第十三話
本格的に章タイトルの策謀っぽさが出てきたと思います。
俺たちが、アステリア・エレクトロニクスの侵攻軍を退けてから数日。
生前交流があった人たちの葬式の予定がびっしり…
やんなるよね…
今は彼らがどんな声で話して、どんな風に笑うか思い出せるのに、時間が経ったら過去の映像や写真を見なきゃ思い出せなくなるんだ…
しかし、妙な話だよな…
うちみたいな中小の星系が、ステラリウムの鉱脈を見つけてもあんな侵攻軍にはならない筈なんだが…
ユリウスとラモントだっけ?は新世代型強化人間で、最新鋭の武装を装備した最新型機に乗ってたんだよな?
その実践テストに、俺やサリヴァン総司令官っていう、ランカーが二人いるから選ばれた?
この線は考えたくないな…
「もしそうだったら、この前のチンピラ雑兵みたいなのに殺されそうだな…」
だって、俺らに矛先が向きそうだし…
大企業に石は投げられないけど、俺らに石を投げるのは簡単だろ?
そうなったら、サリヴァン総司令官とどっか大企業行くかね…
“ヴァルハラ・サイバネティクス”以外で。
あそこ他の大企業と比べても碌でもない噂多いんだよ…
「軍人や傭兵を拉致して、強化人間の実験体にしてるとか聞いたことあるような…」
じゃあ、あれか?ユリウスの父親がアステリアの役員だから、息子の経歴に箔をつけようと、元ブレイカースクワッドのランカーの首を取りに来た?
「いや、それにしては30隻は少ない…もっと大量の艦隊で蹂躙する筈だ」
ご祝儀感覚で虐殺とかマジで酷い世界だよな…
逆に、政敵がユリウスパパの派閥を弱体化させようとしてた?
じゃあ、送り込まれたのはユリウスパパ派の艦隊とか?
「ありえなくはないが…問題は、ユリウスが倒されて捕まった事だな」
あの後、ユリウスは病院に搬送されて治療を受け、もう意識とかもあるんだって。
全治一ヶ月なのに二週間くらいで治るとかなんとか…
強化人間って治癒力も強化されてるのな…
「最新技術の塊である、新型強化人間が捕虜になったのは、向こうからしたら最悪の事態ではないのか?」
そこなんだよなぁ…
ライバル企業に引き渡されたら、最新技術が抜かれかねないからね…
「後…なにか他の可能性はあったか…?」
後は…これは単なる仮説なんだが…
元老院議員って、自分とこの星系に希少資源が見つかったら、懇意にしてる大企業の役員と密約結んで資源の何割かを提供することで、ある程度の利権を自分の元に残しておくらしいんだよね。
じゃないと攻め込まれるとかなんとか…
胡散臭い政治学教授だかが、したり顔でそんなん言ってるのを聞いた気がする。
しかも、それを企業と行政の素晴らしい共生関係とか、恍惚とした顔で言ってた気がする。
攻め込まれて当然とか頭おかしいんか?
この世界ほんとに糞だわ。
でも、これはあり得ないと思うんだよね。
だって──
「どこかしらの大企業と、良好な関係を築けない者が元老院議員になれる筈もない…」
そうなんだよ。都合が悪い奴は“不幸な事故”に遭ったり、突然“病死”するんだよなぁ…
だから、基本的に元老院では大企業が、好き放題自分らに有利な法案を通してるんだよな。
「なのに…後ろ盾の企業が助けなかった…どういう事だ?」
あんまりにも希少な資源なら、普通に現地の事をガン無視して攻め込むとかあるけど…
ステラリウムは割かし銀河中で見つかるし…
鉱脈あるけど採算取れないから掘ってないってとこもあるからなぁ…
「懇意にしているのはアステリアの役員?」
つまり、権力闘争や社内政治に100億以上の命が巻き込まれたってわけだ。
ありえなくはないね。
つーか、これが一番有力?
あいつら社内の権力闘争のために、平和な星系を内乱状態にして少年兵に自爆攻撃させるレベルに追い込んで、それでようやく割に合わないって判断して、荒廃した星系を現地でリンチされる平社員諸共捨ててとんずらするからな。
GISDF時代に何度そんなのを見せられたことか!
「全く胸糞の悪い…怒り狂った現地民から、危うく一家全員リンチされかけていた、現地の子会社の何も知らない従業員なんかを保護する任務もあったな…」
なんで俺らがあいつらの尻拭いをしなきゃならん!
つーか、社員食堂のパートのおばちゃんが、お前らの星系を滅茶苦茶にするのに加担したとか意味わかんねぇよ!
頭に来るのはわかるけど、爆弾テロは俺らじゃなくて大企業のお偉いさんとこにやれよ…
「全く…思い出したくもねぇや…」
「その点今回はまだマシだったよな…」
ユリウスがお坊ちゃまだったおかげか知らんけど、今回降伏したコロニーじゃ兵による略奪強姦祭りは開催されなかったらしいんだよね。
それに、民間人の被害も遊び半分で殺されたりしなかったおかげで、比較的少なかったらしいし…
「今回はレギュレーターズ100%で傭兵がいなかったおかげか?」
まぁ、今回は資源目当てで占領後は自分たちの縄張りになるもんなぁ…
そこの治安が崩壊たらヤバいから民間人には手を出さないよな…
傭兵はそういうの契約内容に入れとかないとガン無視するからなぁ…
契約を平気で破って略奪や強姦、殺戮を行う頭キルディザスター(笑)な傭兵もいるけど…
そういうののせいで治安崩壊、現地民武装蜂起しまくりになってから、元老院に泣きついてGISDF動かすんだよなぁ…
「ほんとさぁ…なんであいつらもうちょっと考えて行動しねえんだろ…あれか?このくらいガバガバでもどうにかなってきたから、慢心して考える事を放棄したのか?」
ま、なんにせよこれで介入してきた大企業がうちの議員の先生の後ろ盾で、介入なしで停戦に合意したならアステリアが後ろ盾かな。
後ろ盾が他の大企業なら、介入しなかった理由は負けが込んで来たら元老院でGISDFの出動をさせようとしてたとか、30隻程度なら俺らがボコられてからの介入でも問題ないって判断したとかだろうな。
「そうしたら、保護や復興支援って名目で、完全に経済植民地にできるからな」
アステリアが後ろ盾なら、間違いなく今回の一件は社内政治が原因。
うちの議員の先生と懇意にしてる重役が、別の星系の議員とも懇意にしてるなら、アルビオン星系の件で揺さぶりをかけて「あの人当てにならないよ?私と仲良くしない?」ってやんのかな?
「だとしたら、そいつは目先の事しか考えてない愚か者だな」
普通にアステリアが当てにならないって別の大企業に鞍替えしそうだもんな…
議員同士で交流してたりもするし、なんなら企業が主催するパーティーなんかにも呼ばれてるだろうしな。
まぁ、記事や会報なんかに名前以外も載るのは、アルビオンより発展してる都会の星系くらいだし…
その辺って前世じゃどうなんだっけ?
なんかもっと後援会の事とかこの世界よりオープンに発信してたような…
「そもそも、星系が多いから議員の名前が被る事もなくはないんだよなぁ…」
こんな地方の星系の議員じゃその辺配慮して貰えないだろうな。
…マジで元老院は企業に牛耳られてるな
これ俺が生きてるうちに、大企業による国家解体からの大企業至上主義社会になるんじゃね…?
そんな事を俺はベッドに寝転んで考えていた。
「あーあ…こんな目に遭いたくないからここに来たのになぁ…」
ここに来てもわけわからん企業の思惑に付き合わされるとはな…
ほんとやんなるよね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
“銀河統合星界政府”中央星系、第四惑星“キャピタル”。
この惑星は、この巨大な星間国家の首都であり、元老院議事堂や中央銀行、各台企業の本社の立ち並ぶ政治と経済の中心地でもある。
当然、銀河系に冠たる大企業である“アステリア・エレクトロニクス”の本社もここにある。
アステリアの本社に届いた、アルビオン星系における大敗の一報に、アステリア・エレクトロニクスは震撼した。
新世代型強化人間二人と最新鋭機が失われたのだ。
アステリア本社では、役員同士の戦略会議とは名ばかりの、責任の押し付け合いが行われていた。
「ええい!デリック!貴様は一体どう責任を取るつもりだ!」
「デリック専務!この侵攻作戦はあなたが新型強化人間の実戦テストとして発案したものなのですよ!」
「そうだ!お前が悪いんだ!責任取れ!責任!!!」
今やり玉に挙げられているのは、アステリア・エレクトロニクス専務であり、アステリアグループ傘下“アステリア・スティールワークス”CEOでもある、デリック・ノーマン・テンプルという男だ。
彼は侵攻軍にいたランカー、ラモント・デリック・テンプルの父であり、愛息子の箔付けのために新型強化人間による実戦テストを提案した。
「ふざけるなよ!!!それを言うなら、貴様らもしたり顔で頷いて賛同していたではないか!!!」
「そもそも、儂はアルビオン星系で行うことまでは提案しておらん!アルビオン星系を選定したのは貴様ら他の役員ではないか!!!」
当然、彼も黙ってはいられずに反論するが、余りにも形勢は不利であった。
「ふざけるな!!!お前が提案しなければこんなことにはならなかったんだぞ!!!」
「大体お前の息子が出来損ないだったから負けたんじゃないのか?そうでなければこの大アステリアが負ける筈がなかろう!!!」
当然だが、他の役員たちは今回の責任を負わされたくない上に、上手くいけば専務の椅子が空いて自分が座れるかもしれないなどと考えている。
故に、全力で彼に責任を擦り付けにかかっていた。
この期に及んで、まだ彼らは社内政治の事しか考えていない。
その様子を眉間に皺を寄せ、底冷えするような冷たい目で見つめる男がいた。
彼の名はルキウス・フォン・アトラス。ユリウスの父だ。
彼もデリック同様、アステリア・エレクトロニクス専務兼子会社のCEOである。
(愚か者どもめ…論ずるべきは、今回の責任の所在ではなくこれからの方針だろうに…)
(ユリウスたちが捕虜になる、もしくは良好な状態の死体が見つかるかした場合、それを競合相手に引き渡される可能性もあるのだぞッ!)
(今回の敗北で株価は下落!おまけに風見鶏の議員共が他社に近づいているではないか!!!)
彼は、他の役員の危機感の無さが原因で苛立っているのもあるが、彼を苛立たせているのはそれだけではない。
(そもそも…アルビオン星系のステラリウムは、私が取り付けた密約で20%はわが社に回される筈だったのだぞ!?)
そう、アルビオン星系が今回の一件まで大企業に脅かされることがなかったのは、このアルビオン星系の元老院議員と結んだ密約によって、“アステリア・エレクトロニクス”が他の大企業を牽制していたからだ。
本来、この密約を破っただけでは大した問題にはならなかった。
中小の星系など拭けば飛ぶもので、大企業に蹴飛ばされようが踏みつけられようが、伏して媚び諂うしかできないからだ。
(負けたのはまぁいいだろう…だが、負けた相手が最悪なのだ!)
だが、今回はアルビオン星系という地方の中小の星系相手に、艦隊は全滅判定でランカー三人は消息不明という前代未聞の大敗を喫した。
それも最悪な事に、密約を反故にして攻め込む形で…
媚び諂う側とて、媚を売る相手は選ぶ。
早い話が、“アステリアは落ち目ではないのか?”、“密約など当てにならないのではないか?”と疑われ、地方から徐々に足場が崩れつつあるのだ。
そんな彼の思考は途中で中断される。
「あなたも黙ってないでなにか言ったらどうなのですか!?」
「アトラス専務!あなたのご子息が指揮官だったのでよ!?」
「なんとか言ったらどうです!」
役員たちが彼にも矛先を向けたのだ。
(猿にも劣る知能の屑どもが…)
ルキウスは苛立ちを滲ませながら答えた。
「…お言葉ですが、私は今回のアルビオン星系には何度も苦言を呈してきましたよ?」
「ランカー二人が待ち構えている星系にたった30隻では足りないとね」
「それに、ランカー二人はあの音に聞こえた“ブレイカースクワッド”の退役軍人ではないかとね?」
「奴らが相手では下位ランカーだけでは不安が残ると…再三申したはずですが?」
「ええ、確かに申した筈です。艦隊の規模を増やすよう言う私を、臆病者などと嗤っていたジャクソン常務?」
彼は嫌味たらしく自らを批判した役員の一人に名指しで言った。
すると、彼を糾弾していた側の役員は次第に勢いを失う。
「議事録にも残っているのですから、後程確認してみては如何です?」
彼は自らを糾弾する愚か者たちに対し、侮蔑の念を隠さずにそう言い放った。
「き、貴様!第三世代機に乗るDランク帯とFランク帯のランカーを相手に、わが社の新世代型強化人間二人に最新鋭機がそうそう負ける筈がなかろうが!!!」
「此度の敗北は、全て貴様の息子が無能であった証拠ではないか!!!」
ジャクソン常務と呼ばれた役員は、激昂してそう言った。
ルキウスは一瞬だけ眉をピクリと動かすと、極めて冷静に口を開いた。
「それこそ何の根拠もありません。今回撤退してきた侵攻軍からの報告書を読んでいらっしゃらないのですか?」
(全く…このような愚物を役員の席に就けるとは…どうかしている)
彼はそう考えながら、忌々し気にとある男の方に目をやる。
男の名はアレサンドロ・メルキオッレ・アロルド・セバスティアーニ。
彼もまた、デリックやルキウス同様専務の地位にあり、ルキウスらにとっては次期副社長の座を巡って争う政敵であった。
(今回の一件にも、どうせこの男が関わっているのだろう)
彼は飄々とした顔でこの茶番を見つめる政敵に、忌々し気に内心で毒づいた。
セバスティアーニは、苦虫を噛み潰したような表情の政敵を鼻で笑い、会議が始まってから一言も喋らない上座に座った老人…アステリアグループ会長に目をやり口を開いた。
「まぁまぁ、諸君!ここは責任の所在を決めるための場ではないのだぞ?」
「もっと建設的な話をしなければいけないだろう?」
彼は白々しくもそう言って罵り合いをやめさせた。
いつでも止められたにも関わらず、先ほどまでの茶番を眺めていたところに彼の人格が窺える。
「うむ、今後のアルビオン星系に関する方針について…なにかある者はいるかね?」
まるで重い岩を引きずるような声で会長は役員たちに尋ねた。
その落ちくぼんだ目には、老い先短い老人とは思えない程鋭い眼光が宿っている。
役員たちは、先ほどまで散々醜態を晒していたにも関わらず、完全に委縮していた。
委縮していないのは、政争に勝利したつもりのセバスティアーニと、ここから巻き返しを図ろうとしているルキウスくらいだろう。
(かなり…リスクは大きいが…ここでやらなければ私の失脚は免れん)
「私に…考えがございます」
ルキウスは意を決して挙手した。
セバスティアーニは土壇場で足掻く彼に失笑しつつも、彼の次の言葉を聞き逃さぬように静観した。
「ふむ、言ってみたまえ」
会長からの許しを得て、ルキウスは口を開く。
「ありがとうございます…我々にとって最悪なのは他社に新世代型強化人間や最新型SAFの技術情報が渡る事です」
「そこで、アルビオン星系が他の企業の傘下に加わる前に、一先ずはここで妥協し、講和を結ぶべきかと考えております」
「手をこまねいていれば、必ず他の企業がアルビオン星系に接近するでしょう。最新技術と新型強化人間を破れるエース。どちらも企業間の勢力争いには有益です」
「また、早急に今回の件に対応しなければ、勢力圏の地方星系の大規模な離反や株価の大幅な下落が予想されます!もしそうなれば…」
そうなればアステリア・エレクトロニクスは命脈を絶たれる。
彼は言外にそう告げていた。
「そのため、我が社は早急に講和を結ぶべきだと考えております」
「講和条件としては、ステラリウム利権の一部や相互による関税の撤廃などを組み込むつもりです」
彼は緊張した面持ちで言った。
会長の許しが無ければ自分の失脚が確定するからである。
セバスティアーニはそんな彼の姿を鼻で笑った。
(馬鹿な奴だ…離反しようとする星系があるなら、見せしめに一つや二つ焼き払えばいいだろう?)
(交渉などと戯けた事を行えば、それこそ地方のゴミどもが調子づくだけだろうに…)
(一騎当千のブレイカースクワッド?ハッ!馬鹿馬鹿しい…クローゼットの中のブギーマンのような下らん伝説を信じているのか?)
(あれは優秀な人間を使い潰し続けて築いたハリボテの伝説に過ぎん!いざとなれば100隻以上の艦隊ですり潰せばいいだろう!)
そんな内心でルキウスを虚仮にする彼を他所に、会長は視線だけで人を殺せるような目でルキウスを見つめる。
そして、その重い口を開いて彼に問う。
「…本当に可能だと思うかね?」
「はい!必ずや!わ、私にはアルビオン星系に伝手がございます!必ずや!できる限り良い条件を引き出して見せましょう!」
やや上擦った声でルキウスは答えた。
セバスティアーニは内心嘲笑した。
(なんて無様な姿だ…普段の余裕綽々の態度はどこへ行ったやら)
(まぁ、無理もない。愚息は大失態を演じた上に消息不明で、奴の求心力は日増しに衰えている)
(さて…同期がこれ以上醜態を晒すのを見るのは忍びない…私が引導を渡してやるとしよう)
彼は一瞬だけ嗜虐的な笑みを浮かべると挙手した。
「…セバスティアーニ専務、君もなにか意見はあるのかね?」
会長に問われ、セバスティアーニは得意げに答えた。
「はい、まずルキウスの言っている講和など必要ありません!」
彼がそう答えた瞬間、会議室内にどよめきが広まった。
「まず、奴らは一地方星系に過ぎません!損耗した兵員の補充とて我らよりも困難な筈!」
「今回、レギュレーターズは下位ランカーだけの上に、艦隊も30隻だけとあまりにも少ない!古来より、攻める側は防衛側の三倍の戦力が必要になります!」
「よって、今回の奴らの総戦力の三倍の数で当たれば良いのです!」
「ランカー二人も旧式のSAFに乗っているのだから、最新鋭機に乗った上位ランカーを複数人ぶつければ、どれほど腕が立とうと必ず討ち取れます!」
「よって、私は上位ランカーを連れた200隻の艦隊で、アルビオン星系へ大攻勢をかける事を提案させて頂きます!」
彼の言葉に対する反応は賛否両論であった。
「いいぞ!中小の星系なぞ大アステリアの敵ではない!」
「屑どもを調子に乗らせるわけにはいきませんからな!」
「講和など温い!そんな事をすれば、今まで力で押さえつけていた勢力が、一斉に反乱を起こしかねないぞ!」
「舐められては商売にはなりますまい。身の程知らずへの教育代はたっぷりと頂くことにしましょう」
「うーむ…ここで退けば本格的に落ち目だと思われかねませんな…」
半数は肯定的な意見の者。
「いくらなんでもやりすぎだ!」
「他社が嫌がらせで元老院に働きかけ、GISDFが出張って来るのでは?」
「元老院が直轄地にした挙句、ステラリウムを競合他社に流すなんて事になれば、それこそ無駄骨ではないのかね?」
「それだけの戦力を動かすとなると…また予算が軍事に割かれますね…」
「そんなに戦力を引き抜けば、企業同士の勢力争いに悪影響がでるのでは?」
半数は否定的な意見の者に分かれた。
「ふむ、なるほど…見事に分かれたのう…」
「君たちはどう思うかね?」
会長は社長と副社長に尋ねた。
社長は頷いて口を開いた。
「確かに、アトラス専務の案は勢力圏の不安定化を招きかねませんが…セバスティアーニ専務の案は他者に付け入る隙を与えかねません」
「それこそ、ステラリウムを8割渡す代わりに傘下に加えると言われれば、2割は残るといって飛びつくやもしれません。最新型強化人間の身柄や死体もあるなら、尚更他社が介入する可能性は上がります」
「しかし、どちらもあながち間違いではありますまい。折衷案にしてはどうです?」
彼は折衷案にすべきと考えているようだ。
副社長も社長に続けて言った。
「私も社長の折衷案に賛成です。セバスティアーニ専務の200隻以上の艦隊では、我が社の防衛網に穴が空きかねません」
「それに、敵対する企業がアルビオン星系と結んだ場合、直接援軍を送るのではなく、防備の薄くなった我が方の拠点を攻撃する可能性もあります。場所と敵の数次第では、艦隊をすぐに呼び戻さねばならなくなるでしょう」
会長は頷くと言った。
「では、折衷案として交渉はアトラス専務に一任するが、失敗すれば即座に200隻の艦隊で攻撃する。それで良いな?」
役員たちは釈然としないが、異論もないという顔で座っている。
一先ずはその折衷案で納得したものがほとんどのようである。
不服そうな顔をしているのはデリックとセバスティアーニだけだ。
(なんとか首の皮一枚繋がったな…)
ルキウスはそう考えて胸をなでおろした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後も会議は続き、次の議題に移っていった。
ルキウスは、会議を終えると本社のビルを出ると、なにも仕掛けられていないことを確認して自身の車に乗った。
「はぁ…なんとか首の皮一枚繋がったな…」
「今回の一件…アルビオン星系を実践テスト相手に選んだのは奴の手の者だろうな…」
「我々が失脚して一番得をするのは奴だ…奴は昔から近視眼的な男だった……次点では敵対企業の仕掛けた姦計だな…」
ルキウスの脳裏にある企業のトップエースの顔が思い浮かぶ。
「チャズとユリウスを討ったという“赤い死神”…ジャック・ギャレットはGISDF時代にあの女と交戦していたんだったか…」
「もし、あの女の度々口にするという“赤い人”が奴のことなら…」
「我らはAランク帯ランカーに相当する怪物を敵に回した事になる」
彼の背筋に薄ら寒いものが走る。
(我々は眠れる獅子を起こしてしまったのか?)
「いや、それよりも…交渉の事を考えねば」
そう口にした彼の懐から、携帯端末(携帯電話みたいなの)の着信音が鳴る。
「ッ!?この着信音は!?」
彼は急いで端末を操作し、通話を繋いだ。
「もしもし…ヴァレンタイン先生ですか?」
『やあ、ルキウス君。調子はどうかな?』
聞こえてきたのは人のよさそうな老人の声だった。
しかし、ルキウスの顔は大事な商談相手を前にしたビジネスマンのそれだ。
「おかげさまで…先生こそ、ご壮健で何よりです」
『ああ、私はまだまだ現役だとも!君もまだまだ若いのだから、健康に気をつけたまえよ!』
『ああ、そうだ!娘は元気かね?メッセージはくれるが…最近直接会っていないのでね。それに、ユリウス君のことがある』
「ええ、妻も元気ですよ…ユリウスのことで気落ちしてはいますが」
二人の会話は、一見単なる義理の親子同士の物に聞こえる。
だが、ルキウスの顔はとても義理の父と話している時とは思えない程険しい。
『なら、嬉しいニュースがある!ユリウス君は無事だ』
「ッ!?そ、それは…本当ですか?」
『ああ、私の可愛い孫の話だ…嘘は吐かんよ。娘にも伝えておきなさい』
「…ありがとうございます」
ユリウスの件を知っている時点でこの老人は単なる好々爺ではない。
『なぁ、ルキウス君…誰も損をせずに済む美味しい話があるが…どうかね?』
スピーカー越しの声はルキウスの鼓膜に蛇のように絡みついた。
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