No.103活動記録:上の隠れ家と、おどおどな追跡者
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作品に挿し絵を追加してあります!
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです。
No.103活動記録:上の隠れ家と、おどおどな追跡者
「――ここが、移動遺跡なのね」
スズカの空間航行能力によって、私たちは一気に地上から空中に浮かぶ遺跡へと舞い降りた。
先に乗っていた先行組と無事に合流を果たした途端――なぜかエリカさんが、開口一番「ごめんなさぁ~いッ!」と頭を下げてきた。
「えっ……いや、あの……いきなり謝られても、何のことだか意味が分からないんですが……」
「あ、そうよね! ええとね、スイちゃんに頼まれていた下僕たちの召喚なんだけど……どうも私の召喚って、地面から離れた場所にいると呼び出せないみたいで……」
申し訳なさそうに身を縮めるエリカさんの説明を聞き、そんな意外な制約があったのかと私は一人納得していた。
だが、上空のおっさんAIが引っかかるように質問を投げかける。
『お嬢はん。……そら、召喚陣すら出えへんかったっちゅうことか?』
「う~ん……召喚陣自体はちゃんと出ていたわ。出ていなかったら、さすがに私だって異変に気がつくし」
『なるほどな。お嬢はんのスケルトンを呼ぶスキルは【冥界より這い出ずる白銀の軍勢】やったな。ハデスの名の関する通り、冥府……つまり地下世界からの召喚っちゅう形式になっとるんやろう。今回召喚陣から骨が出て来んかったんは、地上から遥か離れた空中のここまでに、相応の『タイムラグ』が発生した可能性が高いな』
「タイムラグ……?」
『そうや。せやから今度は出てこんと思ってもスキルを途中で解除せず、しばらく発動させたまま維持してみるんや』
「えッ!? え、あ、うん、分かったわ……やってみる!」
エリカさんはおっさんAIの指示に従い、再びスケルトンの召喚スキルを発動させる。
……しかし、普段なら詠唱終了と同時に一瞬で現れるはずのスケルトンたちが、やはり一向に現れる気配を見せない。
「ねえAIちゃん、これいつまで維持して待っていればいいの……?」
『出るまで! ……と言いたいところやが、そこまで悠長に待っとる暇もないからな。みんなの小休憩も兼ねて、5分から10分くらいそのまま発動し続けてみてくれへんか』
「いやッ、ちょっと待ちなさいよ!? 私の方は呼び出しに集中してるから、全然休憩になってないんだけど!?」
エリカさんは理不尽さに涙目で嘆いていたけれど、幸いなことにそこまで時間はかからなかった。
――フワッ……!
石畳があるせいなのか、地面を突き破って現れるいつものスタイルではなく、地面に展開されていた光の召喚陣から、ぬうっとスケルトンたちが姿を現したのだ。
「あー……! 良かったぁ、出てきてくれた……! ……あれ? あんたら、なんか少なくない? 私、もっといっぱい呼んだ気がするんだけど……」
召喚陣から這い出てきたのは、わずか十体ほどのスケルトンだった。
「エリカさん、元々は何体くらい呼び出そうとしていたんですか?」
「さっきと同じで、百体くらいよ……」
エリカさんの言葉に私は一瞬眉を潜め。
「……十分の一……。おっさんAI、これはやっぱり空中だから……ってことなの?」
『その可能性が高いな。地上からの距離が障害になって、エネルギー伝達効率が落ちとるんやろ。まあ、このあたりはお嬢はんのスキルレベルが上がれば自然と解決する問題や。……ただ、今は無い袖は振れんからな。十体でも出ただけ儲けものと思って納得してもらうしかないで』
「そうね……。みんな、これより移動遺跡の内部探索に入ります! まずは周辺エリアの安全確認を。それが済み次第、あの露骨に怪しい正面の神殿調査へと切り替えます。いいですか!?」
「「「「はーい!」」」」
全員の元気な返事が空中に響き渡り、私たちはついに未踏の移動遺跡へと第一歩を踏み出したのだった。
まずは周辺調査を開始したものの、見渡す限りいくつかの植物がポツポツと生えているだけだった。
「ねえ、おっさんAI。これらの植物って何かしら? 私にはヤシの木みたいに見えるんだけど……」
『ふむふむ。植物の種類としては『ソテツ』っちゅう古代植物に近いな。……まあ可能性としては、下から飛んできた飛行型モンスターのフンに混じっとった種が奇跡的にここに運ばれて、この花壇で自生し始めた――ってんなわけあるかいッ!! どう考えても誰かが意図的に植えたとしか思えへんわ!』
「……いや、そんなコテコテのノリツッコミをされても。でも、誰かがここを管理している可能性があるってことね?」
『下から見上げた感じ、この遺跡は間違いなく『魔導文明』由来の外観をしとった。人間が生きて暮らしているっちゅうよりは、自律稼働型のガーディアンなんか世話をしとるっちゅうのが正解かもしれんな。……それもすべて』
おっさんAIは浮遊位置を変え、奥に鎮座する不気味な神殿へとカメラレンズを向けた。
「……あの場所に、誰か……あるいは『何か』がいる可能性があるってことね」
私は喉を鳴らし、全員を集めて神殿の内部調査へと切り替えることを決意する。
「一応何が潜んでいるか分からないので、スケルトンを先行させます。次にスズカとマオさん、前衛をお願いできますか?」
「大丈夫だよ~。眠気も吹き飛んで頭もスッキリしてきたからね。まあ、暗殺スタイルのボクに罠発見とか期待されると荷が重いけど、がんばるよ」
「ありがとうございます。次にエリカさんとアイリス、スケルトンへの指示出しと前衛二人の牽制サポートをお願いします」
「了解~!」
「あたしの『脳筋ウサギ』も召喚して肉の壁にさせるか?」
「……ウサギさんが可哀想だから、それはやめてあげて」
アイリスの物騒な提案を即座に却下し、私は配置を続ける。
「中央に私が陣取ります。私の後ろにサクラとヒマリ。その二人を守るように、レイさんとコナタさんでガードをお願いします」
サクラとヒマリが深く頷き、コナタさんも「任せて」と頼もしく頷いてくれた。
「スイちゃん、僕はチョコを出そうか? あの子、図体がデカいクセに臆病だから、危険の察知能力だけはピカイチだよ」
レイさんが提案してくれた巨大な白狼『チョコ』は魅力的だが、あの神殿の入口を思い返す。
「いえ、チョコさんは流石に大きすぎて神殿に入れないと思うんです。いざ内部で戦闘になった時、その大きさがみんなの視界や攻撃の妨げになる可能性もありますから、今回は無しでいきましょう」
「うん、分かったよ」
「そして最後にフウカさんには――」
「後方での退路の確保と安全確認だね。うん、了解したよ」
「よろしくお願いいたします」
それぞれが役割に合わせた配置につき、私たちはついに神殿の内部へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れると、ひんやりとした厳かな空気に包まれる。だが、人が生活しているような生活感は一切感じられない。
「……礼拝堂とか、そういう宗教的な施設かしら?」
『ふむふむ。建築様式としては【魔導文明】に存在するもんと酷似しとるが、部分的に見たことのない装飾が混じっとるな。独自に進化した文化か? そのへんは詳しく解析してみんと分からんな』
おっさんAIが壁面に刻まれた未知の文字らしき刻印を、一生懸命にスキャン観察している。
「スイちゃん! こっちに階段があるよ!」
奥を調べていたサクラが、大きな声で私を呼んだ。
駆け寄ってみると、そこには上階へ続く階段と、暗がりへと続く地下階段の二つが存在していた。
「どちらから行く?」
先頭のマオさんに尋ねられ、私は少し思考を巡らせる。
「……間違いなく『怪しい』のは地下ですね。一応、確認のためにみんなに聞きますけれど、上の階から探索したい人ー?」
――誰一人として手を挙げない。
ヒマリはいつも周りの意見に合わせるタイプだから仕方ないとしても、うちのメンバーも同行者も、揃いも揃って好奇心の塊すぎないだろうか?
(まあ……こういう好奇心と肝っ魂がないと、そもそもトラベラーなんてやってられないわよね)
苦笑交知に内心で納得した私は、旗槍を握り直し、地下へと続く暗い階段を下りていくことを決めたのだった。
地下へと下りてきて、私たちがまず抱いた感想は――
「……なんだか、綺麗に掃除されている感じね」
床にも壁にも埃一つ落ちておらず、誰かが定期的に清掃しているかのような清潔感が漂っていた。
「ここ、食糧庫か? おっさんAI、これ食えると思うか?」
スズカに呼ばれておっさんAIが扉のない一室へ入り、そこに積み上げられていた大きな壺からスズカが取り出した『何か』をスキャン鑑定する。
『……ドライフルーツやな。いつから保存されとるかは分からんが、腹痛を起こすような腐り方はしとらんな』
「そうか」
言うやいなや、スズカは一切の躊躇なくそれを口の中へ放り込んだ。
『……スズカはん。一応安全とは言いましたけどな、もうちょい考えてから口に入れてほしいんやけど』
「食えるんだろ? なら問題ねぇよ。……ん、味はトマトみてぇな感じだな。他に食ってみる奴いるか?」
周囲に尋ねるスズカに応じたのは、案の定サクラだけだった。ひょいとつまんで口に含む。
「……トマト? サクラが知ってるトマトより甘いね!」
『乾燥して味が濃縮されとるんやろうな。……それより、これ誰かの保存食かもしれへんからな。一、二個ならつまみ食いで許してもらえるかもしれんが、食いすぎて怒られたら敵わんから、その辺にしときなはれお二人さん』
おっさんAIに窘められ、二人は素直にそれ以上手を伸ばすのをやめた。
「この周辺は全部保存庫みたいな感じだね。近場を調べてみたけど、どこも似たような品が並んでいたよ」
マオさんが手早く周囲の部屋を索敵し、戻ってきて報告してくれる。
「ったく、お宝はどこにあるんだよ~……」
思っていたような豪華なお宝が見当たらず、アイリスが不満げに口を尖らせた。
「まだ下に続く階段があるみたいだし、行ってみる?」
確認するまでもなく全員が大きく頷いたため、私たちはさらに地下深くへと下りていくことにした。
――その時。
階段を踏み下りる私の視界の端で、何かが一瞬だけ蠢いたような気がした。
「……?」
ピタリと足を止め、気配のした影へ視線を向ける。だが、そこには静寂な石壁が広がっているだけで、怪しいものは何も見当たらなかった。
「スイちゃん、どうかされましたか?」
「ううん……なんでもなさそう。行きましょう」
首を振って再び足を進める。
――私たちが立ち去った直後。暗闇の物陰から、静かに何者かが私たちの背中をじっと見つめていたとも知らずに。
◇◇◇
地下二階へと下り立つ。
こちらも作りとしては上の階と同じく、いくつかの部屋が並ぶ静かな構造になっていた。
「ここまで来ると、生活用・居住用の施設としか思えないわね」
「……お宝がない~……」
エリカさんががっくりと肩を落として崩れ落ちる。せっかく苦労してここまで来てくれたことには申し訳ないけれど、元々「絶対にお宝がある」と約束していたわけではないので我慢してもらうしかない。
「もしかして、別荘的な場所なのかな?」
部屋の内部を見回っていたフウカさんが、ポツリと呟いた。
『あるいは、隠れ家的な施設として作られたかやな。それなら外から存在を隠すように『擬態』しとった理由にも説明がつくで』
「スイちゃん、まだ下へ続く階段があるようですよ」
ヒマリが奥にさらなる地下階段を発見する。このフロアにはこれ以上調査する場所もないため、私たちは迷わず次の階層へと下りることにした。
――全員の足音が階段の下へと消えていく。
「……うう、どこまで下りるんらぁ? あの部屋は鍵がかかって入れないのらから大丈夫と思うのらけど……。マスター、ウーノはどうすればいいのらぁ……?」
私たちが去った誰もいない廊下で、謎の影――小さな少女のような存在が、おどおどと私たちの行き先を不安そうに見つめていたのだった。
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