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魔女ですが、薬屋を始めたら王様が毎日来ます  作者: ななほし


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第7話 おばあちゃんを知っている人

 翌朝。


 私は薬草を干していた。


 窓を開けると、森の爽やかな風が入ってくる。


「……今日は静か」


 昨日は王様が帰ったあと、妙な客が来た。


 私の名前を知っていた女性。


 でも、あれはたぶん偶然だ。


 町で私の薬を買ったことがあるのかもしれない。


 そう考えていた。


 ――コンコン。


「…………」


 私は手を止めた。


「リゼット殿!」


「……来た」


 扉を開ける。


「おはよう」


「おはようございます」


 アルベルトが立っていた。


「今日は薬を買いに――」


「王様」


「なんだ?」


「昨日の女性について何か分かりました?」


 アルベルトが少し驚いた顔をした。


「気づいていたのか」


「何をです?」


「いや……」


 アルベルトは周囲を確認する。


「昨日の女性は、元宮廷魔術師だ」


「宮廷魔術師?」


「ああ」


「どうして私のところへ?」


「まだ分からない」


「そうですか」


「ただ、少し気をつけたほうがいい」


「分かりました」


 私は頷いた。


 アルベルトは何か言いたそうだったが、結局口を閉じた。


「……今日は薬を五本」


「銀貨十五枚です」


「はい」


 薬を渡す。


「では、今日は帰ります」


「え?」


 私は思わず聞き返した。


「帰るんですか?」


「……帰ってほしくないのか?」


「そういう意味では」


「では?」


「いつもより早いなと思って」


「……」


 アルベルトが少し笑った。


「仕事があるからな」


「王様ですもんね」


「そうだ」


 彼は森を出ていった。


「…………」


 私は扉を閉める。


「……なんだろう」


 少しだけ物足りない。


「いやいや」


 私は首を振った。


「仕事しよう」


     ◇


 昼過ぎ。


 再び、扉が叩かれた。


「薬をお願いします」


 昨日の女性だった。


「……こんにちは」


「こんにちは、リゼットさん」


 女性は微笑んでいる。


「昨日のお薬、とてもよく効きました」


「それは良かったです」


「弟も元気になりました」


「それなら何よりです」


 女性は店内を見回す。


「ここで一人で暮らしているんですか?」


「はい」


「怖くないんですか?」


「何が?」


「森の中ですよ?」


「慣れていますから」


「そうですか」


 女性は笑った。


 そして、ふと薬棚に目を向けた。


「……懐かしい」


「?」


「その薬草」


 女性が棚の薬草を指差す。


「昔、見たことがあります」


「珍しい薬草ですからね」


「そうではありません」


 女性の声が少し低くなる。


「あなたのおばあさまが、よく使っていた薬草です」


「…………」


 私は動きを止めた。


「おばあちゃんを知っているんですか?」


「はい」


「どこで?」


 女性は少しだけ迷った。


「王宮で」


「…………」


 胸がざわついた。


 祖母が王宮にいたなんて、私は聞いたことがない。


「おばあちゃんは、何をしていたんですか?」


「薬を作っていました」


「薬屋だったんじゃないんですか?」


「それも間違いではありません」


 女性は店内を見回した。


「でも、ただの薬屋ではありませんでした」


「どういう意味ですか?」


「あなたは知らないほうがいい」


「……それ、昨日も聞きました」


 女性が驚いた顔をする。


「昨日?」


「王様にも似たようなことを言われました」


「……国王陛下が?」


「はい。毎日来ます」


「毎日……?」


 女性の表情が変わった。


「そうですか」


 その声には、何か含まれていた。


「では、時間がありませんね」


「何の?」


 女性は答えなかった。


 代わりに、一枚の紙を取り出した。


「これを」


「何ですか?」


「あなたのおばあさまのものです」


 私は紙を受け取った。


 古い紙だった。


 そこには、祖母の字が書かれている。


 間違いない。


 私が子供の頃、何度も見た字だ。


『リゼットへ』


「…………」


 名前が書いてある。


 私宛て。


「これ……」


「あなたのおばあさまから預かっていました」


「いつ?」


「三十年前です」


「…………」


 私は言葉を失った。


 三十年前。


 私はまだ生まれていない。


「どうして、今まで?」


「あなたが見つかるまで待っていたからです」


「……私を?」


「はい」


 女性は立ち上がった。


「今日はここまでにします」


「待ってください!」


「また来ます」


「名前を教えてください!」


 女性は振り返る。


「エレナです」


「エレナ……」


「それと」


 エレナは少しだけ悲しそうに笑った。


「あなたのおばあさまは、最後まであなたのことを心配していました」


 そう言って、彼女は森の中へ消えていった。


「…………」


 私は手紙を見る。


 封はされている。


 震える手で、ゆっくりと開いた。


 中には短い文章が書かれていた。


『リゼット。


 この手紙をあなたが読んでいるということは、私はもういないのでしょう。


 あなたには、何も知らせずに生きてほしかった。


 でも、もし薬が金色に光り始めたのなら――』


 そこで文章が途切れていた。


「……薬が、金色に?」


 私は昨日の薬瓶を見る。


 その瞬間。


 薬瓶の中で、金色の光が揺れた。


「……っ」


 そして、手紙の続きが淡く光り始めた。


 紙に刻まれた文字が浮かび上がる。


『王を信じなさい』


「…………え?」


 私は目を疑った。


『あの人だけは、あなたを利用しない』


 最後の一文。


 その意味を考えるより早く――。


 玄関の扉が勢いよく開いた。


「リゼット殿!」


「きゃっ!」


 アルベルトだった。


「どうした!?」


「お、王様!?」


 アルベルトが店内を見回す。


「今、何か光ったように見えた」


「…………」


 私は手紙を握りしめる。


 そして。


 祖母の最後の言葉を思い出した。


『王を信じなさい』


 私はアルベルトを見る。


「……王様」


「何だ?」


「聞きたいことがあります」


「分かった」


 アルベルトは真剣な顔になった。


「何でも聞いてくれ」


「私のおばあちゃんは――」


 そのとき。


 森の奥から、大きな爆発音が響いた。


 ドォン!!


「…………」


「…………」


 二人で森を見る。


「今のは?」


 アルベルトが剣に手をかける。


 私は小さく呟いた。


「……嫌な予感がします」


 そして。


 私たちはまだ知らなかった。


 あの爆発が――。


 私の薬屋を巡る、最初の事件の始まりになることを。

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