁ、今のはくれぐれも口外しないでくれよ?ここは盗聴されていないことは確かめてあるが、報道規制が敷かれているから外で言ったら不味い」
「わかっているとも…それより、件の彼はいつ来るんだ?俺も会ってみたい。」
自分も会ってみたいと言うマクドナルドに、彼は笑って言う。
「あぁ、丁度メッセージに返信が届いた。一か月後に来てくれるそうだ。その時、お前にも紹介するさ。きっと、お前も彼を…ジャック・ギャレットを気に入るだろうさ」
そう言うと彼は立ち上がり、執務室の窓の外を見る。
夕焼けが市街地とそこを行き交う人々を照らし、その上をAL2の二つの月が見降ろしている。
「ジャックの腕と頭があれば、大企業のお抱えにもなれただろうに……俺が誘ったとはいえ、態々この辺境に来てアルビオン星系の人々を守ってくれるんだ…これほどありがたいことはないさ…」
「そうだな…彼はGISDFで企業による搾取や政府の腐敗を散々目にして来た筈だ……それでも、折れることなく私利私欲ではなく誰かを守るために戦う道を選んだ…きっと、お前のように高潔な男なんだろう」
二人は、ジャックが聞いていたら「買いかぶり過ぎです」と、全力で首を左右に振って否定するような評価を彼に下した。
最も、彼の行動原理は二人が考えているよりしょうもない上に、私利私欲に塗れているのだが…




