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魔女ですが、薬屋を始めたら王様が毎日来ます  作者: ななほし


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8/10

第8話 森で爆発が起きました

 ドォン!!


 二度目の爆発音が森に響いた。


「……今の、近いですね」


「ああ」


 アルベルトが剣を抜く。


「リゼット殿。ここにいてくれ」


「嫌です」


「なぜ!?」


「私の家ですから」


「危険かもしれない!」


「だから行きます」


 私は薬草籠を置き、壁に立てかけていた杖を手に取った。


「……杖?」


 アルベルトが目を丸くする。


「魔女なので」


「それは知っている」


「では、行きましょう」


「……分かった」


 私たちは森の奥へ向かった。


     ◇


 森の中には、煙が立ち込めていた。


「何か燃えているな」


「火ではありません」


「分かるのか?」


「薬草の匂いがします」


 私は鼻を動かす。


 焦げた薬草。


 魔力。


 そして――。


「……血の匂い」


 アルベルトが険しい顔になる。


「気をつけろ」


 木々の間を抜ける。


 そこには、小さな馬車が横倒しになっていた。


 周囲には荷物が散乱している。


「誰かいる!」


 アルベルトが駆け寄る。


 馬車の下から、男の声が聞こえた。


「助け……て……」


「今出す!」


 アルベルトが馬車を持ち上げる。


 私は男を引っ張り出した。


「大丈夫ですか?」


「う……」


 男は若い商人だった。


 肩に深い傷がある。


「薬を」


 私はすぐに傷薬を取り出した。


「これを飲んでください」


「……薬?」


「はい」


 商人は震える手で瓶を受け取り、飲み干した。


 傷が塞がっていく。


「……助かった」


「何があったんですか?」


「突然……何かに襲われたんだ」


「何か?」


「黒い……影のような……」


 商人は震えながら森の奥を見る。


「……あそこにいる」


「え?」


 私は振り返った。


 木々の間。


 黒い何かが動いた。


「アルベルト」


「分かっている」


 剣を構える。


「下がっていろ」


「嫌です」


「またか」


「私も戦えます」


「君は薬屋だろう?」


「魔女です」


「……そうだったな」


 黒い影が姿を現した。


 獣のような形。


 しかし、普通の獣ではない。


 身体から黒い煙が噴き出している。


「魔物か?」


「違います」


 私は杖を握った。


「これは――呪いです」


「呪い?」


「誰かが魔法で作ったものです」


 黒い獣がこちらへ飛びかかってくる。


「リゼット!」


 アルベルトが前へ出た。


 剣が黒い獣を弾き飛ばす。


「今のうちに逃げろ!」


「嫌です」


「またそれか!」


「このままだと王様が怪我します」


「私は――」


 黒い獣が再び飛びかかる。


 アルベルトが剣で受け止める。


「ぐっ……!」


 押されている。


「王様!」


 私は杖を地面に突き立てた。


「……少しだけ、借ります」


「何を?」


「森の魔力を」


 目を閉じる。


 森の中を流れる魔力が、少しずつ集まってくる。


 木々が揺れる。


 風が止まる。


 そして。


「――眠って」


 杖の先から、淡い光が広がった。


 黒い獣の動きが止まる。


「…………」


 獣がゆっくりと地面へ崩れ落ちた。


 黒い煙が消えていく。


「……終わりました」


 私は杖を下ろした。


 アルベルトがこちらを見る。


「……君」


「はい?」


「本当に薬屋か?」


「薬屋です」


「今の魔法は?」


「簡単な眠りの魔法です」


「…………」


 アルベルトは何も言わなかった。


 私は倒れた黒い獣を見る。


「でも、おかしい」


「何が?」


「こんな場所に呪いを使った魔物がいるなんて」


「自然に生まれたものではない?」


「はい」


 私は黒い煙の残りを指先で触れた。


 その瞬間。


「……っ」


 頭の中に、声が響いた。


『白銀の魔女を探せ』


「…………」


 私は思わず手を引いた。


「どうした?」


「今……声が」


「声?」


「はい」


 私は周囲を見回す。


 誰もいない。


 でも。


 確かに聞こえた。


『秘薬を探せ』


「…………」


 アルベルトが私の顔を見る。


「リゼット殿」


「……王様」


「何だ?」


「私を狙っている人がいるかもしれません」


 アルベルトは黙った。


「……なぜそう思う?」


「この魔物が、私の祖母を探していました」


「…………」


「『白銀の魔女を探せ』って」


 アルベルトの顔から笑みが消える。


「分かった」


「何が?」


「君は、もう一人ではいない」


「……?」


 アルベルトは剣を収めた。


「この件は私が調べる」


「王様の仕事じゃないですよね?」


「国民を守るのは国王の仕事だ」


「私、国民ですか?」


「もちろんだ」


「……そうでした」


 私は少しだけ安心した。


 そのとき。


 森の奥から、枝を踏む音が聞こえた。


 パキッ。


「……誰?」


 アルベルトが剣を抜く。


 しかし、そこには誰もいなかった。


 ただ。


 一本の木に、ナイフが突き刺さっていた。


 ナイフには紙が括りつけられている。


 アルベルトが紙を取る。


「何と書いてあります?」


 彼は黙って紙を読む。


 そして、私に渡した。


『白銀の魔女の娘へ』


「…………」


 私は息を呑んだ。


「娘……?」


 私は祖母の顔を思い浮かべる。


 でも。


 私の母について、祖母はほとんど何も話してくれなかった。


 紙の裏には、さらに一文だけ書かれていた。


『次は、薬屋を狙う』


「…………」


 アルベルトが私を見る。


「リゼット」


「はい」


「明日から、私の護衛をつける」


「嫌です」


「なぜ!?」


「人が増えると落ち着かないので」


「では私一人で守る」


「王様が?」


「ああ」


「仕事は?」


「…………」


 アルベルトが黙った。


「仕事してください」


「分かった」


 その夜。


 私の薬屋の前には――。


 国王直属の騎士が五人、立っていた。


「……五人」


 私は窓から外を見る。


「話が違う」


 アルベルトが言った。


「私一人では心配だからな」


「王様もいますよね?」


「ああ」


「じゃあ六人です」


「そうだな」


「……多すぎます」


 私はため息をついた。


 でも。


 窓の外にいる騎士たちを見て。


 ほんの少しだけ、安心している自分がいた。


 そして同じ頃。


 王都の暗い路地裏では――。


「見つけた」


 エレナが一枚の紙を燃やしていた。


「白銀の魔女の孫娘」


 炎に照らされた彼女の顔には、笑みが浮かんでいる。


「やっと、あなたに会える」

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