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魔女ですが、薬屋を始めたら王様が毎日来ます  作者: ななほし


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11/13

第11話 私のお母さんを探します

 翌朝。


 私は一睡もできなかった。


「セレナ……」


 昨日、薬瓶が映し出した名前。


 それが私の母親の名前なのだとしたら。


 私は今まで、自分の母親について何も知らなかったことになる。


「……どうして、おばあちゃんは教えてくれなかったんだろう」


 幼い頃。


 母親について尋ねたことは何度もあった。


 けれど祖母は、いつも同じ答えだった。


『いつか、あなた自身が知る日が来るよ』


 その言葉の意味を、私はずっと分からなかった。


「まさか、こんなことになるなんて……」


 私は机の上に置かれた古い手紙を見る。


 そこには、祖母の字。


 そして、昨日現れた母の名前。


「……知りたい」


 私は立ち上がった。


「お母さんのこと」


     ◇


 昼前。


 いつものように扉が叩かれた。


「リゼット」


「はい」


 扉を開ける。


「おはよう」


「おはようございます、王様」


 アルベルトが立っていた。


 今日はいつもより荷物が多い。


「それは?」


「調査資料だ」


「こんなに?」


「ああ」


 アルベルトは机の上に大量の書類を置いた。


「セレナという名前について、王宮の記録を調べた」


「何か分かりましたか?」


「少しだけな」


 私は椅子に座る。


 アルベルトも向かいに座った。


「三十年前から二十年前までの王宮記録に、『セレナ』という名前の女性が三人いる」


「三人……」


「ただし、そのうち二人は別人だと確認できた」


「残る一人は?」


 アルベルトは一枚の書類を取り出した。


「王宮薬師見習い」


「……薬師」


「ああ」


 私は目を見開く。


「年齢は?」


「当時、十八歳」


「十八歳……」


「記録では、薬草と治癒魔法に非常に優れていたとある」


 私は薬瓶を見る。


 金色の光。


 祖母。


 そして母。


「……私と同じ」


「おそらくな」


「その人は、今どこに?」


 アルベルトの表情が曇った。


「二十年前に、王宮を辞めている」


「理由は?」


「記録には書かれていない」


「それだけ?」


「もう一つある」


 アルベルトは別の紙を出した。


「王宮を辞める直前、セレナはある人物と一緒にいるところを目撃されている」


「誰ですか?」


「白銀の魔女」


 私は息を呑んだ。


「……おばあちゃん?」


「違う可能性が高い」


「どうして?」


「当時の記録に、白銀の魔女の特徴が残されている」


 アルベルトは紙を指した。


「白い髪。銀色の瞳。そして、非常に強い魔力」


「…………」


「君の祖母について分かっている特徴とは一致しない」


「じゃあ……」


「君の祖母とは別人だ」


 私は黙り込んだ。


「それなら、白銀の魔女は誰なんでしょう?」


「まだ分からない」


 アルベルトが答える。


「だが、一つだけ確かなことがある」


「何ですか?」


「セレナは、白銀の魔女と深い関係があった」


 私は書類を見る。


 母の名前。


 白銀の魔女。


 王宮薬師。


 そして、祖母。


 全部が一本の線で繋がり始めている。


     ◇


「それで」


 私は顔を上げた。


「母は今どこにいるんですか?」


「それが分からない」


「……そうですか」


「だが、最後の記録がある」


「どこですか?」


「王都の北にある町だ」


「行きましょう」


「……え?」


 アルベルトが目を丸くする。


「そこへ行けば、母の手がかりがあるかもしれないんですよね?」


「ああ」


「なら、行きましょう」


「危険だ」


「分かっています」


「敵が君を狙っている」


「それも分かっています」


 私はアルベルトを見る。


「それでも、知りたいんです」


「…………」


「私は今まで、お母さんのことを何も知りませんでした」


 自分でも驚くほど、声が震えていた。


「名前すら知らなかったんです」


「……リゼット」


「だから」


 私は手を握りしめる。


「今度は、自分で知りたいです」


 アルベルトはしばらく黙っていた。


 そして。


「分かった」


「本当ですか?」


「ああ」


 アルベルトは頷いた。


「ただし、条件がある」


「何ですか?」


「私も一緒に行く」


「王様が?」


「当然だ」


「仕事は?」


「……なんとかする」


「大丈夫なんですか?」


「大丈夫ではない」


「じゃあ――」


「だが、君を一人で行かせるよりはいい」


 私は少しだけ笑った。


「ありがとうございます」


「礼を言う必要はない」


「でも、嬉しいです」


 アルベルトは一瞬、黙った。


「……そうか」


 なぜか、耳が少し赤くなっていた。


     ◇


 その日の午後。


 私たちは出発の準備を始めた。


 薬。


 食料。


 地図。


 必要な道具。


「これくらいでいいでしょう」


「少ないな」


「薬屋なので」


「旅に出るのだから、もっと必要だろう」


「薬ならたくさんあります」


 私は薬棚を指差す。


「傷薬、解毒薬、熱冷まし、疲労回復薬……」


「なるほど」


「あと、眠り薬も」


「……それは使うのか?」


「必要なら」


「私には使わないでくれ」


「使いませんよ」


 そんな会話をしていると。


「陛下!」


 外から騎士の声がした。


 アルベルトが立ち上がる。


「何だ?」


「町から使者が来ています!」


「町?」


「はい!」


 私は扉を開ける。


 そこには、息を切らした男性が立っていた。


「助けてください!」


「どうしました?」


「町で……病気が広がっています!」


「病気?」


「原因が分かりません!」


 私は薬屋の看板を見る。


 そしてアルベルトを見る。


「……行かないと」


「ああ」


 母親を探す旅に出る前に。


 まずは目の前の人を助ける。


 それが薬屋としての私の仕事だ。


「王様」


「何だ?」


「町へ行きましょう」


「分かった」


 アルベルトが頷く。


 こうして。


 私たちは、北の町へ向かうことになった。


 母の手がかりを探すために。


 そして――。


 その町で起きている謎の病を解決するために。


     ◇


 その頃。


 北の町のとある建物。


 一人の男が、黒い瓶を机の上に並べていた。


「もうすぐ来る」


 男は笑う。


「白銀の魔女の血を引く娘が」


 黒い瓶の中で、液体が揺れる。


「薬を作れる魔女なら――」


 男は瓶を一つ手に取った。


「この病も治せるはずだ」


 そして。


 男の背後には、白い髪の女性が立っていた。


「……まだ、あの子を巻き込むつもりなの?」


 男は振り返る。


「セレナ」


 女性は何も答えない。


 ただ、悲しそうに目を伏せていた。


 ――リゼットの母、セレナ。


 彼女はまだ、生きていた。

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