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忘れないでください、フィリッポも居ますよ

箸休め、みたいな感じです。

海の国(マゼッティ公国)の騎士団長の息子フィリッポ。

無口だから忘れられがちだが、送別会という名の夜会にも山の上の国(ミュスクル王国)へ向かう一行の中にも居た。

山の上の国(ミュスクル王国)の東の町の公爵邸の食堂でも、皆が食事を取る間も従者の様に後ろで控えて居た。一言も喋らなかったが。

王都に着いて国王一家その他諸々と謁見している間も騎士として控えて居た。勿論、一言も喋らずに。


だが勿論、滅多に喋らないから、何も考えていないとは限らないのだ。




送別会という名の夜会で、暫く会うことの叶わなくなる悪役令嬢(アンジェリカ)を見付け。


(可愛い……)


今夜のアンジェリカは義理の弟ヴィットリオにエスコートされている。婚約破棄宣言をしたにも係わらず第二公子ベルナルドが彼女に近寄っている。


(ドレス、可愛い……戦闘服も、良い、けど、ドレス姿で、剣を、振り回すのも、良い、な……)


アンジェリカを中心として輪が出来た。ベルナルド、ヴィットリオ、大商人の息子ティノに、明日フィリッポと共に山の上の国(ミュスクル王国)へ旅立つ宰相の息子アルフォンソ。勿論、フィリッポもその輪の一つを担う。


(凛々しい、瞳が、好きだけど……困った、顔のアンジェリカ……可愛い)


輪の中でフィリッポはずっと黙ったままだが、他の四人は誰がアンジェリカの隣に立つかとか、誰から踊るかなどと騒がしい。

と、争っている内に今夜の主役の一人――北の帝国(ローヒメティ)の皇太子ルトガーがやって来た。

そしてそのままアンジェリカを伴って中庭へと行ってしまう。

皆と共に二人の後ろ姿を見送りながら、フィリッポは溜め息を落とした。


(いいな……俺も、アンジェリカと二人っきり、に、なってみたい)



広間へ戻って来たアンジェリカをいち早く見付けそっと近付けば、アンジェリカはほっとしたように微笑んだ。


(――――っ!!)


反則だ。その笑顔は反則だ。

何も言えなくて、真っ赤になった顔を見られたくなくて俯いてしまう。

でも、降って沸いた二人っきり(いつもの仲間が居ないという意味で)の状況に、フィリッポは勇気を出す。


「あ……踊る?」


「貴方……踊れたましたの?」


「……踊れ、ない」


アンジェリカはくすりと笑った。


(――――っ!!!)


だから、それは、反則だっ!

再び俯き、けれどもアンジェリカが隣に居る事にフィリッポは幸せを噛み締める。

その後二人は特に話す事もなく、壁の花となってパーティを眺めていた。

黙ったまま、見つめ合う訳でもない二人だっが、寧ろこの沈黙が心地よい。



アンジェリカが帰りがけ。


「道中、お気を付けて」


と言ってくれて、フィリッポは今夜三度目の俯きを体験することとなってしまった。



(明日……早い、のに、眠れない、どう、しよう)





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