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鷹島地獄

 いつも読んでいただきありがとうございます!


 今回は、弘安の役最大のクライマックス――

 「鷹島掃討戦」です。


 神風によって壊滅した元軍。

 しかし、鎌倉武士たちの戦いはそこで終わりではありませんでした。


 対馬。

 壱岐。

 博多。


 奪われた命。

 踏みにじられた故郷。

 積み重なった怒り。


 それらすべてが、鷹島で爆発します。


 今回はかなり重く、激しい描写も多い回になっていますが、

 「なぜ鎌倉武士たちがここまで苛烈だったのか」

 その時代背景や感情も含めて描きました。


 ぜひ最後まで読んでいただければ嬉しいです!

 嵐が去った朝。


 鷹島の海は、地獄だった。


 海面を埋め尽くす無数の残骸。


 折れた帆柱。


 砕けた軍船。


 浮かぶ死体。


 血の混じった潮の臭い。


 四千隻を超えた元軍の大艦隊。


 その威容は、もはや見る影もなかった。


 海岸に立つ武士たちは、しばし言葉を失った。


「……これが」


「神風……」


 誰かが呟く。


 昨夜。


 海そのものが狂った。


 空は裂け、暴風が海を飲み込み、巨大な元軍の船団を叩き潰した。


 浜辺には、折れた船材と死体が次々に打ち上げられている。


 蒙古兵。


 高麗兵。


 そして南宋の兵らしき者たち。


 海の向こうには、辛うじて残った元軍の船が逃げるように沖へ去っていくのが見えた。


 少弐景資は、その光景を無言で見つめていた。


「……逃げたか」


 その声は冷たかった。


 元軍の総司令官たちは、生き残った船で撤退を始めていた。


 だが。


 数万の兵士たちは、鷹島へ置き去りにされていた。


「武士ならば」


 景資が低く言う。


「あり得ぬ真似だ」


 だが、置き去りにされた元兵たちは絶望していた。


 鷹島。


 島中に、傷ついた元兵たちが散らばっている。


 泥水を啜る者。


 傷口を押さえて呻く者。


 武器を抱えたまま震える者。


 そこへ。


 日本軍が現れた。


「総攻撃だ!!」


 景資の怒声が響いた。


「蒙古を逃がすな!!」


「おおおおおおおおっ!!」


 小舟が一斉に海へ出る。


 松浦党。


 竹崎党。


 龍造寺。


 大矢野兄弟。


 九州中の武士たちが、怒号を上げながら鷹島へ殺到していく。


 それは、もはや戦ではなかった。


 復讐だった。


 対馬。


 壱岐。


 志賀島。


 焼かれた村。


 殺された家族。


 吊るされた女たち。


 すべての怒りが、この瞬間に爆発していた。


「一人も逃がすな!!」


「首を取れ!!」


「蒙古を海へ叩き落とせ!!」


 松浦党の小舟が元兵へ突っ込む。


 鉤縄が投げられる。


 武士たちが一気に飛び込んだ。


 鎌が振るわれる。


 太刀が閃く。


 悲鳴が上がる。


 元兵たちも必死に抵抗する。


 だが。


 統率は完全に崩れていた。


「に、日本軍だ!!」


「逃げろ!!」


「船は!? 船はどこだ!!」


 逃げ場はない。


 島だ。


 山へ逃げても。


 海へ逃げても。


 そこには武士がいる。


 竹崎季長が太刀を振るう。


「押し込めぇ!!」


 龍造寺家清が怒声を上げる。


「一兵たりとも帰すな!!」


 松浦党は、海を知り尽くした動きで元兵たちを追い詰めていく。


 巨大な軍船は失われた。


 残るのは徒歩で逃げ惑う兵ばかり。


 松浦党の小舟が入り江を封鎖し、逃げ場を潰す。


 山へ逃げれば、待ち構えていた武士が斬り伏せる。


 島そのものが狩場になっていた。


 谷間へ逃げ込んだ元兵たち。


「追い込め!!」


 四方から武士たちが襲いかかる。


「うおおおおおっ!!」


 矢が降る。


 槍が突き刺さる。


 逃げ惑う元兵。


 谷は、瞬く間に死体で埋まっていった。


「地獄谷だ……」


 誰かが呟いた。


 また別の浜。


「首除へ連れていけ!!」


 捕らえられた元兵たちが並べられる。


 武士たちが、次々に首を落としていく。


 対馬で家族を失った者。


 壱岐で子を殺された者。


 皆、無言だった。


 怒りが深すぎた。


 景資もまた、その様子を静かに見ていた。


 その横へ。


 経資が歩み寄る。


「兄上」


 景資は海を見たまま答えた。


「……資時の仇は討たせる」


 経資は何も言わない。


 その時。


 沖から声が上がる。


「宋人だ!!」


 捕らえられた兵たちの中に、蒙古兵とは違う者たちがいた。


「南宋の民らしい!」


「無理やり連れて来られたと!」


 景資が短く命じる。


「宋人は殺すな」


「捕らえよ」


 一方。


 蒙古兵、高麗兵には容赦がなかった。


「対馬の仇!!」


「壱岐の仇だ!!」


 怒号と共に刃が振るわれる。


 夕方。


 戦いは終わっていた。


 鷹島中に死体が転がっている。


 海は赤黒く染まっていた。


「血の浦、か……」


 松浦党の武士が呟く。


 風が吹く。


 景資は静かに空を見上げた。


 弘安の役。


 世界最強を誇った元帝国。


 その大遠征は。


 ここで終わった。

 第20話を読んでいただき、本当にありがとうございました!


 今回描いた「鷹島掃討戦」は、

 弘安の役の中でも特に凄惨だったとされる戦いです。


 史料には、


 ・首除くびのき

 ・地獄谷

 ・血の浦


 といった、当時の激戦を伝える地名が今も残っています。


 また、元軍の総司令官たちが兵を置き去りにして撤退したこと、

 逆に島へ残された兵たちが逃げ場を失ったことなど、

 この戦いは“敗走戦”としての悲惨さも非常に強いものでした。


 そして今回、

 あえてステフを登場させませんでした。


 これは、

 「神風を告げた存在」が、

 本当に神の使いだったのではないか――


 そんな余韻を、武士たちや読者の中に少し残したかったからです。


 次回からは、

 戦後の博多、

 そして生き残った者たちの物語へ進んでいきます。


 資時を失った人々。

 戦いを終えた武士たち。

 そしてステフ自身が、この時代で何を選ぶのか。


 引き続き読んでいただけたら嬉しいです!


 面白いと思っていただけたら、

 ブックマーク・評価・感想などいただけると励みになります!


 次回もよろしくお願いします!

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