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私の名前を当ててみよ

掲載日:2026/07/20

 困った状況だった。


 ()けて、後ろの壁が見えるような女性と対峙しながら、俺は硬直していた。


「して、(わらわ)の名はわかったのか?」


 現代(いま)の時代にそぐわない、時代劇がかったドレスを着た幽霊が優雅に問うが。


(わかるわけが……ありません!)


 そう言えたらどんなに楽か。

 けれど降参を口にした途端、身体を乗っ取られてしまう。

 言えない。口が裂けても無理。


 (したが)って、ヒントのないこの状況、ただ沈黙で過ごしている。


(俺はどうすればいいんだ――?) 

 身体はまるで動かない。出るのは声だけ。これは、そう。世にいう"金縛り"。つまり、ちっともさっぱり逃げ出せない。



 そもそもの始まりは、こうだった。

 "古城を買ってホテルに改築しよう"。


 友人とそんな計画をたて、売り物件を当たるうち、紹介されたここは、今までの中でも破格値だった。


 なんでも"出る(・・)"らしく。


 この国じゃ、ワケあり物件もそれなりに客を呼び込める。

 ゴーストツアー。好きな人は、好きだ。

 

 出ると言っても、実害はない。噂では(まれ)にフワリと白いものが漂うだけ。

 平気だろう。

 そう思ってた。なのに!


 寝室のひとつに、隠し通路らしい抜け穴を発見し、入ってみたら、奥の部屋で幽霊と出会ってしまった!


 実害無しの白いフワフワ? とんでもない。


 ばっちり全身()えてますが!

 しかも金縛りで拘束状態ですが! 

 美人ですね、ろうたけた貴婦人!

 

 その相手から、理不尽に"自分の名を当ててみろ"と問われ、今に至る。


「正解したら、城に()ることを許そう。ただし、(ハズ)れたらその身体を貰うぞ?」


 お姫様は氷のような瞳でそう言った。


「~~! 男の身体なんて、お姫様には合わないと思います!!」

「ホ、ホ、ホ。(わらわ)はこの地に縛られておる。ゆえに実体を得て外に出たいのじゃ。この際、贅沢は言わぬ。そなたは男にしては、なかなか愛らしい顔をしておるし──……。(わらわ)と色味も似ておる」


 飴色の髪にアイスブルーの目を持つ姫様は、そう言うとふわりと浮いて。

 滑るように近づいて、手に持つ扇子で俺の(あご)を引き上げた。

 品定めをするように。


「あ、の、僭越ながらなんでこんな朽ちた小部屋に?」


 亡くなったにしろ、もっと相応しい部屋があるだろう。

 かと言って、罪を犯したなら城地下にあった陰鬱な牢獄や、敷地外れの塔じゃないか。


 俺の言葉にお姫様の顔が曇った。

 もとより青い顔色が、一層暗く、白くなる。透けっぷりが、背後の壁を映してくる。


 と、お姫様が語るには。


 昔、敵に攻め入られて、彼女はここに隠れたらしい。

 扉を閉めてしまえば、中からは開けられない隠し部屋。


(げっ)


 ギョッとして、記憶を辿る。

 俺は後ろの扉、閉めてないよな。セーフ!


(何でそんな(ドア)作っちゃったんだ?)

 とは思うけど、隠れたまま誰も助けに来てくれなくて、どうなったのか分からず、気づけば地縛霊になっていたらしい。


 "外で何が起こったのか、どのくらいの時間が経ったのか。

 家族は無事なのか。自分のことを探しているのではないか"。


 いろんな事が気になって、それを知るために外に出たい。


 だから名前を当てろというのは、つまり……。


 俺の身体目当ての無理難題(ふっかけ)だね?!

 取引するフリして、横暴通そうとしてるだけだよね?

 酷い。


(とにかく、何とかしてこの場を切り抜けなければ)


 緊迫しつつ悩んでいた時だった。


「おーい、リジー。どこにいるんだぁー?」


 遠くから、俺を探す友人の声が聞こえた。

(助かった! てか、助けて!)

 ここだ。そう返事するより先に。


 お姫様の幽霊が、興味深げに首を傾げた。


「リジー、と、言う名なのか。そなた」

「あ、はい。そうなんです。変でしょ、男なのに」 


 リジーは普通、エリザベスの愛称だ。

 

「実はうち、親も同じで、代々名前を受け継ぐ決まりなんです。祖先をたどるとエリザベスって王女様の名前らしくて。お城が落ちた時、行方知れずになってしまった彼女を探すために、名前を継いでいこうって、かれこれ数百年――。あ!」


 そこまで言って、俺は気づいた。


「あなたの名前はまさか、"エリザベス"?」


「……この城を、お前にやろう」


 俺は彼女の名を当てたらしい。

 そして彼女も。知りたかった答えを得たようだ。


 お姫様は満足そうにニッコリ微笑(ほほえ)むと、溶けるように消え()いて。


 途端に俺は、自由に(ほど)けた。




 


 庭園の美しい古城ホテル。

 観光パンフレットには、今はただ、そう案内されている。





 お読みいただき有り難うございました!

 しばらくぶりです。7月からの暑さですっかり体調を崩し、出現率が落ちている私です。

 気がつけば7月後半。「今月の投稿作品が0作になってしまう!」と、他サイトに書いた短編を持ってきました。(多少加筆しています)

 夏らしくゴーストもの。納涼となりましたら幸いです\(*^▽^*)/


 なおジャンルは迷ってます。推理ではないよね…。ローファン?

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『実は身を引くつもりです。』
『余命一日。婚約破棄なら、ご勝手に!』
『求婚理由は、知りたくなかった』
― 新着の感想 ―
幸運でしたね。これもまたハピエン。
ひゃああぁ!幽霊! ビビりながらも軽快な語り口に誘われてスルスルと。 そしてオチ!王女様は納得されたようで良かったです。 読ませていただき、ありがとうございました!
この幽霊姫様がリジーのご先祖と言っても、多分直系のでは無いんでしょうけど、とりあえずリジーお疲れ様でしたm(_ _)m ジャンル……あえて言うならホラーだと思いますが。
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