第十六話
遂にこの星系のトップが本格的に登場します!
人生ってこんな筈じゃなかったってことばっかりだよな。
それにしたって俺の場合はあんまりにもあんまりだと思う。
俺は今サリヴァン総司令官と輸送機に乗って、AL2にある防衛軍司令部へ向かってる。
しっかし、先方から協議の場に司令部を選んでわざわざ出向くとはねぇ…
てっきりこういうのは呼びつけられるもんだと思ってたわ。
…それか、向こうは誰が聞き耳立ててるかもわからん状況なのかな?
「しかし、この手紙まるで恋文みたいだな…」
「そうですね。成功率44%の強化人間手術受けないかって書いて無ければですが…」
「これもう恋人通り越して婚約者だと思い込んでねぇか?」
「…怖い事言わんでくださいよ」
「マジで刺されるなら一人で頼むぞ!星系諸共だと俺は帰る家無くなるから困る」
「安心してください!私と総司令官は一心同体ですから!」
「それは今絶対聞きたくなかったセリフだな!」
「「HAHAHAHAHAHAHA!!!!!」」
いやぁ…もうね!笑うしかないね!
胃に穴が空きそうなんだけど?
「まぁ、冗談はさておき。この星系の置かれた状況はどれほど理解している?」
うーむ、あくまでも俺の入手できる情報からの推測とかも混じるから間違いはあると思うが…
ま、答え合わせにはなるか。
今聞いて来たってことは、これからの会談で必要になるんだろうしな。
「まぁ、私が触れる事の出来る情報からにはなりますが…」
「アステリア含む大企業から、かなりの量の工業製品を購入していたのに、アステリアの侵攻に伴って各社の現地法人が逃げ出したり、航路の安全確保が出来ずに輸入ができなくなったりして経済は大打撃…」
「で、今は一時的にアステリア・エレクトロニクスを追い返したんで、各社が上手くやればここの市場もステラリウムも俺たちランカーも総取りできるって機会を伺ってると…」
マジで高性能なマザーマシンとかを自力で作れるのは大企業くらいらしい…
だから、その辺が無くなると精度の高い兵器が作れなくなるんだよね。
そうなったら詰みだし、徹底抗戦とか言われた瞬間俺は逃げるよ。
「他の大企業は、俺たちとアステリア・エレクトロニクス、どちらも疲弊してくれれば最高って思ってることでしょうね…」
「アステリア・エレクトロニクスの勢力が縮小する上に、経済植民地が一つ増えるかもしれないんですから」
「戦力的にも経済的にも…次にアステリア・エレクトロニクスとやり合えば再起不能になりますよ…今でも餓死者が“それほど”出ていないのが奇跡的です…」
マジで餓死者がそんなに出ないのは、ユリウス君がお上品な戦いしてくれたおかげで農業コロニーやらが無事ってのが本気でデカいわ…
餓死寸前の現地民が泣きそうな顔で自爆攻撃してきたときとか本当に…
「うむ、概ねその通りだ。この星系は最早これ以上独力で戦う事はできない…」
「しかし、他の大企業も我々を使い潰す気だろうから当てにはならん。なんとしても早急に講和しなければな…それも、できる限り優位な条件で」
あーよかった。少なくともこの人はもう戦えないって認識でいてくれたよ…
末端どころか、士官にすら俺らが暴れりゃなんとかなるって思ってるクソカスがいるからなぁ…
ならねぇよ糞が…なにが“最先任上級曹長は戦争というものを理解しておられない”だタコ!
実戦経験も碌にねぇゴミ屑がよくもまぁ!前線見てきた俺にしたり顔でそんなことほざけるもんだ!
将兵の質の著しい低下を感じるな!
「ええ、そうなると…やはり、この手紙が政治的に重要になります」
大企業が条件付きでケツ持ちになるって書いてあるもんな。
あくまでも同社の最高ランカーが言ってるだけ?
最高ランカーにしてヴァルハラの広告塔…つまり、彼女はヴァルハラ・サイバネティクスの顔ってわけだ。
それが送った手紙を今更“あいつが勝手に言っただけ”では済まされんよ。
確実に上層部の意向で書いてるよ…私情もめっちゃ籠ってるけど…
「ああ、自分たちよりも良い条件を競合他社から引き出していると“思い込ませれば”、大艦隊で攻め込むなんて迂闊な真似はできんよ」
「中小星系を潰すんじゃなくて、本格的な企業同士の抗争になりかねん。それも、アルビオン星系にレギュレーターズを退けられ、武威の低下により不安定な勢力圏を抱えてだ」
まぁ、これで流石にやらかしちゃうようなアホはそうそう…
いるかもしれん…
他の大企業の勢力圏だとしても、一方的に舐められたと思ったら殺しに来る大企業が…
“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”ってとこなんだけどね?
まぁ、これはアステリア・エレクトロニクスの話とはあんまり関係ない…よね?
「まぁ、なんにせよ…うちの星系の元老院議員である、ヴァレンタイン議員には頑張ってもらわないといけないですね。交渉は彼がやるのですし」
「二十年以上議員を務めているんだ。彼の手腕に期待しようじゃないか」
まぁ、長い事元老院議員の地位にあって、星系の人間からの支持率は高いらしいし…
今回の一件までは、この星系の平和を保てていた手腕には期待できるのかな?
わからんけど…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とりあえず何事もなく司令部に着いた。
襲われたとき用に俺たちのSAFは積んであったけど、使うような事態にならんでよかったなぁ…
この前、意味わからん生物兵器?に襲われたし…
「よし、この部屋が会談の場所だ。今回は俺や副司令官、幕僚長だけでなく政財界の有力者もいらっしゃる…くれぐれも失礼のないようにな」
「ええ、心得ております」
「タンポポ渡すなよ?」
「持ち込めるんですか?」
「無理」
「でしょうね」
タンポポの件は一生擦られそうだな…
まぁ、できる限り無礼のないようにはしますけども…
政治家にへそ曲げられたら面倒だからなぁ…
サリヴァン総司令官が会議室の扉の警備に話しかけると、ボディチェックを受けた後中へ通される。
うわぁ…めんどくせぇ…こういうの関わりたくなかったんだがなぁ…
「失礼いたします。防衛軍総司令官サリヴァン並びに、ギャレット最先任上級曹長、ただ今到着しました。お待たせしてしまい大変申し訳ございません」
とりあえず俺も頭下げとくか…
なんで英雄である俺が政治屋に頭下げなきゃならんのだ!
全部アステリア・エレクトロニクスが悪い。
「おお!サリヴァン君!ギャレット最先任上級曹長!来てくれたか!」
「頭を上げてくれたまえ!君たちに頭を下げさせたことがバレたら、次の選挙で有権者の皆さんに落とされてしまうよ!」
そう言って朗らかに笑う、恰幅の良い人のよさそうな顔の上座に座る老人。
彼こそがこの星系の元老院議員、アルベルト・ヴァレンタインだ。
一瞬優しそうとか良い人そうとか思っちゃったよ…
経験則だと一番やべぇタイプの政治家だわ…
多分、この人はこんな優し気な表情で他人の命脈を絶てるんだぜ?
怖いわ…
う゛っ゛!?立ってこっちに来るじゃん!?
これ握手求められるやつじゃん…ひえぇ…
「君とこうして会うのは、はじめてだね?どうも、元老院議員をやらせて頂いています…アルベルト・ヴァレンタインです」
「こちらこそ…お初にお目にかかります。防衛軍最先任上級曹長、ジャック・ギャレットと申します。お会いできて光栄です…」
お互い自己紹介して握手する。
怖い…
親しみやすそうな雰囲気出してんのがマジ怖い。
この優しそうな笑顔見てくれよ?
優しそうだろ?
頭ん中は打算と計算、政略が渦巻いてんだぜ?
今も俺の事をどれくらい使えるか測ってんだろうな…
あ、なんか企業のお偉いさんたちもこっちに来てる…
ん?なんかで見覚えあるような?
「こちらは我が星系が誇る企業の最高経営責任者の皆さまだ」
へー…道理で見た事あるわけだわ…
記者会見やらでメディアにも露出があるからね。
多分その辺で見たんだろうな。
「お初にお目にかかります。アイアンクラッド・インダストリー、最高経営責任者のトーマス・アーノルド・ランドルフと申します」
「こちらこそ、お初にお目にかかります。防衛軍最先任上級曹長、ジャック・ギャレットと申します」
とりあえず握手。
そうすりゃ無礼じゃないだろ。
つーか英雄と握手できるんだから光栄な事だろ?(屑)
多少の無礼は大目に見てよね?(屑)
コグネイト作ってる会社のトップか…
まぁ、いつも世話になってる会社だな。
「お初にお目にかかります。ヴォルテック・エナジー、最高経営責任者の…」
あーうん…とりあえずさっきと同じように挨拶からの握手。
はい、次。
「お初にお目にかかります…」
この挨拶いつまで続くん?
さっさと席について会議始めたら?
あれか?俺が初対面だからか?
まぁいいや…
何人かと挨拶してからようやく席に着けたぜ…
なんだってお偉いさんは挨拶回りが好きなんだ?
顔を憶えてもらう、名前を憶えてもらうってのが人脈の構築につながるから?
多分、そうだな。
「皆も知っての通り、我が星系は最早戦える状態にない。そこで、私は皆に問いたい。アステリア・エレクトロニクスと講和を行いたい」
「そこでだ、君たちの意見を聞かせて欲しい…私はこの星系が踏みにじられ、戦火に焼かれるのを見たくない。そのためにもどうか…君たちの力を貸してほしい!」
ふーん…まぁ、本心かはともかくとしてこの星系の事を愛してるみたいだな。
ところでこのヒルデの手紙どうしよ?
いつ出せばいいの?
なんかみんな色々なとこから仲介してって言われてる…
割と色んな交渉の窓口があんのね。
どれも斜陽だったり、骨の髄までしゃぶりつくそうって気になってるしで悲惨だけど…
「実は、取引先の“タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ”から、ヴァレンタイン議員に顔を繋いで欲しいとの要請が…」
よりにもよってあそこかぁ…
うーん…議員以外みんな渋い顔だわ…
言い出した本人も顔色悪いな
あの会社ヤクザみたいなとこなんだよねぇ…
恩着せがましい上にすぐ面子持ち出して暴挙に出るんだよなぁ…
あいつらが起こしやがった戦争の尻拭いを何度させられたことか…(憤怒)
滅茶苦茶に散らかしていきやがって…
クソがよぉ!
「条件としては…ステラリウムの80%に加え、当社の製品への関税の撤廃…そして……ふぅ…」
うわぁ…搾取する気満々…
おい、今なんでこっち見た?
なんで、意を決してって感じの顔してんの?
「サリヴァン総司令官とギャレット最先任上級曹長の身柄及び権利の移譲です…」
ざっけんなこらああああああ!!!!
なに人の身柄と権利を要求してくれちゃってんの????
飲むって言った瞬間殴り殺すぞ!!!
わかってんだろうな老い耄れええええ!!!!!
ふぅ…落ち着け…いや!無理だって!!!
おい!?今「…致し方ないのか?」って呟いたの誰だ?
殺されたいんか?
いや、殺す(決心)
もう、この場の全員殺して逃げるか?(錯乱)
「うーむ…それはできんのぉ…我が星系の英雄たちを大企業の玩具として差し出すなど…大暴動が起きるのぅ」
「なんという破廉恥な要求か!!!レイモンドとジャックを引き渡すわけにはいかん!!!」
「しかし、これを断ったらなにをされるか…」
「交渉でなんとか要求を軽くできませんか?彼らを売るなど…とても…」
「いやぁ…こんな最後通告みたいなの送りつけてる時点で…」
もう会議室中えらい事になってる…
とりあえず俺らを引き渡すのもやむなしって態度の連中は顔憶えたからな(憤怒)
俺らを売るって言われてブチギレてくれるマクドナルド副司令官大好き。
「静粛に!!!」
うお!?びっくりした…
ヴァレンタイン議員はそんな大声も出せたんか…
「まず、申し訳ないが…二人を引き渡す事はない」
俺あんたに投票するよ。
「彼らは我々を守ってくれた英雄だ。それに、仮に彼らを差し出したところで…必ずしも代わりに守ってくれるというわけではない」
うん、そうなんだよね。
大企業って、普段はクッソ横暴に接する癖して、いざって時はあっさり見捨てたりするんだよ。
それでなんで議員たちは大企業の言いなりになるんだって?
普通に鞍替えするし、殺したら勢力圏の議員たちが別勢力と結びつこうとして面倒だったかららしい。
そう、面倒“だった”んだよ。
実際にやったことあるのが怖いね、大企業は…
「それに、防衛戦力を置いてもらったとして、それがランカーとは限らない。そうなれば、先の“血濡れの髑髏”や“八つ裂きヘンリー”のような海賊に対応できない」
「それどころか、散々被害を出した挙句ようやくランカーを送ったと思いきや、恩着せがましく対価を要求してくるだろう」
タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ…長いから“THI社”ね?
あそこの略称は公式でTHIだし…
マジでTHI社はそう言う事やってんだよなぁ…
ヤクザやマフィア、ギャングなんかが宇宙進出して、なんか色々間違いでも起きて重工業やら色々な事業に成功した組織って言われても納得なんだわ。
「だが、この情報は非常に有益だ。かなりリスクは大きいが交渉材料になるだろう」
「素晴らしい情報をありがとう」
おお。
上手く纏めたな…
少なくともこの場でさっきの発言した有力者の顔は潰してない。
まぁ、可愛そうにあの人はTHI社の面子を潰したってことで始末されるかもだけど…
あ、そうだ!この流れで俺の手紙の件も話すか!
サリヴァン総司令官の方を向いたら、俺の目を見て頷いたし…行くか!
「他になにかあるかな?ないのであれば、基本方針の制定に移りたい」
「私からも…一つよろしいでしょうか?」
「おお、ギャレット最先任上級曹長。もちろんいいとも」
「ありがとうございます」
よし!とりあえずタンポポや食玩のことは伏せて話そう!
「先日、私は“ヴァルハラ・サイバネティクス”のトップランカー…“ワルキューレ”こと、ヒルデ・ブランデンブルクからの手紙を受け取りました」
みんなざわついてるな…
落ち着いてるのはサリヴァン総司令官とマクドナルド副司令官、そしてヴァレンタイン議員の三人だけだ。
おいおい…落ち着きがねぇな…
まぁ、当たり前か。“ワルキューレ”人気だし。
イケメン過ぎてごめんね☆
「えー内容に関しましては、挨拶など当たり障りのないものから同社への勧誘…そして、条件付きで“ヴァルハラ・サイバネティクス”が、アルビオン星系側に着くというものです」
「これは、単なるヴァルハラ所属のランカーからの手紙ではありません。同社のトップランカー…つまり、“ヴァルハラ・サイバネティクス”の顔であり、看板とも言える存在からの手紙です」
「よってこの手紙の存在は、彼女の発言内容が事実か否かに関係なく、政治的に大きな意味合いを持つものだと確信しています」
みんなは割とスクリーンに証拠を映し出したりしてくれてるけど…
手紙の内容を映し出すのはアレだからごめんね?
「…それは素晴らしいな。現物は今持っているのかね?」
「ここに」
おお。俺が現物取り出したらみんなどよめいたぞ!
“ワルキューレ”のお手紙羨ましいよなぁ?
代われるもんなら代わってやりたい(泣)
「拝見しても?」
「ええ、お願いします」
「どうぞ」
「こ、これ…は…」
ヴァレンタイン議員めっちゃ動揺してて草
そりゃそうだよな!
アルビオン星系側に、“ヴァルハラ・サイバネティクス”がつくかもって話がおまけ扱いで、残りは全部俺に対して「なんで会いに来ないの?なんで入社しなかったの?強化人間に興味ない?」とか書いてあるだけだもんな!
だれかたすけて
「筆跡を鑑定しても…いいかね?」
「ええ、どうぞ」
なんか筆跡鑑定する人まで出てきた。
あの人ってそのための人だったんだね。
なんかさっきから、なんにもしてない人いるなって思ったんだよなぁ。
数十分後
「…間違いありません。これはヒルデ・ブランデンブルクの文字です」
「おお!」
え?鑑定結果出るの早っ!?
こういうのって時間かかるんじゃ…
あぁ…でも、それは前世基準だしなぁ…
このSF世界じゃすぐ結果は出るんでしょ(適当)
知らんけど(クッソ適当)
「ありがとう、ギャレット最先任上級曹長。君の齎してくれた情報は交渉に大いに役立つだろう」
「光栄です」
あー…この人も中々の狸だよな。
交渉材料になるって言ってるけど、どことの交渉材料かなんて言ってないしな。
“アステリア・エレクトロニクス”と交渉する気か…それとも“ヴァルハラ・サイバネティクス”か…
ヴァルハラだと俺が逃げるかもしれないからか?
当たりだよ。
俺としちゃ、せめて“アステリア・エレクトロニクス”がいいな。
少なくとも強化人間にされても98%くらいは生き残れるし…
給料はいいしな。
他の参加者がなんにも言わないのは、この人の後ろ盾がどこか知ってるんだろうねぇ…
サリヴァン総司令官はアステリアじゃないかって言ってたなぁ…
なんでも、娘さんが重役の所へ嫁いでるとか言ってた。
地元の情報通の知り合いから聞かされたんだとよ。
ま、今回の事で関係が拗れてなければだけど…
その後も会議は続いたが…
結局のところ、これら企業が取引を持ち掛けてるって情報を使って、アステリア・エレクトロニクスに交渉持ちかけるんだと。
こりゃあ確定だな。
後ろ盾はアステリア・エレクトロニクスだ。
しかし、あの人…結論ありきで会議やってたな?
で、自分の都合のいい展開に持って行ったと…
一見無意味に見えるが…こういうの有力者に黙って決めたら、そいつスゲーへそ曲げるもんな。
少なくとも意見を聞いたってのと、形式上は皆で決めた事だから後々「やっぱやだ」ってできなくしようとしてんだろうな。
やっぱ狸だぜあの人?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
AL2セントラルポート市街。
ヴァレンタイン議員は会議を終え、事務所に戻るため防弾仕様の車の後部座席で揺られていた。
彼は今日初めて直接顔を突き合わせた英雄…ジャック・ギャレットの顔を思い浮かべた。
「いやはや…彼は中々の曲者のようだね」
ヴァレンタインは困ったような顔をしてそう言った。
隣にいる彼の秘書は、要領を得ないといった顔で聞き返した。
「ギャレット最先任上級曹長が…曲者…ですか?」
ヴァレンタインは頷いて言った。
「ああ、そうだとも。手紙の内容はなんだったと思う?」
「え?それは…彼の言った通り、挨拶などから同社への勧誘…そして“ヴァルハラ・サイバネティクス”がこちら側につく可能性を示唆したものでは?」
秘書と返答を聞き、彼は大笑いした。
「ハハハハハハ!!!普通はそう思うだろう?それが違うんだよ!」
「え?で、では!一体なんだったのですか?」
彼はおかしくてしょうがないという顔で言った。
「ああ、あれか?恋文だよ!」
「え゛!?」
ヴァレンタインは自身の秘書の反応を見ると、手を叩いて笑った。
「ハハハハハハ!!!そりゃあそんな顔にもなるよな!」
「いやぁ…まさか…ははは…ジャック・ギャレットは女を撃墜するのも巧かったとはな」
「政財界を問わず、あらゆる男がアプローチをかけている、かの“ワルキューレ”からの恋文を…平然とした顔で見せて来るとはな!」
「皆、驚いていたな!彼女と文通していた男がこの銀河に存在したのだから!」
秘書は彼の言葉を聞いて、点と点がつながったような感覚を憶えた。
「まさか…彼女が執心だという…“赤い人”というのは!?」
「ああ、そうだとも。彼だよ」
ヴァレンタインのそんな言葉を聞き、秘書は思わず鳥肌が立った。
(まさか…彼はあんな大勢の前で自身があの“赤い人”だと宣言して見せたのか!?)
(もし…ヒルデ・ブランデンブルクの言葉が本当なら…!)
「彼はかつて…タイタン・ヘヴィ・インダストリーズ率いる企業連合が、総力を挙げても止めることができなかった…」
もし、ここにジャックがいれば「いや…あの…マジでなんの話ですか?それ本当に俺個人ですか?ブレイカースクワッド全体の事じゃないですか?そんなのできっこないですよ…?」と、困惑しながら否定することだろう。
実際、これは伝言ゲームのように情報が歪められたものだ。
流石のジャックもそんなことはやっていない。
しかし、みんな事実を誤認していたし、タイタン・ヘヴィ・インダストリーズも否定しなかった。
THI社が否定しなかった理由は、横流しなどの損失分をジャックからの損害で片づけていたからである。
ブレイカースクワッド全体ではなく、ジャック個人のせいにされた理由は動きがよくて、パーソナルカラーが赤で目立っていたからである。
「ブレイカースクワッドの赤い奴にやられました」と言って横流しをしたせいで、ジャックのTHI社側で記録されたスコアが凄まじいことになったのである。
そうとも知らずにヴァレンタインは言った。
「彼は私たちに対し、自身を手放す事のデメリットを示したという訳だよ…」
「Aランク帯の最上位ランカーに相当する戦力を手放すわけにはいかんだろう?」
「それに、彼はサリヴァン君同様、地獄の最前線を生き残った強者。自身を裏切って、売り飛ばそうとしている気配を察知して、さっさと行方をくらませてしまうだろうね」
「なにせ、最高の逃げ場を持っているようだからな」
彼の言葉に秘書は怪訝な顔で聞き返す。
「逃げ場…ですか?」
「ああ、“ワルキューレ”のところさ。彼女の稼ぎなら、男が一人転がり込んでも余裕で養えるだろうな。後は、彼女の元で悠々自適な暮らしってわけさ」
ジャックが聞けば「そんなん怖すぎて無理。ほんと勘弁して」と言い、ヒルデが聞けば「ああ、それなら浮気防止にもなるわね。家にいてくれるなら安心ね」と言うことだろう。
ヴァレンタインは面白くて仕方ないといった顔で言う。
「いやぁ、まさか彼を試そうと思っていたら…こちらが試されるとはね」
「面と向かって自分を売り飛ばさないように釘を刺すとはねぇ…」
「前評判以上だな…魅せてくれるじゃないか」
ジャックの極めて軽率な行動に対して、彼は凄まじい過大評価をした。
彼は笑みを浮かべ、覇気に満ちた声で言った。
「さて、それじゃあ私はルキウス君との交渉を頑張るとしようか…」
「あまり、彼を追いつめすぎては…失脚が確定してしまうからなぁ!」
「いい塩梅の妥協点を見つけなくてはねぇ?」
そして、蛇の様な恐ろしい声で言った。
「娘婿殿には頑張って副社長になってもらう必要がある…」
「セバスティアーニ君は…慎み深さに欠けるからねぇ…」
「そのためにも…少しばかり手助けの必要があるかな?」
彼は必要ならば好々爺となり、狸となり、そして毒蛇となる。
彼の胸中にあるのはこの星系への深い愛。
故に、彼はアルビオン星系のためならいくらでもその手を汚すだろう。
ジャックくんは真面目にヒルデのヒモになった方が幸せかもよ?
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