第十五話
前半は少し今までと作風が変わってしまっているかもしれません。
AL3サウスポート基地。
鳴り響く警報音がここで異常事態が起きている事を示していた。
『第三区画を封鎖しろ!当該区域にいる者は部屋から出るな!また、部屋の扉を憲兵がけ破って入ってきた場合は、手を頭の後ろにつけてその場に膝をつけ!』
全身をボディーアーマーやヘルメットに身を包んだ憲兵たちが、緊張した面持ちで銃を持つ。皆一様に顔を強張らせており、まるで化け物とでも対峙するかのような面持ちである。
彼らは皆極限の緊張に曝されていた。
彼らの後ろには警護対象である、基地司令ともう一人…
アルビオン星系の英雄ジャック・ギャレット最先任上級曹長がいるのだ。
守り切れなければこの星系は終わりといってもいい。
「いいか!敵を人間だと思うな!奴に最先任上級曹長を渡すな!」
「「「「「了解!」」」」」
憲兵たちはバリケードの外を睨みつけ、敵が来ると思われる方向を向く。
すると、彼らの通信機に悲痛な救援要請が入ってきた。
『こちら第三憲兵小隊!奴だ!奴が出た!!!もう、これ以上は抑えられません!救援を要せ…あ、あああああああ!!!!!』
『サイセンニンジョウキュウソウチョォォォ…』
悲痛な叫びとなにかの唸り声と共に通信は途絶えた。
「ギャレット最先任上級曹長…ここはもう危険です…下がってください」
憲兵隊の指揮官は自らの後ろにいる、ギャレット最先任上級曹長に後退するよう伝えた。
それに従い、下がろうとしたジャックは一瞬動きを止め、ある方向を見て言った。
「もう、来ている」
次の瞬間、奇声を発しながら床を四足で這って来る影が現れた。
それは血まみれの人間の様な姿のなにかであり、凄まじい速度で四つん這いで動いていた、
そのなにかはジャックを視認すると歓喜の声を上げて、腰をカクカク振りながら彼を目掛けて四足で駆けて来る。
『ジャックゥゥゥゥ♡ギャレットォォォ♡サイセンニンジョウキュウソウチョオオオオ!!!!!♡』
それはこの世の物とは思えない理外の存在である。
正しく怪異と呼ぶべき存在だった。
「撃てぇぇぇ!!!!」
指揮官の射撃命令と共に怪異を無数の銃弾が襲う。
しかし、止まらない。
「誰かこいつを止めろォ!!!」
「く、来るなァァァ!!!」
『フォオオオオオ!!!!!』
「ぎゃああああ!!!」
「痛い痛い痛いぃぃぃ!!!!」
怪異は撃たれても死なず、憲兵たちを襲う。
数秒後、防衛線を突破した怪異がジャックのまえに現れた。
その姿は最早死に体であり、割れた額からは脳が露出している。
『ハァ…♡ハァ…♡ジャックゥゥゥ♡イッショニカミサマノトコヘイコオオオ!!!♡』
怪異は焦点の合わない濁った瞳でジャックを見つめ、訳の分からない妄言を吐き続けている。
「不味い!防衛線を抜かれたぞ!?」
「最先任上級曹長と司令を守れぇぇ!!!」
無事な憲兵たちはジャックたちを守ろうと走る。
『ジャックゥゥゥ♡』
怪異がジャックにまさに飛びかからんとした瞬間──
「悪いが…俺は無神論者でね」
彼は怪異の割れた頭蓋から覗く脳髄を腰に下げた拳銃で見事撃ち抜く。
『ァァァァ…ナ…ン……ェ…』
「神様のとこには一人で行きな」
怪異は多くの憲兵を殺傷した末にジャックに射殺された。
「こいつは…一体…なんだったんだ?」
基地司令は呆然としながら呟いた。
無理もない、自身の基地に得体の知れない存在が、兵のふりをして入り込んでいたのだ。
ジャックは負傷した憲兵の手当を手伝いつつ、憲兵隊の指揮官に命令する。
「これは元々…アンドレ伍長と呼ばれていたそうだな?」
「基地周辺を捜索し、身元不明の死体が見つからないか確かめろ。本物のアンドレ伍長と入れ替わられた可能性がある」
我に返った基地司令は、ジャック同様に憲兵を手当しながら命令した。
「死体を鑑識に回せ…どこの手の物か調べろ」
「どこかの大企業が最先任上級曹長を暗殺するために送り込んだ生物兵器やもしれん」
憲兵隊の指揮官は命令に短く応じ、負傷者の対応と二人の命令を直ちに実行に移した。
数日後、基地の敷地内に埋められていた、原型を留めない状態で損壊した死体を発見。
DNA鑑定の結果、死体はアンドレ伍長のものであると判明。
また、このジャック・ギャレット最先任上級曹長を狙った生物兵器と思しき存在は、人間と大きく異なる身体構造かつ大部分を機械化していたため、何者かがなんらかの意図をもって送り込んだ生物兵器ではないかと憲兵隊は推測した。
被害者のギャレット最先任上級曹長曰く、「機械化されてる?じゃあ、ヴァルハラ・サイバネティクス辺りじゃないか?」との事だが、今のところ真偽は不明である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺はあれを始末した後、事情聴取を受けて部屋に戻った。
変態の排除だと思ってたのに…
なんでこうなった…
「あー…死ぬかと思った」
「もしあの時、銃が漏れかけた脳みそに当たらなかったら、俺は一体なにされてたんだ?」
「憲兵隊の隊長さんに、後退しろって言われて下がってたのに…数秒くらいで距離つめられた…」
「まぁ、俺は走り始めなのに相手は結構スピード乗ってたからなぁ…死にかけだから火事場の馬鹿力もあったとか?知らんけど…」
【悲報】怪異はマジで怪異だった
いや、マジであれなんだったの?
どっかの大企業の生物兵器だよな?
SAFには通用しなくても、歩兵とかが相手なら有用に見えるし…
なによりSAFに乗る前のパイロットなんて歩兵より簡単に殺せるだろうからな。
「でも、あれがマジで人間って可能性も捨てきれないんだよなぁ…」
この世界、ロボットアニメみたいに人間の性能もバグってんだよね…
100m走の平均が7秒台っておかしいよな。
ちなみに俺は5秒フラットで走れる。
この体マジでチートなんだよな。
鉄板捻じ切れるし。
強化人間って、訓練された兵士をゴミみたいに叩きのめせるけど、俺はそれを戦場で逆に叩きのめしてたわ。
ひょっとして俺って強化人間よりチートなボディ?
ヒュー!最高だぜ!
「それで追い付いて来るってあの怪異マジでやべぇよ…マジなんだったのアレ?」
少なくとも一対一じゃどうなるかわかんねぇな…
マジで憲兵さんたちが死力を尽くして戦ってくれなきゃヤバかったな…
あんだけ撃たれてあんなに動けるとかおかしいよ…
俺あんな出血してたら這って逃げんのがやっとよ?
しかし、俺に対して以上に執着してたし…神様ねぇ…?
「昔、いくつか武装蜂起したカルト教団を潰してたし、その辺の残党が報復に?」
「…でもそんな技術力は……どこかの企業がバックについてる?」
生物由来かサイボーグ化みたいな技術が使われてるかで変わるな。
生物由来だったら、なんかゲームでバイオハザード起こしてそうなの何社か覚えがある。
ブレイカースクワッド時代には、惑星規模のバイオハザードやらかした挙句、惑星ごと焼き払う羽目になった案件もあったしな…
「ひょっとして、俺だけじゃなくてサリヴァン総司令官も狙われるんじゃね?」
あり得なくもないな…
なにせ、俺たちはGISDFの命令とはいえ、企業の不興を買うようなこと腐るほどしてるし…
逆恨みでそういうことされてもおかしくないわ。
とりあえず、基地から秘匿回線で連絡するか。
「その時に手紙の事も言うか」
悪いね、サリヴァン総司令官。
あんまり苦労は掛けたくないけど、来ちゃったもんは仕方ないんだ☆
いや、ほんとごめんね…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…という次第でして…サリヴァン総司令官も、今回私を襲った生物兵器に襲われる可能性がありますのでどうかお気を付けください」
『なるほど…わかった。私や他の要人の警護も厚くしておく。ロビンソン司令、なにか判明したらこちらにも教えてくれ』
「はっ、了解しました」
とりあえず事の顛末は話した。
セクハラ生物兵器の顛末と俺の考察を聞いて、サリヴァン総司令官も険しい顔だな。
このタイミングでこれって考えたら、俺たちを始末したいどっかの大企業(本命はアステリア、対抗は俺がいなくなったレステラリウムの配分増えると思った議員の後ろ盾)が、俺たちに恨みを持ったカルト教団の残党を使って、生物兵器送り込んだようにしか思えないもんな。
そこに不幸の手紙の事をぶち込むのか…
『それで、他に何か用件はあるのか?』
「実は…総司令官にご相談したいことが…」
まぁ、しょうがない。
タイミングが最悪だけど我慢して貰うしかないわ。
「“ワルキューレ”から…条件付きで“ヴァルハラ・サイバネティクス”は味方になるなどと書かれた手紙を送られまして」
おお…サリヴァン総司令官凄い顔してる…
気持ちはわかるよ。
『“ワルキューレ”ってAランク帯5位のヒルデ・ブランデンブルクか?』
「はい」
『お前の初陣で大隊長を殺したヒルデ・ブランデンブルクか?』
「はい」
まぁ、彼にとっては長年の戦友だもんな…
そりゃあ複雑な感情を持ってるよな…
俺からしたら地獄に引きずり込んだ悪魔だけど。
『お前が逆ナンされてめんどくさくなって、“これあげるからどっか行って?”ってその辺のタンポポ渡したヒルデ・ブランデンブルクか?』
「はい…なんで知ってるんです?」
『リーが爆笑しながら教えてくれた』
「見られてたのか…」
マジかよ…ブレイカースクワッドの戦友が見てたのか…
『で、その後滅茶苦茶喜ばれて“おもしれー女”ってなって、見た目が好みだったから普通にデートして、帰り際に名前聞いてお前はガクブルで帰ってきたってヒルデ・ブランデンブルクか?』
「はい…この確認要ります?」
『要る』
腹立つけど、これで総司令官のガス抜きになるなら付き合っとくか…
この後、アルビオン星系政府…っていうか元老院議員との折衝してもらうし…
『最後に一つ質問がある』
「…なんです?」
『戦友と飲みまくって、酔っぱらってスーパー行って食玩大人買いした帰りに偶々出くわして、お前がベロベロに酔っぱらいながら情熱的に口説いて食玩渡したヒルデ・ブランデンブルクか?』
「は…俺そんな事してたんですか!?」
『ああ、俺はお前の隣で爆笑してたぞ』
「なんで止めてくれなかったんですか!?」
『ごめん、俺も酔っぱらってて…今は滅茶苦茶後悔してる』
「終わったぁ…」
おい待てよ…俺口説いてたの?
“ワルキューレ”を?
まさかだけど彼女の脳内じゃ俺と付き合ってる事になってるんじゃなかろうね?
その場合、俺完全に糞野郎だよね?
でも、糞野郎呼ばわりされていいから関わり合いになりたくない…(屑)
「な、なにしてるんですか…あなたたちは…」
あ、基地司令ドン引きしてる。
まぁそりゃそうか…
殺し合った事のある他所の最高戦力に、その辺から引き抜いた犬がションベンかけててもおかしくないタンポポ渡してるもんな。
『ロビンソン司令、言っておくが、今回の事は内密にしてくれよ』
「わかってますが…流石ブレイカースクワッド…頭おかしい…」
酷くない?大の男が女性にその辺のタンポポと食玩送っただけだよ?
頭おかしいな(確信)
『それでだ…君は私同様その手紙に政治的価値を見出しているのだろう?』
「はい、これは真偽はともあれ大企業がアルビオン星系側に立つ可能性があると証明する証拠です。これを利用すれば交渉は有利に進むかと」
『うむ、その通りだ。我々はこれを一刻も早くアルビオン星系政府…いや、“アルベルト・ヴァレンタイン”元老院議員に見せなければならない』
「はい、その場合この手紙を回収するために、ここへ総司令部の使いを送られるのですか?」
おん?サリヴァン総司令官が考え込んでるな…
『いや、すぐに私が輸送機に乗ってそちらへ行こう』
「では、そこでこの手紙を?」
『いや、どこに目があるかもわからん。適当な名目で君も議員の前に連れて行く。…そうだな、元老院議員の呼び出しってことにでもするか』
「よろしいのですか?」
『ああ、実際に講和に関する事で、我々軍の上層部に話があるらしい。その際、現場に精通したスペシャリストとして君を招集するって体にする』
「なるほど…では、その時手紙を持って行けばいいのですね?」
『ああ、だが一応画像データとして暗号化して送ってもらいたい。なにがあるかわからんからな』
「了解、すぐに送ります」
どうやら、俺も政治家の先生とご対面するらしいな…
さて…鬼が出るか蛇が出るか…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
中央星系、惑星キャピタル。
アステリアグループ傘下、“スコルピオーネ運輸”。
この会社はアステリア・エレクトロニクスの傘下の企業であり、同社のCEOはセバスティアーニ専務が務めていた。
その社長室にて、セバスティアーニ専務は不機嫌そうな顔で端末を見ていた。
「ふん、どうやらギャレットの抹殺には失敗したらしいな」
「田舎の三流軍隊に対処できる程度の兵器じゃ、ルキウスやサリヴァンなんかを殺すのは夢のまた夢だな」
彼は吐き捨てるようにそう言った。
そして、自身にこの兵器についての取引を持ち掛けた者を思い出し、その必死の形相を思い出して嘲笑う。
「ま、所詮は“ワルキューレ”どもに追いやられた、負け犬の日陰部署の製品だ。そりゃあ上手くいくわけもねぇな」
「商売敵にまで必死に頭下げて買ってくれって言ってやがる…あーあ…負け犬ってな惨めなもんだねぇ」
彼は心底馬鹿にした表情でそう言った。
「しっかし、この生物兵器のコンセプトは良い趣味だよなぁ…」
「なにせ、潜入する際に化ける相手の喉へ声を上げられないよう切り割いてから、止血して生きたまま末端から徐々に切り刻んで嬲り殺す…」
「脳みそは無事だから記憶抜いて擬態対象に完璧に成り済ませる…」
「で、こいつは100m6秒の俊足かつ鉄板を捻じ曲げる怪力があるから、組み疲れたら強化人間でも振りほどけないと」
セバスティアーニは恍惚とした顔で続けた。
「でも、一番イイのはそこじゃねぇんだ…」
「標的に設定された不幸な奴はなぁ…凌辱の限りを尽くされてから死ぬんだぜ?」
「強姦ってなぁよぉ…魂の殺人なんだよ…わかるか?」
「肉体だけでなく…魂も殺せるんだぜぇ?すげぇイイよ…」
彼は先ほどとは打って変わってがっかりした表情で続けた。
「だが…そいつはカタログスペックの話だ。実際にはギャレットはバケモンにケツ掘られながら死んでねぇじゃねぇかよ…」
「それじゃあよぉ…意味ねぇじゃねぇかよォ!なぁ!」
「はぁ…ま、しょうがねぇよな。所詮はこいつで“ワルキューレ”が凌辱されんのが見たいって妄想して、実行にも移せてねぇ作品に自分を神って呼ばせてるチンカスだもんなぁ…」
そう言うと、彼は端末にある自身に生物兵器を売り込んだ技術者の情報を抹消した。
そして、どこかと通話を開始した。
「ああ、俺だ。そう、また“掃除”を頼みたい」
「ん?いや、そっちはまだ不味い。それよりも“ヴァルハラ・サイバネティクス”の末端を一人頼む」
「ああ、やり方は任せるからなるべく早く頼む」
そう言って、彼は通話を終了した。
そして、社長室の窓からキャピタルの景色を眺めた。
「俺はいずれ…アステリア・エレクトロニクスの頂点に立つ…そのために必要なのはなにか…」
「それは恐怖だ!」
そう言った彼の脳裏には、アステリア・エレクトロニクスの全社員から畏怖される一人の老人の姿があった。
「恐怖とは死ではない…死よりも惨い事!それが本当の恐怖ッ!!!」
「故に…俺に盾突く者…不都合な者…そいつら全員尊厳を踏みにじってから殺すッ!!!」
「お前もそうすべきだと思うだろ?」
セバスティアーニは青い顔で震える、先ほどから自身の前に立っていた秘書にそう尋ねた。
秘書は跪いて、震える声で彼に媚びるような顔をして言った。
「は、はい!間違いありません!あ、あなた様は常に賢く!そして正しい!!!」
彼はそんな自身の秘書を見て満足気に頷く。
(もうこの仕事辞めようかな…)
秘書は真面目に退職する事を考えた。
身の程知らずは謀略を練り続ける。
自身がなにに手を出したのか知らずに…
かわいそうな事に、ジャックくんはこれから身体能力の高い変態を見ると、生物兵器かどうか疑わずにはいられなくなってしまいました…
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