第06話 アルツハイマーの人
・・・その日は雨が降っていた。
店の自動ドアが開き、サラリーマン風の中年男が入って来る。
男は舌打ちをして『独り言』を喋っている。
「チッ、また忘れてしまった。何でこう忘れっぽいのだろう」
真里矢が店の奥から出て来た。
店主のパラカスは真里矢(女性)の脳を使って男に応対した。
「いらっしゃいませ〜」
「あ、相談したい事があって来ました」
「あら、どうしました?」
「それが・・・ドアが開いた途端、忘れてしまいました」
「あら、ウフフ。アタシを見たから忘れてしまったんじゃないのかしら?」
「え?・・・うッ、まあ、ソレもあるかも知れません?」
「うッそ〜、オホホホ・・・。で?」
真里矢は男の目を覗く。
男は恥ずかしさを隠す様に、
「あの〜私し、ひどく忘れっぽくて困るんです。忘れた事も忘れてしまう。だから、何でここに居るかも分からないのです」
「良いわね〜」
「良くないです! 自分は忘れたく無いのです! むしろ記憶を残したいのです!」
「どんな記憶を残したいのですか?」
「ソレを忘れてしまったからここに相談に来たんです」
「あ〜あ、そのご相談に? それならアタシがアナタの相談のテーマを探しましょう」
「相談のテーマを探す?」
「そう。奥の別室にご案内します。どうぞ〜・・・」
男は黙って天女の様な真里矢に従う。
別室のドアを開け、二人は奥の小部屋に向かう。
真里矢は小部屋のドアを開けて男を座らせた。
テーブルの上のから被り物を男の頭に被せ、天井から下がった数本のコードをヘルメットのソケットに繋いだ。
真里矢の乳房が羽衣の様な白衣越しに男の顔に触れた。
真里矢の体から醸し出す何とも言えない薔薇の香り。
真里矢は男の顔を見てニッコリと笑い小部屋を出て行った。
一人になった男は不安そうに小部屋の中を見回して居る。
真里矢はモニタールームの壁のスイッチをオンにする。
画面には男の脳が映し出された。
壁に掛かる受話器を取って、別室の小部屋の男と会話する。
小部屋のスピーカーから、
「はい。じゃあ始めましょう。深〜く呼吸をして血圧を下げましょう」
「え!・・・あッ、はい」
男は深呼吸をする。
壁のモニターに映る脳に一気に血液が流れる。
真里矢はマウスのポインターを側頭葉の奥にある海馬に当てる?
そこをクローズアップしてシナップスに続く電流を徐々に上げて行く。
しばらくすると男は、小部屋の中で何か独り言を喋り始めた。
「そうですか。あの商談は纏まりましたか。良かった。じゃ、改めてお礼に行きます。ありがとうございます。・・・あ〜あ、良かった。よしッ、帰るぞ! これで社長に良い返事が出来る。ハハハハ」
すると小部屋内のスピーカーから真里矢の声が。
「じゃ、コレからアナタに質問をします。よく聞いてください。『アナタは何故、ここに来たのですか?』」
「え?? ここはどこですか?」
「はい、治りました。アナタの脳の中から混線した部分をクリーンアップしました」
真里矢はモニタールームのスイッチを切り、別室に向かう。
別室の奥の小部屋のドアを開けてニッコリと笑い、男の頭に被せてあるヘルメットを取る。
「ど〜お? カラダが軽く成ったでしょう」
男は暫く真里矢を見詰めて、思い出した様に、
「・・・アナタは? あッ、あの時のアケミさんだ!」
「あら、アナタ。ここは個室マッサージ店じゃないわよ。・・・シナップスの電流が強過ぎたのかしら。この方、会社に戻る途中の事まで思い出したみたい」
つづく




