20:不協和音と歪み
ちょいとサービス。
投下!
「あーもう、そもそもどうしてそんなにパンを作りたかったんだ!」
「面白そうだったから!」
「今度から私と一緒に作れ!」
「うまいこと作れる奴と作って何が楽しいのさ!!」
…説教が何時の間に討論になっていたらしい。一体、どう展開したらそうなるんだろう。
私は部屋の真ん中で正座するフェア義兄さんの後ろに近づく、前に立つアル義兄さんは直ぐに私に気付いた。
「義兄さん、御義父さんの部屋って何処でしたっけ?」
アル義兄さんはそう言えば何処だ。と、首を傾げている。アル義兄さんも知らなかったらしい。
何となく、先程までアル義兄さんに説教らしきものをされて不貞腐れているフェア義兄さんを見る。フェア義兄さんはアル義兄さんの悩む姿を楽しそうに見ている。
(ん? もしかして…)
「フェア義兄さんは、知っているんですか?」
私の言葉にフェア義兄さんは振り返る。一瞬、輝かしいほどの笑顔を見せたが先程までの説教を思い出し、そしてその原因を思い出したのか再び不機嫌な顔をする。どうやら私が義兄さんに罪を擦り付けた事に気付いていたようだ。
このままではかなりモヤモヤする。かと言ってわざわざフェア義兄さんのご機嫌をとる気も起こらない。私は一度部屋に戻り、肩掛けを掴むと再び一階へ下りていった。
アル義兄さんは悩んでいたが、どうやらフェア義兄さんが何か知っていると気付いたようで如何にかして聞き出せないかと試行錯誤しているところだった。
(…義兄さん達って、一瞬でも見ていないと直ぐに展開させるなー、)
そんなどうでもいい事を思って、私は義兄さん達の脇を過ぎて玄関を開けた。アル義兄さんはそんな私を引き止めるように声をかける。
「シンデレラ? 男装しないのか?」
私は振り返り、アル義兄さんに向き直る。素直に疑問だと思っているようだ。私は何処か楽しくなり、微笑んだ。
「ええ、もう逃げたくないですし…。何より傷跡があるんですから、バレてしまうかもしれないでしょう?」
それは尤もと言うように手を打つアル義兄さんに行って来ます。と声をかけて私は街へ出かけた。
町に下りるまでに元彼女達を見かけたが、なにやら噂話に勤しんでいたようで絡まれる事がなかった。
町に下りた後も店の多くが臨時休業の看板を出しており、暫く舞踏会の傷跡を残す事になりそうだと考えていた。
「それで…? 君は満足かい。シンデレラ。」
パン屋に着いて。目の前に立った途端、そう声をかけてきたのは双子の片割れ。後ろに、もう一人いることから弟と推測するのが正しい。だが、
「それはどういう意味でしょうか? ライ。」
ライは兄、レイは弟。そうだ、目の前にいる片割れの前に立っているのは兄だ。
挑発するようなその言動、からかう様な意味深な笑みはライのほうだ。明らかに、私を不快に思わせて何かをたくらんでいる。
「いや、ね。君は満足かと聞いただけだよ。知ってるかい? 舞踏会で市場を独占していたナイリーニ卿が姫様を殺そうとして参列者に捕らえられたって。」
「…初耳ですね。そんなこと舞踏会に参列できない私にはわかりませんよ。」
雑談。そう、これは単なる雑談だ。私はまだ『小麦粉』を買おうとはしていないし、この情報は知っている。だから、何だというのだ。【シンデレラ】は舞踏会に参列していないし、できない。そのくらい当たり前で呆れる位当然のことだ。だが、ライは訳知り顔で続ける。
「ふ~ん、それじゃあこれは【噂】だけど、ナイリーニ卿は首を切られるらしい。」
ニヤリと、笑い。無表情のまま目の前に立つ私に近寄る。一歩一歩をゆっくりと出し、まるで男を誘う娼婦のように妖艶に。長い手と指を私の首に伸ばし、なぞる。
「当然だよね。姫様を殺そうとしたんだから、でもさ。卿は否定してるって、『私がそんな無謀なことをするはずがない。私に姫様を殺す理由などない。』って…」
それはそうだ。王殺しは大罪。たとえ未遂でもその罪は重い、死刑が当然だろう。だが、死はなるべく逃れたいと思考よりも先に本能が望むはずだ。
だが状況証拠もあり、卿には姫様を殺す理由もある。何を言っても、卿の死刑は確実だ。それでも、認めない卿は何か絶対的自信があるのか、もしくは単なる足掻きであるのか。私にはワカラナイ。
ライは私の首に腕を回し、抱きつくとうれしそうに間近で私の顔を見つめる。
「もし本当ならそのうち知らせが来るんじゃない? ナイリーニ卿の処刑について、まあ家も没落するだろうね。これで、姫様の仕事も楽になるし一石二鳥かもねー。」
ひとつの石を投げて二羽の鳥をしとめる。(ひとつの意志で二つの利を得る。)その二つの利のうち一つは仕事が楽になる。じゃあ、もうひとつは何だというのだ。
「そうですか。なら、貴方達も利益が上がって良いんじゃないですか?」
軽く流し、ライから離れようとすると今度はレイが後ろから腰に手を回す。
「ねぇ、これも【噂】なんだけど、市場の権力の強いやつらが裏で組織を作っていて、その組織のうちナイリーニ卿のみが接触をしていた支配者がいるらしいんだ。その支配者をその組織では、【 】……って、呼んでたらしいよ?」
首に抱きつくライも、腰を抱くレイも私の耳元に口を寄せて囁く。拘束されているということに、もうすでに気づいている。だが、はじめから私にはその拘束を拒む理由もないし、拒む意志もない。だから私は二人の自由にさせていた。
「ねぇ、情報屋である限り情報をうかつに信用するのは怖いし」
「聞き出すのも危険だ。」
「でもね、わからないことがあっても困る。」
「そもそもわからないこともあるんだ。」
「だから」
「おしえて」
「「本当のこと」」
「君かい?」
「いや、きみだろ?」
二重奏、不協和音。両耳から同じ声で違う言葉が響く。囁いて歌うように問い詰めるように、二人は笑って問うてくる。
「「××$$$、××××××$×××$$―――…、」」
世界が―――、軋む。
父さんがいなくなった世界はぽっかりと大事なだいじな場所に穴が開いているようで、でも誰もそれに気づかず【日常】を過ごしているようで。嗚呼、世界はこんなにも滑稽に歪んでいたのかと、思わず頬の肉が釣りあがり笑みを浮かべた。
もし、双子の言ったことが全て本当なのだとして、それが何だというのだろう。それが私に何の関係があるというのだ。
「そうだ、といえたと仮定して、次は何を問う?」
私は笑って二人に返す。きっと笑みは歪んでいるだろう。歪んで、歪みきっているだろう。でも、それでもいい。それで、いいんだ。
私の耳から顔を離し、私の笑みを見た二人は、もう何も言わず。いつものように小麦粉を売ってくれた。
ぽっかりと空いた穴は、いまだふさがらない。