第一話
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鉛色の空。
それを焼き焦がすかのように立ち上る劫火。
焼けた大地を轟音を立てながら疾駆する無数の兵器。
そこには、瓦礫の山と灼けた大地を踏みしめる、銃火器を持った三体の鉄の巨人の姿がある。
「ここはもう制圧完了だな」
男は鉄の巨人、”Standard Armored Frame”…通称SAFと呼ばれる兵器のコックピット内で独り言ちた。
彼は先ほどまでこの戦場で敵を掃討していたのだ。
『隊長!さっきので終わりですかい?』
『天下のアステリア・エレクトロニクスも骨がねぇなぁ!』
周りのSAFを駆る部下たちの下卑た声がスピーカー越しに聞こえる。
男はその声に苛立ちながら通信をオンにして口を開く。
「おい…無駄口を叩くな。これでお前らが油断して、なにか不手際があれば俺の責任になるんだぞ?」
部下たちはそんな叱責にバツが悪そうに答える。
『わかってますよ…企業の不興を買うような真似はしませんって…』
『連中を怒らせたらどんな目に遭わされるやら…ん?レーダーに反応?』
部下たちの一人が、自身の機体のレーダーが高速で接近して来る何かを捉えた事に気がつく。
それを聞き逃さなかった男が尋ねる。
「おい、どの方角から来る?識別反応は?」
と部下に尋ねると、その部下は狼狽して答えた。
『三時の方向!敵SAFと思しきものが高速で接近中!この識別コードは……ランク9のハングドマン!?あのジャック・ギャレットが…”赤い死神”が来やがった!』
そんな部下の通信を聞き終わるや否や、男は司令部に通信で増援を要請した。
「こちら、第8パトロール小隊!トップランカーのSAFが出た!至急増援を!」
そう言って増援を要求するも繋がらない。
そこへ、三時の方向から雲を切り裂いて赤い人影が近づいて来る。
「ッ!?総員迎撃!」
男は号令と共に操縦桿を引き、部下と共に上空の人影に向けて発砲するも、赤い人影はそれをすり抜けて近づいて来る。
そして、一切スピードを緩めることなく一番近くのSAFに蹴りを入れ、右手に持った銃の引き金をコックピットに向けて引くと、その機体のパイロットは断末魔を上げる事すらできずに消滅した。
『ロブ!?野郎ッ!?ぶっ殺してやるぅ!!!』
「待て、一人で突っ込むな!」
先ほどやられたのが友人だったのか、片割れが怒り狂いながらマシンガンを発砲しながら突撃する。
しかし、赤い死神はその単調な動きを完全に見切っていた。
『あっ…』
彼は動きを完全に読まれ、死神が右肩から放ったミサイルを食らい、足が止まったところにブースターを全開にした蹴りを入れられ、衝撃を受け過ぎた姿勢制御装置が一時的に硬直。
次の瞬間、その左腕から伸びた光刃によって叩き切られた。
「ち、畜生!来るんじゃねぇ!」
男は愛機の手に持ったライフルを発砲するも、赤い死神は左右にブースターを吹かして巧みに射撃を回避しながら近づく。
そして、近くまで来ると突然男の視界から消えた。
「えっ、消え…いや、うs」
振り向こうとした瞬間、男は愛機諸共爆散した。
彼の近くに来た瞬間、死神は急上昇して頭上を飛び越え、振り向こうとしている無防備な彼に向けて微塵も容赦なく攻撃したのだ。
死神と呼ばれていた機体“ハングドマン”は全身を赤く塗装し、頭からつま先まで“アステリア・エレクトロニクス”という企業のパーツで固めているSAF。
武装は右手に持ったレーザーライフルという種類の銃器と、左腕に装備したレーザーブレードの発振器、右肩の誘導六連ミサイル、左肩の大口径グレネードランチャーを装備している。
死神…ジャック・ギャレットは索敵を行い、その結果を通信で報告した。
『目標を全て撃破した。レーダーに敵性反応なし…これより帰投する』
そう言って通信を切ると、彼は愛機のコックピットの中で溜息を吐く。
『ハァ…どうしてこうなった?』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
大学を出て就職して一年、今日も社会の洗礼を受けて疲労困憊で帰宅した後、急に眠気に襲われて瞼を閉じる。
目を覚ますと目の前に知らない天井があった。
「もしかして誘拐!?」なんて思っていたら、隣から誰かに話しかけられた。
「お、ジャック!お前ようやく起きたのか?」
「え?ジャック…?」
「おいおい…やっぱ昨日調子に乗って飲みまくったから…」
知らない奴がなんか隣から話しかけてきたんだけど…いや、なんか見覚えがあるような?
思い出せ…昨日俺はアパートの部屋に戻って…いや、下士官養成所の先輩の卒業祝い…
あれ、どうなってんだ?
「ジャ、ジャック?どうした?顔色悪いけど…やっぱ気持ち悪いのか?今日は休みだし寝てたらどうだ?」
「あぁ…ちょっと…いや、かなり頭が痛い…すまないがそっとしておいてくれ……」
なにがどうなってんだ?俺…昨日は家で寝てたんじゃ?じゃあ、これも夢?
そんな風に考えていると、存在しない筈の存在した記憶を思い出してきた。
俺は、銀河統合宇宙防衛軍(Galactic Integrated Space Defense Force)…通称、GISDFの下士官養成所のSAFパイロットコースの候補生“ジャック・ギャレット”だ。
で、さっき話しかけてきてたのは養成所の寮の同室のやつ。
どうやら、昨日の卒業する先輩の祝いの席で酒をたらふく飲まされたらしい…
おかげで、こうして一人で考え事ができる訳だが…
「マジかよ…」
最悪な事にこの世界はかなりハードだ。
この国、“銀河統合星界政府”は統一された星間国家なんだが…その政府が腐敗しまくってる。
一応、“元老院”という議会が存在していて、民主主義的に投票で各星系の議員や元老院議長を選んだりしているんだが…まぁ、汚職が酷いのなんの…
金権政治上等、横領しまくり、企業と癒着してキックバック貰いまくりと中々酷い。
企業も企業で、自分たちに不利な政策を通そうとした議員を“事故”に遭わせたり、違法行為なんかもお偉いさんに金渡してもみ消したり、私兵持って戦争しまくったりしてやがんの…
中でも、“アステリア・エレクトロニクス”、“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”、“ゼン・マトリクス・ダイナミクス”、 “ヴァルハラ・サイバネティクス”の四社は特に滅茶苦茶で、希少資源を見つけたらありとあらゆる手段で惑星ごと制圧しようとする。
そんな無茶苦茶を、銀河中を股に掛ける大企業としての経済力や軍事力、政治力によって元老院も黙らせて平然と行う。
政府や軍のお偉いさんからしたら、これの企業は大事な天下り先でもあるらしい…うんざりするね。
この世界は日本人…いや、元日本人にとってはハード過ぎる…
救いなのはこの体の知識や経験が残ってるってことくらいか?
軍人としての戦うための知識や技術、そして何よりも鍛え上げられた肉体がある。
「でも、やっぱり…俺としてはロボットに乗れるのが嬉しいわ…」
規格化装甲外骨格(Standard Armored Frame)、通称SAF。
これは所謂巨大ロボットってやつ。ブロック構造になっていて、頭や胴、腕、足、ジェネレーター、ブースターが簡単に換装可能で、壊れたパーツは取り外して新しいものと簡単に交換できる。
共通規格があるため、全身異なる企業のパーツで構成することも可能。
軽量級、中量級、重量級の三つの区分があり、軽量級は機動性が高く、重量級は積載重量が高く、中量級はその中間になっている。
武装は両手に装備する以外にも、アタッチメントによって肩部に武装を載せられる。
肩部の武装は各種ミサイルや火砲、予備の手持ち武装などに換装できる。
適性や技量が低い者は両腕の武器を扱うのが精々で、片方でも肩部の武装を使えるというだけで腕利き扱いらしい。
で、コイツを扱うには量子脳波感応係数(Quantum Brainwave Resonance Coefficient)。
通称、QBRCが一定基準必要になる。
俺はそれが並み以上あったおかげで、一山いくらの雑兵として使い潰されるところ、こうして下士官養成所に入れて貰えたってわけだ。
リアル系のロボットアニメや、ロボットを操作して戦うゲームは好きだったから、そういうロボットを操縦できるのは嬉しいね。
「よし、やるか」
「ん?どうしたんだ?」
「ちょっと顔洗って来るわ」
ベッドから起き上がって、同室の…確か、アダムだったか?に言って顔を洗いに行く。
とりあえず、いい加減起き上がって顔を洗おう。
一先ずは、鍛えて戦場を生き残る。やるべき事はそれだけだ。
「え…?」
洗面所で顔を洗い、鏡を見た俺は思わず驚いた。
そこにあったのは、見慣れた良くも悪くもない冴えない顔ではなく、ハリウッド映画に出てきそうな二枚目だったからだ。
「いや、まぁ…顔が変わってるだろうなとは思ったけど……自分の顔がイケメンとか違和感凄いな…そういや、声も映画の吹き替えの声優さんみたいになってるし…」
これで、腕が良ければ退役後にどっかの地方の企業のお抱えになったりして、地方の星系とかでアイドル扱いされて生きてけるんじゃね?
ぶっちゃけ、これがなんかの作品に転生したとかだったら、主人公やその敵対勢力のせいで酷い目に遭わされかねないし、特筆すべき資源とかのない地方の惑星でお山の大将してたいなって…
「そうと決まれば目指せ(ブルペン)エースだな!」
でも、一番いいのはこれが単なる夢で、目を覚ましたら見慣れたアパートの一室って展開なんだよなぁ…




