神風
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回は、ついにこの作品最大級の歴史イベント――
「神風」が描かれます。
ただし本作では、
単なる“奇跡の台風”としてではなく、
・未来を知るステフ
・八幡神を信仰する鎌倉武士
・海の異変を肌で感じる松浦党
それぞれの視点から、“神風とは何だったのか”を描いています。
また今回は、ステフが初めて大勢の武士たちの前で本気の演説を行います。
資時から受け継いだ想い、
壱岐で見た地獄、
そして七百年後も続く日本という国――。
彼女の言葉が、武士たちの心を動かしていきます。
ぜひ最後まで楽しんでいただければ嬉しいです!
夜。
鷹島近くの浜には、無数の篝火が並んでいた。
集まっているのは、松浦党を中心とした九州の武士たち。
松浦党。
龍造寺。
竹崎党。
秋月党。
海戦に加わる大小の武士団が、浜を埋め尽くしている。
彼らの視線の先。
高台に、一人の女が立っていた。
白い束帯。
月明かりに照らされる金髪。
海のように青い瞳。
風に揺れる白衣。
武士たちはざわめいていた。
「なんだあれは……」
「異人か?」
「いや……」
「まるで神の使いだ……」
その横で、松浦党の女武者たちは必死に笑いを堪えていた。
「やばい……」
「本当にそれっぽい」
「景資まで真顔だぞ」
「笑うな、ばれる」
高台の上。
ステフは心底帰りたかった。
(なんでこうなったの!?)
だが、もう後戻りはできない。
何百人という武士が見ている。
そして。
前へ進み出た松浦党の女武者が声を張り上げた。
「静まれ!!」
一気に場が静まる。
「この御方は、八幡神の導きにより現れた姫神の遣いである!」
どよめき。
「海の向こうより現れ!」
「蒙古と戦い!」
「壱岐を救わんとした御方だ!!」
完全に話が盛られていた。
ステフは頭を抱えたくなった。
だが。
武士たちの目は真剣だった。
誰も笑わない。
この時代の人間にとって、“神”は現実に存在するものだ。
ステフは深く息を吸った。
そして。
前へ出る。
「……私は、ステファニー」
静かな声。
だが、波音の中でも不思議と響いた。
「海の向こうから来た」
「壱岐で、少弐資時と共に戦った」
その名が出た瞬間。
武士たちがざわつく。
「少弐の若武者か」
「壱岐で討ち死にした……」
ステフは続けた。
「資時は最後まで戦った」
「島の民を逃がすために」
「蒙古に、この国の強さを見せつけるために」
脳裏に浮かぶ。
笑っていた十九歳。
震える手。
死を恐れながら、それでも立ち上がった若者。
ステフの声が震えた。
「……あいつは最後まで、武士だった」
静まり返る浜。
「私は、七百年後の未来を知っている」
ざわめき。
「七百年後も、この国は残ってる」
「蒙古にも滅ぼされない」
「ずっと続いてる」
武士たちは息を呑んだ。
「そして、私はその未来でも戦士である」
「日本という国を守るために戦う戦士である」
嘘ではない。
だからこそ。
言葉に力が宿る。
「私は壱岐に突然現れた」
「資時と戦った」
「そして今、ここにいる」
ステフは武士たちを見渡す。
「偶然なんかじゃない」
「ここで蒙古を止めるためだ」
風が強くなる。
空気が重い。
海鳴りが響く。
「もうすぐ嵐が来る」
ざわめき。
「海そのものが怒る」
「蒙古の船を飲み込む」
「だから――」
ステフは叫んだ。
「ここで終わらせるんだ!!」
「壱岐で死んだ者たちのために!!」
「対馬で殺された民のために!!」
「七百年後も続くこの国のために!!」
武士たちの目が変わる。
「おおおおおおおおっ!!」
誰かが雄叫びを上げた。
それに呼応するように、浜全体が震える。
「蒙古を討つ!!」
「異国に国を渡すな!!」
「鎌倉武士の意地を見せろ!!」
その光景を見ていた経資は、思わず息を呑んだ。
(まるで……)
本当に。
神功皇后が現れたようだった。
演説が終わる。
ステフは高台を降りた。
その瞬間。
「ぶはっ!!」
松浦党の女武者たちが吹き出した。
「お前、すげぇ真面目にやりきったな!」
「途中、本当に神様かと思ったぞ!」
「やめてよもう!」
ステフが顔を真っ赤にする。
「でもよ」
女武者の一人が真顔になる。
「……本当に嵐、来るな」
海を見る。
黒い雲。
強くなる風。
波の高さ。
海で生きる者には分かる。
これは危険な海だ。
「急いだ方がいい」
ステフは軍服へ着替えながら言う。
「嵐が来る前に、私は壱岐へ行く」
「聖母宮か?」
「うん」
「嵐をやり過ごす」
そして。
ステフは女武者たちを見た。
「嵐が去ったら――総攻撃を」
女武者たちは頷く。
「任せろ」
「蒙古を海に沈めてやる」
小舟が夜の海を進む。
壱岐へ。
風はさらに強くなっていた。
壱岐へ到着した頃には、空が唸っていた。
松浦党の女武者たちが顔をしかめる。
「……やべぇな」
「本当に来る」
「海が死ぬ前の音してる」
ステフは聖母宮へ向かう石段を見上げた。
「じゃあね」
「生きてまた会おう」
「おう!」
「死ぬなよ異人!」
「お前、本当に神様だったら承知しねぇからな!」
「何それ!」
笑い声。
だが。
別れ際、誰もが少しだけ不安そうだった。
ステフは聖母宮へ姿を消す。
そして。
数時間後。
空が裂けた。
轟音。
暴風。
海が狂ったように暴れ始める。
鷹島沖。
四千隻を超える元軍の大船団。
巨大な軍船が、木の葉のように揺れる。
「な、なんだこれは!?」
「碇が持たん!!」
「船が流される!!」
暴風が帆を引き裂く。
巨浪が船を叩き割る。
船同士が激突する。
悲鳴。
絶叫。
砕ける木材。
転覆する船。
海そのものが、元軍を拒絶していた。
夜通し続いた暴風雨。
そして――。
翌朝。
嵐は去った。
だが。
海には無数の残骸が浮かんでいた。
砕けた船。
流れる兵士。
沈没した軍船。
その光景を見た鎌倉武士たちは息を呑む。
「……八幡神だ」
「神風だ……」
そして。
少弐景資が、静かに太刀を抜いた。
「総攻撃」
その一言で。
日本軍が動き出す。
「おおおおおおおおっ!!」
松浦党の小舟が海へ飛び出す。
龍造寺軍が浜を駆ける。
竹崎党が鬨の声を上げる。
壊滅した元軍へ。
鎌倉武士団の総攻撃が始まった。
第19話を読んでいただき、本当にありがとうございました!
ついに来ました、「神風」です。
弘安の役といえば、この神風を避けては語れません。
ですが個人的には、
“ただ台風で勝った”
という描かれ方だけはしたくありませんでした。
実際には、
博多湾の防塁、
鎌倉武士たちの夜襲、
松浦党の執拗な海上ゲリラ戦、
補給を削られ続けた元軍、
そうした積み重ねがあった上で、最後に嵐が来た。
だからこそ本作では、
「人が抗い続けた末に訪れた神風」
として描いています。
また今回、ステフが半ば勢いで“神の使い役”をやらされるという、少しコミカルな流れもありましたが(笑)
結果的に彼女自身が、資時の想いを受け継ぎ、武士たちを鼓舞する存在へ変わっていく重要な回にもなりました。
そして次回はいよいよ、
壊滅した元軍への総攻撃。
鷹島の海が、
本当の地獄になります。
もし少しでも面白いと思っていただけたら、
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次回もよろしくお願いします!




