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第十九話

ジャックに平穏など存在しない。

あるのは次の戦いの準備期間。

 愛車と引き換えに幼女を助けた翌日、俺は第1パトロール艦隊旗艦“ブリストル”に乗り、AL4αコロニーへ向かっていた。

 あそこら辺のコロニー駐留艦隊は壊滅状態なので、持ち回りで各艦隊が駐留してるんだが…俺の場合は、人手がマジで足りてねぇから教官の仕事も追加でやらされるんだよなぁ…


 ハァ…マジで最近碌な事がねぇや…


「いい事って言えば…精々ユリウスを撃破した実績でDランク帯25位になったことくらいだな…」


 ちなみに、サリヴァン総司令官は低位ランカーとは言え最新鋭機と最新型強化人間の組み合わせを撃破して、艦隊をけちょんけちょんに蹴散らしたおかげで28位に上がってた。

 30位から28位じゃ思ったよりも上がってない?

 元々Dランク帯のランカーは、単独で小規模の艦隊を壊滅させられるって言われてるからなぁ…思ったよりランクが上がらないのは多分それだね。


 でも、俺たち二人以外にもランカーになった奴がいる。

 それは──


「よう、バレット中尉」

「ギャレット最先任上級曹長!お久しぶりです!」


「お前もついにランカーの仲間入りだな」

「ありがとうございます!全てギャレット最先任上級曹長の指導の賜物です!」


 バレットくんだ!

 今までの海賊退治やこの前の決死隊の戦果で、ランカーになった上に中尉に昇進している。

 流石俺の後輩だな!(狂人)

 彼はこの星系初の生え抜きのランカーってことで、星系内のローカルメディアが滅茶苦茶大々的に取り上げてたねぇ…


 まぁ、Fランク帯49位のクソザコだけどな!

 キルディザスター(笑)よりまだちょい弱いからなぁ…


 でも、他の俺に指導されてる雑魚も見習えよな!

 雑魚狩り出来る程度には腕を磨けよ!


 シドウ伍長…いやこの前の戦果と人手不足から階級上がって軍曹か…

 確か、コールリッジ伍長も昇進して軍曹になったって連絡してくれたな。

 あの二人も一応俺の訓練について来れるし、将来有望だよな!

 直にあの二人もランカーになれるだろ!(適当)


 シドウ軍曹とコールリッジ軍曹とはアステリアの侵攻ぶりになるのか…

 大丈夫かな…メッセージでのやり取りだと二人ともかなり精神やられてたし…

 俺も巨乳のマクネアー大尉と話の分かるケリー少佐が亡くなって哀しいよ…

 ポンエー中尉?まぁ、哀しいかな?


 あっ、そうだ…バレットくんに聞いておきたいと思ったんだよね。


「バレット中尉は機体名決めたか?」

「いえ、まだです。こういうのはできるだけカッコいい名前つけたいんですよね」

「わかる」


 やっぱそういうのは考えちまうよな!

 俺はねぇ!今タロットカードから取るって決めてんだ!


「そうかぁ…やはりこういうのはしっかり考えたくなるよな」

「はい!俺こういうの夢だったんですよ!」


 わかるよ…銀河有数の実力者として名を馳せ、自分の愛機に強者らしい名前をつけるんだ…

 そして、自分の機体を目にした敵は自分の異名や機体名を怯えながら呼ぶんだ…

 溜まんねぇよな!!!


「俺も最先任上級曹長の“赤い死神”みたいなカッコいい異名欲しいですよぉ!」

「おお!どういうのが良いんだ?誰にも言わないから教えてくれよ!」


「絶対笑わないでくださいね!」

「ああ、わかった」


「絶対ですよ!!!実は……なんてのを考えてるんです」

「へぇ!いいねぇ!中々格好いいじゃないか!」

「ありがとうございます!」


 二つ名とか機体名とか…

 やっぱこういうのは全宇宙の男子に通ずると思うんだよね。

 みんなこういうの好きだと思う。


 いやぁ!久しぶりに胃が痛くない時間を過ごせるな!


『各員に通達。間もなくAL4αコロニーに到着する。下船するものは下船の用意をするように』


 お、もうすぐ着くな!

 俺は早速教官としてこき使われるから…

 さっさと準備するかぁ…


「名残惜しいが、もう時間の様だ。話の続きはまた今度だな!」

「はい、次までに機体名の候補いくつか考えときますよ!」


「じゃあ、次はお互いに機体名の候補を教え合うってのはどうだ?」

「いいですね!楽しみにしてます!」


 そう言って俺たちは笑いながら分かれた。

 やっぱこいつ良い奴だわ!


「さて…シドウ軍曹たちは元気だと良いが…」


 目の前で教官や戦友を失ってるからなぁ…

 流石に厳しいか?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さっさと走れぇぇぇ!!!この蛆虫どもめがぁぁぁ!!!」


「サー!イエスサー!」

「サーイエッサー!」

「……」

「はぁ…はぁ…おえっ……」

「あっ…ちょっと逝く…」

「鬼だ…この人…」

「はぁ♡はぁ♡ギャレット最先任上級曹長♡」


 えー…俺は現在ゴミカス低体力低練度パイロットどもを鍛えています。

 ひでぇな!

 前はここまで脆弱じゃなかったんだが!?

 ついて来れてんのはシドウ軍曹とコールリッジ軍曹と…ありゃ誰だ?

 眼光の鋭いやつれた…美形な男?それに…顔は良いのに雰囲気がAL3で遭遇した生物兵器みたいな女?


 また生物兵器混じってない!?

 今度は女だけど!

 いや、マクネアー大尉の胸を凝視していたやつみたいな変態か!?

 どっちだ!?もう先手を打って殺っちまうか!?


 そういや胸を凝視してた奴…あいつどうしてんだろ…大尉が死んじゃって気落ちしてるかな…

 ま、生きてればだがな


「五分休憩!息を整え水分補給をしろ!」


 おーおー…こりゃひでぇ…

 新兵をそのまま持ってきて穴埋めしたんか?

 これでもマシなのを選りすぐったってんならマジで絶望的だなぁ…


「…前よりは成長しているが……これじゃあ足りない」

「ユーマ…」


 Oh…シドウ軍曹は相当思いつめてるな…

 あいつと違って、一人で戦況を変えられる身としては申し訳ない…訳ねーだろ!ふざけんな!

 組織が個人に依存してんじゃねぇよ!

 そういうとこは大抵負けが込んでる側なんだよ!


 なんでGISDFはあれだけの勢力があって劣勢になる事多いんだ?

 上層部の無能采配や政府の政治的な都合とやらによる無謀な作戦のせいだな。

 そんな体たらくだからブレイカースクワッドなんか必要になるんだよ!


「うぅ…もう動きたくねぇ…」

「もう無理だ…」

「あ゛あ゛きっつい…」

「畜生…あいつが武装蜂起した集団を単騎で殺せるんじゃなきゃ夜道で襲ってたのに…」


 うわぁ…揃いも揃って貧弱で脆弱で…どうしよもねぇな…

 しかし、教官を襲うねぇ?

 お前を今襲ってあの世へ送ってやろうか?


「あの二人はともかくお前ら良くついて行けるよなぁ…」

「…なすべき事がある。それだけだ」

「はあ♡はあ♡イケメンに罵られながら死にそうな目に遭うの最高♡」


 あーうん…あれ生物兵器じゃねぇや…

 ただの変態だったわ…軍はSMクラブじゃねぇんだよカス(憤怒)


 うん?待てよ?この変態から、前に俺を襲った生物兵器と同じような雰囲気を感じたって事は…生物兵器が成り代わったからヤバかったんじゃなくて、怪異は元から怪異だったのか?

 …もうあんまり考えないようにするか

 とりあえず、疑わしい者(変態)は監視しておくが…


 しかし、あの男の方はあれか?

 よくある主人公と最初距離を置いてて、徐々に打ち解けていって本当の仲間になる系のキャラかな?


 名前は…そうそう!ゼノン・クラウザーだ!

 やたら格好いい名前だから記憶に残ってたんだ!

 でも、こんな顔だったか?


 教え子なんて一部を除けばゴミで括ってるからわかんね(屑)

 急成長するかもしれないなら、これからはちゃんと顔を憶えるようにするか!(屑)

 やっぱ俺教官向いてねぇのな。


 しかし、ゼノン・クラウザー曹長か…

 憶えておこう。


「…マクネアー教官…あなたたちは俺たちを身を挺して守ってくれた……故に…それに報いたい」

「これからは俺があなたに代わって……この星系を守って行きますぞ♡デュフッ♡」


 お前…マクネアー大尉の胸を凝視してた奴かよ…

 随分変わり果てたな…



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて、シドウ軍曹がまた無茶をする前にお話しを聞こう。


「やぁ!シドウ軍曹、コールリッジ軍曹」

「あっ!ギャレット最先任上級曹長!」

「…お久しぶりです。最先任上級曹長」


 おい…シドウ軍曹めちゃくちゃ暗いんだが?

 まぁ、無理もないか…


「あっ!そうだ!ギャレット最先任上級曹長!ユーマが!」

「ギャレット最先任上級曹長…実は折り入って相談が…」


 コールリッジ軍曹の言葉を遮ってシドウ軍曹が言った。

 珍しいな…

 いつもはコールリッジ軍曹からなんだが…


「ああ、聞こう」


 まぁ、聞くだけならタダだからな!

 実際にどうにかできるかはわからんし、とりあえず駄目そうなら精神科へ行ってもらう。

 それでも駄目な事も多いがね…


「実は…アステリアの侵攻のときから…SAFに乗っていると相手の動きを…その…未来予知の様に予測できるようになったんです」


 これは…


「ユ、ユーマの言ってる事は本当なんです!私たちが戦場で生き残れたのはユーマの力があったおかげなんです!」

「私が敵の不意打ちを躱せたのも彼のおかげなんです!」


 うん…こりゃ間違いないな…


「…シドウ軍曹、君のその予知能力だったか…それは単なる──」

「ッ!」

「さ、最先任上級曹長…?」


「脳の高速演算による疑似的な未来予測だ」


 うん、QBRCが平均以上ある人間ってSAFに乗ってるとき、極稀にそういう能力を発揮することができる人がいるんだよね。

 俺?機体越しに敵からの無数の殺気を感じる能力があるよ?

 だから、無数の対空砲火とかを完璧にノーダメで潜り抜けたりできんの。


 気になるのは…俺がSAFに乗ってなくてもそれが使えることかな?

 なんでだろ?

 イケメンだから?


「稀にあるんだ。QBRC…脳波による、機体制御への適性が平均より高い者が、SAFに乗っている際にそういう能力を発現させることがね」

「ブレイカースクワッドにも君と同じ能力が使える者がいた」


 まぁ、そいつ八股してたのバレて滅多刺しにされて死んだけど。

 俺みたいにSAFを降りても使えるなら死なずに済んだかもしれないのにな!

 いや、そもそも浮気しなきゃ死んでなくね?


「そ、それじゃあ!僕は頭がおかしくなったわけじゃないんですね!」


 うん、君たちの言ってることが本当ならね?

 頭おかしくなって妄想の世界に逝っちゃったなら話は別だよ?


「やったねユーマ!やっぱりギャレット最先任上級曹長はわかってくれたじゃない!」

「うん!うん!!!」


 うん、信じるとは言ってねーよ?

 でもまぁ…メタ的に考えたらこれ覚醒イベだよな?

 …もしかしてユリウス戦がこいつにとっての負けイベだった?

 こいつの物語って、故郷を奪ったアステリアへの復讐とかそんなんだった?

 俺やらかした?


 うーん…自分で覚醒できないこいつが悪い!(暴論)

 主人公なんだから、力に覚醒したら最新鋭機に乗った新型強化人間を、旧式の第三世代機で倒せよ!!!(無理難題)


「まぁ、ともかくだ…シドウ軍曹、君には上位ランカーにも届き得る才能がある」


 逆に言えば、最上位ランカーは皆こういう力持ってるんだよな…

 怖くね?


「焦りは禁物だ。今はただ鍛えろ。そして、その脳力と君の操縦技能を高めるんだ」

「は、はい!最先任上級曹長!」


「ところで、君たちはこの後暇か?」

「はい!暇ですが…それがどうかしましたか?」

「もしかしてシミュレーターで相手をしてくれるんですか?」


 そうかそうか!

 じゃあ、俺が離れてた分厳しくいくね?


「ああ!シミュレーターを予約してあるから来たまえ!」

「よろしくお願いします!」

「お手柔らかにお願いしますね?最先任上級曹長!」


 余計な事を考えさせたら余計な迷走しそうだから、そんな暇ないくらいしごいてあげるね?

 大丈夫!限界は見極めてるから体は壊さなくて済むよ♡


 …しかし、おかしいな?

 疑似的な未来予測の弱点って奇襲攻撃だったような?

 あいつ…奇襲攻撃をどうやって“予知”した?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 アルビオン星系内にあるどこか。

 辺り一面コンクリート打ちっぱなしの密室。

 そこには二人の男がいた。

 男たちは何やら会話をしていた。


「それで…?もし、アルビオン星系とアステリア・エレクトロニクスの講和が成立すれば…レギュレーターズは各地に散らばって反乱を平定しに行くのか?」

「ああ。勝てばより良い条件を引き出せるって吹き込んで扇動するんだと…馬鹿なもんだよなぁ…アステリアと違ってサリヴァンもギャレットもいないってのに…」


「いても精々…このマックス・バレットってやつくらいか?」

「ああ、一山いくらのFランクなら、これらの星系の内に一人はいてもおかしくはないだろうよ」


 そう言った彼らの目線の先にあるのは、複数の星系に印がつけられたこの銀河系の地図といくつかの星系の名前の書かれたリストがある。

 リストにある星系は、全てアステリア・エレクトロニクスの支配下にある星系で、中央星系から遠く離れた地方星系だった。


「アルビオン星系と違って…まともな星系内企業もないとこもあるんだろ?そいつらはどうするんだ?」

「うちが払い下げのSAFを送ったりして支援するんだとよ。まぁ、まともに扱えるとは思えねえがな…」


「つまるところ、レギュレーターズを引きつける囮ってわけだ」

「ま、そういう事だわな…我が社がアステリアの勢力圏を切り取るための尊い犠牲ってやつさ」


 彼らがそんな話をしていると、部屋の扉を開けて男が一人入ってきた。

 その男はどこにでもいそうな特徴のない顔つきの男だった。


「おい、本社からの連絡だ。我が社の栄誉ある提案を蹴り、アステリアと結んだアルビオン星系に誅罰を下すそうだ…早い話が面子潰されて頭に来てんだとよ」


 入って来た男は他人事のようにそう言った。

 それを聞いた男たちは憐れむような嘲笑うような…そんな顔を浮かべて口々に言う。


「おいおい…マジかよ?あんな提案して蹴られないとでも?当然、交渉はしたんだろうが…どうせ上の連中がクソみてぇな条件を出したんだろうな。連中には同情するよ」

「ああ!なんせアステリアに踏んづけられた後、“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”の気が済むまで蹴飛ばされるんだからよぉ」


 そんな二人に先ほど入ってきた男が言う。


「尤も、時期はまだわからん。上はサリヴァンかギャレットのどちらかがいない時を狙うつもりらしい…」

「まぁ、アルビオンへの踏み絵として、反乱の鎮圧にギャレットを同行させるって可能性は十分あるな」


 どうやら、アルビオン星系は未だ脅かされる運命にあるようだ。

 新たな争いの火種が、人知れず静かに燻っている。

高評価とブックマークありがとうございます!

これを励みにこれからも投稿を続けていきますので宜しくお願い申し上げます!

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