2.理由。
リディアと名乗った少女と、ひとまず町へと戻って。
冒険者ギルド併設の酒場で休憩することにした俺たちは、そこで詳しい話を聞くことにした。三人掛けの小さな円形テーブルにつき、各々に飲み物を注文する。
その時に改めて少女を観察すると、気付いたのはその幼さだった。
「……アタシ、オレンジジュース!」
果汁飲料を頼む彼女は、見たところ十代前半。
背丈も高くなく、椅子に腰かけたら足がだらんとぶら下がる形になっていた。そもそもとして、そんな子供がダンジョンにいたのか。
もっと言ってしまえば、なぜ冒険者になどなったのか。
俺はその二点が気になっていた。
「なぁ、リディア? お前はどうして、冒険者になったんだ」
「ん? それって、弟子にするかどうかに関係あるの?」
「まぁ……無関係ではない、な」
こちらが曖昧に答えると、リディアは訝しげに眉をひそめる。
しかし自分の立場を思い直したのか、
「……分かったわよ。話す」
観念したように、肩を竦めて話し始めた。
「アタシ、冒険者の父さんと弟と三人暮らしなの。でも父さんは大怪我しちゃって、引退するしかなくなった」
「つまり生活費を稼ぐため、ってことか?」
「……ううん。それだけじゃない」
「それだけじゃない……?」
こちらが訊き返すと、彼女は首を左右に振る。
そして、唇を噛みしめながら続けるのだ。
「弟――ルカが、病気なの」
短く。されど、それだけで十分なほど重く。
具体的にどんな病なのか、リディアは語らなかった。だが、その口振りからするに簡単なものでないのは明らか。俺と少女の話に耳を傾けていたマルスも、ここはしっかりと空気を読んで黙っていた。
俺は心痛な面持ちのリディアに、こう訊ねる。
「それで冒険者になったのか。……生活費と、治療費のために」
「………………」
返ってきたのは、長い沈黙。
その後に少女はとても小さな、消え入りそうな声でこう口にした。
「アタシ……前に潜在魔力を測定したら、規格外だって言われたから。簡単な魔法ならすぐに使えるんだ、って勘違いしてた」
そして、次第に堪えていた感情が溢れ始める。
「だけど、駄目だった。……なにやっても滅茶苦茶になるし、スライムにだって勝てなかった。このままじゃ、マトモに稼ぐなんてできない」
頬を涙が伝った。
幼くも勝ち気な印象を受けた表情、その裏にあった本当の顔。いままでずっと、誰にも頼らずに頑張ってきたのだろう。胸に抱えてた小さな身に余る不安をようやく吐き出すことができて、止めることができなくなっていた。
そんなリディアの姿を見て、俺は少しだけ考える。
「いや、考えるまでもない……か」
本心を言ってしまえば、小さな子供が冒険者稼業に身を投じるのは反対だ。
稼ぎは良いが、生き死にがかかってくるものだから。しかしこの少女に必要なのは、とにかく自分で戦う力だった。
そうしなければ、守りたいものが守れないなら。
俺はひとつ息をついてから、リディアの細い肩に手を置いて言った。
「分かった。それなら、絶対とは断言できないが……全力で協力する」
「…………え?」
半ば諦めもあったのだろう。
彼女は俺の言葉に、キョトンとした表情を向けてきた。
しかし、こちらの意図をゆっくりと咀嚼した後、さらに大きな涙をこぼして言う。
「あり、がとう……!」
そして、ぐしぐしとそれを拭ってから。
どこか挑戦的な表情になり、こう宣言するのだ。
「アタシ、絶対に強くなってみせるから! ……覚悟しててね!」――と。
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