1.お次の弟子は、落ち着きのない魔法使い?
ここから第1章。
「そっちに行ったぞ、マルス! 頼む!」
「分かった師匠! 任せてくれ!!」
――その日、俺とマルスは町近くのダンジョンで鍛錬していた。
鍛錬とはいっても実利を兼ねて、クエストを受注して行っているものだ。倒したコウモリ型の魔物、キースの羽を売ればそれなりの金額になる。
そして何より、マルスの剣術の精度を上げるにはうってつけだった。
「く……! 倒せたけど、やっぱりキースはすばしっこいな!」
「そうだろ? 弱い魔物だけど、意識してみると違って見えてくるもんだ」
キースはとにかく素早く宙を舞うため、剣で仕留めるには相応の腕が必要。マルスは苦戦しながらも、丁寧に一体ずつ倒していた。
最初の頃と比較すれば、剣術の腕前は飛躍的に伸びている。
俺はそれが誇らしくもあったが、当人の向上心はまだまだ満足しないらしい。
「なぁ、師匠? 今日はあと何体狩るんだ」
額の汗を拭いながら、真っすぐな眼差しでそう訊いてきた。
数にして数十は倒している。やはりマルスの身体能力、そして持久力は目を見張るものがあった。しかし俺は、ゆっくりと首を左右に振ってこう告げる。
「今日はこれでお終いだ。収納魔法にも限界あるからな、キースの羽でパンパン」
「あー……それなら、仕方ないか。だったら、帰って自主練しよう」
「ホントに、体力馬鹿だな……」
「唯一の取り柄なので!」
俺の呆れ半分、称賛半分の言葉に。
マルスは迷うことなく親指を立てて、白い歯をきらりと光らせた。こういった素直な性格は美点だろう。
そう思うことにしてから、ひとまず帰り支度を始めた。
その時だった。
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」
ダンジョン内に、女の子の甲高い悲鳴が響き渡ったのは。
「なんだ!?」
「奥の方だな、行くぞマルス!」
誰かの危機かもしれない。
そう考えた瞬間、俺たちの身体は跳ねるように駆け出していた。
ダンジョンをさらに奥に向かうと、出現する魔物も当然のように変化する。もしかしたら、イレギュラーでバケモノ級の魔物が出現したのかもしれない。
そんな嫌な予感を抱きながら、現場に到着すると――。
「…………」
「…………」
「誰か助けてええええええええええええええええええええ!?」
――スライムに密着され、身動きを取れなくなっている少女がいた。
ローブの隙間から侵入されたため、手足の自由が利かないらしい。手に持っているのは魔法使いご用達のロッドだが、どうやら魔法を唱える余裕すらない様子。
俺たちはしばし黙り込み、
「師匠、どうします?」
「あー……ここは俺に任せな」
そう言葉を交わした。
それというのも、スライムには剣が通らない。軟体生物であるこいつを処理するには、ある程度の魔法が使えることが前提となっていた。
だったら、ここは器用貧乏代表こと俺の出番。
「――【ファイア】」
「ひやぁ……!?」
そんなこんなで低級魔法を用いて、少女の身体に密着したスライムを処理。
桃色の髪をした彼女は短く悲鳴を上げていたが、その衣服にはまったく被害が及んでいない。このくらいの魔力調整なら、基礎中の基礎だった。
俺はひとつ息をついてから、その女の子に声をかける。
「大丈夫か? ずいぶんと災難だったな」
「え、あ……ありがと?」
幼い彼女は目を丸くして、こちらを見上げてきた。
そして、しばしの沈黙の後に――。
「ア、アンタが倒したの? しかも、綺麗にスライムだけを?」
「……ん、そうだけど?」
――何やら、思案してからそう訊いてきた。
かと思えば次の瞬間、
「お、お願い! アタシに、魔法を教えて!?」
「……はい?」
ガバっと起き上がって、俺に詰め寄ってくる。
いきなりのことで驚いていると、それを察する余裕もない少女は名乗った。
「アタシ……リディア・フロイト! お願い!」――と。
これが二人目の弟子、リディアとの出会いだった。
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